学位論文要旨



No 214963
著者(漢字) 竹内,郁雄
著者(英字)
著者(カナ) タケウチ,イクオ
標題(和) 無節材生産を目的とした枝打ちに関する研究
標題(洋)
報告番号 214963
報告番号 乙14963
学位授与日 2001.03.05
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第14963号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 八木,久義
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 教授 鈴木,和夫
 東京大学 教授 丹下,健
 東京大学 助教授 小島,克己
 農林水産省森林総合研究所 研究管理官 櫻井,尚武
内容要旨 要旨を表示する

 我が国の主要な造林樹種であるスギやヒノキ林分では、材価の高い無節の心持ち柱材を生産目的とした枝打ちが行われている。しかし、大部分の枝打ち林分では、生産目的である心持ち無節柱材の生産が不十分で、枝打ち効果を十分に発揮する枝打ち管理が行われていない現状である。その原因は、生産目的に合った枝打ち管理技術が確立されていないためといえる。本研究は、無節材生産を目的とした枝打ちについて、その効果が十分発揮できる枝打ち開始時期や枝打ち強度、間隔などの枝打ち方法を確立し、この方法で枝打ちした林分の樹冠構造や林分現存量、成長低下などを解明し、枝打ち管理技術を確立する目的で行った。

 無節材生産では、目的とする幹直径にすべての節を納めることが必要で、材部における節の水平分布に影響すや枝直径や着生枝数の実態を把握した。枝直径は、着生する幹直径が大きくなるにつれて大きくなること、林分密度の高い林分ほど小さくなること、枝打ち繰り返し林では林齢が高くなるにつれてやや大きくなることが分かった。一方、幹に発生する枝数は、密度や生育段階と関係がみられず幹長1mあたり30〜40本で、早い時期に枯死する枝があり幹直径4 cm以上に着生する生枝数は20本前後に減少した。枝直径の違いは、若齢時から枝打ちを行えば無節材生産にとって大きな障害にならず、枝数とともに枝打ち林分の条件として大きな意味を持たないことが明らかになった。

 枝打ち効果を発揮する枝打ち開始時期や枝打ち強度を解明するため、枝打ち跡の実態解析を行った。節の水平分布を左右する残枝長と、巻込み後の年輪走行が平滑になるまでに要する幹の半径成長を示す平滑長の両者は、枝打ち時の枝着生部幹直径の大きさとの間に関係式が得られた。両式から、枝打ち時期(枝打ち時の枝着生部における最大幹直径)ごとに無節材、あるいは平滑材の生産開始幹直径が推定でき、生産目標に適した枝打ち時期の決定に広く応用することが可能となった。スギ、ヒノキ林における幹長3mあたりの幹曲がりは、根元曲がり部分を除いても平均1〜3 cmあり、心持ち無節柱材生産を困難にしている大きな要因となっていた。これらの結果から、心持ち無節柱材を生産する枝打ち時期は、残枝長と幹曲がりが重要な意味を持ち、すべての残枝を生産目的とする柱材一辺の大きさに納める枝着生部の幹直径を求めればよいことを示した。例えば、利用幹長3mあたりの幹曲がりが3 cm以下の個体で10.5 cm角の心持ち4方無節柱材を生産目的とする枝打ち時期は、枝着生部の幹直径が6 .0cm以下を維持する枝打ちを繰り返せばよいことを明らかにした。

 スギ枝打ち林から10.5 cm角で3mの心持ち柱を製材し、柱材から枝打ち時期を検討した。心持ち無節柱材生産に影響する要因は、枝打ち時期と幹曲がりや偏心成長による髄のずれであった。柱材からみた10.5 cm角の心持ち4方無節柱材の生産では、1番玉では上記した枝打ち時期が妥当であることが確認できた。2番玉では、髄のずれが小さく、枝着生部の幹直径を7.0 cm以下に維持する枝打ちでよいことが明らかになった。

 枝打ちのマイナス面である枝打ちに伴う材部の変色の発生原因は、枝隆部を含めた材部の傷、樹皮剥離、残枝割れの3種類で、幹に接して枝を切断する通常の枝打ちでは変色の発生を避けることが難しいことが分かった。変色は、傷を受けた時点より古い材部にのみ発生することが確認され、製品が無節材なら変色も現れず、枝打ち時期は変色対策として決定的なものであることを明らかにした。枝着生部の幹直径が大きい壮齢林での枝打ちは、材の広い範囲に変色や腐朽を生じさせる危険性が高く行うべきでないことを示した。

 枝打ち時期と無節材や平滑材生産の開始直径、変色の実態から枝打ち効果を十分発揮する枝打ちは、短伐期林、長伐期林を問わず基本的には10.5cm角の心持ち4方無節柱材が生産可能な時期に行うべきで、枝打ちを数回繰り返すことが必要であることを明らかにした。長伐期林では、若齢段階では間伐で10.5cm角や12.0cm角の心持ち無節柱材を収穫し、その後は無節で年輪走向に乱れのない優良材生産に移行すべきであることを示した。

