学位論文要旨



No 214993
著者(漢字) 高木,亮治
著者(英字)
著者(カナ) タカキ,リョウジ
標題(和) 極超音速飛行する鈍頭物体前方に生成した熱源による空力抵抗及び加熱率低減に関する数値的研究
標題(洋) A Numerical Study on Reduction of Aerodynamic Drag and Heating Rate via Energy Release Preceding a Blunt Body in Hypersonic Flow
報告番号 214993
報告番号 乙14993
学位授与日 2001.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14993号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 久保田,弘敏
 東京大学 教授 荒川,義博
 東京大学 教授 森下,悦生
 東京大学 教授 安部,隆士
 東京大学 教授 藤井,孝蔵
 東京大学 助教授 鈴木,宏二郎
内容要旨 要旨を表示する

 将来型宇宙輸送システムを根本から変えてしまう可能性を持った革新的技術コンセプトが提案され、現在欧米露において精力的に研究が進められている。

Directed Energy Air Spike(DEAS)と呼ばれるこの技術コンセプトは将来型宇宙輸送システムの推進装置、宇宙往還機など極超音速飛翔体の空力抵抗及び空力加熱率低減技術として注目を浴びている。レーザー、電磁波等を用いて機体外部の空気を加熱することで機体外部の流れを制御し、その結果推進力を発生させたり、空力特性を変化させたりするもので先端的実験研究が精力的に行われている。このコンセプトは大量の燃料を積み込んで打ち上げる従来型ロケット等宇宙輸送システムの概念を根本から変革する可能性を秘めている。また同時に将来型宇宙輸送システムの空力抵抗、空力加熱の低減装置としても有効であることが注目されており、そのため次世紀の宇宙輸送システムの開発においてDEASの物理現象を解明することが急務とされている。しかしながら極超音速飛行での適用を初めとしてDEASの物理現象解明には実験的研究では不十分である。近年の計算科学技術(計算機ハードゥエア及びソフトウェア技術)の急速な発達により計算流体力学(Computational Fluid Dynamics;CFD)が、特に極超音速流の解析においては不可欠なものとなっている。極超音速流の解析においては一般に高温効果と呼ばれる、気体の解離・電離反応や、内部エネルギーモードの非平衡性を考慮する必要がある。これらの高温効果は飛翔体の空力加熱を推算する上で非常に重要である。そこで本論文では将来型宇宙郵送システムにおいて空力特性改善(空力抵抗及び空力加熱率低減)が期待されるDEASコンセプトについて高温効果を考慮した解析を行った。特に高温効果を考慮し、かつ系統だった大規模パラメトリック計算は世界でも未だ行われていないのが現状である。系統だった大規模パラメトリック計算によりDEASの流れ場の詳細について精度良く解析し、空力抵抗及び空力加熱率低減のメカニズムを解明する。また同時に空力抵抗及び空力加熱率最小となる最適条件についても考察する。

本論文の内容は以下の通りである。

 まず、第一章では将来型宇宙輸送システムの新しいコンセプトであるDEASの原理について紹介し、その有用性、将来性について言及する。DEASの研究を概観することで数値計算による現象解明の重要性を示し、また同時に従来は行われていなかった高温効果および非平衡性を考慮した解析の重要性を示すことで本論文の目的及び意義を述べる。

 第二章では極超音速流を特徴付ける物理現象について説明する。特に高温効果と非平衡性が重要な要因となることを説明する。また極超音速流に関する研究におけるCFDの重要性を示し、これまでの数値的研究を概観する。それと同時にCFDで用いられる物理モデルの妥当性について言及する。

 第三章では本研究で用いた数値計算手法について述べる。想定した流れ場と支配方程式、各種物理モデル、更には離散化スキーム、時間積分法など計算手法について詳細な説明を行う。DEASを取り扱うための熱源のモデル化と熱源を特徴付ける三つのパラメータ(熱源位置、投入するエネルギー、エネルギーの集中度)について説明する。

また計算に用いた計算格子、計算条件についても言及する。この章で説明した計算手法は信頼性を確認するため計算手法の検証を行った、と同時に格子依存性の確認も行った。計算手法の検証についてはAppendix A.1に、格子依存性に関してはAppendix A.2にそれぞれ示した。

 第四章では計算結果について述べる。熱源がある場合の流れ場の詳細を、熱源が無い場合と比較して説明する。また本論文において重要な位置を占める高温効果についてその影響を示す。次に空力特性を議論するため抵抗係数と加熱量を定義しこれらの値に着目して計算結果について述べる。まず熱源の位置に関しては、熱源の位置を遠ざけるほど抵抗、加熱率共に単調に減少することが明らかになった。また熱源が近い場合は減少率が大きいが、遠ざかるにつれて次第に減少率が小さくなり、ある程度以上離れると一定値に落ち着きそれ以上減少しなくなることがわかった。次に投入するエネルギーに関しては投入量を増やしていくと抵抗は単調に減少するが加熱率はある値を境に増加することがわかった。加熱率に関しては最適なエネルギー量が存在することが明らかになった。最後にエネルギーの集中度(熱源の大きさ)に関しては、熱源を小さくしていくと抵抗、加熱率共に最初は減少するがある程度以上小さくなると逆に増加すること、つまり最適な条件が存在するということがわかった。抵抗及び加熱率減少のメカニズムについて考察を行い低減メカニズムについて説明する。抵抗及び加熱率の減少は熱源により一様流の動圧が減少することで引き起こされていることがわかった。減少メカニズム、つまり動圧の減少における各パラメータの因果関係についても述べる。最後に本論文において重要な位置を占める高温効果についてその影響について示す。更に本論文で用いた熱力学モデルにおける非平衡性の影響について言及する。 第五章では本論文の結論を述べる。本論文は極超音速流中における鈍頭物体の前方に熱源を設定することで空力抵抗及び加熱率が減少することを高温効果を考慮した解析で数値的に示した。また熱源を特徴付けるパラメータによる影響を調べることで減少メカニズムを解明した。本論文により将来型宇宙輸送システムにおけるDEASの有効性を示すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

