学位論文要旨



No 214869
著者(漢字) 山際,康之
著者(英字)
著者(カナ) ヤマギワ,ヤスユキ
標題(和) 組立性、分解性の両立化のための生産設計原理
標題(洋)
報告番号 214869
報告番号 乙14869
学位授与日 2000.12.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14869号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩田,修一
 東京大学 教授 中島,尚正
 東京大学 教授 畑村,洋太郎
 東京大学 教授 関村,直人
 東京大学 助教授 長崎,晋也
内容要旨 要旨を表示する

1. はじめに

 資源循環型社会を構築するうえで、従来のコスト至上主義による生産プロセスだけを考慮した「モノ」づくりから、製品のライフサイクル全体を考慮した新たな「モノ」づくりへの転換が求められている。製品のライフサイクル全体の「モノ」づくりを考えると、組立と分解は、生産プロセスのおける組立だけにとどまらず、使用プロセスにおける消耗、修理部品の交換や、処理プロセスにおけるリユース部品の取り出しなど、繰り返し発生することがわかる。

 これまでに、組立性や分解性の設計については、多くの研究が発表されている。しかし、従来の研究は、いずれも、組立性と分解性の設計については、個々に論じられてきた。このため、組立性と分解性の設計の関係は、共通であるという「組立性設計=分解性設計」の見解や、相反であるという「組立性設計≠分解性設計」の見解など、あいまいな範囲をこえることがなく、両立化するための設計論についても、具体的な議論が及ばなかったといえる。

 本研究は、製品のライフサイクルにおいて、繰り返し発生する組立と分解に着目し、組立性と分解性の両立化するための設計論を確立することを目的としている。本研究により、組立性と分解性の共通する設計要因と相反する設計要因を明らかにし、製品の構造における、組立性と分解性の両立化設計法の構築を行う。

2. 組立性、分解性の構造

 組立と分解の共通する設計要因と相反する設計要因を明らかにするため、組立と分解の設計要因別の動作時間の比較分析を行った。

 図2.1は、設計要因別に人間の組立動作時間Taと、分解動作時間Tdを比較分析した結果である。分析結果から、設計要因は、組立性一分解性共通部(Ta=Td)、組立性容易一分解性困難相反部(Ta<Td)、組立性困難一分解性容易相反部(Ta>Td)に大別され、組立性と分解性の関係には、共通する設計要因と相反する設計要因が存在することが確認された。更に、共通する設計要因と相反する設計要因の特徴をとらえるため、動作要素、動作習熟、ハード機器の比較分析を行った。図2.2は、動作習熟を比較分析した結果である。分析結果から、Ta=Td共通範囲の設計要因では、動作要素、ハード機器における対称性が確認され、動作習熟では相反範囲の設計要因と比べ、早期による習熟が確認された。一方、Ta<Td、Ta>Td、Ta>Td=0のいずれの相反範囲せ設計要因では、動作要素、ハード機器における非対称性が確認され、動作習熟では共通範囲の設計要因と比べ、後期による習熟が確認された。

3. 組立性、分解性の両立化設計の方法論

 組立性と分解性の両立化にあたり、組立と分解の重複範囲を最小にし、両立化設計を必要とする範囲を限定する「重複範囲の最小化設計」と、組立と分解の重複範囲を対象として、共通する設計要因による対称化を行う「対称範囲の最大化設計」を両立化設計の原理として提案する。図3.1に、両立化設計の原理概念を示す。

 両立化設計は、部品が階層上に構成されているツリー構造において、トップダウン的な優先順位から、ツリー構造を決定する配置設計、部品間の結合方法を決定する結合設計、個々の部品の、形状、材質、取扱条件などを決定する部品設計へとすすめる。

 ー方、製品開発は、概念設計、基本設計、詳細設計のプロセスを経てすすめる。

 両立化設計のトップダウン的なフローは、この製品開発のプロセスと同期化されている。すなわち、概念設計段階では、配置設計により、製品全体のレイアウトを決定し、ポンチ絵によって表わす。また、基本設計段階では、結合設計により、部品間の接続関係を決定し、計画図によって表わす。更に、詳細設計段階では、部品設計により、部品の材質、取扱条件などを決定し、最終計画図によって表わす。

 図3.2は、両立化設計の概念プロセスを示している。それぞれの設計段階における、各プロセスは、まず、組立性設計のガイドラインを用いて、製品全体の範囲を対象として組立性設計を行う。次に、重複範囲の最小化設計、対称範囲の最大化設計ガイドラインを用いて、両立化を必要とする範囲を対象に、重複範囲の最小化設計と対称範囲の最大化設計を行う。最後に、両立化設計評価を行い、代替案との比較を繰り返す。

4. 結論

 本研究では、製品のライフサイクル全体において、繰り返し発生する組立と分解に着目し、製品の構造における、組立性と分解性の両立化設計の提案を行った。本研究による両立化設計により、消耗する部品を交換することによる長寿命化設計や、アップグレード設計、リユース設計が容易となり、環境調和型設計への有効な方法といえる。

