No | 215158 | |
著者(漢字) | 福岡,克弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フクオカ,カツヒロ | |
標題(和) | 磁場可視化計測による高温超電導体のマクロ的磁気特性評価 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215158 | |
報告番号 | 乙15158 | |
学位授与日 | 2001.09.20 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15158号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 液体窒素温度で使用でき、高臨界電流密度、高臨界磁場の特性を有する高温超電導体は、各種産業分野への応用が検討されている。しかし、高温超電導体は製造過程において結晶粒界やクラック等のウィークリンクを含んでいる場合や、試料を使用する上での電磁力やヒートショックによりクラックが生じる場合もあり必ずしも均一な材料ではない。そこで、高温超電導体の実用化には、その磁気特性の分布を明らかにする必要がある。磁気特性を評価する方法は、磁気光学効果を用いる方法、強磁性体粒子を用いた修飾法(ビッター法)、走査型トンネル顕微鏡を用いる方法、電子線ホログラフィーによる磁束量子の観察などが報告されている。これらの評価手法は、比較的小さな試料を対象にした観察方法であり、混合状態における磁束量子のピン止めなどをミクロ的に観察する場合においては有効である。しかし、測定できる範囲に制限が生じ、マクロ的な評価は困難である。実際のバルク高温超電導体の産業界での応用には大型の試料が用いられ、その試料全体の磁気特性をマクロ的に評価することが必要となる。そこで本論文では、高温超電導体の磁場中における振る舞いをマクロ的に評価することを目的とし、静磁場、交流磁場、パルス磁化における磁気特性を評価する。さらに、高温超電導体の応用技術として、磁気回路をバルク超電導体で取り囲んだ磁気遮蔽変圧器を提案し、その特性についても評価する。 以下に本論文の内容をまとめて示す。 (1)静磁場中における磁気特性評価 ○磁場可視化計測による磁気特性分布評価 ○三次元有限要素解析による磁気遮蔽特性の定量的評価 ○ヒステリシス特性計測による磁気特性評価 ○磁束クリープ計測による磁気特性評価 (2)交流励磁による磁気特性評価とその応用 ○リング試料を用いた周波数をパラメータにした周波数応答特性評価 ○リング試料を用いた外部磁場強度をパラメータにした磁束ジャンプ特性評価 ○磁場可視化計測によるリング試料の交流磁場応答特性評価 ○磁場可視化計測によるバルク試料の交流磁場遮蔽における周波数応答特性評価 ○バルク高温超電導体の磁気遮蔽効果を応用した変圧器の検討 (3)パルス磁化法による着磁特性評価 ○磁場可視化計測によるパルス磁化法の有用性評価 ○パルス磁化過程計測による最適パルス磁化の検討 ○単一ドメイン高温超電導体のパルス磁化特性と材料劣化の評価 以下に本論文により得られた成果について示す。 (1)静磁場中における磁気特性評価 静磁場中における高温超電導体の磁気特性を磁場可視化計測により評価した。また、測定した磁束密度分布から試料各点の臨界電流密度分布を求め、有限要素法を用いた数値解析により高温超電導体の磁気遮蔽特性を定量的に評価した。さらに、高温超電導試料中の各位置における磁気特性を、ヒステリシス特性計測および磁束クリープ計測により評価した。これらにより、静磁場中における高温超電導試料全体のマクロ的な磁気特性を評価した。 磁場可視化計測より、表面の結晶粒と磁束密度分布との間の相関が確認された。一定磁場下における磁束密度分布と励磁後の残留磁束密度の分布は異なり、この傾向は結晶粒が不均一な試料ほど大きく変化することが判った。また、連続的な励磁場における計測からウィークリンク(結晶粒界やクラック等)からの磁束の侵入を確認した。超電導体の磁気特性分布は本手法により正確に評価できることが確認された。 ウィークリンクを含む高温超電導体の静磁場中での磁気遮蔽特性を、一般的な電磁界解析法を当てはめる簡易的な数値解析により評価した。実験結果との比較からマクロ的な磁気遮蔽特性の解析手法としての妥当性を確認した。数値解析により実験では計測困難な試料表面および内部のマクロ的な磁束密度分布を定量的に評価できることが確認された。 ヒステリシス特性計測および磁束クリープ計測からは、超電導体内部への磁束の侵入には周囲の領域がゲートとして働く振る舞いが見られた。磁気特性が複雑に分布する超電導体においては、ヒステリシス特性計測および磁束クリープ計測が局所的な特性を評価するのに有効であることが確認できた。 (2)交流励磁による磁気特性評価とその応用 交流磁場下における高温超電導体のマクロ的な磁気特性評価を行った。さらに、高温超電導体の応用として高温超電導体の磁気遮蔽効果を利用した磁気遮蔽変圧器の検討を行った。 交流磁場下における磁気特性評価では、リング形状の高温超電導体を用いた磁束侵入周波数特性、外部磁場強度をパラメータにした周波数50Hzにおける磁束ジャンプ特性を評価した。さらに、磁場可視化計測により計測したデータから磁束密度のフルカラー画像を描き、交流磁場中における高温超電導体の磁気特性分布を評価した。また、バルク形状の試料において交流磁場遮蔽の周波数特性を磁場可視化計測により明らかにし、磁気遮蔽への適用について検討した。 周波数特性計測では、外部印加磁場とリング試料内側およびリング試料自体に侵入する磁束には位相差が生じ、ヒステリシスが得られることが判った。リング試料内側のBinコイルによって検出される磁束は、低周波数領域では磁束フローが支配的で、高周波数領域ではリング試料内側に回り込む磁束が支配的であることが判った。高温超電導体の周波数特性は、磁束フローを一次遅れ要素として考えるモデルにより評価できた。 外部磁場強度をパラメータにした磁束ジャンプ特性評価からは、外部磁場の値を大きくしていくと、ある磁場値において高温超電導体に急激に磁束が侵入する、磁束ジャンプ現象が確認された。磁束ジャンプが生じた後は、リング試料内側に侵入する磁束と外部磁場との位相差は小さくなった。また、リング試料内側に侵入する磁束は、磁束ジャンプが生じるまでの領域では磁束フローが支配的で、磁束ジャンプが生じた後では磁束ジャンプによりリークする磁束が支配的であることが判った。励磁を開始してから磁束ジャンプが生じるまでの時間は、外部磁場が大きいほど短くなった。磁束ジャンプはウィークリンク部が支配的であり、その領域からの熱の発生も確認できた。 磁場可視化計測からは、ウィークリンク部で磁束ジャンプが生じ、磁束が侵入する様子を明らかにした。また、リング試料自体への磁束の侵入が確認できた。ウィークリンクを含む特性が均一ではないバルク高温超電導体であっても、周波数が高い領域では磁気遮蔽材として適用可能であることが確認された。 高温超電導体の磁気遮蔽効果を利用した磁気遮蔽変圧器の特性評価からは、超電導体により磁路を取り囲むことにより、コイルのリアクタンスが低くなり特に高周波数領域において一次電流が大きくなった。したがって、高周波数においても入力電圧が低い変圧器の実現の可能性が確認された。これは、半導体製造過程における高周波誘導加熱装置および高周波スパッタリング装置等で使用されている高周波変圧器への応用に期待できる。超電導体により磁路を取り囲むことにより、高周波数領域においても二次電圧の低下は、ほとんど見られなかった。よって、フェライトコアの磁路を超電導体で取り囲むハイブリッドな磁路を構成することにより、フェライトコアからの漏れ磁束を遮蔽し、特に高周波数領域で高効率な変圧器を実現できることが確認された。磁路をバルク超電導体で取り囲むことで、過負荷時においても定常状態における設計値で、安定に動作する変圧器が可能となる。したがって、特に従来にはない高周波数領域で使用できる電力用変圧器の実用化が期待できる。 (3)パルス磁化法による着磁特性評価 バルク高温超電導体を磁化してバルク超電導磁石として使用する目的から、パルス磁化の有用性について確認し、試料全体における着磁特性を可視化計測によりマクロ的に評価した。さらに、パルス磁化過程の計測を行いパルス磁化モデルを考えることにより、最適なパルス磁場の検討を行った。また、大型の単一ドメイン高温超電導体をパルス磁化して、その着磁特性を評価した。さらに、パルス磁場を繰り返し印加することによる磁化特性の向上、パルス磁場の印加による材料の劣化についても検討した。 磁場可視化計測によるパルス磁化特性評価から、パルス磁化によりフィールドクーリングによる磁化と同程度の着磁が可能であることが確認できた。特性が不均一なバルク高温超電導体において、負の磁化領域が存在し、印加磁場のピーク値が高くなると、負の磁化領域が増える傾向が見られた。 パルス磁化過程における磁束密度の計測から、印加するパルス磁場が低い場合は超電導体への磁束侵入の時定数を考慮し、パルス磁場が高い場合は超電導体の発熱を考慮する必要があることを確認した。パルス磁化過程におけるモデルを提案することにより、印加するパルス磁場強度と磁化過程の関係を明らかにし、印加するパルス磁場に最適値が存在することを確認した。つまり、最適なパルス磁場のピーク値を求め、さらにパルス幅が最大となるようにコイルの巻数を決定することにより最適な磁化が行えることが判った。 単一ドメインの試料を用いたパルス磁化特性評価より、同じ強度のパルス磁場を数回繰り返し印加することにより、残留磁束密度が高くなり、また同心円状に均一な磁化分布となることを確認した。パルス磁場の印加により試料中にクラックが伸展し、磁化特性が低下することも確認された。よって、エポキシ系樹脂により含浸するなどして材料強度を高めた試料を用いることにより、さらに強力なバルク超電導磁石の作製が期待できる。 パルス磁化法を用いることにより短時間で高温超電導体を磁化でき、磁化装置が従来のフィールドクーリングによる磁化よりも小型・軽量となり、磁化装置自体を磁気浮上システムや超電導モータ等の実機に組み込んだ形での応用に有用であることが確認された。 | |
審査要旨 | 本論文は、高温超電導体の磁場中における振る舞いをマクロ的に評価することを目的に、静磁場交流磁場、パルス磁化における磁気特性評価を行うとともに、高温超電導体の応用技術として磁気回路をバルク超電導体で取り囲んだ磁気遮蔽変圧器を提案し、その特性についても評価したものであり、全体で6章から構成されている。 第1章は序論であり、本研究の背景と目的および本論文の構成と概要について述べている。 第2章では、高温超電導体の諸性質と磁気特性評価手法について述べており、高温超電導体の基礎物理・磁束の運動・特徴・製造技術、電磁力数値解析手法、磁気特性計測手法などに関して、これまでの研究開発状況について要約するとともに、現在の問題点および今後の開発課題について解説している。 第3章ではホール素子を用いた静磁場中における高温超電導体の磁場可視化計測により、表面の結晶粒と磁束密度分布との相関を確認している。一定磁場下における磁束密度分布と励磁後の残留磁束密度の分布は異なり、この傾向は結晶粒が不均一な試料ほど大きく変化することが判明し、また、連続的な励磁場における計測からウィークリンク結晶粒界やクラック等)からの磁束の侵入の観察など、超電導体の磁気特性分布は本手法により正確に評価できることが確認された。さらに、ヒステリシス特性計測および磁束クリープ計測からは、超電導体内部への磁束の侵入には周囲の領域がゲートとして働く振る舞いが見られ、磁気特性が複雑に分布する超電導体においては、ヒステリシス特性計測および磁束クリープ計測が局所的な特性を評価するのに有効であることが確認された。 第4章では、交流磁場下における高温超電導体のマクロ的な磁気特性評価と磁気遮蔽変圧器の開発を行っている。交流磁場下における磁気特性評価では、周波数特性計測により外部印加磁場とリング試料内側およびリング試料自体に侵入する磁束には位相差が生じ、ヒステリシスが得られること、および外部磁場強度をパラメータにした磁束ジャンプ特性評価により、リング試料内側に侵入する磁束は、磁束ジャンプが生じるまでの領域では磁束フローが支配的で、磁束ジャンプが生じた後では磁束ジャンプによりリークする磁束が支配的であることが判明した。 高温超電導体の磁気遮蔽効果を利用した磁気遮蔽変圧器では、超電導体により磁路を取り囲むことにより、高周波数においても入力電圧が低い変圧器を実現することが可能であることを検証している。これは、半導体製造過程における高周波誘導加熱装置および高周波スパッタリング装置等で使用されている高周波変圧器への応用に期待できる。測定の結果、高周波数領域においても二次電圧の低下はほとんど見られず、フェライトコアの磁路を超電導体で取り囲むハイブリッドな磁路を構成することにより、フェライトコアからの漏れ磁束を遮蔽し、特に高周波数領域で高効率な変圧器を実現できることが確認されている。 第5章では、バルク高温超電導体を磁化してバルク超電導磁石として使用する目的から、パルス磁化の有用性について確認し、試料全体における着磁特性の可視化計測、および最適なパルス磁場の検討を行っている。磁場可視化計測によるパルス磁化特性評価からは、パルス磁化によりフィールドクーリングによる磁化と同程度の着磁が可能であること、また、印加するパルス磁場が低い場合は超電導体への磁束侵入の時定数を考慮し、パルス磁場が高い場合は超電導体の発熱を考慮する必要があることが分かった。さらに、最適なパルス磁場のピーク値を求め、パルス幅が最大となるようにコイルの巻数を決定することにより最適な磁化が行えることを検証している。 以上の本論文における研究成果は、高い独創性を有しており、超電導研究の分野では非常に有用なものであり、また、システム量子工学の発展に寄与するところが大きいと判断される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/42866 |