学位論文要旨



No 215066
著者(漢字) 瀬藤,光利
著者(英字)
著者(カナ) セトウ,ミツトシ
標題(和) 物質輸送選択性の分子機構
標題(洋) Cargo recognition mechanisms of molecular motors
報告番号 215066
報告番号 乙15066
学位授与日 2001.05.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15066号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 教授 三品,昌美
 東京大学 教授 宮下,保司
 東京大学 教授 岡山,博人
 東京大学 助教授 横溝,岳彦
内容要旨 要旨を表示する

目的

細胞内物質輸送選択性の分子機構を明らかにする。

背景

細胞内物質輸送機構の存在は20世紀初頭から知られていたがその実体は長く謎であった。1980年代急速凍結法による広川の観察などによって多様性が示唆され、ミオシンとダイニンとキネシンがクローニングされ、細胞内物質輸送がそれら三者の分業で説明されはじめた。キネシンが、様々な物を輸送するという報告が相次ぐ中、1990年代に当教室がキネシンが実は多様な遺伝子群(Kinesin superfamily proteins, KIFs)を形成していることを報告し、ミトコンドリア、シナプス小胞、その他固有の膜器官を運ぶ事を示した。それら多様なモーターがいかに間違えずに多様なカーゴを認識しているかは不明であった。

方法

PCRcloningで細胞内の凡てのKIFモーターを網羅し、そのうち神経細胞をモデルにして神経細胞に多いKIFについて全長をクローニングし、抗体を作成、分子細胞生物学的に解析する。さらにその分子に対する結合蛋白を探索して結合機構を明らかにする。

結果

まず細胞内に同時に発現しているKIFの全容を明らかにした。PCR cloningによって約40種類のKIFを同定した。そのうち約20種類前後が1つの神経細胞に発現すると考えている。うち6種類(KIF1A, KIF1B, KIF2, KIF3A/B, KIF4, KIF5B,)にモーター活性が示されていた。さらに神経細胞で発現する新たな3種類のKIF, KIF1Bβ, KIF13A, KIF17について新たにモーター活性を示した。

そのうちNorthern blottingで成獣の脳に、in situ hybridizationで神経細胞層に発現しているKIF17に着目した。昆虫細胞および大腸菌を用いて組み換え蛋白を発現、精製し、それらおよび合成ペプチドをもちいてKIF17特異的抗体を作成した。Western blottingの結果、KIF17は中枢神経系に多く発現する蛋白であることが判明した。特に前脳の灰白質に多く存在し、白質にはほとんど認められなかった。蛍光抗体法をもちいた組織染色で、KIF17は神経細胞の樹状突起に多く局在することが判明した。海馬初代神経細胞培養をもちいた免疫細胞染色によっても樹状突起局在が確認された。さらに免疫沈降法でKIF17のカーゴを精製し、電子顕微鏡で観察することにより、KIF17は形態学的にKIFC2のカーゴとことなるvesicleに結合していることが判明した。さらに、その結合はいわゆるperipheral associationであることが生化学的に判明した。

KIF17が、特異的なvesicleに結合するメカニズムを、より物質に即して明らかにするために、KIF17でtwo-hybrid screening, pull down assay, surface plasmon response, immunnoisolationの手法でbinding proteinを同定した。結果、KIF17は、輸送蛋白質として知られているmLin10と結合することが判った。mLin10の線虫homologueであるLin10はLIn2, Lin7とともにLin complexを作り、細胞内のレセプター局在に関与していることが遺伝学的解析から示唆されている。さらにマウスにおいてもmLin10, 2, 7はコンプレックスを作っている。また、Lin7はNMDAreceptor-2B subunit(NR2B)と直接結合すると報告されている。そのためこれらLin2, 7, 10, NR2BはKIF17のカーゴの候補として適当である。はたして実際にKIF17のカーゴにこれらの関連蛋白がふくまれていることを免疫沈降法を用いて示した。

考察

KIF17はmLin10と直接結合し、Lin complexを介してNMDA receptorを含むvesicleに結合する。すなわち選択性は存在する。同時に、Lin complexがそのcomponentの組み合わせが複数通りあること、Lin complexによってPDZ認識配列を持つ複数の蛋白が認識されうることから、variationとredundancyが保証されていると考えられる。この機構と方法の一般性を問うために私は中川博士と協力しKIF13Aとについても同様に調べた。結果、KIF13Aはβ-adaptinと直接結合し、AP-1 complexを介してM6PRを含むvesicleと結合することが判明した。多くのモーターは直接機能分子に結合するだけではなくlight chainあるいはsorting protein complexといった蛋白群を用いて多様なカーゴを認識していると考えられる。今後はaxonal motorとdendritic motorのpolarityの機構はいかなるものか、in vivoでselectivityはいかなる局面で発揮されているのか、(もしくは発揮されていないのか)等、がさらなる問題であると考えている。

結語

モーター蛋白が輸送蛋白分子複合体を介して機能分子を認識することが、細胞内物質輸送選択性の基本的な分子機構の一つである。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は細胞内物質輸送選択性の分子機構を明らかにするため、キネシンスーパーファミリー蛋白、特にKIF17の機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1 細胞内に同時に発現しているkIFの全容を明らかにした。PCR doningによって総体で約40種類のKIFを同定した。神経細胞で発現する新たな3種類のKIF, KIF1Bβ, KIF13A, KIF17について新たにモーター活性を示した。

2 そのうちKIF17に着目し、KIF17が中枢神経系の神経細胞の樹状突起に多く発現する蛋白であることを明らかにした。

3 さらに免疫沈降法でKIF17のカーゴを精製し、電子顕微鏡で観察することにより、KIF17は形態学的にKIFC2のカーゴとことなるvesicleに結合していることを明らかにし、その結合はいわゆるperipheral associationであることを示した。

4 Two-hybrid screening, pull down assay, surface plasmon response, immunnoisolationの手法でKIF17のbinding proteinを同定した。結果、KIF17は、輸送蛋白質として知られているmLin10と結合することが判明した。さらに関連蛋白Lin2, 7, 10, NR2BがKIF17のカーゴであることを免疫沈降法を用いて示した。

5 NR2Bを含むin vivoのvesicleがKIF17によって運ばれることをin vitro vesicle motility assayによって再構成し、可視化した。

以上、本論文はマウス脳神経細胞において、モーター蛋白KIF17の解析から、神経伝達物質受容体を輸送するモーターとその選択機構の存在を明らかにした。本研究は、これまで未知に等しかったモーター蛋白のカーゴ認識機構および受容体輸送機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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