No | 215175 | |
著者(漢字) | 石渡,進 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イシワタ,ススム | |
標題(和) | FISH (Fluorescence in situ hybridization)を用いた膀胱癌の非侵襲的検出および再発の予測 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215175 | |
報告番号 | 乙15175 | |
学位授与日 | 2001.10.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15175号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 膀胱癌を検出するためには、膀胱鏡検査と尿細胞診が一般的に用いられているが、膀胱鏡は侵襲的な検査であり、尿細胞診はspecificityは良好であるが、sensitivityは充分ではない。また、BTAテストやNMP22などの新しい検査のsensitivityやspecificityはいまだ充分ではない。 一方、最近のFluorescence in situ hybridization (FISH)における進歩により、膀胱癌の細胞遺伝学的変異の研究が可能になった。FISH法は蛍光標識された一本鎖DNAプローブと染色体DNAを相補性のある部位でhybridizeさせ、その部位を蛍光顕微鏡下で検出する方法である。第9染色体の欠失は、移行上皮癌の60%以上に認められ、また、第17染色体の欠失と第7、第8染色体の増加は、膀胱癌に特異的な変化であることが明らかにされた。これらの染色体変異を膀胱癌検出の腫瘍マーカーとする研究が、膀胱洗浄液検体を用いて行われている。一方、自然排尿を用いたFISH法は、膀胱癌を非侵襲的に検出できる可能性を有する方法であるが、これまで充分な検討が行われていない。 今回、膀胱癌切除標本および尿中剥離細胞におけるFISH法の有用性を検討し、自然尿を用いたFISH法が膀胱癌の検出を非侵襲的に行えるか、さらに、同法が膀胱癌の再発を予測しうるかを検討した。 (1);尿中剥離細胞を用いたFISH法による解析の予備実験として、膀胱癌に特異的な染色体数異常を明らかにし、染色体数異常検出のcut-off値を設定するために、健常例7例(男性5例、女性2例、平均54.8歳)から得られた正常膀胱切除標本並びに膀胱癌25例(男性22例、女性3例、平均70.5歳)から得られた腫瘍切除標本においてFISH法を施行した。重なりがなく、形態保存良好な核200個における第7,8,9,17染色体セントロメアのシグナル数を落射型蛍光顕微鏡(オリンパス社、東京)によって計測した。その結果、健常群において染色体欠失あるいは増加を示した細胞比率(%)+2SD(標準偏差)は20%未満であったことから、染色体数異常検出のcut-off値を20%と設定し、少なくとも1つの染色体におけるセントロメアシグナルの欠失や増加を40個(20%)以上の核で認めた場合、FISH陽性とした。膀胱癌症例においては、一般にFISH陽性の症例は20%のcut-off値を明らかに上回るものが多く、その判定は妥当であると考えられた。FISHによる膀胱癌検出頻度は、第7染色体39%、第8染色体18%、第9染色体58%、第17染色体45%、全体で64%であった。染色体数異常の頻度が高い第9,第17染色体を合わせた検出頻度は25例中15例(60%)であり、第7,第8染色体数異常を合わせた検出頻度(32%)と比較すると有意に検出頻度が高かった(p=0.041)。 (2);自然尿中剥離細胞を検体として用いたFISH法の膀胱癌の非侵襲的検出法としての有用性を検討するために、手術前の膀胱癌症例44例(男性38例、女性6例、平均69.2歳)と泌尿器科的悪性腫瘍を有さない症例20例(男性13例、女性7例、平均63.4歳)においてFISH法を行った。自然尿50mlを採取し、遠沈後、0.75%KClで10分間低張処理した。カルノア液にて固定後、スライドグラス上に滴下し、-20℃にて解析まで冷凍保存した。1つの検体スライド上での同時に2つの染色体解析が可能なため、膀胱癌切除標本を用いた予備実験にて、染色体数異常を高頻度に検出した第9,第17染色体のセントロメアプローブを用いて前述のように、FISH法を行なった。また、同症例において、尿細胞診とBTAテスト(米国Bard社)を行い、FISHの結果と比較検討した。hybridization不良な3例を除いた膀胱癌症例41例において、染色体の欠失は概して、grade, stageの低い症例に認められたのに対して、染色体の増加はgrade, stageの高い症例に多く認められた。第9染色体の膀胱癌検出頻度は75%であり、第17染色体の膀胱癌検出頻度51%よりも有意に高かった(p=0.037)。FISHによる膀胱癌検出感度は85%であり、BTAテスト64%,尿細胞診32%よりも有意に高かった(それぞれp=0.026, p<0.0001)。FISH、BTAテスト、尿細胞診のspecificityは、それぞれ95%, 80%, 100%であった。FISHはBTAや尿細胞診に比べて、Tisやgrade, stageの低い腫瘍において検出感度が高いという特徴を有しており、specificityは尿細胞診と同等であった。 (3);膀胱癌の再発予測マーカーとしてのFISH法の有用性を検討するために、膀胱癌症例33例(男性27例、女性6例、平均66.0歳)より経尿道的膀胱腫瘍切除術1か月後に得た尿検体においてFISH法を行った。