学位論文要旨



No 215203
著者(漢字) 中田,彩
著者(英字)
著者(カナ) ナカタ,アヤ
標題(和) 気管支喘息におけるInterleukin-5の重要性 : 新規喘息モデルを用いた解析
標題(洋)
報告番号 215203
報告番号 乙15203
学位授与日 2001.12.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第15203号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 助教授 漆谷,徹郎
 東京大学 助教授 黒瀬,等
 東京大学 助教授 西山,信好
 東京大学 講師 東,伸昭
内容要旨 要旨を表示する

気道過敏性亢進は、気管支喘息患者での病態生理学的特徴であり、その発現には気道内好酸球浸潤が重要な役割を果たしていることが知られている。Th2細胞とそこから産生されるサイトカイン、特にIL-5は、好酸球の気道内への浸潤と活性化において中心的な役割を担っていると考えられていることから、喘息患者における気道過敏性亢進反応にT細胞から産生されるIL-5が関わっていることが推察される。一方で、他のサイトカイン、あるいは肥満細胞の、気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進反応への関与が示唆されており、見解は一致していない。これらの相違は、気道内好酸球浸潤および気道過敏性亢進反応が多種多様の炎症性細胞が関与した複合反応であることに起因すると考えられる。

気管支喘息の病態解析では、小動物、特にマウスを用いた抗原誘発気道過敏性亢進モデルを使用することが多い。しかし、このモデルでは、気道過敏性亢進発症に多くのサイトカイン・炎症系細胞が関わっているため、発症メカニズムの解析は容易ではない。現在までに、マウス抗原誘発気道過敏性モデルを用いた多くの検討が行われ、気道過敏性亢進発症でのIL-4、IL-5、あるいはIgE/肥満細胞の関与を示唆した報告が複数のグループからなされたが、どの炎症性細胞・メディエーターがどの程度病態に関わっているのか、という疑問に対する結論は出ていない。

そこで、本研究では、(1)気道過敏性亢進反応におけるCD4+T細胞、サイトカイン、気道内好酸球浸潤の役割を明確にすること、(2)CD4+T細胞から産生されるIL-5が、好酸球性炎症・気道過敏性亢進反応を引き起こすための十分条件であると証明すること、を目的として、抗原誘発マウス気道過敏性亢進モデル、ならびに、IgE,IgG,IgA等の液性免疫分子が関与しない系である、抗原特異的モノクローナルCD4+T細胞移入による新規マウス喘息モデルを作成し、その病態生理学的特徴と発症メカニズムを解析した。さらには、IL-5産生抑制という視点から気管支喘息治療を捕らえ、臨床で有用性の示された抗喘息薬のIL-5産生抑制作用について検討した。最後に、CD4+T細胞でのIL-5産生制御機構について検討し、cAMP賦活薬の抗喘息薬としての可能性を探った。

はじめに、気道過敏性亢進反応におけるCD4+T細胞および気道内好酸球浸潤の役割を明らかにすることを目的として、マウス抗原誘発気道過敏性亢進モデルを作成した。卵白アルブミンにより感作・チャレンジを行うことにより、気道内への炎症細胞、特に好酸球の浸潤が認められ、チャレンジ後48時間でピークに達した。それに並行して、気道のアセチルコリンに対する反応性も増大し、チャレンジ後96時間で最大となった。また、抗原チャレンジ後の肺組織では、気管支喘息患者の病理組織学的特徴である気管支ならびに血管周囲間質への好酸球・単核球浸潤、杯細胞の増生、粘液分泌の亢進が認められた。さらに、代表的な抗喘息薬であるステロイドは、気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進反応を抑制し、両者の間には有意な相関関係が認められたことから、本モデルでの気道過敏性亢進反応発現における気道内好酸球浸潤の関与が示唆された。また抗CD4抗体は、これらの反応を完全に抑制した。以上の結果より、本モデルは、気管支喘息患者の病態生理学的特徴を兼ね備えたモデルであり、気道過敏性亢進反応にCD4+T細胞が必要であることが示された。

