学位論文要旨



No 214881
著者(漢字) 三浦,邦夫
著者(英字)
著者(カナ) ミウラ,クニオ
標題(和) コンニャクにおける光合成・乾物生産の特徴
標題(洋)
報告番号 214881
報告番号 乙14881
学位授与日 2000.12.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第14881号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石井,龍一
 東京大学 教授 秋田,重誠
 東京大学 教授 坂,齋
 東京大学 教授 杉山,信男
 東京大学 助教授 山岸,徹
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は,コンニャクの生育過程を光合成,乾物生産を通じて解析し,コンニャクの栽培および品種の改良を行うための基礎的知見を得ることを目的に行った.この目的を達成するためにコンニャクの生育経過,初期生育に対する種球茎の役割,生育に及ぼす耕種および気象条件の影響,光合成の特徴と地下部肥大との関係,地上部と地下部の生育における相互関係およびコンニャクの球茎収量と生子数との関係を検討した.

 結果の概要はつぎの通りであった.

 1. コンニャクの生育経過

 葉面積は開葉開始後30〜40日で最大になり,その後地下部重が急速に増加したが,生子重は80日後に最大になり,球茎肥大はその後も続くという生育パターンを示した.そしてその生育パターンは,品種年生,種球茎の大小に関係なくほぼ一定であった.一方,葉面積,全重,球茎重生子重などの生育量は,年生,種球茎の大きさによって著しく異なった.例えば2年生種球茎個体の生子数は1年生種球茎個体の約2倍あり,1年生種球茎個体の生子重は大部分が7.5〜13.59であったのに対し,2年生個体では10.0〜20.09であった.

 2. 初期生育に対する種球茎の役割

(1)種球茎の暗所下での利用率(新器官重/種球茎重)は品種・年生によって変化せず,0.6前後で,種球茎の乾物は新器官へ効率的に移行し,初期生育に寄与した.

 (2)同一栽培条件下では,年生にかかわらず,種球茎が大きい個体ほど小葉数,1枚の小葉面積ともに大きく,種球茎重が葉面積形成に大きく関与していることがわかった.しかし植付け直前に貯蔵養分を減少させる処理を行うと,小葉面積は著しく小さくなったが,小葉数は変化しなかった.このことから小葉数は植付時に決まっていると推察された.

 (3)地下部生産効率(地下部重/葉面積)は,同一栽培条件下では,年生・種球茎の重さや貯蔵養分量に関係なく,ほぼ一定であった.生子重/種球茎重は1年生個体で大きかった

 (4)貯蔵中の種球茎重の低下は,2年生に比べ1年生で大きかった.この要因を呼吸速度から検討した結果,5〜20℃の範囲での呼吸速度の温度係数は約3.7で,高温ほど乾物の減少が大きいこと,および呼吸速度は乾物重当り種球茎表面積と密接な関係があり,この表面積の大きい1年生種球茎で大きいことがわかった.これらの結果から,10℃で6か月間の種球茎の乾物消耗率は10%以内であると推定された.

 3. 生育に及ぼす耕種および気象条件の影響

 (1)種々の窒素肥料条件下で砂耕栽培した結果,無肥料区や施肥中断区の地下部重の低下には,地下部生産効率より葉面積の低下が相対的に大きく関与していたが,標準区の1/2から2倍程度の施肥量の範囲では地上部,地下部重とも大差なく,コンニャクは窒素効果の比較的小さい作物であることがわかった.

 (2)畦幅を一定にして株間を変化させて栽植密度を変えても個体当り葉面積はほとんど変化しなかったが,地下部生産効率,地下部肥大率(地下部重/種球茎重)ともに密植で低下した.

 (3)4年間にわたって,圃場で気象条件と葉面積形成地下部肥大の関係を調査した結果,地下部重は平均日射量と平均気温と密接に関連したが,葉面積はこれらの影響を受けず,品種特性を維持し,年次変動が小さかった.これらの結果から,平均日射量,平均気温が高いと地下部生産効率が大きくなり,地下部重が増大した.

 (4)昼/夜温30/24(高温),24/18(中温)および18/12(低温)に生育温度を制御して検討した結果,低温では開葉が遅れ高温ほど葉面積が大きく,一方地下部生産効率は,中・高温で大きかった.

(5)開葉期から自然光と25,50および75%遮光条件で生育させると,75%遮光下では葉面伸長が促進されたが,そのほかの光条件では葉面積の相違は小さかった.地下部重は自然光区,25%遮光区,50%遮光区ではほぼ等しく,75%遮光区が小さかった.

