学位論文要旨



No 215013
著者(漢字) 音田,弘
著者(英字)
著者(カナ) オンダ,ヒロム
標題(和) 物体操作におけるロボットモーションプランニングに関する研究
標題(洋)
報告番号 215013
報告番号 乙15013
学位授与日 2001.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15013号
研究科 工学系研究科
専攻 情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 井上,博允
 東京大学 教授 田中,英彦
 東京大学 教授 武市,正人
 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 教授 稲葉,雅幸
内容要旨 要旨を表示する

 本論文では、物体操作におけるロボットモーションプランニングに関する研究について述べる。従来の動作計画は、スタートとゴールを結ぶ経路を求めるpoint-to-pointの動作計画が標準的なものであった。しかし、この動作計画という観点のみで実際に作業の実現を論じる場合、次のような問題点がある。ロボットの作業実行においては、組立作業のように操作対象物が他物体と接触する場合には、位置データを基本とする経路を計画しても、環境の整備に多大な時間と労力をかけないと再利用できない。また、ロボットの物体操作の動作計画においては、ロボットの動作を指示するという観点の必要性は認識されていたものの、実際には把持物体の操作について障害物を回避する以外に条件を課しているものは少なく、最短経路・時間等の条件を与え、何等かの値を最適化する最適化問題として扱うものが主であった。したがって、実際の作業に必要な動作の指定、例えば組立作業において把持している物体の動作を教示する場合等を統一的に扱う枠組みがない。上記の問題を解決するには、教示・計画・実行の全てを実際に行うシステムを想定して、動作計画を行う必要がある。本論文では、状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システムを提案し、物体操作の状態遷移に基づく教示手法と、物体操作の実行のためのロボットの計画と、状態遷移用動作プリミティブにより物体操作作業を実行するロボットシステムを開発した。組立作業のように接触をともなう作業について、操作物体の接触状態遷移用動作プリミティブを持つロボットの仮想作業教示システムを開発し、多面体に関して接触状態のレベルでこれらの教示・計画・実行を可能とした。また、このシステムを想定した場合の接触を伴わない場合の計画について、本アプローチの可能性を示すとともに、問題点について検討した。平行2指グリッパにとって変わるであろうDexterous Gripperを用いた際の応用についても検討した。本手法は実際に計算機にインプリメントされており、プラント保守用ロボットの作業等の幅広い応用範囲を持ち、重要である事を確認した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「物体操作におけるロボットモーションプランニングに関する研究」と題し、7章からなる。組立作業のように操作対象物が他物体と接触する作業をロボットに実行させるための作業の計画には、把持されている物体と対象物体の間の衝突回避や接触状態維持操作などが組み合わされた複雑なモーションプランニングを必要とするため、これまで、実際の作業に必要な動作の指定と教示を統一的に取り扱う枠組みが確立されていなかった。本論文は、ロボットに把持されている物体と他物体との状態の遷移の観点から、物体操作の教示・計画・実行を整理し、組み立て作業のように物体間の接触を伴う作業について、物体操作の接触状態を遷移させる動作プリミティブをそなえたロボットの仮想作業教示システムを開発し、多面体物体に対して接触状態のレベルで物体操作を教示し、計画し、実行しうるシステムの実現法をについてまとめたものである。

 第1章「序論」は、研究の背景、目的および論文の構成について述べている。

 第2章「物体操作におけるロボットモーションプランニング」では、物体操作におけるロボットモーションプランニングを行うために開発した、状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システムについて述べている。そして、マニピュレータの障害物回避動作計画及び制約のある障害物回避動作計画につい従来の研究を概観し、本論文の手法と対比しながら、従来の手法の問題点と本論文の手法の特徴を明らかにしている。

 第3章「状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システム」では、把持した操作対象物が接触を伴うファインモーションを行う際の、教示・計画システムについて述べている。まず、第2章で挙げられた問題点を(a)作業のための動作生成メカニズムの問題(b)計画結果の実行可能性の問題(c)作業の記述の問題(d)作業用プログラムの生成の問題、といった、どう作業を構成すべきかという具体的な問題として整理しなおし、その解決を図っている。そして、オペレータが仮想空間において経由接触状態の遷移系列をティーチング・バイ・デモンストレーション技術を応用して指定し、それに基づいて組み立て動作を実行させる教示システムの構成法について詳述している。

 第4章「状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システムの適用例」では、第3章のシステムの応用例について述べている。状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システムを、「人間により教示されたファインモーション」の実現に応用して2つのプロトタイプシステムを構築している。ひとつは仮想ホームを構築して、自宅の実際の物を仮想ホーム内で操作することにより遠隔で操作するシステムである。もうひとつは、原子力プラント内などの人が立ち入れない場所での部品交換等を行う遠隔保守システムである。これらの例について、ファインモーション教示システムを用いて実際に実行可能な動作の教示を行っている。このシステムでは、環境モデル入力の方法、実行システムのハードウェアが変更されても、幾何モデルとスキルプリミティブを用いてインタフェースをとることにより、第3章の教示・計画・実行システムを簡単に応用できることを示している。

 第5章「グロスモーションへの応用の検討」では、状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行システムを想定した際のグロスモーションの計画について検討している。まず、定性的な経路指定を状態遷移と見るために必要となる実空間の構造解析について述べ、定性的な状態の定義によるピックアンドプレース動作の指定とそれによって求まる経路を示し、典型的なグロスモーションについて検討している。また干渉箇所の導出と探索時の注意箇所について述べ、注意箇所の指定により無駄な探索の削減も可能となり、探索がより効率的にできることを示し、その状態定義の仕方に付いて検討している。

 第6章「多指グリッパへの応用の検討」では、一般的な把持機構である多指グリッパを想定した状態遷移に基づく物体操作の教示・計画・実行について述べている。把持可能性、操り可能性、仮想グリッパ、等、マニピュレータの動作計画のために必要な操りモデル化を提案し、操り動作を含んだ動作を実現しうるマニピュレータの動作計画法を示している。

 第7章「結論」は、本研究を総括して結論を述べている。

 以上、要するに、本論文は、ロボットに把持されている物体と他の物体との間の状態遷移の観点から物体操作の教示・計画・実行を整理し、組み立て作業のように物体間の接触を伴う複雑な作業を取り扱うロボットモーションプランニングの研究をまとめたものであって、情報工学上貢献するところが少なくない。

 よって、本論文は学位請求論文として合格と認められる。

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