一方で、このモデルでは、生体内に、抗原特異的に反応するCD4+T細胞のほかに、抗原特異的なIgE,IgG,IgAが存在するため、これら液性免疫分子の気道過敏性亢進反応発症への関与を否定することはできない。そこで、気管支喘息発症に対するT細胞およびT細胞サイトカインの役割を明らかにする目的で、抗原特異的T細胞移入マウスでの抗原チャレンジ後の気道変化について検討した。正常マウスに卵白アルブミンに特異的に反応するT細胞クローンを移入、抗原を吸入暴露した。その後、時間経過を追って気管支肺胞洗浄、気道反応性の測定、ならびに病理組織学的検討を行った。抗原暴露後、気道への移入T細胞の浸潤が観察され、引き続いて気管支肺胞洗浄液中の好酸球数ならびにEosinophil peroxidase活性の上昇、アセチルコリンに対する気道過敏性亢進も観察された。また、移入T細胞クローンからのIL-5産生量と気道内浸潤好酸球数は有意に相関したことから、これらの反応におけるIL-5の重要性が示唆された。以上の結果より、気管支喘息において、CD4+T細胞を正常マウスに移入・抗原チャレンジすることによって、気道内好酸球浸潤、および、それに伴う気道過敏性亢進反応を、他の経路から独立して誘導しうることが明らかになり、これらの反応におけるIL-5の重要性が示唆された。

次に、気管支喘息治療で用いられているステロイドと、難治性喘息への適用を目指して治験中であったシクロスポリンAの気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進抑制の作用機序を解析する目的で、T細胞クローン移入マウスにおける気道内酸球浸潤および気道過敏性亢進反応に対するシクロスポリンAとデキサメサゾンの作用について検討した。抗原刺激によりIL-2,IL-4,IL-5を産生するマウスT細胞クローンを移入した動物では、抗原の吸入暴露により肺でのIL-2,IL-5mRNAの発現と並行して気道内好酸球浸潤、気道過敏性亢進反応が観察された。シクロスポリンA、デキサメサゾンは、in vitroにおいてマウスT細胞クローンからの抗原誘発IL-2,IL-4,IL-5産生を用量依存的に抑制した。さらに、両薬物はin vivoにおいてもT細胞クローン移入マウスにおける肺でのIL-2・IL-5mRNA発現、気管支肺胞洗浄液中での好酸球数の増加、ならびに気道過敏性亢進を抑制した。浸潤好酸球数と気道過敏性亢進反応との間には有意な相関関係が認められた。

これまでの結果から、IL-5を多く産生したT細胞クローンが気道内好酸球浸潤を引き起こすことが示された。したがってシクロスポリンA、デキサメサゾンの気道過敏性亢進反応抑制作用はT細胞からのIL-5産生抑制に依存している可能性が考えられる。そこで、T細胞移入マウスにおける気道内酸球浸潤および気道過敏性亢進反応でのIL-5の役割を明確にし、両薬物の作用機序が他のサイトカインではなく、IL-5産生抑制によるものであることを明らかにする目的で、本モデルでの抗サイトカイン抗体の作用を検討した。抗IL-2抗体は、気道内好酸球浸潤浸潤ならびに気道過敏性亢進反応に影響を及ぼさなかったが、抗IL-5抗体処置群はほぼ完全に抑制した。逆に抗IL-4抗体、抗IFN−γ抗体は両反応を増強した。以上の結果より、T細胞クローン移入ならびに抗原チャレンジによって誘導される気道内好酸球浸潤とそれに伴う気道過敏性亢進反応は、T細胞から産生されるIL-5を介していることが示された。また、気管支喘息治療におけるIL-5産生抑制の有用性が示された。

