学位論文要旨



No 215150
著者(漢字) 胡,暉
著者(英字)
著者(カナ) フ,フイ
標題(和) 粒子画像流速測定法(PIV)とレーザー誘起蛍光法(LIF)によるロブジェットミキシングに関する研究
標題(洋) Investigation on Lobed Jet Mixing Flows by Using PIV and LIF Techniques
報告番号 215150
報告番号 乙15150
学位授与日 2001.09.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15150号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,敏雄
 東京大学 教授 笠木,伸英
 東京大学 助教授 加藤,千幸
 東京大学 助教授 岡本,孝司
 東京大学 助教授 谷口,伸行
内容要旨 要旨を表示する

 ロブノズルは円筒ノズルの出口にロブ形状のひだを付けたノズルで、異なる速度、温度及び成分の二つの流体を効果的に混合するための特殊な流体装置であり,タービン式噴射推進エンジンの排気システム等にすでに応用され,旅客機離陸時のノイズの低減と燃料消費の低減に成功している。

 ロブノズルが優れた混合促進能力を持ち、広い範囲での応用が可能であることから、80年代の前半からロブノズルに関する多くの研究活動が行われてきた。これまでの研究により、多くの重要な研究成果が得られた。しかし、ロブノズルによる混合促進の流体動力学メカニズムをはっきりさせるためには、より深い研究が必要である。特に、ロブジェット混合過程が従来の円筒ジェット混合過程に比べて渦と乱流構造の変化にどのような特徴があるか、また、ロブノズルにより生成された大きいスケールの流れ方向渦がどのようなメカニズムによりジェット混合過程を促進するかに関する研究が必要となる。ほかに、これまでの研究で、ロブジェットに関する定性的流れ場可視化により、不安定な渦と乱流構造が存在することは明らかになっているが、これらの不安定渦と乱流構造に関する定量的情報は極めて限られている。これまでの研究で使われた実験技術は主にピトー管法、レーザードップラ流速計法、及び熱線流速計測法である。しかし、これらの実験方法では実験技術上の制限性からロブ混合噴流における不安定渦と乱流構造を瞬時に、全体的に表すことが相当難しい。

 本論文では、ロブジェット混合流体(水噴流と空気噴流)における渦と乱流構造について組織的な実験研究を行った。本論文では、全体流れ場に関する光学計測技術であるレーザー誘起蛍光法(LIF)と粒子画像流速測定法(PIV)を用いて、ロブノズルとその比較基準となる円筒ノズルから放出されたジェット混合流体について、流れ場を可視化し、濃度場、速度場と渦度場を計測した。この二十年間、ロブジェット混合流れ場に関する広い範囲での研究が行われたが、本論文の研究はロブ混合流れ場における種々の渦と乱流構造の進化と相互作用の特徴を瞬時に、全体的に表した初めての研究である。全体流れ場に関する光学計測技術であるLIFとPIVを用いることにより、ロブジェット混合流れ場の多くの新しい特徴が明らかになった。

 まず、LIF技術(蛍光染料はRhodamine B)を用いて、水チャンネルでロブジェット混合流れ場と円筒ジェット流れ場を可視化し、濃度場について定量的計測を行った。ジェットのReynolds数は3000〜6000である。ジェット混合流れ場の速度場はPIVシステムを用いて計測した。LIFとPIVによる計測結果から、ロブジェットと円筒ジェットの混合流れ場で、渦と乱流構造に大きい相違が存在することが分かった。ロブジェット混合流れ場では円筒ジェット流れ場に比べて、層流領域が短く、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦のスケールが小さいほか、乱流への遷移が速く、小さいスケールの渦と乱流構造が早く現れる。ロブジェット混合流れ場で、中心流体と周囲流体はノズル出口から2倍ノズル直径に相当する距離以内でほぼ完全に混合する。これに比べ、円筒ジェット流れ場ではノズル出口からノズル直径の6〜8倍に相当する距離でほぼ完全に混合することが可能である。また、ロブジェット混合流れ場ではノズル端口から近い領域でセン断層の成長が速く、噴流中心速度の減衰が速い。以上より、ロブノズルが従来の円筒ノズルに比べ、混合能力が強いことが分かった。

 ロブジェット混合流れ場で、ロブノズルによりmushroom形の大きいスケールの流れ方向渦が生成する。また、ロブの谷部分にhorseshoe形の小さいスケールの対称回転する渦ペアが存在することが分かった。ロブ谷部分に現れるhorseshoe形の渦ペアの存在は約20年前から他の研究者により推測されたが、本論文での研究結果は今まで最もいい可視化情報で、これら渦ペアの存在を明確にした。

 次に、ロブジェット混合流れの三次元特徴を調べるために、高解像度ステレオPIVを用いて、ロブノズルと円筒ノズルからのジェット混合流れ場について測定を行った。ステレオPIVシステムを用いることにより、速度スペクトルの三方向成分が同時に得られた。実験において、空気噴流の速度は約20m/s、Reynolds数は約60,000である。ロブジェット混合流の混合プロセスの特徴を円筒ジェット混合流との比較により解析した。すなわちステレオPIV計測結果より瞬時速度場と平均速度場を求めロブジェット混合流の混合特徴を明らかにした。流れ方向渦の瞬時分布から、ロブノズルの幾何学的特徴により生成された大きいスケールの流れ方向の渦は小さい渦に分解されるが、分解された後の流れ方向渦の渦度は弱くないことが分かった。ロブ混合流の混合プロセスにおけるロブノズルの全体効果は流れ方向平均渦場の分布より評価される。流れ方向平均渦は流れ方向でノズル出口から直径の一倍に相当する距離以内では半径方向に広がり、その後の領域では、小さくて弱い渦に分解される。この過程を流れ方向渦の形成−増強−分解過程と呼んでいる。流れ方向平均渦度はノズル出口から1倍半の直径に相当する距離以内で素早く減衰し、その後緩やかに減衰する。乱流の運動エネルギーの分布より、中心噴流と周囲流体はノズル出口から2倍直径に相当する距離以内で激しく混合することをわかる。また、流れ方向平均渦の分解もちょうどこの領域で起こる。これ以下の流れ領域で乱流運動エネルギーの等高線分布は円筒噴流でノズル出口から遠く離れた領域の等高線分布と近似している。つまり、ロブノズルの特殊な幾何学的構造による混合の促進はノズル出口から2倍直径に相当する距離で基本的に終了する。ノズル出口から遠い領域での中心噴流と周囲流体の混合は円筒噴流と同じメカニズムにより起こる。

 また、本論文では二重平面PIVシステムを開発し、その計測結果に用いて、ロブジェット混合流におけるスパン方向のKelvin-Helmholtz渦とロブノズルにより生成された流れ方向渦間の相互作用と進化をより明確で定量的に表した。二重平面ステレオPIVシステムによる計測結果は速度ベクトルのほか、渦ベクトルの三方向成分及び流れ場における種々の自己相関関数と相互相関関数を提供し得る。ノズル出口から1/4直径に相当する距離までの範囲で、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブの形状はロブノズルの出口の形状と同じである。この範囲でロブジェットの二次流れは大きいスケールの流れ方向渦を生成させる。この後、流れ方向渦との相互作用により、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブはpinch-off構造に変形し、多くの小さい構造に分解される。その結果、中心噴流と周囲流体が激しく混合する。ロブジェットでこれらの全過程が短距離(ノズル出口から最初の1倍半直径に相当する距離以内)で素早く完了するに比べ、従来の円筒噴流ではかなり長い距離が必要となる。

 本論文では、実験研究より得られたLIF可視化情報とPIV計測結果に基づき、ロブジェットについて、二つの混合促進のメカニズムを提案した。一つは、噴流においてロブノズルは円周方向の撹乱を生成し、ロブノズルにより生成された流れ方向の渦はこのような撹乱を促進する。一方、このような撹乱の促進により、大きいスケールのスパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブが小さいスーケルに分解する過程が促進される。大きいスケール渦から小さいスケール渦への分解過程でエネルギーと渦度が同時に転送される。もう一つは、流れ方向渦との相互作用により、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブは伸ばされ、スパン方向の渦スケールの減少を促進する。この二つの理由により、中心噴流と周囲流体の混合で小さいスケールの激しい乱流が形成され、混合が促進されることになる。