 修士(工学)高木亮治提出の論文は「A Numerical Study on Reduction of Aerodynamic Drag and Heating rate via Energy Release Preceding a Blunt Body in Hypersonic Flow(極超音速飛行する鈍頭物体前方に生成した熱源による空力抵抗及び加熱率低減に関する数値的研究)」と題し、本文5章及び付録3項から成っている。

 今世紀においては地上と宇宙ステーションの間を往復する再使用型宇宙輸送システムの実現が必須であり、そのために極超音速流中での空力抵抗及び空力加熱の低減が大きな課題となる。対流加熱を軽減するためには機体先端を鈍頭形状とすることが基本であるが、このことは空力抵抗の増大をもたらす。また、従来、空力加熱を軽減するためには耐熱材料による熱防御系、アブレーション冷却が用いられ、将来的には冷却気体吹き出しによる能動的冷却法も適用の可能性もあるが、これらの方法には空力抵抗低減の効果があるとは言えない。空力抵抗と空力加熱を同時に低減するためには、鈍頭形状の飛行体先端に棒状のスパイクを設けて機体先端まわりの流れ場を変化させる方法が有効であるが、スパイク先端の空力加熱量の増大や、迎え角をとったときの空力不安定性に問題がある。一方、レーザーや電磁波を用いて飛行体外部の気体を加熱することで外部流を制御し、飛行体の推進力を発生させる「直接エネルギー注入によるエアスパイク(Direct Energy Air Spike:DEAS)」という概念は、同時に将来型宇宙輸送システムの空力抵抗と空力加熱を低減する可能性を有する。この概念を用いることは飛行体前方に熱源を生成することにより仮想のスパイクを設ける事に相当し、機械的なスパイクに伴う欠点が少なく、各種パラメータを自在に変え得るので、空力抵抗/空力加熱低減効果が大きいと予想される。

 このような観点から、著者は、実在気体効果を含めた化学・熱非平衡流の数値流体力学(CFD)解析を行い、DEASによる空力抵抗と空力加熱低減のメカニズムを解明し、各種パラメータによる効果を検討するとともに、空力抵抗と空力加熱率が最小となる最適条件を考慮することとした。このことにより、将来型宇宙輸送システムへの適用が示唆し得る。

 第1章は序論で、DEASの原理とその有用性・将来性を論じ、数値解析による現象解明の重要性を示すことにより、本研究の目的と意義を述べている。

 第2章では極超音速流を特徴づける物理現象を説明し、そのような流れでは特に高温効果と化学・熱非平衡性が重要となることを述べている。さらに、このような流れの研究におけるCFDの重要性と、そこで用いられる物理モデルの妥当性に言及している。

 第3章では本論文で用いられた支配方程式、各種物理モデル、及び離散化スキームや時間積分法などの数値計算法とその検証について述べている。また、DEASにおける熱源のモデル化と、基本的な3つのパラメータ(熱源位置、投入エネルギー、エネルギーの集中度)についての説明を行っている。

 第4章では上記3つのパラメータを変化させたときの計算結果について述べている。熱源の位置は飛行体から遠ざかるほど、空力抵抗と空力加勢は単調に減少する。熱源が近くにあるときそれらの減少率は大きいが、遠ざかるにつれて次第に小さくなり、ある程度以上離れると一定値に落ち着き、それ以上は減少しなくなる。エネルギー投入量を増加させると空力抵抗は単調に減少するが、加熱率はあるエネルギー投入量を境に増加に転じる。エネルギー集中度は熱源の空間的分布をあらわしており、集中度を大きくする(すなわち狭い領域にエネルギーを集中する)と空力抵抗と空力加熱率はともに減少するが、ある程度以上大きくなると逆に増加することが示され、それらに最適条件が存在することがわかった。高度48km、一様流マッハ数13.92の飛行条件での最適条件下では、空力抵抗と空力加熱率は同時にそれぞれ37%及び80%まで減少させることができる。解析結果の考察から、空力抵抗及び空力加熱の減少は熱源の存在による一様流の動圧の減少に起因することが示された。

 第5章は結論で、上記各章における考察の総括を行い、DEASの効果を強調している。

 付録Aでは本論文で用いた計算法の検証と数値計算の格子依存性について述べ、付録BとCでは投入エネルギーとエネルギーの集中度の変化による空力抵抗/空力加熱低減のメカニズムについてさらに詳しいデータを収録している。

 以上要するに、本論文は飛行体前方に熱源を生成する方法(DEAS)によって空力抵抗及び空力加熱低減が可能となることを、実在気体効果を含めた化学・熱非平衡流の数値解析によって示し、そのメカニズムを解明し、各種パラメータによる効果を明らかにしたもので、その成果は将来型宇宙輸送システムの空力抵抗及び空力加熱低減に重要な指針を与え、航空宇宙工学に貢献するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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