学位論文要旨



No 215040
著者(漢字) 五十嵐,脩
著者(英字)
著者(カナ) イガラシ,オサム
標題(和) マウスCD4陽性T細胞活性化におけるB7とIL−12の役割
標題(洋) Roles of B7 and IL-12 in the activation of murine CD4+T cells
報告番号 215040
報告番号 乙15040
学位授与日 2001.04.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15040号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩倉,洋一郎
 東京大学 教授 岩本,愛吉
 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 助教授 高木,智
 東京大学 助教授 谷,憲三朗
内容要旨 要旨を表示する

(緒言) T細胞の抗原特異的な活性化には、T細胞上の抗原レセプター(TCR)と抗原提示細胞(APC)上の抗原/主要組織適合性抗原複合体(MHC)との結合のみでは不十分であり、APC由来の他の分子による副刺激が必要である。B7分子(B7-1,B7-2)はT細胞上のCD28/CTLA-4レセプターを介してT細胞活性化、特にT細胞の増殖因子であるインターロイキン(IL)-2の産生誘導を増幅する副刺激を与える。IL-12はAPCが産生するサイトカインであり、T細胞、特にナイーブT細胞のTh1への分化誘導及びTh1細胞の活性化、特にIL-2レセプターα鎖(CD25)の発現誘導を伴うIL-2依存的増殖応答の増強に重要な役割を果たしている。したがって、T細胞活性化においてB7とIL-12が共同作用し得るのかを調べることは非常に興味深い課題である。

 最近の研究によって、CD4+T細胞のIL-2依存的増殖応答におけるB7副刺激とIL-12の相乗効果が証明された。しかし、そのメカニズムは解明されていない。本研究はこのメカニズムの解明を目的としている。

(結果と考察) 第1章では、抗原特異的マウスCD4+Th1クローンを用いて、CD25発現におけるB7-1副刺激とIL-12の役割についてを調べた。IL-12を産生しないことで知られるB細胞をAPCとしてTh1クローンを抗原刺激した場合、IL-12の添加によってTh1クローン上に強いCD25の発現がみられ、この発現は抗B7-1抗体の添加により濃度依存的に抑制された。この結果は、IL-12によるTh1クローンのCD25発現にB細胞上のB7-1分子が関与していることを示唆している。さらに、抗CD3抗体を用いてTh1クローンを刺激した場合、B7-1遺伝子導入Chinese hamster ovary細胞(B7-1-CHO)とIL-12両方の存在下でのみ、強いCD25の発現がみられ、この発現は加えたB7-1-CHOの細胞数に依存していた。さらに、この増強は高濃度のIL-2(B7-1-CHOによって誘導される量の約3倍に相当する量)または抗IL-2抗体の添加によってほとんど影響を受けなかった。B7-1-CHOの単独添加はCD25の発現増強効果を持たなかった。また、IL-12の単独添加によるCD25発現増強効果は非常に弱く、さらに、この培養液中に高濃度のIL-2を添加してもこの効果は若干増強されただけであった。一方、IL-2の産生はB7-1-CHOの添加によって強く増強され、IL-12はこの増強に影響を与えなかった。観察されたB7-1-CHOによるCD25発現及びIL-2産生の増強は、抗B7-1抗体添加により抑制されることから、CHO上のB7-1分子が有効な刺激を与えていることが分かった。これらの結果は、1)B7-1副刺激はTh1細胞のIL-2産生増強だけでなく、IL-12によるCD25の発現を増強する、2)このB7-1副刺激によるCD25の発現増強はIL-2によるものではないことを示している。

 次に、IL-12存在下にB7-1-CHOまたはCHOでTh1細胞を刺激する際、培養液に免疫抑制剤FK506を加えたところ、両刺激下でのIL-2産生はFK506により転写レベルで抑制された。一方、両刺激下でのCD25発現は、若干低下したものの依然としてB7-1副刺激による増強効果がみられた。この結果は、B7-1副刺激によるCD25発現増強がIL-2産生増強とは無関係であることを強く示しているだけでなく、B7-1副刺激によって誘導されるT細胞内シグナル伝達経路にはFK506感受性及び抵抗性の少なくとも2つの経路が存在することを示している。さらに、同条件で刺激されたTh1細胞の増殖応答においてもB7-1副刺激による増強効果がみられた。この増強効果は過剰量の外因性IL-2存在下または外因性IL-2とFK506との共存下においても観察されたことから、B7-1副刺激によるCD25の発現増強が実際に増殖応答の増強において重要であることが分かった。

 B7副刺激は転写レベル及びmRNA安定化によってT細胞のIL-2産生を増強することが知られているが、B7-1副刺激によるCD25発現増強は転写レベルでのみ確認された。

 以上のことから、B7-1副刺激は、IL-12Rの発現、もしくは、それを介したシグナル伝達経路に影響を与えることによって、IL-12によるT細胞のCD25発現を増強する可能性が示唆された。

