学位論文要旨



No 215079
著者(漢字) 竹内,孝次
著者(英字)
著者(カナ) タケウチ,タカツグ
標題(和) 粉粒体貯槽における物理現象の解明
標題(洋)
報告番号 215079
報告番号 乙15079
学位授与日 2001.06.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15079号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中尾,政之
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 教授 正路,徹也
 高知工科大学 教授 長尾,高明
 工学院大学 教授 畑村,洋太郎
内容要旨 要旨を表示する

 序論で、サイロ問題で起こる様々な事例を列挙し、それらの現象解明のために必要な測定法の考え方を示し、本研究の目的を述べる。サイロ内で生じる物理現象(サイロ現象と呼ぶ)として、粒子の流れ、粒子間の接触によって生じる力、壁面でやり取りする熱、粒子間あるいは粒子と壁との間で生じる音、などの力学的現象に注目する。しかし、このような力学量をとらえる検出器が現在ない。そこで、本研究の目的は、(1)サイロ内の現象で局部的な異常圧力が発生すると想定して後述のサイロの力学的な理論を構築するために、新たに動的な現象の力学理論(動的現象と呼ぶ)を導入する、(2)サイロ内で生じる物理現象をとらえるために総合的に物理量(変形、力、熱、音)を検出する検出器機を開発する。それらは粉体圧の測定を目的とした圧力計、壁面応力計、また音の周波数や熱変形の測定を目的としたすべり速度計、表面温度計、内部温度・流速計などである、(3)現象解明のために直径1mのサイロ(中形モデルサイロと呼ぶ)を製作し、それから得られるデータで動的現象を明らかにする。それらを基に動的理論と実測値とを比較し、動的理論を確立する、(4)開発した検出器を用いて、小形モデルサイロ(直径0.13m)、中形モデルサイロ、大形モデルサイロ(直径8m)、大形石炭サイロ(直径30m)の応力測定を行い、構造設計や粉粒体をサイロに投入してから排出するまでの行程(サイロプロセスと呼ぶ)の開発のためのデータベースを得て、サイロの大きさの状態の無次元化(サイロの相似則と呼ぶ)を確立する、などである。

 第2章で、サイロの力学理論を構築するために静的な現象の力学理論(静的理論と呼ぶ)の他に、新たに動的理論を取り入れ、更に、相似則理論の3つの理論を扱う。静的理論は既存のヤンセンの理論に摩擦応力を導入し、本研究で得られたデータとの比較検討に用いる。静的応力は粉体が時間的に安定した状態を保つので時間変化を無視でき、現象の理解や理論の実証が容易である。しかし、実際の動的現象は、粉粒体圧の発生原因が粒子と粒子、粒子と壁面との接触によって生じており、摩擦の影響を多大に受ける。動的理論として、粉粒体の動く現象がサイロの底で始まりサイロ上表面に伝わることを推測した"応力伝播"の理論と、粉粒体の流動時に異常な圧力が生じる要因として、粉粒体が急激に排出されたときにそれの真上の粉粒体層は流下せず、その状態を作り出すために上下方向の力が釣り合った状態になり、壁面に大きな圧力が発生する"だるま落とし"(支持力の空間的時間的な分布の肩代わり)の理論とを構築した。"相似則理論"は長尾が提唱している理論で、状態変数を無次元化し大きさの異なるサイロの相似性を理論的に求めたもので、本論では相似則理論の実験的検証を行う。

 第3章で、サイロ内の力学的現象をとらえるために、筆者らが開発した各種の粉粒体用検出器について述べる。力学系の中で最も重要なのが力(圧力と摩擦応力)の測定であるが、ここでは圧力計と壁面応力計について詳細に述べた。

 壁面の応力は、粒子が押す力と粒子の間隙に含まれている液圧との加算で検出される。これらの力を面に垂直な方向の力と面に平行な方向の力に分解し、面積で割れば前者が圧力、後者が摩擦応力として検出される。また、サイロ内で生じる音を測定し、その音の周波数を分析しすべり速度を、壁面の深さの異なる2点における温度変化から表面温度を、さらに、粉粒体内部にトレーサを埋め込み、粉粒体の流れをそれぞれ検出する。