 また、両立化設計は、製品の組立、分解コストの低減に有効であると同時に、人的資源である熟練作業者、物的資源であるハード機器を共有化することが可能となり、インバース・マニュファクチャリングが目指す、製造業からライフサイクル全体を担当するライフサイクル産業への展開を行うにあたり有効な方法といえる。

図2.1 組立と分解の設計要因の動作時間の関係

図2.2 動作習熟の比較

図3.1 両立化設計の原理

図3.2 両立化設計の概念プロセス

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、資源循環型の新たな生産システム構築のための基盤技術として、生産現場でのデータを基に組立性と分解性が両立するための生産設計原理を提案し、その有用性を明らかにしたものである。

 論文では、家電製品を対象として、生産・保全プロセスの要素となる組立工程と分解工程を評価・検討し、資源の有効利用とコスト削減にも有効で、生産者にとっても消費者にとっても便益のある環境調和型設計のための手法を提示している。具体的には、製品の組立、分解コストの低減に有効であると同時に、人的資源である熟練作業者、物的資源である治工具などのハード機器を共有化することを可能とし、結果として長寿命化設計や、アップグレード設計・リユース設計にも対応した指針の確立を目指したもので、生産システムの上流の工程である設計から生産をへて保全・補修に至るライフサイクルを研究対象とし、資源循環型の生産システムを実現する上で重要なリユース促進に有効な方法を示したものである。

 第1章は総論であり、近年のリサイクルに関する法律の動向、環境調和型製品の推進について述べ、循環型の新しい生産システムとしてライフサイクルファクトリーを提案し本研究の背景について述べている。第2章では、組立性、分解性に関する従来の研究についての概要を述べ、既存の研究では両者を同時に扱う試みがなかったことを指摘し、製品のライフサイクルの中で組立性と分解性の両立化するための新しい設計論を示している。

 第3章では、組立と分解の共通する設計要因と相反する設計要因を明らかにするため、組立と分解の設計要因別の動作時間を比較分析し、設計要因は、組立性一分解性共通部、組立性容易一分解性困難相反部、組立性困難一分解性容易相反部に大別され、組立性と分解性の関係には、共通する設計要因と相反する設計要因が存在することが確認した後、共通する設計要因と相反する設計要因の特徴をとらえるため、動作要素、動作習熟、ハード機器の比較分析を行った結果を述べている。分析結果から、共通範囲の設計要因では、動作要素、ハード機器における対称性、動作習熟に関しては相反範囲の設計要因と比べ、早期による習熟を確認している。一方、いずれの相反範囲でも、設計要因では動作要素、ハード機器における非対称性を確認し、動作習熟では共通範囲の設計要因と比べ、後期による習熟を確認している。

 第4章では、組立と分解の重複範囲を最小にし両立化設計を必要とする範囲を限定する「重複範囲の最小化設計」と、重複範囲を対象に組立と分解の共通する設計要因による対称化を行う「対称範囲の最大化設計」を部品、結合、配置の観点からまとめ、両立化設計の原理として示し、更に、構想設計段階から詳細設計段階における両立化設計を、部品が階層上に構成されているツリー構造において、トップダウン的な優先順位から、ツリー構造を決定する配置設計、部品間の結合方法を決定する結合設計、個々の部品の、形状、材質、取扱条件などを決定する部品設計へとすすめるプロセスを提案している。一方・製品開発は、概念設計、基本設計、詳細設計のプロセスを経てすすめられるが、両立化設計のトップダウン的なフローは、この製品開発のプロセスと同期化される。すなわち、概念設計段階では、配置設計により、製品全体のレイアウトを決定し、ポンチ絵によって表わす。また、基本設計段階では、結合設計により・部品間の接続関係を決定し、計画図によって表わす。更に、詳細設計段階では、部品設計により、部品の材質、取扱条件などを決定し、最終計画図によって表わす。設計段階における、各プロセスは、まず、組立性設計のガイドラインを用いて、製品全体を対象として組立性設計を行う。次に、重複範囲の最小化設計、対称範囲の最大化設計ガイドラインを用いて、両立化を必要とする範囲を対象に、重複範囲の最小化設計と対称範囲の最大化設計を行う。最後に、両立化設計評価を行い、代替案との比較を繰り返すという漸近的な手法である。以上の手順は、家電製品の両立化設計に適用され、部品数の削減や対称性の向上により組立性に加えて分解総合コストを大幅に低減し、原理の有効性を実証している。

 第5章は考察であり、本研究で提案した組立性、分解性の両立化設計の方法論について、環境調和型設計、ライフサイクル産業からの有効性について述べ、本研究で提案した組立性と分解性を両立するための設計方法論がライフサイクルファクトリーを実現するための有用な手法であるとしている。第6章は結論であり、本研究により得られた結論と今後の研究展望を述べている。

 以上、家電製品の生産現場でのデータを基に分析を行い、資源循環型の新しい生産設計原理を提案したという点で人工物工学に寄与するところ少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク