No | 214923 | |
著者(漢字) | 森田,明夫 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリタ,アキオ | |
標題(和) | 頭蓋底髄膜腫に対する定位手術的照射(ガンマナイフ治療)の効果と安全性に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 214923 | |
報告番号 | 乙14923 | |
学位授与日 | 2001.01.24 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第14923号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 頭蓋底髄膜腫は近年の手術技術の発達にもかかわらず、重篤な脳神経障害や血管障害などの合併症を来しうる疾患である。髄膜腫は良性腫瘍であるが、部分摘出後の再発が比較的頻回にみられている。従来手術リスクの高い髄膜腫や再発・残存髄膜腫に対して、分割外照射が試みられ、一定の成功をおさめている。しかし頭蓋内病変に対する分割外照射には、広範囲の照射では脳萎縮や新たな腫瘍新生など、また照射野を絞っても視床下部や視神経の障害などの合併症が報告されており、境界明瞭な本腫瘍に対しては、照射野がさらに限局されまた腫瘍制御効果にすぐれた治療法が求められていた。定位手術的照射(ガンマナイフ)は従来脳動静脈奇形などの治療に用いられていたが、1990年代より、このような良性腫瘍の治療にも広く用いられるようになってきた。ガンマナイフの脳実質に対する耐容線量は数学的方法により計算されているが、頭蓋底腫瘍を治療する際特に問題となる脳神経に対するリスクはよく把握されていない。またこれまでの報告の大部分はまちまちな線量計画による治療成果を扱っており、ガンマナイフの頭蓋底髄膜腫に対する治療効果また安全性を評価するには不十分なものであった。 我々は、ガンマナイフ治療を始めて以来、統一されたプロトコールに基づいて髄膜腫のガンマナイフ治療を行っているので、この経験に基づいて、頭蓋底髄膜腫に対するガンマナイフの安全性および危険性、腫瘍制御効果について検討した。 対象と方法: 対象はメイヨークリニックにおいて、1990年9月から1996年6月までの間にガンマナイフ治療が行われ、少なくとも12ヶ月以上の治療後経過観察期間を有する連続した88例を対象とした。49例は以前手術にて診断が確定している。その他の症例は特徴的な神経放射線学的特徴をもち、髄膜腫の経過と合致する緩徐な成長をみるものであった。6例は以前放射線治療を受けている。Uタイプのガンマナイフ装置を用いて、一定のプロトコールを厳密に守って治療をおこなった。治療の適応は腫瘍の形状、部位、周囲重要組織との解剖学的相関、以前の治療、患者の既往や社会的希望を考慮して慎重に決定された。腫瘍が機能の保たれた視神経を偏倚していたり、取り囲んでいたり、また脳幹への予想線量が極めて高くなるような症例はガンマナイフの適応外とした。また至適な治療計画により、治療体積外の照射による影響をできる限り少なくするよう努めた。実際の治療計画では、中間腫瘍体積は10cm3,辺縁線量中間値は16Gyであった。 視神経、視交叉、視索、その他の脳神経(特に海綿静脈洞およびメッケル腔内)に照射された線量と臨床症状の相関を検討した。患者の追跡期間は12〜83ヶ月(中間35ヶ月)であった。 結果: 2症例(2.3%)において腫瘍の増大がみられ、5年間腫瘍抑制率は95%であった。最も最近の画像所見によると、68.2%の腫瘍が縮小し、29.5%においては変化はみられなかった。臨床的に視野や脳神経症状の治療前よりの改善は15例にみられた。視力を有する症例の視覚伝導路は1〜16Gy(中間値10Gy)を照射されているが、一例も治療後視神経障害はみられていない。メッケル腔に19Gy以上受けた症例では6例、それ以外では3例に三叉神経障害がみられている。 結論: ガンマナイフは現時点では髄膜腫の成長制御に有用であると考えられた。三叉神経障害はメッケル腔に19Gy以上照射された例に多い傾向がみられた。またこの研究は視神経や視交叉、視索は少なくとも10Gyまたはそれ以上の線量を照射されても変化が起こりにくいことを示した。従来の研究との差異は慎重な症例の選択によるところが大きいと思われる。頭蓋底手術の脳神経などへのリスクを考慮すると、ガンマナイフは慎重な評価に基づいて適応されるならば、大きな腫瘍摘出後の残存・再発髄膜腫、症状の無い小さな髄膜腫の治療などに有用かつ安全な治療であると考えられた。 | |
審査要旨 | 頭蓋底髄膜腫は成人脳腫瘍のうち最も頻度の多い髄膜腫の40〜50%を占める疾患であり、手術技術の進歩した現在でも重篤な予後を来しうる。本研究はこのような頭蓋底髄膜腫に対して、手術に替わるあるいは追加する治療として一回大線量照射である定位手術的照射(ガンマナイフ治療)がどこまで有効かまた危険性はどの程度であるのかという点を明らかにするため行われたものであり、下記のような結果を得ている。 1. メイヨークリニックにおいて前向き統一プロトコールに基づきガンマナイフ治療が行われた頭蓋底髄膜腫88例の5年間腫瘍抑制率は95%であった。88例中2例に腫瘍の増大がみられた。画像所見によると、68.2%の腫瘍が縮小し、29.5%においては変化はみられなかった。また臨床的に視野や脳神経症状の改善は15例にみられた。 2. 従来本治療を行うにあたり問題となっている視力障害について検討した。視力を有する症例の視覚伝導路は1〜16Gy(中間値10Gy)を照射されているが、一例も治療後視神経障害はみられなかった。 3. 合併症として、メッケル腔に19Gy以上受けた症例では6例、それ以外では3例に治療後新たな三叉神経障害がみられた。また他2例において第3脳神経、第6神経麻痺による複視、1例において顔面神経麻痺および聴力障害が見られた。 4. ガンマナイフは現時点では髄膜腫の成長制御に有用であると考えられた。頭蓋底手術が比較的高頻度に脳神経麻痺を来す危険性を考慮すると、ガンマナイフは厳密な基準により適応され、また慎重な治療計画に基づいて行われるならば、大きな腫瘍摘出後の残存・再発髄膜腫、症状の無い小さな髄膜腫の治療などに有用かつ安全な治療であると考えられた。 本研究はかつてない88例という多くの症例を前向き統一プロトコ一ルに基づいて治療した成績の報告であり、現在まで他施設から報告されている比較的少ない症例を様々な方法で治療している報告とは一線を画するものである。本研究により慎重な適応・計画によりガンマナイフが頭蓋底髄膜腫の治療に貢献しうることが判明した。このような確固とした治療指針および計画に基づいた臨床研究は臨床的な意義はもとより科学的な意義の深いものであり、学位の授与に値するものであると考えられる。 | |
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