学位論文要旨



No 214973
著者(漢字) 森,直代
著者(英字)
著者(カナ) モリ,ナオヨ
標題(和) 腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ食中毒の日別の発生に及ぼす気温・蒸気圧の影響 : 原因食品別のサルモネラ・エンテリティディス食中毒の解析を含む
標題(洋)
報告番号 214973
報告番号 乙14973
学位授与日 2001.03.07
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14973号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,哲
 東京大学 教授 甲斐,一郎
 東京大学 教授 小林,康毅
 東京大学 助教授 岩瀬,博太郎
 東京大学 講師 山脇,昌
内容要旨 要旨を表示する

 わが国の細菌性食中毒の大半を占める腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌(S.Enteritidisを含む全サルモネラ)による食中毒の発生に及ぼす気象条件の影響を明らかにするために、1987〜91年の東京都の毎日のこれらの食中毒の発生の有無を目的変数とし、7気象要素(最高、最低および平均気温、蒸気圧、最小および平均湿度および日射量)を説明変数とする多重ロジスティック分析を行った。それぞれの気象要素は食中毒発生日、その1日前、2日前、および3日前別に両期間に分けて実施した。さらに、1989年以降、英国からの鶏卵の輸入の増加に伴い、鶏卵が原因と示唆されるサルモネラ・エンテリティディス(S.Enteritidis)食中毒が欧米と同様に増加しているため、1989〜95年の原因食品別S.Enteritidis食中毒の発生に及ぼす5気象要素(最高、最低および平均気温、最小および平均湿度)の影響を日本全国のデータを用いて多重ロジスティック分析により同様に解析した。

(1)腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌および全サルモネラ食中毒に及ぼす気温・蒸気圧の影響

 1987〜91年の東京都の7気象要素は因子分析により、気温・蒸気圧因子(最高、最低および平均気温と蒸気圧と正に関連)および湿度・日射量因子(最小および平均湿度と正に、また日射量と負に関連)の2因子に要約された。

 腸炎ビブリオ食中毒では、発生当日、1日前および3日前の最低気温(気温・蒸気圧因子)がこの食中毒発生と有意な正の関係があった。黄色ブドウ球菌食中毒では、同様に発生3日前の蒸気圧(気温・蒸気圧因子)が食中毒発生と有意な正の関係があった。さらに、サルモネラ食中毒(S.Enteritidis以外も含む全サルモネラ)では、発生当日および1日前の平均気温(気温・蒸気圧因子)が食中毒発生と有意な正の関係があった。

(2)原因食品別のサルモネラ・エンテリティディス(S.Enteritidis)食中毒に及ぼす気温の影響

 上記の解析で、気温と湿度は違った因子に分類されたのでここでは5気象要素の因子分析は行なわなかった。卵が原因のS.Enteritidis食中毒の発生に対して、その発生当日および1日前では最低気温が、またその2日前および3日前では平均気温が有意な正の関係があった。また、卵以外が原因の場合は、その発生当日〜3日前にわたって最低気温が有意な正の関係があった。原因食品が不明の場合は、発生当日および1日前では平均気温が、2日前では最低気温と平均湿度が、また3日前では最低気温が食中毒発生と有意な正の関係があった。

 以上より、腸炎ビブリオでは食中毒発生の当日、1日前および3日前の最低気温(気温・蒸気圧因子)が、黄色ブドウ球菌では同じく3日前の蒸気圧(気温・蒸気圧因子)が、さらにサルモネラ菌(S.Enteritidis以外も含む全サルモネラ)では同じく当日および1日前の平均気温(気温・蒸気圧因子)がそれぞれ有意な影響を及ぼすと考えられた。一方、近年のS.Enteritidis食中毒の発生に対しては原因となる食品の如何にかかわらず、当日から3日前までの最低または平均気温が有意な影響を及ぼしていることが示され、高気温の持続が発生をもたらすと推定された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はわが国の細菌性食中毒の大半を占める腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌(S.Enteritidisを含む全サルモネラ)による食中毒の発生に及ぼす気象条件の影響を調べたものであり、以下の結果を得ている。

1.腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌および全サルモネラ食中毒に及ぼす気温・蒸気圧の影響

 1987〜91年の東京都の7気象要素は因子分析により、気温・蒸気圧因子(最高、最低および平均気温と蒸気圧と正に関連)および湿度・日射量因子(最小および平均湿度と正に、また日射量と負に関連)め2因子に要約された。

 腸炎ビブリオ食中毒では、発生当日、1日前および3日前の最低気温(気温・蒸気圧因子)がこの食中毒発生と有意な正の関係があった。黄色ブドウ球菌食中毒では、同様に発生3日前の蒸気圧(気温・蒸気圧因子)が食中毒発生と有意な正の関係があった。さらに、サルモネラ食中毒(S.Enteritidis以外も含む全サルモネラ)では、発生当日および1日前の平均気温(気温・蒸気圧因子)が食中毒発生と有意な正の関係があった。

2.原因食品別のサルモネラ・エンテリティディス(S.Enteritidis)食中毒に及ぼす気温の影響

 上記の解析で、気温と湿度は違った因子に分類されたのでここでは5気象要素の因子分析は行なわなかった。卵が原因のS.Enteritidis食中毒の発生に対して、その発生当日および1日前では最低気温が、またその2日前および3日前では平均気温が有意な正の関係があった。また、卵以外が原因の場合は、その発生当日〜3日前にわたって最低気温が有意な正の関係があった。原因食品が不明の場合は、発生当日および1日前では平均気温が、2日前では最低気温と平均湿度が、また3日前では最低気温が食中毒発生と有意な正の関係があった。

 以上より、高気温条件がわが国の腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌(S.Enteritidis以外も含む全サルモネラ)食中毒の発生を増加させることを明らかにした。本研究はこれまで明らかでなかった腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌(S.Enteritidis以外も含む全サルモネラ)による食中毒の発生要因の理解に重要な貢献をなすと考えられ、学位(医学)の授与に値するものである。

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