 4. 光合成の特徴と地下部肥大との関係

(1)光合成と温度,光強度との関係を調査した結果,光合成速度(APS)の髄温度は22℃前後で,17〜27℃の間で8〜10mgCO2dm-2h-1を示した.光合成の光飽和点はAPSの最大期では40〜50klx,その前後の時期では30klxあるいはそれ以下であった.呼吸速度は開葉直後が最も高く,開葉後約20日目まで低下し続け,その後はほぼ一定で,約0.9mgCO2dm-2h-1になった.

 (2)1年生個体のAPSは,品種間に相違があり,「はるなくろ」>支那種>「あかぎおおだま」>備中種>在来種の順であった.

 (3)APSと窒素含量,比葉重(SLW),ルビスコ含量および葉色との間に正の相関関係があり,窒素含量とSLWとの間には高い正の相関関係があった.開葉後24日と42日の平均APSとその間の純同化率との間には正の相関関係があった.

 (4) 自然光下と遮光条件下で生育した個体のAPSを開葉後20〜60日間比較した結果,光条件によるAPSの最大値の相違は小さかったが,日数の経過に伴うAPSの低下程度が異なり,遮光下では生育後期までAPSが高く保たれた.自然光下のAPSの低下には,気孔伝導度(gs)より葉肉伝導度(gm)が密接に関係していた.

 (5)土壌水分の異なる圃場条件下で測定したところ,土壌水分が充分ある条件下ではAPSは朝から昼にかけて低下し,その後上昇する傾向を示したが,土壌水分が少なくなると午後も引き続き低下した.潅水すると日変化は小さくなり,午後の低下が抑制された.APSとgsとの間には高い正の相関関係があり,APSの日変化は気孔開度と密接に関係していた

 土壌水分の低下に伴うAPSの低下は,サトイモに比ベコンニャクで著しく大きかった.

(6)圃場条件下でのAPSと乾物生産との関係を検討した結果・平均APS(開葉後35〜90日)と地下部生産効率との間には正の相関関係がみられ地下部肥大にAPSが密接に関係していることがわかった.

 5.地上部と地下部の生育における相互関係

(1)乾物生産量と球茎肥大との関係を遮光,小葉柄切除,夜間に光照射して検討した結果,相対照度25%以下では地下部肥大が抑制され小葉柄を切除すると地下部重増加は減少し,夜間に光照射(16klx)すると地下部重増加が約50%増加した.これらのことから,コンニャクの地下部肥大は光合成産物生産に強く影響されることがわかった.

(2)人為的な球茎肥大抑制処理したところ,葉面積,APSともに低下することによって乾物生産は低下したが,乾物分配率にはほとんど変化がなかった.

(3)地下部肥大器官である球茎と生子との間の競合関係を検討したところ,生子数が多いと球茎重は小さくなり,側芽切除処理することによって生子数を少なくすると,球茎重は無処理に比べ有意に大きくなった.

6.コンニャクの球茎収量と生子数との関係

 (1) ジベレリンとジベレリン生合成抑制剤(パクロブトラゾール:PP333)を葉面処理した結果,PP333処理では乾物生産への影響は小さかったが,生子数を少なくし,球茎重を大きくした.ジベレリンの葉面処理は,生子数は有意に増加した.これらから,生子数には内生ジベレリン濃度が深く関与していることが推察された.

 (2)PP333の土壌処理はAPSに影響し,APSは無処理区に比べ3〜10g/a処理では22〜45%高くなったが,30g/a処理では4〜22%低下した.APSが増大した処理濃度の範囲内ではAPSとgs,窒素含量,ルビスコ含量との間に正の相関関係があった.さらにAPSと地上部重/根重比,葉面積/根重比との間には有意な負の相関関係があり,APSは地上部に比べて根の発育がよいと高くなることが推察された

 以上の研究結果を総括すると,コンニャク地上部の生育には種球茎重が大きく関与し,種球茎が大きいほど葉面積は大きくなり,葉面積当りの乾物生産,純同化率が高いほど地下部生産効率が高く,収量が高くなることがわかった.さらに地下部の肥大,根群の発達は光合成に影響するので,地下部の環境をよくすること,地下部における生子重と球茎重との間に関係があるので,この関係を制御することも重要であることが指摘できた.これらのことから,多収品種は,葉面形成効率(葉面積/種球茎重)が高く,大きい葉面積を持ちながら,光合成速度が高く,その光合成速度を生育後半まで維持する性質を持つことが必要であると考えられた.