これまでの結果から、気管支喘息発症における、T細胞から産生されるIL-5の重要性が示唆された。したがってT細胞からのIL-5産生を抑制する化合物は、抗喘息薬として有用であると考えられる。cAMPは免疫細胞での機能発現における重要な制御因子であり、細胞内cAMP濃度上昇作用を有するホスホジエステラーゼ4阻害薬が抗喘息薬として注目されている。そこで、cAMP賦活薬の抗喘息薬としての有用性を検討する目的で、cAMPのT細胞機能制御機構をヒトモノクローナルCD4+T細胞を用いて検討した。細胞内cAMP濃度上昇作用を有するプロスタグランジンE2は、T細胞受容体刺激によるヒトCD4+T細胞でのIL-2,IL-4,IL-5mRNA発現、IL-5産生、増殖ならびにCD25発現を抑制したが、これらの反応はイオノマイシンにより回復した。また、T細胞受容体刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇はプロスタグランジンE2により抑制されたことから、cAMPは細胞内カルシウム濃度を制御することによりT細胞機能を調節することが示唆された。次に、カルシウム流入により活性化される代表的な転写因子であるNFAT関連IL-5転写因子へのプロスタグランジンE2の作用をゲルシフトアッセイにより検討した。T細胞受容体刺激により検出された4つの転写因子の発現は、プロスタグランジンE2により増強されるか、あるいは変化を認めなかった。また、cAMP上昇により増強された転写因子はイオノマイシンによっても増強された。このことから、cAMPのT細胞機能抑制作用は細胞内カルシウム濃度を制御することにより発現するが、NFATに関係した経路を介していないことが明らかになった。以上の結果より、cAMP賦活薬は、既知の作用機序とは異なるIL-5産生抑制作用を有することから、新しい作用を併せ持つ抗喘息薬として有用である可能性が示唆された。

以上の知見より、気管支喘息において、CD4+T細胞とそこから産生されるIL-5が、気道内好酸球浸潤、およびそれに伴う気道過敏性亢進反応を、他の経路から独立して誘導しうることが明らかになった。また、既存の抗喘息薬がIL-5を抑制することによりその薬効を発現している可能性を示唆した。最後に、ホスホジエステラーゼ4阻害薬といったcAMP賦活薬が、T細胞の機能を、細胞内カルシウム濃度を調節することにより抑制することから、既知の作用機序とは異なる作用を併せ持つ気管支喘息治療薬として有用である可能性を示した。

審査要旨 要旨を表示する

 気道過敏性亢進は、気管支喘息患者での病態生理学的特徴であり、その発現には気道内好酸球浸潤が重要な役割を果たしている。Th2細胞とそこから産生されるサイトカイン、特にIL-5は、好酸球の気道内への浸潤と活性化において中心的な役割を担っていると考えられていることから、喘息患者における気道過敏性亢進反応にT細胞から産生されるIL-5が関わっていることが推察される。一方で、他のサイトカイン、あるいは肥満細胞の、気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進反応への関与が示唆されており、見解は一致していない。これらの相違は、気道内好酸球浸潤および気道過敏性亢進反応が多種多様の炎症性細胞が関与した複合反応であることに起因すると考えられる。

 近年、気管支喘息の病態解析に小動物、特にマウスを用いた抗原誘発気道過敏性亢進モデルを使用することが多い。しかし、このモデルでは、気道過敏性亢進発症に多くのサイトカイン・炎症系細胞が関わっているため、発症メカニズムの解析は容易ではない。現在までに、マウス抗原誘発気道過敏性モデルを用いた多くの検討が行われ、気道過敏性亢進発症でのIL-4、IL-5、あるいはIgE/肥満細胞の関与を示唆した報告が複数のグループからなされたが、どの炎症性細胞・メディエーターがどの程度病態に関わっているかは未解明である。