 枝打ちに適した林分条件を明らかにするため、密度や地位の違いが成長におよぼす影響や生産生態学的な面から枝打ちを検討した。低密度林分や地位の低い林分では、枝打ち後の葉量回復が遅く、成長の低下が大きくなることを明らかにした。生産物の各器官への配分比は、枝打ちが強度になるに従い枝葉に多く、幹や根に少なくなる傾向がみられた。

 本研究で明らかにした心持ち4方無節柱材が生産可能な枝打ち時期で実際に枝打ちを行い、現在まで不明であった枝打ちを繰り返した林分の実態を解明した。枝打ちは、枝下直径4cmまで打つ強度とし、ほぼ2年ごとに4〜5回行った。樹冠構造についてみると、対照林分と枝打ち林分での差は、最大で枝下高が1.9〜3.7m、枝下直径が3.0〜6.7cm、樹冠長が2.0〜4.8mで、密度の高い林分で小さい。これらの差が最大になる林齢は、対照林分の枝下直径や樹冠長が極大になる林齢に近く、枝打ちを繰り返しても差は大きくならないことが明らかになった。

 枝打ち林分の葉量を対照林分に対する葉量割合でみると、ヒノキ林分では枝打ち直後が30〜35%、枝打ち直前が65%前後、スギ林分では枝打ち直後が27%前後、枝打ち直前が60%前後で、密度の高い林分ほど高かった。このように、枝打ちを繰り返している間の葉量は、対照林分に比較し少ないことが明らかになった。

 一方、枝打ちによって除去される葉量や枝量についてみると、ヒノキ林分の1玉分にあたる地上高3.5mまでの枝打ちでは、除去葉量が9〜15t/ha、除去枝量が5.5〜13t/ha、2玉分にあたる6.5mまでの枝打ちでは除去葉量が19〜33t/ha、除去枝量が15〜26t/haで、密度の高い林分で多くなる。スギ林分では1、2玉分の枝打ちで除去葉量がそれぞれ16、46t/ha、除去枝量がそれぞれ4、12t/haに達することが明らかになった。

 成長についてみると、1玉分にあたる地上高3.5mまでの枝打ちにより、対照林分に比較して最終枝打ち2年後に最大の差が生じ、その差は胸高直径で1.2〜1.5cm前後、樹高で0.3〜0.8mである。枝打ち林分の収穫は、成長の低下により対照林分に比べ2〜3年遅れることが分かった。また、2玉分にあたる地上高6.5mまでの枝打ちでは、対照林分に比較し胸高直径で1.9〜2.8cm、樹高で1.1〜2.3mの差が生じる。このため、枝打ち林分の収穫は、対照林分に比べ5〜6年遅れることが分かった。成長の低下は、密度の高い林分では小さく、地位の低い林分では大きくなることが明らかになった。特に、地位の低い林分は、成長面からみると枝打ちを行うことは得策でないといえる。

 気象害の耐性を示す平均形状比は、対照林分、枝打ち林分とも生育に従い一旦低下し、対照林分の樹冠閉鎖直後にほぼ同じ値の極小値を示す。その後の平均形状比は、枝打ち林分が高くなり、最終枝打ちから2〜3年後に対照林分より5〜10高い最大値を示し、その後は対照林分の値に近づく変化をすることが明らかになった。平均形状比の変化から、気象害に対する抵抗性が大幅に低下することはないと考えられた。

 枝打ち強度や枝打ち間隔に影響する枝下直径成長についてみると、枝打ち後2年間の枝下直径成長は、地位の高い林分ほど、林齢が若いほど、優勢木ほど大きいことが明らかになり、2年ごとに枝打ちを繰り返す方法を以下のように示した。1番玉では枝下直径が6cm以下を維持するよう、1回目の枝打ちは枝下直径が3.0〜3.5cmまで強度に打つ、2回目以降は前回の枝下直径成長を参考に3.5〜4.0cmまで、優勢木ほど強く打つことである。2番玉になってからは、枝下直径が7cm以下を維持するよう、1、2回目の枝打ちは枝下直径が4.0〜4.5cmまで、その後は4.5〜5.0cmまで、優勢木ほど強く打つことである。枝打ちは、節の水平分布を制御する枝下直径の管理であり、地位の違いや個体の成長に応じた強度で行うべきであることを示した。

