No | 215116 | |
著者(漢字) | 中山,元 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカヤマ,ゲン | |
標題(和) | 不動態金属のすきま腐食、応力腐食割れ発生条件の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215116 | |
報告番号 | 乙15116 | |
学位授与日 | 2001.07.12 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15116号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 金属工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. はじめに 不動態金属のすきま腐食、応力腐食割れ(SCC)生起条件、およびSCC発生寿命予測モデルの開発を目的として 1) 低合金チタンの中性塩化物環境系の腐食すきま生起臨界条件 2) 炭素鋼のアルカリ環境における腐食すきま生起臨界条件 3) 鋭敏化ステンレス鋼の中性塩化物環境におけるSCC生起臨界条件 4) 鋭敏化ステンレス鋼の中性塩化物環境におけるSCC発生寿命予測モデル 5) 炭素鋼の高温高圧水環境におけるSCC感受性評価 6) Ni基合金の高温高圧水環境におけるSCC感受性評価 について、各々の検討を行なった。 2. 自然水環境における低合金チタンおよび炭素鋼のすきま腐食(第2章、第3章) 高レベル放射性廃棄物(HLW)地層処分用オーバーパック(処分容器)候補材料の選定を念頭にpH、温度、塩化物濃度などをパラメーターとして選定し、不動態化する条件、および孔食、すきま腐食の発生条件を求めた。図1に低合金チタンの腐食領域図、図2に炭素鋼の腐食領域図を、表1に成果をまとめて示す。 3. ステンレス鋼の中性塩化物環境におけるSCC生起臨界、および寿命予測(第4章、第5章) 溶接による鋭敏化(溶接入熱による粒界のCr欠乏層の生成)、溶接残留応力、および塩化物の存在によって起きるSCCの生起臨界条件を、進展しつつあるき裂が再不動態化する電位ERSCCとして求めた。ERSCCは図4に示すように鋭敏化度Raが大きくなるにつれて低下し、腐食すきま再不動態化電位ERCREVに比べて約100mV低い。 SCC発生寿命はばらつく。図5に示す様に同一条件の定荷重試験によって求めた破断寿命を指数分布モデルで整理し、SCC発生寿命下限界値(最短寿命)aを求めた。SCC発生寿命の各種加速因子をパラメータとして、aとの関係式をあてはめ、寿命予測係数(Life-Prediction Model Index, LPMI)を得た。 LPMIを用いて、既知の寿命分布(実線)から予測した別の条件での寿命分布(点線)と、検証試験結果(○)を図6に示すように、検証のため実施した2本の定荷重試験の破断寿命は予測した範囲に収まっている。 4. 高温高純度水環境における炭素鋼、およびNi基合金のSCC感受性評価(第6章、第7章) 沸騰水型原子炉(BWR)は、ステンレス鋼、炭素鋼、Ni基合金などで構成されている。ステンレス鋼に比べて知見の少ない炭素鋼、およびNi基合金の、それぞれの使用部材の環境条件におけるSCC感受性を評価した。 図7に隅肉溶接部を模擬した炭素鋼のSCC領域図(材料の硬さHv−試験温度関係)を、図8にNi基溶接金属のSCC感受性の電位(溶存酸素で制御)依存性を、表2に成果のまとめを示す。 5. まとめ 不動態金属のすきま腐食、応力腐食割れ発生条件を体系的に整理した。本論文のまとめを表3に示す。 図1 本論文の構成と、各章の関係 表1 自然水中における低合金チタン、炭素鋼の不動態/すきま腐食挙動とHLW処分環境の比較 図2 低合金チタンの腐食領域図(温度−塩化物濃度) 図3 炭素鋼の腐食領域図(実測電位−pH図) 図5 ERSCCの鋭敏化度依存性、およびERCREVとの比較 図6 SCC発生寿命の指数分布モデルによる整理、および、寿命予測モデルによる予測と検証 表2 高温高純度水環境における炭素鋼、およびNi基合金のSCC感受性 図6 単ビード試験片のSCC感受性の試験温度、および、溶接入熱による硬さ依存性(IGSCC;粒界SCC、TGSCC;粒内SCC) 図7 Ni基溶接金属のSCC感受性におよぼす電位(環境の酸化・還元性)依存性 表3 本論文における成果のまとめ | |
