学位論文要旨



No 215060
著者(漢字) 向原,民
著者(英字)
著者(カナ) ムコウハラ,タミ
標題(和) 超臨界圧軽水冷却高速炉心の設計とサブチャンネル解析
標題(洋)
報告番号 215060
報告番号 乙15060
学位授与日 2001.05.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15060号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡,芳明
 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 古田,一雄
 東京大学 助教授 岡本,孝司
 東京大学 助教授 越塚,誠一
内容要旨 要旨を表示する

 超臨界圧軽水冷却炉(SCR)は超臨界火力の技術を用いて軽水冷却炉の技術革新を図った炉心である。この炉心は超臨界圧水を冷却材とし貫流型直接サイクルを採用している。貫流型とは現在の火力発電において広く採用されており、冷却材全量が主給水ポンプにより駆動されるシステムである。これにより、再循環系・気水分離器などが不要になり簡素な設計が可能となる。熱効率も超臨界圧火力発電と同様、40%を超え高い。これらにより、現行軽水炉の改良では到達できない大幅なコストダウンが実現できる可能性がある。

 SCRにおいて冷却材流量を減少させ、高い冷却材出口温度の炉心設計をおこなえば、熱効率向上とBalance of Plant (BOP)系減量によるコスト低減が可能となり、SCRの経済性が向上すると期待される。このように、経済性の面においても最新鋭の火力発電プラントに対抗でき、かつ、将来炉として燃料の増殖も実現可能性をもつ原子炉、大型・高温超臨界圧軽水冷却炉(SCFR-H)の炉心設計をおこなった。

 SCFR-Hでは、転換比を改善しながら、ボイド時に負の反応度が投入されるよう、径方向非均質炉心を採用している。このため、ブランケット上昇流冷却炉心では、ブランケットから低い温度の冷却材がタービンに流入してくること、燃焼に伴いブランケットにプルトニウムが蓄積しドライバー燃料部の結合が変化することによるパワースイング、ボイド反応度低減のために固定減速材として用いている水素化ジルコニウム層近傍における大きな出力ピークなどの要因により、冷却材平均出口温度が低下しやすい。また、超臨界圧水は擬臨界温度(25MPaのとき385℃)を超えると、エンタルピ上昇に対する温度上昇の感度が高い。この影響は高温炉心では顕著に現れる。この結果、被覆表面最高温度が620℃と高いにも関わらず、冷却材平均出口温度は467℃と低い値となった。

 この設計結果を踏まえ、冷却材をブランケット上部から下降流で流すことで冷却するブランケット下降流SCFR-H炉心の設計をおこなった。給水の一部が上部ドームから冷却材ガイドチューブを通りブランケットを冷却する。下部プレナムでダウンカマーを流れてきた残りの給水と混合し、その後、ドライバー燃料を上昇流で冷却する。このため、出力の低いブランケットを流れてきた低温の冷却材が直接タービンに流出しない。また、炉心上部では、冷却材密度がブランケットで高くドライバー燃料で低い。炉心下部では反対にブランケットで低くドライバー燃料で高いことから、水素密度の高さ方向への偏りが少なくなり、パワースイングが抑制された。ブランケットでの平均冷却材密度も高いことから、水素化ジルコニウム層における水素密度の高さも緩和され、局所出力ピークも低下した。このように、ブランケット上昇流炉心の主要な欠点が解消され、冷却材平均出口温度は537℃、熱効率は44.6%と大きく改善された。1565MWeの大きな電気出力でありながら、負のボイド反応度を実現しており安全性の面でも問題がない。SCFR-HのPufインベントリは9.63tonである。これを1GWeあたりのPufで比較すると、SCFR-Hが6.2tonとなり、LMFBRの4.3tonと比べると高いが、取出し燃焼度がほぼ同じである低減速スペクトル炉RBWR-2の5.8tonと比べるとほぼ同程度である。SCFR-HがRBWR-2に比べてこの点でやや劣るのは、中性子の利用効率が悪くプルトニウム富化度が高いためであると考えられる。ABWRと比較すると、(主蒸気流量/電気出力)の値は約30%も低い。BOP系統のサイズやコストを大幅に削減できるものと考えられる。

 SCRの冷却システムは貫流直接サイクル型であり、炉心を出た冷却材全量が直接タービンに流入する。また、冷却材入口と出口の冷却材温度差は大きく、SCRの高温炉心においては、入口温度280℃から出口温度540℃まで大きく変化する。このため、冷却材出口温度は冷却材流れの不均一さ、局所出力分布、集合体端付近に代表されるサブチャンネル面積の違いなどに大きく影響を受ける。このため、超臨界圧軽水炉、特に高温炉心においては炉心特性評価をおこなう際、サブチャンネル解析により炉心集合体内流動特性を詳細に評価しなければならない。そこで、SCRに適用できるサブチャンネル解析コードを開発した。開発されたコードは、既存のサブチャネル解析コードであるASFRE-IIIによるPLANDTLナトリウム流動実験の解析結果と比較して検証をおこなった。冷却材温度分布形状はリファレンスとおおむね一致し、冷却材出口温度のピーク値は2℃違うのみで良く一致した。このコードによる計算が妥当であることを確認した。