 以上のように、本研究では、無節材生産を目的とした枝打ち時期や強度、枝打ちに適した林分条件を明らかにした。また、枝打ち繰り返し林分の成長などの変化を、はじめて明らかにした。これらの成果を用いることで、地位や密度が異なる林分に対して、生産目的に合った枝打ち強度や枝打ち間隔、成長予測など枝打ち管理技術の策定が可能になった。これらの成果を枝打ち施業に利用するため、スギ林分とヒノキ林分で10.5cm角の心持ち無節柱材が生産可能な枝打ち管理例を、1番玉と2番玉までの枝打ちに区分して提示した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、無節材、優良材生産を目的とした枝打ちに関して、枝打ち効果を十分発揮する好適な枝打ち時期や方法について検討を加えると共に、それらの枝打ちの繰り返しが林分構造や幹材積成長におよぼす影響を明らかにすることによって、スギやヒノキの人工林における枝打ち管理技術を確立することを目的としている。

 第I章では、まず節の水平分布に影響する枝直径や着生枝数について、幹直径や立木密度の違いを含めてその実態を明らかにしている。さらに、若齢林から壮齢林で節解析を行い、普通の作業として枝打ちされた枝打ち跡の実態を詳細に調査するとともに、ナタやノコギリ、カマなどの枝打ち器具による違いや、生枝打ちと枯枝打ちによる違いを含めて、残枝長や巻込み長、巻込み後の年輪走向の乱れなど、枝打ち跡の修復や節の水平分布と枝打ち時期の関係を明らかにしている。また、普通の枝打ち作業では大きい枝は小さい枝に比べ残枝長を小さくするように打つことが考えられるため、できるだけ残枝長を小さくするように丁寧な枝打ちを行った結果と比較し、能率が問われる普通の枝打ち作業での注意点を提示している。

 第II章では、枝打ち後いつの時点から、材表面が無節となるのか、さらに枝打ち跡の巻込みによる年輪の乱れが修復されるのかについて、枝打ち時期との関係を解析している。これらの関係を用いることで、すべての残枝をある幹直径に納めるための枝打ち時期や、ある幹直径以上が平滑材となる枝打ち時期が推定可能となった。また、幹の曲がりによる柱材での髄のずれが、無節材生産を困難にしている大きな要因であることを明らかにすると共に、幹曲がりの実態を調査し、これらの結果も考慮に入れた、心持ち無節柱材生産のための枝打ち時期を検討している。さらに、この基準で効果的な枝打ちを実行するには、枝打ちを繰り返すことが必要であることを示している。

 第III章では、枝打ちに伴って発生するとされる材部の異常変色について、その実態と発生原因を調査し、異常変色の発生原因となる傷の種類と変色の大きさ、枝打ち器具の違いによる傷の種類などの特徴を明らかにしている。さらに、その結果に基づき、変色による欠陥を避けるために適切な時期の枝打ちが重要であることを明らかにすると共に、枝打ち効果を十分発揮でき経営的にも有利な枝打ち方法について示している。

 第IV章では、密度や地位の異なる林分で、枝打ちが成長におよぼす影響を生産生態学的な見地から検討し、枝打ちによる葉量除去率の違いが幹材積成長や根量、T/R率、生産物の各器官への配分比の変化、純生産量におよぼす影響などを明らかにしている。また、林業経営では枝打ちによる伐採林齢の長期化や収穫材積の減少を避けることが重要であることを考慮して、成長低下におよぼす林分密度や地位などの違いから、枝打ちに適した林分条件を提示している。

 第V章では、先に得られた無節柱材が生産可能な枝打ち時期を参考に、枝打ち繰り返し試験を行い、その過程での樹冠構造や林分現存量、成長、形状比などの変化を対照林分と比較して記している。これらの結果を用いることで、無節材生産を目的とした枝打ちによる成長予測が可能となった。さらに、枝打ち後の枝下直径成長を解析した結果から、枝打ちを繰り返す際には、地位や生育段階の違いを考慮して枝打ち強度を決定すべきであることを明らかにしている。

 第VI章では、以上の結果を踏まえ、無節材や優良材生産にとって、枝打ち時期が重要であることを確認すると共に、スギ林分とヒノキ林分で無節柱材が生産可能な枝打ち管理例を提示している。管理例では、1番玉と2番玉までの枝打ちに区分して、枝打ち強度や枝打ち間隔を示し、胸高直径、樹高、幹材積成長などの変化、対照林分と同じ大きさで収穫するのに何年間遅くなるかなど、具体的な評価を行っている。

 無節性が高く年輪走向の平滑な高価値材を生産するために枝打ちが有効であることは経験的に知られていたが、明確な技術指針は未確立であった。さまざまな人工林における実証的調査や解析に基づいた本研究は、実際の枝打ち施業を念頭においたものであり、その成果は、生産目的に合った枝打ち強度や枝打ち間隔、成長予測など、スギ林分とヒノキ林分における枝打ち管理技術の策定を可能にし、枝打ち施業の改善に大きく貢献するものである。

 よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文としてふさわしいものであると判断した。

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