症例は全例、3か月毎に膀胱鏡検査と尿細胞診にて経過観察された。腫瘍切除後のFISHの結果は、33例中21例(63.6%)でFISH陽性であった。観察期間中(3-30か月、平均15.5か月)に、膀胱癌の再発は13例において確認され(39.4%)、全例FISH陽性であった。FISH陰性の12例は全例再発しなかった。第9染色体変異を有する症例は、第9染色体変異を有さない症例よりも膀胱癌を再発しやすい傾向を認めた(p=0.080)が統計学的有意差を生じなかった。一方、第17染色体変異を有する症例は、第17染色体変異を有さない症例よりも有意に膀胱癌の再発率が高かった(p<0.0001)。各パラメーターの再発予測におけるPPV(Positive predictive value)・NPV(Negative predictive value)を検討したところ、PPV, NPVともに良好な膀胱癌の再発予測マーカーは、第17染色体の染色体変異(PPV 91.7%, NPV 90.5%)であった。 まとめ 今回の研究において、自然尿を検体として用いたFISH法により非侵襲的に膀胱癌を検出し、再発を予測することが可能であるかを検討した。予備実験の結果に従って、第9,第17染色体セントロメアプローブを用いて自然尿中剥離細胞におけるFISHを行い、尿細胞診、BTAテストと比較して、FISH法はsensitivityは有意に優れ,specificityは尿細胞診と同等であるという結果が得られた。さらに、FISH法は膀胱癌切除後症例において膀胱癌の再発を予測できる可能性が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、膀胱癌検出のバイオマーカーとして重要な役割を果たしうるFluorescence in situ hybridization (FISH)法の臨床的有用性を明らかにするために、膀胱癌切除標本および尿中剥離細胞におけるFISH法について解析し、自然尿を用いたFISH法が膀胱癌の検出を非侵襲的に行えるか、さらに、同法が膀胱癌の再発を予測しうるかを検討したものであり、以下の結果を得ている。 1.健常例7例から得られた正常膀胱切除標本並びに膀胱癌25例から得られた腫瘍切除標本においてFISH法を施行した。その結果、染色体数異常検出のcut-off値を20%と設定し、少なくとも1つの染色体におけるセントロメアシグナルの欠失や増加を40個(20%)以上の核で認めた場合、FISH陽性とした。FISHによる膀胱癌検出頻度は、第7染色体39%、第8染色体18%、第9染色体58%、第17染色体45%、全体で64%であった。染色体数異常の頻度が高い第9,第17染色体を合わせた検出頻度は25例中15例(60%)であり、第7,第8染色体数異常を合わせた検出頻度(32%)と比較すると有意に検出頻度が高かった(p=0.041)。 2.手術前の膀胱癌症例44例と泌尿器科的悪性腫瘍を有さない症例20例において第9,第17染色体のセントロメアプローブを用いてFISH法を行った。また、同症例において、尿細胞診とBTAテストを行い、FISHの結果と比較検討した。染色体の欠失は概して、grade, stageの低い症例に認められたのに対して、染色体の増加はgrade, stageの高い症例に多く認められた。第9染色体の膀胱癌検出頻度は75%であり、第17染色体の膀胱癌検出頻度51%よりも有意に高かった(p=0.037)。FISHによる膀胱癌検出感度は85%であり、BTAテスト64%,尿細胞診32%よりも有意に高かった(それぞれp=0.026, p<0.0001)。FISH、BTAテスト、尿細胞診のspecificityは、それぞれ95%, 80%, 100%であった。FISHはBTAや尿細胞診に比べて、Tisやgrade, stageの低い腫瘍において検出感度が高いという特徴を有しており、specificityは尿細胞診と同等であった。 3.膀胱癌症例33例より経尿道的膀胱腫瘍切除術1か月後に得た尿検体においてFISH法を行った。腫瘍切除後のFISHの結果は、33例中21例(63.6%)でFISH陽性であった。観察期間中(3-30か月、平均15.5か月)に、膀胱癌の再発は13例において確認され(39.4%)、全例FISH陽性であった。FISH陰性の12例は全例再発しなかった。第9染色体変異を有する症例は、第9染色体変異を有さない症例よりも膀胱癌を再発しやすい傾向を認めた(p=0.080)が統計学的有意差を生じなかった。一方、第17染色体変異を有する症例は、第17染色体変異を有さない症例よりも有意に膀胱癌の再発率が高かった(p<0.0001)。各パラメーターの再発予測におけるPPV(Positive predictive value)・NPV(Negative predictive value)を検討したところ、PPV, NPVともに良好な膀胱癌の再発予測マーカーは、第17染色体の染色体変異(PPV 91.7%, NPV 90.5%)であった。 以上、本論文は自然尿を検体として用いたFISH法の解析により、FISH法は非侵襲的に膀胱癌を検出し、膀胱癌の再発を予測することが可能であることを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、尿検体を用いたFISH法による膀胱癌の再発予測能力の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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