学位論文要旨



No 214990
著者(漢字) 福山,満由美
著者(英字)
著者(カナ) フクヤマ,マユミ
標題(和) 振動発散現象と座屈に着目した液中上端開放薄肉円筒の耐震設計法に関する研究
標題(洋)
報告番号 214990
報告番号 乙14990
学位授与日 2001.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14990号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 矢川,元基
 東京大学 教授 近藤,恭平
 東京大学 教授 藤田,隆史
 東京大学 助教授 桑村,仁
内容要旨 要旨を表示する

 高速増殖炉の炉壁保護構造物である炉壁冷却ライナー構造は、直径10m、半径対板厚比200から400で液体冷却材中に設置された鋼製の上端開放薄肉円筒構造である。原子力設備の安全性確保のためには、地震時の損傷形態を見極めて耐震設計する必要がある。地震時には、流体と構造が連成振動し、ライナー内外の液体領域の圧力が増加し、その圧力差が非一様に分布する外圧として円筒に作用することが考えられる。さらに、既往研究では正弦波作用下での現象として報告されているが、周方向振動モードがパラメトリック励振として生じる発散振動の発生にも配慮しなければならない。すなわち、本研究では炉壁冷却ライナーの耐震設計において、外圧による座屈及びパラメトリック励振による発散振動のふたつを防止すべき損傷モードと考えた。本研究は、これらの損傷発生のメカニズムを把握し、適切な評価法及び評価体系を構築することを目的に、正弦波作用下での発散振動の発生条件の基本安定判別法、地震波作用下での発散振動評価法、非一様分布外圧による座屈圧力評価法、炉壁冷却ライナーの耐震設計手法に関する研究を行った。得られた結論は以下のとおりである。

 (1) 液中上端開放薄肉円筒の振動発散現象の基本安定判別法に関する研究

 特定振動数の正弦波で加振される薄肉円筒には、パラメトリック励振による周方向振動の発散現象が報告されており、その発生条件を安定判別解析により推定できることが示されている。しかし、炉壁冷却ライナーは既往研究で検討された円筒よりやや厚肉であったため、提案されている正弦波作用下での安定判別法の、炉壁冷却ライナーの寸法形状の円筒への適用性を検討した。その結果、図1に示す発生条件が明らかとなり、また、安定判別結果は、同図に示す正弦波加振実験結果とよく一致していることから、既往研究で提案されている手法が炉壁冷卸ライナーの発散振動評価に適用できることを明らかにした。また、正弦波加振振動数が周方向振動モードの固有振動数の約2倍の場合には、パラメトリック励振により周方向振動の振幅が急増する場合があるが、加振振動数が周方向振動モードの固有振動数の約2倍から離れている場合には、加振振動数と面外変形の振動数が一致する準静的な座屈が発生することを確認し、両者を分離して扱えることを明らかにした。

(2) 地震波作用下での振動発散現象に関する研究

 一般的に、パラメトリック励振は正弦波作用下での現象として報告されているが、地震波作用下でも発散振動に関連する周方向振動モードが発生する場合があることを実験的に明らかにした。地震波作用下での発散振動の発生条件の評価法の整備が不可欠であると考え、詳細解析によらない合理的な評価法として正弦波作用下の安定判別解析結果を活用することに着目した。与えられた地震波に対して、その実効的な振動数を正弦波の振動数に読み替え、また、地震波加振時の発生圧力から等価な正弦波加振時の発生圧力を抽出することにより、正弦波作用下と地震波作用下とで安定判別法を関連づけた。ある振幅の正弦波で繰り返し加振されることが発散振動の発生要因であるため、地震波作用下での発散振動の発生には平均的な最大圧力あるいは平均的な最大圧力より小さい圧力が寄与すると考えた。地震波作用下の代表圧力を発生確率が0.1のピーク圧力として正弦波作用下の最大発生圧力と読み替えると、発散振動の発生をより的確に評価することを示した。図2は同一振動数の正弦波加振時と地震波加振時の圧力と変位の関係を示す。地震波加振時の最大圧力を参照している(a)と比較すると、確率0.1のピーク圧力を参照している(b)では、地震波加振時の圧力と変位の関係は、正弦波加振時の圧力と変位の関係により近づき、地震波加振時の発散振動発生をより的確に評価することを明らかにした。

