学位論文要旨



No 215028
著者(漢字) 王,飛舟
著者(英字)
著者(カナ) オウ,ヒシュウ
標題(和) 電縫管のロール成形に関する理論研究
標題(洋)
報告番号 215028
報告番号 乙15028
学位授与日 2001.04.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15028号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,学
 東京大学 教授 横井,秀俊
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨 要旨を表示する

 ロール成形による電縫管の製造技術は,高生産性・低コストを特徴とする重要な鋼管製造法である.しかし近年,多種少量生産及び高品質化のニーズが高まってきており,如何にその高い生産性を維持しながら製品品質面での厳しい要求に応えていくかは,電縫管の製造において最も重要な課題となっている.

 電縫管の製造技術の中核はロール成形技術である.従来のロール成形技術においては,各製品の成形にその寸法と材質に適した成形ロールを用いるのが基本であるが,製品品種を変更する際のロール交換及びロール位置調整は煩瑣な作業と多くの工数が必要なため,多種少量生産への対応は極めて困難である.

 上記生産性の問題を解決するには,ロール兼用化が最も徹底的な対策と思われる.これまでにいくつかのロール兼用化技術が開発・実用化されたが,ロール交換作業をある程度軽減したものの,これによる生産性向上の効果は不充分である.また,ロール兼用化を行う際に,プロセス設計との関連性について十分検討されていないため,ミルの成形機能の低下や品質の不安定を招くことが多い.

 本研究は,多種少量生産及び高品質化のニーズに対応できる高度のロール兼用化技術及びこれをベースとした新しい電縫管ロール成形技術の開発とその実用化を目的とする.この目的を達成するには,まず電縫管のロール成形プロセスの特徴を理論的に解明し,成形中の素板の変形挙動を定量的に把握する必要がある.その上で,従来のロール成形技術及び既存のロール兼用化技術における諸問題点の本質を明らかにすることができる.更に,これらの研究結果に基づいて,電縫管ロール成形プロセスの特徴に適合したロール兼用化思想を構築し,生産性と成形機能との両立が可能なロール兼用化技術の確立を図る.

 電縫管のロール成形プロセスに関する主な問題は何れも成形中の材料(素板)の変形挙動に関わる基礎的問題であり,これらの問題の解明には,現場経験や実験的研究だけではなく,理論解析の導入により成形過程における材料が辿る変形経路・変形形態を知ることは必要不可欠である.ところが,ロール成形中の素板が極めて複雑な非線型変形挙動を示し,それを統一的且つ厳密に解析することは非常に困難であった.一方,近年,有限要素法(FEM)など解析技術の進歩及びコンピュータ性能の飛躍的向上により,電縫管ロール成形のような複雑な成形プロセスの理論解析も可能になった.但し,現在の有限変形弾塑性解析に広く使われている速度形定式化は,速度形テンソルの瞬時性と解析上増分的な取り扱い方との矛盾により,解析精度及び効率の面において様々な問題点が存在している.そこで本研究では,変形過程における各配置関係が明確な変形テンソルを用いて有限変形弾塑性解析の共回転定式化を導き,解析精度及び効率を大きく改善することができた.そして,この共回転定式化を用いてFEMをベースにした電縫管ロール成形シミュレータを開発し,理論研究手段として活用した.

 本研究は,まず,上記した成形シミュレータを用い,電縫管ロール成形のプロセス設計について系統的に検討した.電縫管ロール成形のプロセス設計には多くの要素が含まれているが,ミルの成形機能及びロール兼用化の問題に直接関わる基本要素は,ロールによる曲げ方式及びパススケジュールの選定である.電縫管ロール成形プロセスを構成する三つの成形段階(初期成形,中間成形及び仕上げ成形)では,それぞれ異なる曲げ方式が使われている.これらの曲げ方式は,曲げ曲率の制御能力及びロールカリバー兼用の難易度において各々の特徴を有し,その運用はミルの成形機能及びロール兼用化の実施に大きな影響を与える.パススケジュールに関しても同様に,その選定はミルの成形機能と操業性を大きく左右する.成形機能の視点では,成形結果に対する製品寸法・材質の影響が少ないEdge-bend方式のパススケジュールを採用すべきであるが,操業性ひいては生産性の面においては,異なる製品肉厚に対してロールを共用しやすいCircular-bend方式のパススケジュールが有利であり,実際には,最低限の生産性を維持するために,ほとんどの従来型成形ミルでは,成形機能の弱いCircular-bend方式のパススケジュールが用いられている.このような生産性と成形機能との矛盾が,従来の成形技術における最大の欠点である.