 このコードを用い、超臨界圧水の流動をナトリウムと比較しながら検討した。解析は37本ピンバンドル体系でおこなった。ナトリウムが冷却材の場合、冷却材は全チャンネルをほぼ一様に流れる。しかし、超臨界圧水の場合は、集合体周辺部に多くの冷却材が流出した。これは、集合体中央では周辺部に比べて冷却材が熱せられやすいため、先に擬臨界温度に達し、急激に膨張し冷却材密度は減少する。中央部で流速が急激に増大するので、加速圧損、摩擦圧損が大きくなることから、冷却材が集合体周辺部に流出する結果となった。このため、集合体中央部で冷却材温度が高く、集合体端では冷却材温度が低い結果となった。

 SCFR-H体系の不確かさに対する感度解析を行った。その結果、チャンネルボックスと燃料棒とのギャップが燃料棒間ギャップと同じ場合には、チャンネルボックス近傍に冷却材が流出しやすいこと、また、稠密格子のためチャンネル間の冷却材の混合が軽水炉の約1/10と小さいことから、不確かさに対する感度が高いことが分かった。これを改善するため、チャンネルボックス−燃料棒ギャップの距離を調節し、またブレード付きグリッドスペーサによって冷却材の混合を促進した。これにより、不確かさに対する感度をLMFBRと同程度まで抑制することができた。

 続いて、超臨界圧炉のホットスポット係数を評価する手法を開発した。CRBRPと同程度の不確かさを仮定して計算したところ、超臨界圧水の特性から冷却材出口温度に対するホットスポット係数はやや高いものの、全体的にはLMFBRと同程度であることがわかった。ホットスポット係数の取り扱いの考え方について、軽水炉(BWR、PWR)と液体金属冷却炉と比較しながら検討した。軽水炉は沸騰危機を防止するためにDNBRやMCPR基準を定めている。しかし超臨界圧水では伝熱劣化後も被覆管温度の上昇は穏やかであり、かつ数値計算によって被覆管温度を予測できるため、現在のSCR設計においては用いる必要がない。被覆管にかかる応力による破壊を防止するための基準については、被覆管設計に用いるASME Section IIIの設計基準に裕度が含まれているので、不確かさを考慮する必要はない。つまり、SCRにおいて不確かさを考慮すべき制約条件として、燃料溶融の防止と高温下における被覆管の過度の酸化の防止である。燃料溶融を防止する観点からは、高温炉心については最大線出力密度を38kW/m程度に抑えることが望ましい。SCFR-Hでは、熱流束が最大となる炉心高さで擬臨界点を取るため熱伝達率が低下する。被覆管温度が他の炉心と比べて高いため、燃料中心温度が高温になりやすい。高温下における被覆管の過度の酸化を防止する観点から、現在は最高被覆管表面温度を620℃以下にするとして設計を行っている。この制約条件を不確かさを考慮して満たすためには冷却材出口温度を下げることが望ましい。ただし、被覆管の酸化については不明な点が多く、今後実験的に再検討されるべき課題である。

 ブランケット下降流炉心では、冷却材はブランケットの熱によってブランケット入口温度280℃から、ドライバー燃料入口温度は約330℃程度まで熱せられる。冷却材入口温度と出口温度の差がブランケット上昇流冷却炉心に比べて小さいため、冷却材の加速損失が全体的に小さい。このため、熱せられた冷却材が他のチャンネルに流出しにくい。つまり、冷却材に与えられる熱量に対して冷却材流量が適切に配分されないことに起因するホットスポットファクタ(流量配分ミスマッチファクタ)が低下する。また、不確かさを考慮した冷却材・被覆管表面温度は、ホットスポット係数fを用いてT=Tin+f×ΔTのように表わされる。ブランケット下降流炉心の場合には、ΔTが小さいことも、下降流冷却炉心がホットスポット係数fに影響されにくい。