 そこで、本研究では、(1)気道過敏性亢進反応におけるCD4+T細胞、サイトカイン、気道内好酸球浸潤の役割を明確にすること、(2)CD4+T細胞から産生されるIL-5が、好酸球性炎症・気道過敏性亢進反応を引き起こすための十分条件であると証明すること、を目的として、抗原誘発マウス気道過敏性亢進モデル、ならびに、IgE,IgG,IgA等の液性免疫分子が関与しない系である、抗原特異的モノクローナルCD4+T細胞移入による新規マウス喘息モデルを作成し、その病態生理学的特徴と発症メカニズムを解析した。さらには、IL-5産生抑制という視点から気管支喘息治療を捕らえ、臨床で有用性の示された抗喘息薬のIL-5産生抑制作用について検討した。最後に、CD4+T細胞でのIL-5産生制御機構について検討し、cAMP賦活薬の抗喘息薬としての可能性を探った。

 初めに、気道過敏性亢進反応におけるCD4+T細胞および気道内好酸球浸潤の役割を明らかにすることを目的としてマウス抗原誘発気道過敏性亢進モデルを作成した。卵白アルブミンにより感作・チャレンジを行うことにより、気道内への炎症細胞、特に好酸球の浸潤が認められ、チャレンジ後48時間でピークに達した。それに並行して、気道のアセチルコリンに対する反応性も増大し、チャレンジ後96時間で最大となった。また、抗原チャレンジ後の肺組織では、気管支喘息患者の病理組織学的特徴である気管支ならびに血管周囲間質への好酸球・単核球浸潤、杯細胞の増生、粘液分泌の亢進が認められた。さらに、代表的な抗喘息薬であるステロイドは、気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進反応を抑制し、両者の間には有意な相関関係が認められたことから、本モデルでの気道過敏性亢進反応発現における気道内好酸球浸潤の関与が示唆された。また抗CD4抗体は、これらの反応を完全に抑制した。以上の結果より、本モデルは、気管支喘息患者の病態生理学的特徴を兼ね備えたモデルであり、気道過敏性亢進反応にCD4+T細胞が必要であることが示された。

 このモデルでは、生体内に、抗原特異的に反応するCD4+T細胞のほかに、抗原特異的なIgE、IgG、IgAが存在するため、これら液性免疫分子の気道過敏性亢進反応発症への関与を否定することはできない。そこで、気管支喘息発症に対するT細胞およびT細胞サイトカインの役割を明らかにする目的で、抗原特異的T細胞移入マウスでの抗原チャレンジ後の気道変化について検討した。正常マウスに卵白アルブミンに特異的に反応するT細胞クローンを移入、抗原を吸入暴露した。その後、時間経過を追って気管支肺胞洗浄、気道反応性の測定、ならびに病理組織学的検討を行った。抗原暴露後、気道への移入T細胞の浸潤が観察され、引き続いて気管支肺胞洗浄液中の好酸球数ならびにEosinophil peroxidase活性の上昇、アセチルコリンに対する気道過敏性亢進も観察された。また、移入T細胞クローンからのIL-5産生量と気道内浸潤好酸球数とに有意な相関が認められたことから、これらの反応におけるIL-5の重要性が示唆された。以上の結果より、気管支喘息において、CD4+T細胞を正常マウスに移入・抗原チャレンジすることによって、気道内好酸球浸潤、および、それに伴う気道過敏性亢進反応を、他の経路から独立して誘導しうることが明らかになり、これらの反応におけるIL-5の重要性が示唆された。

 次に、気管支喘息治療で用いられているステロイドと、難治性喘息への適用を目指して治験中であったシクロスポリンAの気道内好酸球浸潤・気道過敏性亢進抑制の作用機序を解析する目的で、T細胞クローン移入マウスにおける気道内酸球浸潤および気道過敏性亢進反応に対するシクロスポリンAとデキサメサゾンの作用について検討した。抗原刺激によりIL-2,IL-4,IL-5を産生するマウスT細胞クローンを移入した動物では、抗原の吸入暴露により肺でのIL-2,IL-5mRNAの発現と並行して気道内好酸球浸潤、気道過敏性亢進反応が観察された。シクロスポリンA、デキサメサゾンは、in vitroにおいてマウスT細胞クローンからの抗原誘発IL-2,IL-4,IL-5産生を用量依存的に抑制した。さらに、両薬物はin vivoにおいてもT細胞クローン移入マウスにおける肺でのIL-2・IL-5mRNA発現、気管支肺胞洗浄液中での好酸球数の増加、ならびに気道過敏性亢進を抑制した。浸潤好酸球数と気道過敏性亢進反応との間には有意な相関関係が認められた。

