学位論文要旨



No 214996
著者(漢字) 上田,明紀
著者(英字)
著者(カナ) ウエダ,アキノリ
標題(和) 83MVA超電導発電機の回転子に関する研究
標題(洋)
報告番号 214996
報告番号 乙14996
学位授与日 2001.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14996号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

 超電導発電機は回転子の界磁巻線に超電導導体を用いたものであり、単機容量の増大、発電効率の向上、電力系統の安定度向上などの優れた特徴がある。国内では、超電導発電機の実用化をめざし、ニューサンシャイン計画の一環として表1の仕様に基づく83MVA超電導発電機の製作と実証試験が行われている。本研究は、この開発において、界磁巻線に超電導導体を用いることで生じる技術課題に対して明確な解決策を示すことを目的として実施したものであり、以下の点が主要な研究課題である。

i. 実用機の回転子の基本構造と特性を明らかにし、界磁巻線に適した超電導導体と支持、冷却方式を明確にする。

ii. クエンチ時の回転子内ヘリウム圧力上昇、界磁巻線の熱的擾乱に対する安定性評価および界磁電流急変時の超電導導体温度上昇の解析方法を確立する。

iii. 83MVA超電導発電機の運転試験により、回転子の設計、解析手法が適切であり、回転子の信頼性が現用発電機に劣らないことを実証する。

 回転子の基本構造や界磁巻線の支持、冷却には、実用機に適した方式を採用した。すなわち、超電導導体には低交流損失の三層構造(Cu/CuNi/NbTi)の撚り線を用い、導体周囲の液体ヘリウムの自然対流で冷却した。また、界磁巻線は端部も含め全体をスロット中に納めて支持し、巻線取付軸の材料には4K、室温ともに高強度、高靭性の非磁性鋼A286を用いた。これらは従来の試作機では実績のない方式であり、後述するモデルコイルやロータ部分モデルなどの実験結果を反映し、83MVA超電導発電機への適用に至ったものである。表2に回転子の主要設計諸元、図1に回転子の断面構造を示す。

 界磁巻線に適した超電導導体と支持、冷却方式を明らかにするためモデルコイルによる通電実験を行なった。導体のCu比決定のためCu比1と2のモデルコイル(図2)を用いて静止状態でクエンチ電流を比較した。表3に示すようにCu比1の導体で構成したコイルはCu比2のコイルに比べ、導体の臨界電流は高いが、低い励磁電流でクエンチした。実験結果の評価と考察から界磁巻線の導体にはCu比2が適切であることが明らかになった。

 静止時と回転時ではコイルに加わる遠心力や冷却状態が異なるため、超電導導体の交流損失と界磁巻線の支持、冷却方式は3600rpmで回転中のモデルコイル(Cu比2)のパルス励磁実験をもとに検討した、実験では励磁電流を急変させ、最大で22T/sの磁界変化を28ms間加えたが、クエンチを生じなかった。この結果から、電力系統で突発短絡が発生しても界磁巻線が安定を保つよう、超電導導体の交流損失値は磁界変化率5T/s(at 4.5T〉で50kW/m3以下とした。また、約30回の起動停止やクエンチを行ったが通電特性の劣化はなく、モデルコイルに用いた支持、冷却方式が適切であることを確認した。この方式はロータ部分モデル、83MVA超電導発電機回転子にも適用した。

 クエンチ時の回転子の圧力上昇および界磁巻線の熱的擾乱に対する安定性を明確にするため、ロータ部分モデルを用いて実験を行なった。ロータ部分モデルの基本構造は83MVA超電導発電機回転子と同様であり、コイルの数と軸方向長さを減少している。直径が同一のため界磁巻線に作用する遠心力は同一である。比較を表4に示す。

 図3にロータ部分モデルのクエンチ後のヘリウム槽回転軸近傍の圧力の計測と解析結果を示す。解析では、微小時間毎の界磁巻線からヘリウムヘの伝熱量およびヘリウムの回転子外への流出量を求め、圧力の変化を計算した。クエンチ時の発熱によるヘリウムの圧力上昇を正確に解析できるようになり、回転子の圧力に対する強度設計が可能となった。

 界磁電流通電時にヒータで超電導導体を加熱し、クエンチを発生させる熱量(クエンチエネルギー)を計測し、これを基にクエンチエネルギーの解析方法を導出した。計測と解析結果を図4に示す。クエンチエネルギーは常電導域の発熱量、および、液体ヘリウムの遠心力による冷却特性向上と断熱圧縮による温度上昇との関係から決まることが分かり、熱的擾乱に対する安定性と界磁電流、回転数の関係が明確になった。

 設計、解析手法の妥当性と回転子の信頼性を実証するため、83MVA超電導発電機回転子の単体および固定子との組合せ試験を実施した。

 単体試験では界磁電流を660A/sで0A→378O0→0Aと変化したが界磁巻線は安定であり、クエンチ電流は定格3000Aの1.2倍を上回ること、0Aから定格3000Aまで10秒以内に変化できることを確認した。導体温度の解析結果を図5に示す。界磁電流3780A時の導体温度は4.7Kで、超電導導体の分流開始温度に対し1,2Kの余裕がある。解析からもクエンチしないことが確認できた。