 第4章で、小形モデルサイロから中形、大形、大形実物サイロを用いて主に応力を測定したが、その実験方法と実験結果について述べた。ここでの主なデータは応力(圧力、摩擦応力)変化、合応力分布、荷重変化などである。また、中形サイロでは、サイロ現象解明のためにサイロの構造と内壁に特殊な工夫を施し、壁材の摩擦条件、供試体の種類、排出速度,などの条件を変えて、流れ、力(荷重、応力)、熱、音などの測定を行った。

 第5章で、4章から得たデータを基に、粉粒体の流れ、力、音、熱、摩擦などの測定結果からわかったサイロ内の物理現象についての検討を述べる。その主なものは次の通りである。(1)粉粒体の流れ:サイロ内の粉粒体内部には粉粒体が流れやすくなるようなブリッジ(架橋)が発生し、一定の速度で排出される。(2)サイロ内の応力:サイロ内の応力は投入時(この時の応力を静的応力と呼ぶ)と排出時(この時の応力を動的応力と呼ぶ)とに分けて考える必要がある。(3)壁面と粉粒体との摩擦:壁面での摩擦係数はすべり速度に関係なくほぼ一定になる。しかし、水分を含んだ石炭はすべり速度が大きくなると摩擦が大きくなる。(4)すべりと音:すべり速度計に組み込んだマイクロホンや加速度計で測定した音の波形を周波数分析すると、100 Hzと1 kHzとにピーク値が現れる。これらのパワースペクトル比はすべり速度に比例する。また、圧力波形の周波数分析でも、同様の結果を得た。(5)発熱と伝熱:熱は粉同士のすべりや壁と粉粒体とのすべり、粉粒体と空気との化学的反応などで発生する。しかし、ここで取り扱っている粉粒体の排出過程では発熱のもとになるエネルギーは粉粒体の位置エネルギーの差だけなので、非常に小さく温度上昇が微小(最大約1℃)であるため、粒子の衝突や摩擦で生じた熱を検出することができなかった。

 第6章で、前章で得られたそれぞれの現象の検討結果を総合的に考察した。その結果、粉粒体が滑らかに排出するメカニズムと異常圧力の発生するメカニズムを解明した。また、サイロ内の応力状態を、第2章で前述した理論と、従来考えられていた理論とで分析した。この結果、第2章で述べた理論が正しいことを証明した。

 第7章で、本研究から得られた結論を述べる。

 本研究で得られた結論は次の通りである。(1)サイロの力学的理論を構築するために、静的な状態と動的な状態とに分けた理論構成を行い、新たに動的理論を導入した。(2)サイロの現象をとらえるために総合的な物理量を検出する各種の検出器を開発した。(3)サイロでの基本的な動的現象をとらえ、"応力伝播"現象、"だるま落とし"現象と"荷重分担の肩代わり"(支持力の空間的時間的な分布の肩代わり)現象を解析し、動的理論を確立した。その結果、粉粒体と壁面の摩擦が応力変動の最大要因になっていることがわかった。(4)長尾が唱えているサイロの力学的な相似則理論を検証した。また、本研究で得た知見はサイロ設計やサイロプロセスの発展に大きく貢献するばかりでなく、多くの粉粒体関係分野に応用することができると考える。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、粉粒体を貯蔵する容器(サイロ)内の物理現象を解明することを目的とする。一般に素材を細かくすると、反応や搬送において多くのメリットが得られるので、多くの産業分野で粉粒体は扱われている。その中でも石炭、穀物、砂などの粉粒体は需要が多いが、特にそれらを貯蔵する時、サイロについての問題が蓄積されている。すなわち、問題は大形化にしたがって、サイロが排出時に崩壊、閉塞、亀裂などを多発することである。本研究はその原因究明のために、サイロ内で生じる物理現象に対し、理論の構築と現象の解明を行った。

 序論で、サイロの事故で起こる様々な事例を列挙し、まず、それらの現象解明のために必要な手法の考え方を示し、次に本研究の目的を述べる。本研究の目的は、(1)サイロの力学的な理論を構築するために、新たに動的な現象の力学理論(動的理論)を導入する、(2)サイロ内で生じる物理現象(変形、力、熱、音)を検出する検出器を開発する、(3)現象解明のために、中形モデルサイロ(直径1m)を用いて動的な現象を測定し、動的理論を確認する、(4)小形モデルサイロ(直径0.13m)、中形モデルサイロ、大形モデルサイロ(直径8m)、大形実物サイロ(直径30m)のそれぞれについて応力測定を行い、サイロの大きさが現象に及ぼす影響(サイロの相似則)を解明する、などである。

