学位論文要旨



No 215065
著者(漢字) 藤本,学
著者(英字)
著者(カナ) フジモト,マナブ
標題(和) CD19によるSrc-familyチロシンキナーゼの活性化制御機構
標題(洋)
報告番号 215065
報告番号 乙15065
学位授与日 2001.05.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15065号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 教授 花岡,一雄
 東京大学 助教授 森田,寛
 東京大学 助教授 西山,友貴
 東京大学 助教授 菊池,かな子
内容要旨 要旨を表示する

 リンパ球は抗原との反応により、活性化、不活化、細胞死などの種々の反応を起こし、これらの多様な変化は適切な免疫システムの維持に不可欠である。この多様で複雑な反応性の制御は、抗原受容体とともに発現する共受容体によっても担われており、Bリンパ球ではCD19がこの抗原受容体からのシグナルを修飾する分子として重要な役割をもっている。B細胞抗原受容体を介する細胞内シグナル伝達は、チロシンキナーゼによって引き起こされ、なかでも、Src-familyチロシンキナーゼがはじめに活性化される。Src-familyチロシンキナーゼの機能は、他のシグナル分子との相互作用により精密に制御されている。最近にわれわれはCD19の発現がSrc-familyチロシンキナーゼの活性化に重要であることを見出した。Src-familyチロシンキナーゼの活性はCD19ノックアウトマウス由来のB細胞で障害されており、反対に形質細胞の細胞系列でCD19を発現させるとLynのチロシンリン酸化が増強する。実際、CD19の細胞内ドメインはin vitroでLynの活性を増幅できる。しかしながらCD19にはキナーゼやフォスファターゼの活性はなく、その分子メカニズムはいまだに明らかではない。本研究では、CD19がSrc-familyチロシンキナーゼを特異な相互作用によりその活性を増幅し、抗原受容体を介するシグナル伝達を調節する新しい分子メカニズムを提唱した。

 CD19はその細胞内ドメインに9つのチロシン基をもち、これらがリン酸化されることによりシグナル分子を膜近傍にリクルートする。CD19は抗原受容体刺激後、速やかにリン酸化されるが、Src-familyチロシンキナーゼのうちB細胞の主要なメンバーであるLynの欠損下ではCD19は全くリン酸化されず、LynはCD19のリン酸化を直接コントロールしていると考えられた。CD19の9つのチロシン基のうち、CD19-Y513とCD19-Y391はLynのよい基質であり、このうちCD19の高次構造等から、CD19-Y513が最初にリン酸化をうける部位と考えられた。

 CD19はLynの基質になるとともに、そのSH2ドメインとの結合性も有していた。LynはCD19の6つのチロシン基と結合することができ、なかでもCD19-Y513は結合能が高かった。したがってLynはまず最もC末端側に位置するCD19-Y513をリン酸化し、さらに結合することにより、さらに他の部位のリン酸化を促進することが可能になる"processive phosphorylation"の形をとると考えられた。

 CD19がLynの活性を増幅するためには、CD19-Y513とCD19-Y482の2つのチロシン基が必須であった。CD19-Y482モチーフはLynのリン酸化の理想的な基質ではないが、CD19-Y513のリン酸化によりC D19-Y482もリン酸化をうけることができ、別のLyn分子をさらにリクルートする。こうして、2つのLyn分子がCD19分子上に結合し、自己リン酸化により活性を増幅することが可能になると考えられた。このようなCD19によるSrc-familyチロシンキナーゼの活性増幅ループの調節機構はB細胞の構成的なシグナル伝達および抗原受容体刺激に誘導されるB細胞の活性化を制御する一端を担っていると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はBリンパ球の抗原受容体を介するシグナル伝達において重要な役割を果たしていると考えられているCD19によるSrc-familyチロシンキナーゼの活性化メカニズムを明らかにするため、主としてin vitroの系においてCD19の細胞内領域のうちどの部位がSrc-familyチロシンキナーゼ、特にLynの活性を高めるのに必要であるかを検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. Lyn欠損マウスより脾臓B細胞を分離し、Lyn欠損B細胞におけるCD19のチロシンリン酸化を検討した実験では、野生型B細胞で抗原受容体架橋後に強く誘導されるCD19のチロシンリン酸化が、Lyn欠損B細胞では全く認められず、Lynの発現がCD19のリン酸化に必要であることが示された。

2. CD19欠損マウスおよびCD19過剰発現マウスのB細胞におけるLynの活性をキナーゼアッセイにて測定したところ、CD19欠損B細胞では抗原受容体刺激後のLynの活性は野生型B細胞に比べて有意に低く、CD19過剰発現B細胞では有意に高かった。また、CD19過剰発現B細胞では刺激前のLynの活性も野生型に比べて高かった。従って、B細胞におけるLynの活性化レベルはCD19の発現量に相関し、CD19により制御を受けている可能性が示唆された。

3. CD19の細胞内領域に存在する9つのチロシン基を含むペプチドを用いて、Lynによるリン酸化、およびそれらのリン酸化チロシンモチーフに対するLynの結合性を検討した。CD19のチロシン基のうちY-513はLynによって効率よくリン酸化され、またリン酸化されたY-513を含むモチーフはLynのSH2基との結合力がもっとも強かった。この結果は、CD19のY-513がLynによって最初にリン酸化され、他のチロシン基がリン酸化を受ける際の拠点となりうる可能性を示唆するものであった。

4. CD19の細胞内領域をカバーする種々の長さのGST融合蛋白を作製し、これらを基質としたキナーゼアッセイにより、Lynの活性を高める領域を検索した。CD19のY-482およびY-513の2つのチロシン基を含む領域(exon12-14)はCD19の細胞内領域全長(exon 7-14)と同程度のLynの活性を高める能力を有していた。さらに、exon12-14をカバーする蛋白のうちY-513、Y-482のいずれか一方でもフェニルアラニンに置換するとLynの活性の上昇は失われることから、この2つのチロシン基が同時に存在することが必要であると考えられた。

これらの結果より、抗原受容体架橋後、CD19はLynによりY-513が最初にリン酸化を受け、このリン酸化されたY-513に結合したLynがさらにY-482をリン酸化し、そこにリクルートされた別のLyn分子との間で自己リン酸化により活性を上昇させる、というメカニズムが示唆された。マウスにおけるCD19欠損は免疫不全を呈し、反対にCD19の過剰発現は自己免疫現象を呈することが知られている。CD19は抗原受容体を介するB細胞の活性化の閾値を調節する機能をもつが、本論文の知見はその活性化閾値を設定する分子内機構を説明するものと考えられる。以上、本論文はB細胞の表面蛋白であるCD19が抗原受容体刺激によるLynの活性の増加を新しい分子機構により制御している可能性を示しており、リンパ球のシグナル伝達の解明に重要な貢献をなすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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