審査要旨 | 本論文は、高レベル放射性廃棄物(HLW)地層処分用オーバーパック(金属製処分容器)、沸騰水型原子炉(BWR)など、中性塩化物環境、弱アルカリ環境および高温高純度水環境下での、各種不動態金属材料のすきま腐食、応力腐食割れ(SCC)生起臨界条件の明確化、および寿命予測モデルの開発を行ったもので、8章からなる。 第1章は緒言であり、不動態金属の孔食、すきま腐食、およびSCC挙動について、従来の知見を総括し、残されている課題を抽出するとともに、本論文の目的、構成について述べている。 第2章では、HLW地層処分用金属製処分容器の選定を念頭において、深地層地下水環境での工業用純チタン(一種)、各種低合金チタンの不動態・局部腐食挙動を評価している。ステンレス鋼の中性塩化物環境において腐食すきま生起の臨界電位であることが確かめられている腐食すきま再不動態化電位E(R,CREV)を、工業用純チタン、低合金チタンに拡張し、温度−塩化物濃度図上にこれらの材料のすきま腐食生起領域図を作成している。その結果、工業用純チタンは60℃以上の広い塩化物濃度範囲ですきま腐食感受性があること、Pdを添加することによって耐食性を高めたTi-Gr.17は高温・高塩化物濃度までの広い範囲ですきま腐食に免疫であることを明らかにしている。このことから、温度100〜55℃、[Cl-]濃度10ppm〜17000ppm(海水相当)、pH中性〜弱アルカリ性、ベントナイト共存下と想定されるHLW地層処分環境において、すきま腐食を起こさない金属製処分容器材料としてTi-Gr.17を推奨できると結論している。 第3章では、HLW地層処分用金属製処分容器の選定を念頭において、炭素鋼の全面腐食/不動態遷移pHであるpH(d)の評価を実施し、電位−pH図上に腐食領域図を作成している。その結果、模擬地下水環境におけるpH(d)は9.4で、これを越えると不動態化し孔食、すきま腐食感受性が生じることを示している。また、炭素鋼のすきま腐食の発生電位が、アルカリ不動態環境においてもE(R,CREV)で評価出来ること、ベントナイトが共存するアルカリ環境では局部腐食感受性が高くなることを明らかにしている。このため、HLW地層処分環境を考えると、炭素鋼は不動態化し局部腐食発生の可能性が回避出来ず、長時間にわたる腐食挙動の定量評価を行わないかぎり、HLW地層処分用金属製処分容器材料として使えないと結論している。 第4章では、鋭敏化ステンレス鋼に対して採用されているE(R,CREV)測定方法に準じて、中性塩化物環境において進展しつつある応力腐食き裂が成長性を失う電位を求め、応力腐食き裂再不動態化電位E(R,SCC)という概念を提唱している。このE(R,SCC)は定電位・定荷重試験で得られる鋭敏化ステンレス鋼のSCC発生臨界電位V(SCC)と一致し、すきま腐食が生じるE(R,CREV)と比較して約100mV低いことが実験的に明らかにされている。従来、固溶化ステンレス鋼における結果にもとづいて、V(SCC)はE(R,CREV)に一致すると考えられてきた。本研究で得られた知見は、他の材料においてもE(R,CREV)とV(SCC)との関係を調べる必要性を提起するものである。 第5章では、鋭敏化したステンレス鋼の中性塩化物環境における粒界SCCの寿命予測方法を提案し、その有効性を示している。この方法は、すきまの有無、電位、応力、塩化物イオン濃度、鋭敏化度、温度をパラメータとした定荷重試験を実施し、鋭敏化したステンレス鋼の中性塩化物環境におけるSCC破断寿命に対するこれらパラメーター依存性を関数化したものをかけ合わせた値を用いるものである。この方法を用いると、高温高純度水環境におけるステンレス鋼やNi基合金のSCC発生、気水域におけるステンレス鋼のすきま腐食発生など、各種条件における各種材料のSCC寿命の予測に拡張できる可能性がある。 第6章では、炭素鋼隅肉溶接部を模擬した単ビード溶接試験片の、BWR熱交換器を念頭においた高温高純度水環境におけるSCC感受性の温度依存性を評価している。BWRプラントではステンレス鋼、炭素鋼、Ni基合金などが使用されているが、ステンレス鋼に比べて炭素鋼とNi基合金に関する研究例が少なく、炭素鋼のSCCにおよぼす温度、溶存酸素依存性は明らかでなかった。本章での研究の結果、溶存酸素量が8ppmの場合、硬さがHV400以上の部分で粒界SCC感受性があること、それより低い硬度の部分は粒内SCCになること、定常温度である288℃より温度が低いとSCCき裂の発生数が増えるが個々のき裂は浅くなる傾向があることなどを明らかにしている。 第7章では、これまで研究の少なかったNi基合金のBWR炉内構造物を念頭においた高温高純度水環境におけるSCC感受性の電位依存性を評価している。その結果、溶存酸素富化の酸化性環境では高いSCC感受性を示し、電位の低下とともにSCC感受性が低下すること、低電位域においてもすきま部で発生したピット底から応力腐食き裂が発生することを明らかにしている。 第8章は総括である。 以上要するに、本論文は、ステンレス鋼、純チタン、低合金チタン、炭素鋼の不動態金属のすきま腐食、SCC発生条件の詳細を明らかにするとともに、SCCの発生領域におけるSCC感受性を評価し、SCC発生寿命予測モデルを開発している。これらは材料学への貢献が大きく、腐食評価・防止技術の発展へ大きく寄与するものである。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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