 次に,既存のロール兼用化技術について,理論解析の結果を踏まえてその評価を行った.現状では,何種かのロール兼用化技術が実用化されているが,ロール兼用化の基本思想を見る限り,いずれもケージフォーミング(Cage-forming)技術から端を発している.つまり,ロール兼用化が実施しやすい中間成形部を成形の主役とする.その結果,成形の確実性に欠けるFree-bend曲げ方式を用いる中間成形に多くの成形負荷が配分されるような不合理なプロセス設計となり,成形プロセスの安定性や得られた製品の品質が製品寸法・材質といった外部要素の影響に大きく左右される.また,ロール兼用化の視点からしても,通常,ロール交換が免れるのは中間成形のロールのみであり,実際に得られるロール兼用化の効果即ち生産性の向上は限定的なものである.更に,本研究では,初期成形のロール兼用化を試みたFF(Flexible-forming)技術についても詳しく考察した.FF技術は,Involuteロールカリバーと独特のロール位置調整機構との組合せにより,初期成形のロール兼用化という難問の解決に向かって一歩前進した.しかし,曲げ方式やパススケジュールに対して新たな思想がないため初期成形の本来の役割が果たせないことは理論解析により明らかになった.

 仕上げ成形の役割は成形だけではなく電縫溶接の安定性と品質にも直接関わるため,仕上げ成形のロール兼用化は,現時点では極めて困難である.しかし,ロール兼用化による生産性向上の効果を十分発揮するためには,仕上げ成形負荷を極力削減し,必要な仕上げ成形段数を最低限に抑える必要がある.既存のロール兼用化技術では,初期成形の成形機能が大きく低下するため,仕上げ成形への依存度はむしろ従来より高くなっており,仕上げ成形の段数を減らすことは不可能である.本研究では,仕上げ成形負荷と粗成形(初期成形・中間成形)の成形結果との関係を明確にするため,粗成形で成形された素板断面形状が仕上げ成形における素板の変形特性に及ぼす影響について理論解析を用いて詳しく調査した.その結果,仕上げ成形の達成度及び仕上げ成形過程における素板の変形量はいずれも粗成形の成形結果の影響を大きく受けることが明らかになった.つまり,仕上げ成形負荷を軽減し,また成形中の余分なひずみ累積をなるべく少なくするためには,粗成形,とりわけ初期成形の完成度を高めることが重要である.

 以上の研究結果を踏まえ,本研究では,まず,ロール兼用化の基本思想から既存のロール兼用化技術を見直し,ロール兼用の表面的な難易度ではなく電縫管ロール成形プロセスの特徴および各種成形条件下での材料の変形特性に対する綿密な検討に基づいて,初期成形を中心とする新たなロール兼用化思想を確立した.また,技術的には,Involuteロールカリバーを活用した沿い曲げ方式を新たに導入し,初期成形のロール兼用化の問題を解決した.その結果,成形機能及び成形の安定性に有利な成形負荷の配分及びパススケジュールの選定,即ち成形プロセスの特徴に適した合理的なプロセス設計が可能となった.このような高度のロール兼用化技術をベースに高いロール兼用化レベルと強い成形機能を共に備える新しい電縫管成形技術が開発された.当技術は,広範囲の製品品種の成形に対応可能な粗成形の完全ロール兼用化と仕上げ成形負荷の軽減を同時に実現したため,既存の成形技術の場合に比べて生産性を大きく向上させることが可能となった.また,その優れた成形機能による高品質化への対応の面でも,既存の成形技術に対しはるかに優位であることが,理論解析および実際の工業生産への応用により立証されている.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は電縫管のロール成形に関する理論研究の成果についてとりまとめたものである。

 ロール成形による電縫管の製造技術は、高い生産性・低コストを特徴としている。しかし近年、多種少量生産及び高品質化のニーズが高まってきており、如何にして高い生産性を維持しながら製品品質面での厳しい要求に応えていくかが重要な課題となっている。

 上記生産性の問題を解決するには、ロールの兼用化が最も有効な対策と思われ、これまでにいくつかのロール兼用化技術が開発・実用化されたが、それらの技術はロール交換作業をある程度軽減したものの、これによる生産性向上の効果は不充分であった。また、ロール兼用化を行う際に、プロセス設計との関連性について十分検討されていないため、ミルの成形機能の低下や品質の不安定を招くことが多かったと云える。

 電縫管のロール成形技術に関する主な問題は何れも成形中の材料(素板)の変形挙動に関わる問題であり、これらの問題の解明には、現場経験や実験的研究だけではなく、理論解析の導入により成形過程における材料が辿る変形経路・変形形態を知ることは必要不可欠である。ところが、ロール成形中の素板は極めて複雑な非線形変形挙動を示し、それを統一的且つ厳密に解析することは非常に困難であった。ところが、近年、有限要素法(FEM)など解析技術の進歩及びコンピュータ性能の飛躍的向上により、複雑な成形プロセスの理論解析も可能となってきた。但し、現在の有限変形弾塑性解析に広く使われている速度形定式化は、速度形テンソルの瞬時性と解析の際の増分的な取り扱い方との矛盾により、解析精度及び効率の面において様々な問題点が存在していた。この問題につき、本研究では、変形過程における各配置関係が明確な変形テンソルを用いて有限変形弾塑性解析の共回転定式化を導き、解析精度及び効率を大きくを改善し、FEMをベースにした電縫管ロール成形シミュレータを開発することに成功し、理論研究手段として活用した。