 一方、本論文では、ロブジェットにおけるジェット混合の物理現象と混合促進のメカニズムに対して詳しい研究と解析を行ったほか、PIV技術についていくつかの改善を行った。本論文の研究では、二重平面ステレオPIVシステムと呼ばれる新型式のPIVシステムを開発した。このPIVシステムでは空間的に離れた二つの平面で流れの速度場(三方向成分)を同時に測定することができる。この同時計測は二組のダブルパルスのNd : Yagレーザーに他の光学機器を添加し、二つの空間的に離れた平面で、二組の垂直偏光レーザー光線で流れ場を照らすことにより実現された。垂直偏光の散乱光は偏光分離器により分離された。分離された後の二組の散乱光は二組の高解像度のCCDカメラで記録されている。従来の二方向のPIVシステムや単平面ステレオPIVシステムによる計測では渦度ベクトルの単方向成分しか得られないのに比べ、本論文で開発した二重平面ステレオPIVシステムでは渦度のスペクトルの三方向成分、及び流れ場の様々な自己相関関数と相互相関関数を瞬時に、同時に提供することが可能である。二重平面ステレオPIVシステムの計測精度を評価するため、二重平面ステレオPIVシステムによる計測結果をLDVシステムによる計測結果と同時に比べて見た。その結果、ステレオPIVによる計測結果は瞬時量と平均量の両方ともLDVによる計測結果とよく一致していることが分かった。比較ポイントにおける平均速度の計測上、ステレオPIVとLDVによる計測結果間の差は2%以内であった。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は論文題目「Investigation on Lobed Jet Mixing Flows by Using PIV and LIF Techniques(和訳 粒子画像流速測定法(PIV)とレーザー誘起蛍光法(LIF)によるロブジェットミキシングに関する研究)」と題して,優れた混合促進能力を持ち広い範囲での応用が可能であるロブノズルから放出されたジェット混合流れ場について、レーザー誘起蛍光法(LIF)と粒子画像流速測定法(PIV)を用いて可視化し、濃度場、速度場と渦度場を計測したものである。近年、ロブジェット混合流れ場に関する広い範囲での研究が行われているが、本論文の研究はロブ混合流れ場における種々のスケールの渦、乱流構造の変化とそれらの相互作用の特徴を瞬時に、定量的に、全体的に表した初めての研究である。また本論文では速度場、渦度場、濃度場の測定データから、ロブジェットにおけるジェット混合の混合促進のメカニズムに対して考察を加えるとともにPIV技術についてもいくつかの改善を行っている。

第1章では研究の動機,目的及び論文の構成が述べられている。ここで申請者は、近年行われたロブノズルに関する多くの研究活動の研究成果をまとめることにより、ロブノズルによる混合促進の流体力学的メカニズムをはっきりさせるためにはロブジェクトの乱流構造の把握、特にその時間変化の把握が必要であることを述べている。

第2章では、本研究の光学計測技術であるレーザー誘起蛍光法と粒子画像流速測定法の基本的な概念と計測原理について述べられている。現在までに報告されている具体的な研究を例に挙げながら、これらの光学的計測手法の現状を検討している。

第3章では,レーザー誘起蛍光法と粒子画像流速測定法を用いて行った、液体を用いたロブジェット混合流れ場とその比較基準となる円筒ジェット流れ場の可視化、定量的計測およびその結果が詳しく述べられている。LIFとPIVによる計測結果から、ロブジェットと円筒ジェットの混合流れ場とで渦と乱流構造に大きな相違が存在すること、ロブジェット混合流れ場では円筒ジェット流れ場に比べて、層流領域が短く、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦のスケールが小さいこと、乱流への遷移が速く、小さいスケールの渦をもつ乱流構造が早く現れること、ノズル端口に近い領域でせん断層の成長が速く噴流中心速度の減衰が速いこと等を示し、ロブノズルが従来の円筒ノズルに比べ混合能力が強いことを定量的に明らかにしている。