 第2章では、T細胞のIL-12R発現におけるB7副刺激の関与を検討した。ここでは、抗原特異的CD4+Th1クローンの他にCD4+ナイーブ及びメモリーT細胞を用いた。Th1クローンを脾臓付着性細胞(SAC)をAPCとして抗原刺激した場合、強いIL-12結合能がみられ、この結合能は、抗B7-2抗体の単独添加により強く抑制された。抗B7-1抗体の単独添加は弱い抑制効果を示しただけであるが、抗B7-1抗体と抗B7-2抗体を共に添加すると、抗B7-2抗体の単独添加よりさらに強い抑制効果を示した。同様に、CTLA-4-Ig(B7分子に対するT細胞側レセプターであり、B7分子に対する親和性がCD28の数十倍高いことからB7/CD28結合に対する強力な阻害剤として知られる、CTLA-4とIgとの融合タンパク)の添加も強い抑制効果を示した。ナイーブ及びメモリーT細胞を抗CD3抗体で刺激し、SACをアクセサリー細胞として添加した場合にも、抗B7-2抗体による強い抑制効果が得られた。これらの結果は、SAC上のB7分子、特にB7-2分子がTh1細胞のIL-12R発現増強に役割を果たしていることを示している。また、ここで用いた、SACはB7-2分子を強く発現していたが、B7-1分子の発現はごく僅かであった。

 次に、T細胞を抗CD3抗体とB7-2-CHOで刺激する系を用いてIL-12R発現におけるB7-2副刺激の役割を調べた。Th1及びメモリーT細胞のIL-12結合能は、抗CD3抗体刺激により濃度依存的に増強されたが、B7-2-CHOの添加はさらに強くこの結合能を増強した。また、競合的RT-PCR法を用いたIL-12Rサブユニツト(IL-12Rβ1及びβ2鎖)mRNAの発現解析により、IL-12Rβ1及びβ2mRNAの発現増強が上述のIL-12結合能の増強と相関していることが分かった。これらの結果は、Th1及びメモリーT細胞はTCR刺激のみでIL-12Rを発現するが、B7副刺激はこの発現を増強する作用を持つことを示している。

 一方、ナイーブT細胞は、単離直後及び無刺激の状態ではIL-12結合能を持たず、高濃度の抗CD3抗体刺激を受けても、極く弱いIL-12結合能しか示さなかった。この細胞はIL-12Rβ1mRNAのみを発現していたことから、この結合は低親和性であると考えられる。B7-2-CHO刺激はこのIL-12Rβ1mRNAの発現を増強しただけでなく、IL-12Rβ2mRNAの発現を誘導し、これに一致して、強いIL-12結合能の誘導(メモリーT細胞と同程度)が観察された。これらの結果から、ナイーブT細胞のIL-12R、特にそのβ2鎖の発現にはB7-2副刺激が必須であることが分かった。

 以上のことから、B7-2副刺激はCD4+T細胞のIL-12R発現の誘導または増強において重要な役割を果たしていると考えられる。

(結語) 第1章及び2章で得られた結果から、T細胞活性化において、B7副刺激は、IL-2産生を誘導するだけでなく、IL-12Rの発現誘導を介してIL-12感受性を高めることによってIL-12によるCD25発現を増強する。その結果、最大限のIL-2依存的増殖が誘起されるというメカニズムが考えられる。IL-12がナイーブおよびメモリーT細胞のTh1への分化誘導において重要な役割を果たしていることを考慮に入れると、本研究は、T細胞-APC相互作用によるTh1細胞分化のメカニズムを理解するうえで重要な知見を与えている。

審査要旨 要旨を表示する

 B7-1/B7-2は抗原提示細胞(APC)上の接着分子であり、IL-12はAPCが産生するサイトカインである。本研究はCD4陽性T細胞−APC相互作用を介したCD4陽性T細胞の活性化における、B7とIL-12の役割の解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.B7による副刺激は、単独でIL-2の産生を増強するだけでなく、IL-12によるIL-2レセプターα鎖(CD25)の発現を増強することが明らかになった。尚、CD25は機能的IL-2レセプター複合体の構成成分の内、IL-2との結合性を決定するサプユニットである。

2.このB7副刺激によるCD25の発現増強はIL-2非依存的なメカニズムによることが明らかになった。この結果から、B7副刺激はIL-12によって誘導されるシグナル、もしくは、IL-12レセプター(IL-12R)の発現に何らかの影響を与えていると考えられた。

3.上述の可能性を検討した結果、B7による副刺激は、IL-12Rのサブユニットであるβ1及びβ1鎖mRNAの発現を誘導または増強し、T細胞表面に機能的IL-12Rの発現を最大限に誘導することが明らかになった。

4.以上の結果から、CD4陽性T細胞−APC相互作用を介したCD4陽性T細胞の至適活性化のメカニズムは以下のように考えられた。1)B7による副刺激が、CD4陽性T細胞のIL-12Rの発現を誘導または増強し、CD4陽性T細胞のIL-12に対する感受性を高める、2)その結果、IL-12によるCD25の発現誘導が増強される、3)このCD25を含む機能的IL-2R複合体とB7副刺激によって誘導または増強されたIL-2との反応が、CD4陽性T細胞の最大限の増殖応答を誘導する。

 以上、本論文はAPC由来の分子であるB7とIL-12のCD4陽性T細胞活性化における共同作用及びそのメカニズムの一端を解明した。IL-12がナイーブ及びメモリーT細胞のTh1への分化誘導において重要な役割を果たしていることを考慮に入れると、本研究はThl細胞分化のメカニズムを理解するうえで重要な知見を与えていると思われる。よって、学位の授与に値するものと考えられる。

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