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は,コンニャク球茎の生産過程を光合成と乾物生産に注目して解析し,コンニャクの栽培および品種の改良のための基礎的知見を得ることを目的に行なわれたものである.得られた結果の概要はつぎの通りであった.

1)最初に,数品種のコンニャクの生育経過を調べた.生育の初期には,まず葉面積の拡大が急速に起こり,開葉開始後30〜40日に最大となった.その後,球茎重の増加が開始したが,その増加速度は初期に高く,やがて安定して生育の後期にまで継続した.一方,生子重は開葉後80日前後に最大となり,その後減少に転じた.こうしたコンニャクにおける生育パターンは,品種,年生,種球茎の大小によって変わらなかった.しかし,葉面積,全重,球茎重,生子重などの生育量は,年生,種球茎の大きさによって大きく変化した.

2)コンニャクは,種球茎を直接圃場に植え付ける.そのため貯蔵中の種球茎の消耗が小さいほど初期の生育がよい.貯蔵中の種球茎の消耗を調べたところ,乾物重当たりの表面積の大きい種球茎ほど貯蔵中の消耗が大きい傾向があった.種球茎は,植え付け後,貯蔵養分の60%を新生器官に移行させ,新生器官の形成に利用していた.新生器官の中でも葉面積の増大については,品種,年生を問わず種球茎の大きい個体ほど大きかった.そして,地下部生産効率(地下部重/葉面積)は,年生,種球茎の大小に関係なくほぼ一定であったことから,種球茎の役割は,生育初期の葉面積確保であることが示された.

3)生育に及ぼす耕種および気象条件の影響をみた.窒素肥料の影響は,極端な瘠薄条件下では葉面積が減少して減収となったが,標準施肥量の1/2から2倍程度の範囲内では生育に大差なく,コンニャクは窒素の施肥効果が小さい作物であることが判った.また栽植密度を変化させても,1個体当たりの葉面積には差がみられなかった.これはコンニャクが1枚の葉からなる植物であることと関連していると考えられた.しかし、葉面積には差が見られなくとも、密植によって地下部生産効率は低下した.日射量との関係でみると,球茎収量に及ぼす遮光の影響は比較的小さく,半陰生植物としての特性が顕著であることが示された.

4)コンニャクの単位葉面積当たり光合成速度(APS)は,適温条件(17〜27℃)下で8〜10mgCO2dm-2h-1,光飽和点は30klx前後を示した。これら両者の値は他の作物に比べて低く,このことがコンニャクの光合成上の特徴と考えられた.APSを品種間で比較すると,在来品種に比べ改良品種では高くなる傾向がみられた.APSへの遮光の影響は,生育前半の葉では小さいが,生育後半になると遮光はAPSの低下を抑制する傾向を示し,遮光条件で生育した葉のほうがかえって高いAPSを示した.このことも半陰生植物としてのコンニャクの光合成面での特徴と考えられた.APSの日変化は,朝から昼にかけて低下し,その後一時的に上昇傾向を示すが,土壌水分が少ないと午後の上昇がみられなくなった.最大葉面積以降の平均APSと純同化率,地下部生産効率との間には正の相関関係がみられ,光合成能力を高めることの重要性が指摘された.

5)地上部の生育と地下部の生育との相互関係を検討した.ソース容量を遮光,小葉柄切除処理によりを制限したり、あるいは夜間照明処理により増大させたりして乾物生産量を変化させたところ,乾物生産量に比例して地下部重が増減した.また逆に、人為的に球茎肥大を抑制するなどしてシンク容量を制限したところ,葉面積,APSともに低下した.一方,地下部器官である球茎の肥大と生子の形成との間には競合関係がみられ,生子数が多いと球茎肥大が抑えられた.そこで,生長調節物質を利用したところ,ジベレリン処理によって生子数が増加し,球茎重が減少した.一方,ジベレリン生合成抑制剤によってAPSは増加し,球茎重が増加した.このことから球茎肥大のためには生子数の制限が重要であると考えられた.

 以上,本論文は,北関東における重要な作物であるコンニャクの球茎収量を改善させることを目的に,コンニャクの乾物生産と光合成の特徴をとらえたものであり,学術上,応用上貢献するところが大きい.よって審査委員一同は,本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた.

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