学位論文要旨



No 215122
著者(漢字) 宋,軍
著者(英字) Song,Jun
著者(カナ) ソウ,グン
標題(和) ヒトMAZ遺伝子の構造と転写制御
標題(洋) Organization and Regulation of the Human Gene for MAZ
報告番号 215122
報告番号 乙15122
学位授与日 2001.07.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15122号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 御子柴,克彦
 東京大学 教授 岡山,博人
 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 教授 井原,康夫
 東京大学 助教授 David,Saffen
内容要旨 要旨を表示する

 MAZ(Myc-associated zinc finger protein)はc-myc遺伝子のプロモーターに結合する因子として同定された。その後、MAZは多数の遺伝子の転写制御に関わっていることも分かった。しかし、MAZ遺伝子のゲノム構造やその転写制御についてまだ不明である。本研究はヒトMAZ遺伝子のゲノム構造を明らかにし、そしてその転写制御の分子機構を解析した。まずヒトBリンパ球細胞より調整したコスミドライブラリー(cosmid library)をスクリーニングにし、MAZゲノム単離同定し、MAZをコードする遺伝子のエクソン、イントロンの構成を解析した。ヒトMAZゲノム遺伝子は5'上流のプロモーター、五個のエクソン、四個のイントロン、3'非翻訳領域(UTR, untranslated region)から成り立っている。すべてのエクソンとイントロンの隣接部はエクソン/イントロン則のGT/AG則に一致した。ヒトMAZ遺伝子のmRNAのサイズは2.7kbで、60kDaの蛋白質をエンコードする。蛍光標識法(FISH, Fluorescent in situ hybridization)によってヒトMAZ遺伝子を染色体の16番のp11.2領域に同定した。ヒトMAZ遺伝子のプロモーターは典型的なハウスキーピング遺伝子(housekeeping gene)の特徴を持っている。即ち、G+C含量が高いこと(88.4%)、CpGジヌクレオチド(dinucleotide)配列の頻度が高いこと、TATA boxとCAAT boxが存在しないこと、S1ヌクレアーゼ プロテクション アッセイ(S1 nuclease protection assay)によってATG開始コドンの上流の174ヌクレオチド(nt、nucleotide)の領域に多数の転写開始点が存在することを明らかにした。MAZプロモーターの解析(CAT assay, chloramphenicol acetyltransferase assay)によってMAZ遺伝子のベーサルプロモーターをnt-383から+259までの領域に同定した。再にMAZ遺伝子のプロモーターのnt-383から-334までの領域に対称的なモチーフがMAZ遺伝子の発現に非常に重要であることを発見した。以上の結果より、5'末端配列はヒトMAZ遺伝子の発現をコントロールする領域を含むプロモーターであることが判明した。

 転写因子Sp1とMAZはジンクフィンガーを有し、DNAに結合することによって標的遺伝子の発現を正と負に調節する。Sp1はGGGCGGという配列に、MAZはGGGAGGGという塩基配列に結合する。本研究はSp1とMAZがMAZ遺伝子のプロモーターの同一のシスーエレメント(cis-element)に結合すること、両者はDNA結合エレメントを共用していることも判明した。Sp1とMAZは同一エレメントのDNA結合を介してMAZ遺伝子自身の発現を抑制することも判明した。Sp1とMAZはそれぞれ3個と6個のジンクフィンガーを有しているが、どのジンクフィンガーがDNAと結合に大切かまだ不明である。本研究では、隣接する二つのジンクフィンガーがDNA結合に重要であることを明らかにした。即ち、Sp1は2番と3番のジンクフィンガーが、MAZは3番と4番のジンクフィンガーがDNA結合に非常に必須である。