第4章では、高解像度ステレオPIVを用いてロブノズルと円筒ノズルからの空気ジェット混合流れ場の計測を行い、瞬時速度場と平均速度場を区別して抽出して求め、ロブジェット混合流れの三次元的特徴を明らかにしている。流れ方向渦の瞬時分布から、ロブノズルの幾何学的特徴により生成された大きいスケールの流れ方向の渦は小さい渦に分解されるが、分解された後の流れ方向渦の渦度は弱くないことを示している。さらに、ロブ混合流れの混合プロセスにおけるロブノズルの全体効果を流れ方向平均渦場の分布より評価している。すなわち、流れ方向平均渦はノズル出口から流れ方向にノズル直径に等しい距離以内では半径方向に広がり、その後の領域では、小さくて弱い渦に分解される。この過程を流れ方向渦の形成−増強−分解過程と分類し、乱流の運動エネルギーの分布から、中心噴流と周囲流体はノズル出口から直径の2倍に相当する距離以内で激しく混合すること、流れ方向平均渦の分解もこの領域で起こることを明らかにしている。これより下流の領域での乱流運動エネルギーの等高線分布は、円筒噴流でのノズル出口から遠く離れた領域の等高線分布と近似している。以上のことからロブノズルの特殊な幾何学的構造による混合の促進はノズル出口からノズル直径の2倍に相当する距離で基本的に終了し、ノズル出口から遠い領域での中心噴流と周囲流体の混合は円筒噴流と同じメカニズムにより起こると結論づけている。

第5章においては、二重平面ステレオPIVシステムと呼ばれる新型式のPIVシステムを開発した。このシステムでは空間的に離れた二つの平面で流れの速度場(三方向速度成分)を同時に測定することができる。この同時計測は二組のダブルパルスのNd : YAGレーザーに他の光学機器を付加し、二つの空間的に離れた平面で、二組の垂直偏光レーザー光線で流れ場を照らすことにより実現されている。偏光分離器により分離された後の二組の散乱光は二組の高解像度のCCDカメラで記録される。従来のPIVシステムや単平面ステレオPIVシステムによる計測では渦度ベクトルの単方向成分しか得られないのに比べ、本研究で開発した二重平面ステレオPIVシステムでは渦度の三方向成分、及び流れ場の様々な自己相関関数と相互相関関数を瞬時に、同時に提供することが可能である。その二重平面PIVシステムの計測結果から,ロブジェット混合流におけるスパン方向のKelvin-Helmholtz渦とロブノズルにより生成された流れ方向渦間の相互作用を定量的に表すことに成功した。すなわちノズル出口から1/4直径に相当する距離までの範囲で、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブの形状はロブノズルの出口の形状と同じであり、この範囲でロブジェットの二次流れは大きなスケールの流れ方向渦を生成させる。この後、流れ方向渦との相互作用により、スパン方向のKelvin-Helmholtz渦巻チューブはpinch-off構造に変形し、多くの小さい構造に分解される。その結果、中心噴流と周囲流体が激しく混合すると推論している。実験研究より得られたLIF可視化情報とPIV計測結果に基づき、ロブジェットについての混合促進のメカニズムを定量的に明らかにすることに成功している。

第6章においては全体の結論が述べられている。

以上を要約すると、ロブジェット混合流れ場に関して、本研究において新たに明らかになった特徴および提案した混合促進のメカニズムはこの分野の基礎研究と応用研究の両面において有用な資料である。開発した二重平面ステレオPIVシステムを用いて、速度ベクトルのほか、渦度ベクトルの三方向成分あるいは流れ場における種々の自己相関関数と相互相関関数を取得し、それらによって理工学における複雑乱流場における素過程と構造との間の干渉に関して新たな知見を与えており、工学の進展に寄与するところが大きい。

よって、本研究は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる。

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