学位論文要旨



No 214922
著者(漢字)
著者(英字) PERREY,STEPHANE
著者(カナ) ペレ,ステファン
標題(和) マウス腹腔マクロファージのβ-VLDL代謝におけるapoEおよびLDL受容体の関与
標題(洋)
報告番号 214922
報告番号 乙14922
学位授与日 2001.01.24
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14922号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 脊山,洋右
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 助教授 五十嵐,徹也
 東京大学 講師 吉栖,正雄
内容要旨 要旨を表示する

 低比重リポタンパク受容体(LDLR)と、そのリガンドのひとつであるアポリポタンパク(アポ)Eは、肝臓におけるリポタンパクの異化において重要な役割を果たしている。一方、アテローム性動脈硬化の病巣を構成する主要細胞にひとつである泡沫細胞は、主にマクロファージに由来することが知られている。このマクロファージも、肝細胞に匹敵する比較的大量のアポEを分泌し、LDLRも発現していることが知られているが、泡沫細胞形成過程におけるこれらの蛋白の機能については不明な点が多い。そこで、本研究では、マクロファージの発現するアポEとLDLRが泡沫細胞形成に果たす役割を明らかにするために、野生型マウス、LDLRノックアウトマウス(KO)、アポEKOから採取したリポタンパクや腹腔マクロファージ(MPM)を用いて、細胞におけるリポタンパク代謝を比較した。

 高コレステロール食で飼育したLDLRKOとアポEKOの血漿を比重1.006で超遠心して浮上したリポタンパク分画を、それぞれE+β-VLDLとE-β-VLDLとして用いた。LDLRやアポEの発現の有無にかかわらず、E-β-VLDLはMPMによってほどんど取り込まれず、細胞内のコレステロールエステル(CE)の生成もわずかに刺激するのみであった。一方、E+β-VLDLは、野生型とアポEKO由来のMPMにより取り込まれ、CE生成を顕著に刺激した。しかし、LDLRKO由来のMPMによっては取り込まれない。従って、MPMによるβ-VLDLの取り込みには、LDLRとリポタンパク側のアポEの両者が重要であると考えられた。

 次に、MPMから分泌されるアポEの意義について詳細に検討した。E+β-VLDLとMPMを4時間インキュベーションした場合、アポEKO由来のMPMのほうが野生型のMPMに比較して63%高いCE生成促進活性を有した。一方、アポEKO由来のMPMにおけるLDLR蛋白の発現量はむしろ低下しており、それに合致して、E+β-VLDLの細胞による取り込みも26%低下していた。また、細胞から細胞外へのコレステロール放出には差が認められなかった。ところが、E+β-VLDL含まれる外来性のコレステロールからのCE生成と、外来性に内因性を加えた全体のCE生成は、アポEKO由来のMPMは野生型MPMに比較して、それぞれ2.8倍と1.5倍高い活性を示した。

 以上の結果から、アポE含有リポタンパクは、MPMにおいても主にLDLRによって細胞内へ取り込まれることが明らかになった。即ち、アポEを認識するとされるLDLR以外のリポタンパク受容体である、LDLR関連蛋白(LRP)、VLDL受容体、TGリッチリポタンパク受容体などの関与はあってもわずかと考えられた。更に、MPMから分泌されるアポEは、リポタンパク粒子自体の取り込みには影響を与えないが、リポタンパク由来のコレステロールのエステル化に対しては阻害的に作用している可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はマクロファージにおけるβ型超低比重リポ蛋白(β-VLDL)の取り込みによる泡沫細胞の形成におけるメカニズムを明らかにするため、LDL-R欠損あるいはapoE欠損マウス由来のβ-VLDLの存在下で、野生型、LDL-R欠損およびapoE欠損マウスの腹腔マクロファージ(MPM)の培養を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.LDL-R欠損マウス由来のβ-VLDLは野生型やapoE欠損マウスの腹腔マクロファージに取り込まれて、コレステロールエステル(CE)の生成を促進した。しかし、LDL-R欠損マウスの腹腔マクロファージでは認められなかった。このことは、β-VLDLの取り込みにおけるLDL-Rを介した経路の重要性を示した。

2.apoE欠損マウス由来のβ-VLDLはマクロファージにおけるLDL-RあるいはapoEの発現とは関係なく、わずかにCEを生じた。

3.LDL-R欠損マウス由来のβ-VLDL存在下での4時間培養後では、apoE欠損マクロファージのCEの生成量は野生型マクロファージに比べ増加していた。マクロファージapoEの発現は、主にコレステロールプール由来のリポ蛋白分布を抑制することにより、コレステロールのエステル化を抑制しているようである。

4.LDL-R欠損マウス由来のβ-VLDL存在下での24時間培養後では、野生型マクロファージのCEの生成はapoE欠損マクロファージと同等量認められた。このことは、マクロファージapoEの発現は、リポ蛋白取り込みによる細胞の泡沫化を促進しない事を示唆する。

以上、本論文はマクロファージにおけるβ-VLDLの取り込みや、続いておこる泡沫細胞化のLDL-R発現依存性を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、マウスのマクロファージにおけるLDL-Rの役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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