 本研究では、まず、上記の成形シミュレータを用い、電縫管ロール成形のプロセス設計について系統的に検討し、成形プロセス設計には多くの要素が含まれているが、ミルの成形機能及びロール兼用化の問題に直接関わる基本要素はロールによる曲げ方式及びパススケジュールの選定であることを明らかにした。そして、電縫管ロール成形プロセスを構成する三つの成形段階(初期成形、中間成形及び仕上げ成形)で用いられる曲げ方式について検討し、各曲げ方式は曲げ曲率の制御能力及びロールカリバー兼用の難易度において各々の特徴を有し、その運用はミルの成形機能及びロール兼用化の実施に大きな影響を与えること、パススケジュールに関しても同様に、その選定はミルの成形機能と作業性を大きく左右することを明らかにした。更に、成形機能の視点では、成形結果に対する製品寸法・材質の影響が少ないEdge-bend方式のパススケジュールを採用すべきであるが、操業性ひいては生産性の面においては、異なる製品肉厚に対してロールを兼用しやすいCircular-bend方式のパススケジュールが有利であること、実際には、最低限の生産性を維持するために、ほとんどの従来型成形ミルでは、成形機能の弱いCircular-bend方式のパススケジュールが用いられていることを示し、このような生産性と成形機能との矛盾が従来の成形技術における最大の欠点であることを明らかにした。

 次に、既存のロール兼用化技術について、理論解析の結果を踏まえてその評価を行い、現状では何種かのロール兼用化技術が実用化されているが、ロール兼用化の基本思想を見る限り、何れもケージフォーミング(Cage-forming)技術から端を発していること、つまり、ロール兼用化が実施しやすい中間成形部を成形の主役としていることを指摘し、その結果、成形の確実性に欠けるFree-bend曲げ方式を用いる中間成形に多くの成形負荷が分配されるような不合理なプロセス設計となり、成形プロセスの安定性や得られた製品品質が製品寸法・材質といった外部要素の影響に大きく影響されていることを明らかにした。また、ロール兼用化の視点からしても、通常、ロール交換が免れるのは中間成形のロールのみであり、実際に得られるロール兼用化の効果即ち生産性の向上は限定的なものであることを示した。更に、本研究では、初期成形のロール兼用化を試みたFF(Flexible-forming)技術についても詳しく考察し、FF技術は、Involuteロールカリバーと独特のロール位置調整機構との組み合わせにより、初期成形のロール兼用化という難問の解決に向かって一歩前進した技術ではあるが、曲げ方式及びパススケジュールに対して新たな思想がないため初期成形の本来の役割が果たせないことを理論解析により明らかにした。

 更に、仕上げ成形の役割は成形だけではなく電縫溶接の安定性と品質にも直接関わるため、仕上げ成形のロール兼用化は現時点では極めて困難であること、しかし、ロール兼用化による生産性向上の効果を充分発揮するためには、仕上げ成形負荷を極力削減し、必要な仕上げ成形段数を最低限に抑える必要があること、既存のロール兼用化技術では、初期成形の成形機能が大きく低下するため、仕上げ成形への依存度はむしろ従来より高くなっており、仕上げ成形の段数を減らすことが不可能であること、などを明らかにした。そこで、仕上げ成形負荷と粗成形(初期成形・中間成形)の成形結果との関係を明確にするため、粗成形で得られた素板断面形状が仕上げ成形における素板の変形特性に及ぼす影響について理論解析手法を用いて詳しく調査し、その結果、仕上げ成形の達成度及び仕上げ成形過程における素板の変形量は何れも粗成形の成形結果の影響を大きく受けることを明らかにした。また、粗成形、とりわけ初期成形の完成度を高めることが重要であることを明らかにした。

 以上の研究結果を踏まえ、本研究では、まず、ロール兼用化の基本思想から既存のロール兼用化技術を見直し、ロール兼用の表面的な難易度ではなく、電縫管ロール成形プロセスの特徴及び各種成形条件下での材料の変形特性に対する綿密な検討に基づいて、初期成形を中心とする新たなロール兼用化思想を確立した。また、技術的には、Involuteロールカリバーを活用した沿い曲げ方式を新たに考案し、初期成形のロール兼用化の問題を解決した。その結果、成形機能及び成形の安定性に有利な成形負荷の分配及びパススケジュールの選定、即ち成形プロセスの特徴に適した合理的なプロセス設計を可能にした。このような高度のロール兼用化技術をベースに高いロール兼用化レベルと強い成形機能を共に備える新しい電縫管成形技術を開発した。この技術は、広範囲の製品品種の成形に対応可能な粗成形の完全ロール兼用化と仕上げ成形負荷の軽減を同時に実現したため、既存の成形技術の場合に比べて生産性を大きく向上させることに成功した。また、その優れた成形機能による高品質化への対応の面でも、既存の成形技術に対しはるかに優位であることが、理論解析及び実際の工業生産への応用により立証されている。

 以上要するに、本論文は電縫管の製造技術の高度化のために、極めて有効な理論解析手段を開発すると共に新しい設計思想を提案し、且つそれに基づいて画期的な製造技術の開発を行い、実生産において大きな成果を挙げたことを示している。これらの成果は、工学的及び工業的に極めて高く評価できるものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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