 SCFR-H集合体は比較的均一な集合体であるが、集合体間ギャップに冷却材が存在し、また固定減速材である水素化ジルコニウムがあるなど、完全に均一ではない。今回、サブチャンネル解析コードを開発したことで、集合体冷却材密度分布を求めることができるようになったため、核熱カップリングを考慮した集合体出力分布の解析をおこなった。SCFR-Hの集合体の最も大きな出力ピークは水素化ジルコニウム近傍で減速された熱中性子によるものである。このピークは、集合体端のPu富化度を大きく低下させることで、水素化ジルコニウムが近傍に存在するかどうかに関わらず、集合体出力ピークを約1.05程度に抑えることが可能である。今後、精緻な最適化や、より多くのPu富化度を持つ燃料ピンを用いることで、さらに集合体出力ピークを削減できるものと考えられる。集合体核熱カップリングの影響は、SCFR-Hが高速炉であり冷却材が少ないことから、約0.01程度とほぼ無視できる大きさであった。

 まとめて、本研究では、高温超臨界圧軽水冷却高速炉心の概念設計をおこなった。超臨界圧軽水炉のサブチャンネル解析手法を開発し、超臨界圧軽水炉燃料集合体の流動特性を示した。この炉心のホットチャンネル係数を計算し、それを踏まえ、集合体設計において留意すべき点を示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は超臨界圧軽水冷却高速炉心の設計とサブチャンネル解析について記したもので論文は5章より構成されている。

第1章は序論で、経済性において新型火力発電プラントに対抗できかつ将来炉として燃料の増殖もできる魅力ある原子炉が求められているとし、これらを満たす可能性のあるものとして超臨界圧軽水冷却炉の研究が必要であると述べている。超臨界炉は冷却水の全量がタービンに送られる貫流型で、出入口温度差も大きいため冷却水流量が軽水炉の数分の1と少なく、ポンプ動力等の点で稠密燃料格子の高速炉に適している。本研究では大出力の高温高速炉の炉心設計を行うとともに、高温化にとって重要な燃料集合体サブチャンネルの熱流動解析を行っている。

第2章は高温超臨界圧軽水冷却高速炉心の設計について述べている。まず設計条件と設計目標について述べ、高速炉心の設計においては高燃焼度化と負のボイト係数という相反する要求を満す必要があり、このことは大型高速炉心では特に重要であるとしている。次に核熱結合炉心計算手法について述べている。まず単チャンネル熱水力計算コードを作成し、それを核計算コードと結合する手法を開発しブランケットやシード燃料部をともに上昇流で冷却する炉心を設計し、出力分布や燃料被覆管の最高温度を求めている。次にブランケット燃料部では燃焼とともにプルトニウムが生成しその出力が増大するため、その出口冷却水温度が燃焼期間を通じて一様ではない。そのためこの炉心ではシード燃料部の出口冷却水との混合後の炉心の平均出口温度が低下するとしている。そこでブランケットを下降流で冷却する炉心を提案し設計を行っている。その結果炉心平均出口温度は467℃から537℃となり熱効率も42.8%から44.2%に電気出力も1456MWから1551MWに向上するとしている。

第3章は燃料集合体の熱流動解析について述べている。まず、燃料棒間の流路であるサブチャンネルについて連続の式と運動量とエネルギーの保存式を構成方式とし乱流混合係数、ミキシング係数、形状抵抗係数を相関式として与えることでサブチャンネルとその相互の熱流動を計算するコードを開発している。これでナトリウム冷却炉の集合体の流動を解析し、実験とよい一致を得ることで検証している。次はこのコードを用いて超臨界圧軽水冷却高速炉の集合体熱流動を解析している。超臨界冷却炉ではナトリウム冷却に比較して、密度変化が大きいため、燃料集合体とそのラッパ管との間隙部を冷却材が流れやすくこれを防ぐためには、間隙巾や集合体のグリッドの圧損を適切に設定する必要があるとしている。

第4章は超臨界圧軽水冷却高速炉のホットスポット係数の解析について述べている。サブチャンネルの流路面積等の各種誤差や核データの不確定性がホットスポット係数に与える影響について解析し、超臨界圧炉ではサブチャンネル流量の不均一さに対する感度が高い事を示している。ブランケット下降流冷却炉心ではシード燃料部の入口冷却水温度が高くなるためこの感度は低下するとしている。燃料棒の出力ピークの感度についてはサブチャンネルの冷却水密度も局所出力によって変動するため、核熱結合で出力ピークを計算する方法を開発しその影響を評価している。燃料棒の富化度を変えて集合体出力分布の平坦化を図る検討も行っている。

第5章は結論で本研究により超臨界圧軽水を冷却材に用いる大型高速炉心の設計を明らかにするとともに出口温度の高温化に影響する因子をサブチャンネル解析により明らかにし、燃料集合体設計に対する留意点を示したとしている。

以上を要するに本論文は炉心設計とサブチャンネル解析により高温超臨界圧水冷却高速炉の設計の要点を示している。この成果はシステム量子工学、とくに原子炉工学の発展に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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