 固定子との組合せ試験では、超電導発電機の電気、冷却特性を計測し、設計、解析手法が適切であることを確認した。また、負荷運転で814時間、DSS(Daily Start & Stop)運転を含めると1500時間の連続運転を行い、安定な長期運転ができることを確認した。更に、発電所至近端系統での三相突発短絡を模擬した試験を実施し、界磁巻線にクエンチが生じないことを確認した。

 83MVA超電導発電機回転子の試験から、本研究で提案した解析手法の妥当性が確認でき、超電導発電機の信頼性が現用発電機に劣らないことを実証でき、超電導発電機の実用化に向けて大きな前進を図ることが出来た。

表1 83MVA超電導発電機の主な仕様

表2 83MVA超電導発電機回転子の主要設計諸元

図1 83MVA超電導発電機回転子の断面構造

図2 静止モデルコイルの構成

表3 静止モデルコイルの比較

表4 ロータ部分モデルと83MVA超電導発電機の回転子諸元比較

図3 クエンチ後の圧力変化

図4 クエンチエネルギーと界磁電流、回転数の関係

図5 パルス励磁時の超電導導体温度(回転数3600rpm)

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「83MVA超電導発電機の回転子に関する研究」と題し,超電導発電機の実用化を目指し,その回転子に関する設計と製作に関する課題に明確な指針を与えるため,要素モデルによる実験と解析手法の提案を行い,実験と解析結果を基に83MVA超電導発電機用回転子を製作し,固定子と組み合わせた各種試験を行い,製作した回転子の信頼性の確認,提案した解析手法の妥当性などの評価をまとめたものであり,7章から構成される.

 第1章は序論で,超電導発電機開発の意義・背景・特徴・原理・構造を述べ,従来の研究における問題点と対比させながら本研究の目的と内容について述べている.

 第2章は「回転子の基本設計」と題し,83MVA超電導発電機の仕様と目標から概念設計を行い,それから主要の設計諸元を求め,詳細検討を行い超電導界磁巻線,ダンパー構造を決定し,設計諸元を定めて,回転子の設計に重要な回転子の振動特性・回転子各部の強度・回転子内ヘリウム温度分布の解析を行うと共に,超電導界磁巻線電流急変時における超電導導体の温度上昇解析法を提案し,それを用いて発電機が電力系統で三相突発短絡した場合にもクエンチを生じないことが確認されたことについて述べている.

 第3章は「界磁巻線の超電導導体および支持,冷却」と題し,高電流密度で低損失交流損失を図るために三層構造撚線超電導導体の仕様を提案し,それをスロット内に納め外側からベッセルを焼嵌め支持法を提案し,これを模擬した小コイルでの通電実験を通じその提案の妥当性を検証した結果を述べ,その結果から83MVA超電導発電機の界磁超電導導体の仕様を決定した過程について述べている.

 第4章は「回転子のクエンチ時の挙動」と題し,解析と83MVA超電導発電機の同径縮小の回転子部分モデルを用いた実験により,クエンチ時の曲げ振動,回転子内ヘリウムの挙動,クエンチエネルギー,ノーマル伝搬速度を実測すると共に,それを用いて解析の精度の妥当性について論じている.それらの結果から,熱的擾乱に対する界磁巻線の安定性は界磁電流と回転数から推測できることを示している.

 第5章は「回転子製作と回転子単体試験」と題し,回転子の製作と製作途中に実施した静止励磁試験と製作完了後の回転励磁試験結果を述べ,それらの結果から回転子が全ての仕様を満足していること,パルス励磁試験結果から2章で提案したの超電導導体の温度上昇に関する解析手法の妥当性を確認している.

 第6章は「回転子・固定子組合せ試験」と題し,製作した回転子と固定子を組合せ,無負荷特性,短絡特性,ダンパー特性,極低温部への侵入熱特性の基本実験を行い,回転子が仕様を満足していることと回転子の設計とその解析手法の妥当性を述べている.また・長期運転試験としてDSS(Daily Start and Stop)運転を含めた1500時間連続負荷運転を実施し,また,耐量確認試験として系統事故を模擬した三相突発短絡試験を実施し,それらの結果から回転子の信頼性が検証されたことを述べている.

 第7章は,「本研究の結論と実用化に関する課題」と題し,本論文の成果を総括すると共に超電導発電機の実用化に関する課題と今後の展望について述べている.

 以上これを要するに本論文は,超電導発電機の回転子の設計・製作に関して,要素試験と解析結果を基に83MVA超電導発電機の回転子を設計,製作し,回転子単体試験や固定子の組合せ試験を通じて,その高い信頼性を実証すると共に,設計・製作過程で用いた解析手法の妥当性を示すことにより,超電導発電機の回転子の設計と製作に明確な指針を与えるものであり,電気工学,超電導工学に貢献するところが多い.

 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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