 第2章で、サイロの力学理論を構築するために、従来の静的な現象の力学理論(静的理論)だけでなく、新たに動的理論を取り入れ、さらに、相似則の計3つの理論を扱う。静的理論は既存のヤンセンの理論を用いる。動的理論は、粉粒体が動くという現象が、サイロの底で始まりサイロ上表面に伝わることをモデル化した"応力伝播"の理論と、粉粒体が底から急激に排出された時にそれの真上の粉粒体層は流下せず、下からの圧力が減少した分だけ、壁に摩擦力でふんばって上下方向の力を釣り合わせることをモデル化した"だるま落とし"の理論とを構築する。すなわち、支持力を空間的時間的に肩代わりしたのである。相似則の理論は状態変数を無次元化して、大きさの異なる容器内の粉粒体の相似性を理論的に求めた、長尾が提唱した相似則理論を用いる。

 第3章で、サイロ内の力学的現象をとらえるために、筆者らが開発した各種の粉粒体用検出器について述べる。壁面の応力測定では、粉粒体による力が方向性を持つので、壁に垂直な方向の力(圧力)と面に平行な方向の力(摩擦力)に分解して検出する。サイロ内で生じる音の測定では、その音の2つの周波数を分析することですべり速度を検出する。表面温度の測定では、壁面から深さの異なる2点において、温度を測定することで表面温度を検出する。さらに、粉粒体内部にトレーサを埋め込み、粉粒体の流れをそれぞれ観測する。

 第4章で、小形モデルサイロから中形、大形、大形実物サイロまでの4つを用いて、主に応力の測定結果を述べる。主なデータは、応力変化、合応力分布、荷重変化、などである。特に、中形サイロでは、サイロ現象の解明のためにサイロ内壁の材質や胴部・底部の接合に特殊な工夫を施し、壁材の摩擦条件、供試体の種類、排出速度、などの条件を変えて、流れ、力、音、熱などを測定した。

 第5章で、中形モデルサイロから得られた粉粒体の流れ、力、音、熱、摩擦などの測定結果を基に、サイロ内の物理現象を検討する。その結果、次の現象がわかった。(1)粉粒体は流れはじめると、サイロ内の粉粒体内部に断続的にブリッジ(架橋)を発生させる。その結果、底部の排出口では一定の速度で排出される。(2)上記の(1)の流れる時に発生するブリッジによって、サイロ内の応力は投入時(静的応力)と排出時(動的応力)とで異なる。(3)壁面での摩擦係数は、粉粒体の種類によって異なるが、それぞれすべり速度に関係なくほぼ一定の値を示す。(4)すべり速度で測定した音を周波数分析すると、100Hzと1kHzとにピーク値が現れるが、これらのパワースペクトル比はすべり速度に比例する。(5)発熱は、粉同士のすべりや、壁と粉粒体とのすべり、粉粒体と空気との化学的反応、などで発生するが、約1℃と非常に小さい温度上昇しか生じない。

 第6章で、第4章と第5章で得られた実験結果を総合的に考察した。その結果、粉粒体が滑らかに排出する時の流れのメカニズムと、異常圧力の発生する時とのメカニズムを、実測したサイロ内の応力変化を用いて証明した。また、第2章で構築したサイロ理論を、実測データを用いて検討し、サイロ理論がほぼ正しいことを確認した。

 第7章で、本研究で得られた結論を述べると、次のとおりである。(1)サイロの中の粉粒体の現象を証明するには、力学的理論として、投入時には静的理論を、また排出時は断続的なブリッジを想定した動的理論を導入すればよい。(2)粉粒体の現象を測定するために応力、摩擦力、温度、音、などの物理量を検出する各種の検出器を新たに開発した。(3)サイロ内での動的現象として、"応力伝播"の現象、"だるま落とし"現象、"荷重分担の肩代わり"現象、などを実験結果で示し、動的理論を確認した。いずれも、粉粒体の自重を支持する力を、時間的空間的に部分部分が肩代わりするように、応力が変化する。また排出時には極端に肩代わりを行う例が見られ、静的な時の3倍程度の応力が測定された。(4)サイロ内の粉粒体において、力学的な相似則理論を検証した。

 以上述べたように、本論文で得たサイロの動的な理論、及び現象の測定データは、工学的にサイロの設計やプロセスの発展に大きく貢献するばかりでなく、実際に工業的に多くの粉体関係の製造分野に応用できると考える。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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