 以上の結果から、IL-5を多く産生したT細胞クローンが気道内好酸球浸潤を引き起こすことが示された。したがってシクロスポリンA、デキサメサゾンの気道過敏性亢進反応抑制作用はT細胞からのIL-5産生抑制に依存している可能性が考えられる。そこで、T細胞移入マウスにおける気道内酸球浸潤および気道過敏性亢進反応でのIL-5の役割を明確にし、両薬物の作用機序が他のサイトカインではなく、IL-5産生抑制によるものであることを明らかにする目的で、本モデルでの抗サイトカイン抗体の作用を検討した。抗IL-2抗体は、気道内好酸球浸潤浸潤ならびに気道過敏性亢進反応に影響を及ぼさなかったが、抗IL-5抗体処置群はほぼ完全に抑制した。逆に抗IL-4抗体、抗IFN−γ抗体は両反応を増強した。以上の結果より、T細胞クローン移入ならびに抗原チャレンジによって誘導される気道内好酸球浸潤とそれに伴う気道過敏性亢進反応は、T細胞から産生されるIL-5を介していることが示された。また、気管支喘息治療におけるIL-5産生抑制の有用性が示された。

 これまでの結果より、T細胞からのIL-5産生を抑制する化合物は抗喘息薬として有用であると考えられる。cAMPは免疫細胞での機能発現における重要な制御因子であり、細胞内cAMP濃度上昇作用を有するホスホジエステラーゼ4阻害薬が抗喘息薬として注目されている。そこで、cAMP賦活薬の抗喘息薬としての有用性を検討する目的で、cAMPのT細胞機能制御機構をヒトモノクローナルCD4+T細胞を用いて検討した。細胞内cAMP濃度上昇作用を有するプロスタグランジンE2は、T細胞受容体刺激によるヒトCD4+T細胞でのIL-2,IL-4,IL-5mRNA発現、IL-5産生、増殖ならびにCD25発現を抑制したが、これらの反応はイオノマイシンにより回復した。また、T細胞受容体刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇はプロスタグランジンE2により抑制されたことから、cAMPは細胞内カルシウム濃度を制御することによりT細胞機能を調節することが示唆された。一方、カルシウム流入により活性化される代表的な転写因子であるNFAT関連IL-5転写因子へのプロスタグランジンE2の作用をゲルシフトアッセイにより検討した。T細胞受容体刺激により検出された4つの転写因子の発現は、プロスタグランジンE2により増強されるか、あるいは変化しなかった。また、cAMP上昇により増強された転写因子はイオノマイシンによっても増強された。このことから、cAMPのT細胞機能抑制作用は細胞内カルシウム濃度を制御することにより発現するが、NFATに関係した経路を介していないことが明らかになった。このようにcAMP賦活薬は、既知の作用機序とは異なるIL-5産生抑制作用を有することから、新しい作用を併せ持つ抗喘息薬として有用である可能性が示唆された。

 以上、本研究において、気管支喘息におけるCD4+T細胞とそこから産生されるIL-5が、気道内好酸球浸潤、およびそれに伴う気道過敏性亢進反応を、他の経路から独立して誘導しうることが明らかになった。また、既存の抗喘息薬がIL-5を抑制することによりその薬効を発現している可能性を示唆した。最後に、ホスホジエステラーゼ4阻害薬などのcAMP賦活薬が、T細胞の機能を、細胞内カルシウム濃度を調節することにより抑制することから、既知の作用機序とは異なる作用を併せ持つ気管支喘息治療薬として有用である可能性を示した。本研究の内容は気管支喘息の病態解明に貢献し、新規抗喘息薬開発の方向性を示したことから博士(薬学)の授与に値すると判断した。

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