 プロモーター解析の結果、ヒトMAZ遺伝子はSp1によって抑制され、MAZ自身によっても自己抑制される。Sp1による抑制と、MAZの自己抑制は各々独立の現象であることも明かとなった。MAZの自己抑制には、主としてヒストン脱アセチル化酵素(HDACs, Histone deacetylases)が関与し、MAZはHDACをリクルートして、プロモーターの活性を抑制するモデルが考えられる。一方、Sp1の場合はおもにDNAメチル転移酵素1 (DNMT1, DNA methyltransferase 1)が関与し、Sp1はDNMT1をリクルートして、MAZプロモーターの活性を抑制すると考えられる。以上により、プロモーター上の同一のシスーエレメントに結合できる転写因子が各々、別々のヒストン或いはDNAの修飾因子群をリクルートすることによって、ヒストンの脱アセル化や、DNAのメチル化を介して同じ遺伝子の発現抑制に関与していることが推定された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、遺伝子の発現に関与している転写因子の機能を明らかにするため、多数の遺伝子の転写制御に関わっている転写因子MAZの遺伝子構造と転写制御の分子機構を解析し、下記の結果を得ている。

1、ヒトMAZゲノム単離同定し、MAZをコードする遺伝子のエクソン、イントロンの構成を解析した。ヒトMAZゲノム遺伝子は5'上流のプロモーター、五個のエクソン、四個のイントロン、3'非翻訳領域(UTR, untranslated region)から成り立っている。すべてのエクソンとイントロンの隣接部はエクソン/イントロン則のGT/AG則に一致した。ヒトMAZ遺伝子のプロモーターは典型的なハウスキーピング遺伝子(housekeeping gene)の特徴を持っている。即ち、G+C含量が高いこと、CpGジヌクレオチド(dinucleotide)配列の頻度が高いこと、TATA boxとCAAT boxが存在しないこと、ATG開始コドンの上流の174ヌクレオチド(nt、nucleotide)の領域に多数の転写開始点が存在することを明らかにした。

2、ヒトMAZ遺伝子の発現を解析した。MAZ遺伝子はほとんどの組織において発現が確認された。mRNAのサイズは2.7kbで、60kDaの蛋白質をエンコードする。蛍光標識法(FISH, Fluorescent in situ hybridization)によってヒトMAZ遺伝子を染色体の16番のp11.2領域に同定した。

3、MAZプロモーターの解析(CAT assay, chloramphenicol acetyltransferase assay)によってMAZ遺伝子のベーサルプロモーターをnt-383から+259までの領域に同定した。再にMAZ遺伝子のプロモーターのnt-383から-334までの領域に対称的なモチーフがMAZ遺伝子の発現に非常に重要であることを発見した。

4、転写因子Sp1とMAZがMAZ遺伝子のプロモーターの同一のシスーエレメント(cis-element)に結合すること、両者はDNA結合エレメントを共用していることも判明した。本研究では、隣接する二つのジンクフィンガーがDNA結合に重要であることを明らかにした。即ち、Sp1は2番と3番のジンクフィンガーが、MAZは3番と4番のジンクフィンガーがDNA結合に必須である。

5、ヒトMAZ遺伝子はSp1によって抑制され、MAZ自身によっても自己抑制される。MAZの自己抑制には、主としてヒストン脱アセチル化酵素(HDACs, Histone deacetylases)が関与し、MAZはHDACをリクルートして、プロモーターの活性を抑制する。一方、Sp1の場合はおもにDNAメチル転移酵素1(DNMT1, DNA methyltransferase 1)が関与し、Sp1はDNMT1をリクルートして、MAZプロモーターの活性を抑制する。

 以上、本論文はヒトMAZ遺伝子の解析をして、遺伝子の構造や発現パターンを明らかにし、MAZプロモーター上の同一のシスーエレメントに結合できる転写因子Sp1とMAZが各々、別々のヒストン或いはDNAの修飾因子群をリクルートすることによって、ヒストンの脱アセル化や、DNAのメチル化を介して同じ遺伝子の発現抑制に関与していることを解明した、転写因子のネットワークの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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