(3) 非一様分布圧力下の上端開放薄肉円筒の座屈強度に関する研究

 非一様分布外圧を受ける薄肉円筒の座屈の発生メカニズムを実験的に検討したところ、座屈発生直前までは線形応答状態とみなすことができ、線形状態での圧力の増加により円筒が耐力を失う現象と扱うことができることを示した。従って、非一様分布圧力下の上端開放薄肉円筒の座屈圧力は、線形解析などで求まる圧力分布を円筒モデルに付加する座屈解析で算出する方法を提案した。図3は実験より推定した座屈圧力を弾性座屈固有値解析結果で割った比を示す。実験結果は解析結果の1.2倍から1.6倍程度であり、座屈解析による座屈圧力評価は実用上で妥当であることを示した。

(4) 炉壁冷却ライナーの耐震設計法に関する研究

 液中上端開放薄肉円筒の耐震設計法では、振動発散現象ならびに準静的な座屈を防止するよう規定し、発散振動発生の防止は、地震動の特性がある条件を満たす場合のみ必要となり、(2)にて述べた安定判別法で確認し、座屈圧力は(3)で述べた静的座屈解析で評価する方法を示した。耐震安全性の判定法における水平地震応答と上下地震応答の相互作用については、数値解析を行い線形和で表される事を確認したが、最大地震応答の同時発生確率等を考慮して、二乗和平方根を適用することが妥当であることを示した。また、形状不整と座屈荷重の関係を数値解析により求めて、これを基に座屈荷重の不確定性に関する強度安全係数を定めた。

 以上の研究により、高速増殖炉の炉壁冷却ライナーを対象とする液中上端開放薄肉円筒の地震時の発散振動及び準静的な座屈発生による変形の増大を防止するための設計手法を構築することができた。

図1 安定判別法による発散振動発生条件と正弦波加振実験結果の比較(半径250mm、高さ350mm、板厚1mmのポリエステル製試験円筒を水中に設置して3種類の正弦波で加振した結果と安定判別解析結果の比較)

(a)地震波加振実験結果は最大圧力を参照

(b)地震波加振実験結果は統計的な最大圧力を参照

図2 発散振動発生時の圧力*の比較

(半径400mm、高さ350mm、板厚1mmのポリエステル製試験円筒を水中に設置して13Hz正弦波及び13Hz狭帯域ランダム波で加振した場合。変位急増時の圧力を発散振動時の圧力とする。)

図3 実験結果から推定された座屈圧力と座屈解析結果との比

LTP1,LTP3,LTP4,TTP1は試験体名称,Wave-A,Wave-Bは入力地震波の名称

審査要旨 要旨を表示する

 高速増殖炉は高温の液体ナトリウムを使用しており、主要な機器類は熱的条件から薄肉化されるため耐震強度が問題となる。炉壁保護構造物である炉壁冷却ライナー構造は、直径10m、半径対板厚比200から400で液体冷却材中に設置された上端開放の薄肉円筒であるが、地震時には、流体と構造が連成振動により発生する流体圧が円筒周りに非一様分布外圧として作用する。さらに、既往研究では正弦波作用下での現象として報告されているが、地震下でも半径方向振動モードのパラメトリック励振の発生にも配慮しなければならない。

 本研究では炉壁冷却ライナーの耐震設計において、外圧による座屈及びパラメトリック励振による有意な面外変形の発生を損傷モードと考え、これを防止するための耐震設計法を検討する。これらの損傷発生のメカニズムを把握し、適切な評価法及び評価体系を構築するために以下の研究を行った。

(1)液中上端開放薄肉円筒の振動発散現象の基本安定判別法

(2)液中上端開放薄肉円筒の地震波作用下での振動発散現象

(3)上端開放薄肉円筒の非一様分布圧力下の座屈強度

(4)炉壁冷却ライナーの耐震設計法の提案

 第1章で序論を述べ、第2章で既往研究に触れ研究課題を明確にしている。

 第3章で液中上端開放薄肉円筒の振動発散現象の基本安定判別法に関する研究の結果を示している。

 液体を含む円筒が特定振動数の正弦波で加振された場合に、径方向振動のパラメトリック励振の発生が報告されており、その発生条件は安定判別解析により推定できることが示されている。炉壁冷却ライナーの寸法形状は既往研究で検討された円筒より厚肉であり、著者は正弦波の振動数と振幅をパラメータとする加振実験を行ってパラメトリック励振の発生条件を調べている。実験結果を安定判別解析結果と比較し、よく一致することを確認し、既往研究で提案されている手法が炉壁冷却ライナーの発散振動評価に適用できることを明らかにしている。また、パラメトリック励振は加振振動数が径方向振動モードの固有振動数の約2倍の場合のみ選択的に発生すること、それ以外の振動数では加振振動数と面外変形の振動数が一致する準静的な座屈が発生することを確認した。耐震設計では、両者を分離して扱い、いずれか厳しい方により規定する方法が有効であることを示した。

 第4章では地震波作用下での振動発散現象に関する研究結果を示している。

 一般的に、パラメトリック励振は正弦波作用下での現象として報告されているが、地震波作用下でもこれに関連する径方向振動モードが発生する場合があることを実験的に明らかにした。地震波作用下で発散振動が発生する条件を明らかにすることは重要であるが、著者は正弦波作用下の安定判別解析結果を活用することに着目した。正弦波作用下で振動発散現象が現れる圧力は加振振動数に依存する。地震時においての安定判別結果も加振振動数と圧力の関係で表わすことを検討している。加振振動数として地震波の卓越振動数をとり、圧力として地震波作用下での発生圧力の代表値をとり、これらを比較することで安定判別ができることを示した。圧力の代表値を決めるために、基本的にはある振幅の正弦波で繰り返し加振されることが発散振動の発生要因であるため、地震波作用下での圧力波形のピーク分布に着目している。発生確率が0.1のピーク圧力を地震波作用下の代表圧力とすると、正弦波作用下での発散振動発生圧力とよく一致することを確認し、地震波作用下での安定判別に適用できると結論している。

 第5章では非一様分布圧力下の上端開放薄肉円筒の座屈強度に関する研究を行っている。

 非一様分布外圧を受ける薄肉円筒の座屈の発生メカニズムを実験的に検討したところ、座屈発生直前までは線形応答状態とみなすことができ、線形状態での圧力の増加により円筒が耐力を失う現象と扱うことができることを示した。従って、非一様分布圧力下の上端開放薄肉円筒の座屈圧力を求める方法として、線形解析などで求まる圧力分布を円筒モデルに付加する座屈解析で算出する方法を提案している。実験より推定した座屈圧力を弾性座屈固有値解析結果と比較したところ、実験結果は解析結果の1.2倍から1.6倍程度であり、座屈解析により座屈圧力を安全側に評価できるので実用上で有効であることを示した。

 第6章において炉壁冷却ライナーの耐震設計法に関する研究結果を示している。

 炉壁冷却ライナーの耐震設計では、著者は、現行の原子力発電設備の耐震設計基準に従い準静的な座屈を防止するための耐震裕度を確保した上で、さらに振動発散現象による有意な面外変形を防止するよう規定している。発散振動発生の防止は地震動の特性がある条件を満たす場合のみ必要となるが、直接変形を算定するか、第4章にて述べた安定判別法で確認し、座屈圧力は第5章で述べた静的座屈解析で評価する方法を示した。著者は、座屈の判定における水平地震応答と上下地震応答の相互作用については、数値解析を行い線形和で表されることを確認したが、最大地震応答の同時発生確率等を考慮し二乗和平方根を適用することが適切であることを示した。また、形状不整と座屈荷重の関係を数値解析により求めて設定した強度安全係数を用いると、耐震裕度が確保されることを確認した。

 以上の研究により、高速増殖炉の炉壁冷却ライナーを対象とする液中上端開放薄肉円筒の地震時の発散振動及び準静的な座屈発生による変形の増大を防止するための設計手法を構築することができた。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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