学位論文要旨



No 215235
著者(漢字) 漆谷,重雄
著者(英字)
著者(カナ) ウルシダニ,シゲオ
標題(和) 超高速大容量セルフルーティングスイッチの研究
標題(洋)
報告番号 215235
報告番号 乙15235
学位授与日 2002.01.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15235号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浅野,正一郎
 東京大学 教授 田中,英彦
 東京大学 教授 濱田,喬
 東京大学 教授 青山,友紀
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
 東京大学 助教授 森川,博之
内容要旨 要旨を表示する

 21世紀を迎え、本格的なブロードバンドサービスの幕開けが間近に迫ってきている。インターネット系サービスに代表されるデータ系トラフィックの急成長を受けて、経済的でスケーラブルな通信ネットワークが強く求められている。その中核となる装置は、ATM(Asynchronous Transfer Mode)システムや高速IP(Internet Protocol)ルータであり、2005年には数テラビットクラスのシステム容量が必要になると予想されている。

 本論文は、このような大容量システムを実現するための超高速大容量セルフルーティングスイッチに関しての研究成果をまとめたものである。技術の進歩に依存しない汎用性の高いスイッチアーキテクチャの検討を行い、任意規模に対する高スループット、低セル損失率、セル順序保証、マルチキャストを実現する新しいセルフルーティングスイッチアーキテクチャの提案を行っている。また、システムの実現性を左右するLSI化に対するアーキテクチャの柔軟性を証明するとともに、LSI試作を通じて全機能の高速動作の検証を行っている。さらに、本アーキテクチャの適用範囲の広さを示すために、空間分割型スイッチの一種類であるフリースペースフォトニックスイッチへの展開例についても示している。

 第1章では、ノードシステム全体の諸機能を示し、それらの機能配備に関する考え方を明らかにする。また、従来のスイッチアーキテクチャの問題点を示し、本論文が目指す研究領域を明らかにする。

 第2章では、本論文全体に亘って基本となる、新しいセルフルーティングスイッチアーキテクチャ、再ルーティング型セルフルーティングスイッチを提案する。本スイッチは、図1に示すようにバンヤン網と呼ばれる基本スイッチ網を各段から形成し、セルがリンク競合を起こしても次の段からの再ルーティングにより目的の出回線位置に到達させることに特徴がある。出回線に通じるバイパスリンクに対する競合(出回線競合)に対しては各段にバッファを配備してスループットを高め、また、カットスルー技術ならびにタイムスタンプ技術を用いることでパケットの到着順序を保証することができる。スイッチの特性を解析ならびにコンピュータシミュレーションにより評価を行い、任意の規模において優れた特性(高スループット、低セル損失率)が得られることを明らかにした。また、スイッチ規模に対する段数の増加傾向を求めた結果、図2に示すように、従来のスイッチ網に比べて少ない段数で優れた特性が得られることを明らかにした。

 第3章では、上記のスイッチ網をマルチキャストスイッチ網に拡張する方法を提案する。図3に示すような(n+1)-bitアドレッシングとアドレスインターバルによるコピーアルゴリズムを適用することで、コピーとルーティングを同一のハードウェア上で動作させ、従来のマルチキャストスイッチの問題点であったシステムとしてのハードウェア規模の増大、ヘッダ変換(コピーヘッダ→マルチキャストヘッダ)テーブル量の増大、セルの順序逆転、スループットの制限等を解決できることを明らかにした。また、コピースイッチとしての特性を解析ならびにコンピュータシミュレーションにより評価を行い、必要なセル損失率を満たすための段数は、ユニキャストの場合と比べて若干の増加で済むことを明らかにした。

 第4章では、上記のスイッチ網の実用性を検証するため、LSI化に伴うリンク配線変更アルゴリズムを明確にするとともに、高速大容量LSIの試作例を示す。本スイッチでは、図4に示すような2s×2s(s〓2)サブネットワークのLSI化により2n×2n(n〓s)の任意規模のスイッチ網を組み上げることができ、従来のように複数LSIを製造する必要がないことを証明した。また、図5に示すような8×8サブネットワークのLSIを試作し、全ての機能(マルチキャスト、リンク競合制御、タイムスタンプ比較等)が正常に動作することを確認し、また、スループットの試験において、40Gbit/s(5Gbit/s 8×8)という優れた結果が得られることを示した。また、現状のLSI技術によるスイッチ網の実現規模を推定し、テラビットスイッチ実現の見通しを示した。

 第5章では、再ルーティング型スイッチアーキテクチャの汎用性を示すために、空間分割型スイッチの一種であるフリースペース型フォトニックスイッチへの展開例を示す。光スイッチ素子での実現を考慮した2×2のスイッチエレメントを用いた変形スイッチアーキテクチャならびにコネクション設定アルゴリズムを提案した。スイッチのブロック率特性を求め、少ないハードウェア量で低いブロック率を実現できることを明らかにした。また、現在入手可能な光素子による実現例として、図6に示すような液晶偏光制御素子と方解石複屈折板による構成例などを示し、本スイッチの実現性の高さを示した。

 第6章では、本論文で述べた内容の要点をまとめるとともに、今後の光ネットワーク時代における研究の方向性について言及する。

 (以上)

図1 再ルーティング型セルフルーティングスイッチ

図2 所要段数(負荷0.9、セル損失率10-9)

図3 マルチキャストのためのアーキテクチャ

図4 サブネットワークによるスイッチ網の構成

図5 8×8サブネットワークLSI

図6 偏光制御素子と複屈折板をもちいた光スイッチ構成例

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「超高速大容量セルフルーティングスイッチの研究」と題し、増大するインターネット系トラヒックを経済的かつスケーラブルに処理する通信ネットワークの中核となる装置の構成手法を論じたもので、六章で構成されている。

 第1章は「序論」であり、インターネット系サービスを実現する装置であるATM(Asynchronous Transfer Mode)システムや高速IPルータがテラビットを処理することが求められ、この実現のためには従来のアーキテクチャでは困難であることを示すことで本論文の目的を明らかにしている。

 第2章は「再ルーティング型セルフルーティングスイッチの提案と特性評価」と題し、本論文全体に亘って基本となる新たなセルフルーティングスイッチアーキテクチャである「再ルーティング型セルフルーティングスイッチ」を提案し、本スイッチにおけるセルの競合回避制御が再ルーティングにより実現さる機能的特長、各スイッチ段にバッファを配置することによるスループットの向上、カットスルーならびにタイムスタンプによる順序保証等を明らかにした後に特性解析を行い、シミュレーションによる評価により規模にスケーラブルな特性を明らかにしている。

 第3章は「マルチキャストアルゴリズムの提案と特性評価」と題し、再ルーティング型セルフルーティングスイッチをマルチキャストスイッチに拡張する手法を提案し、コピーとルーティングを同一のハードウェアで実現し制御するアルゴリズムを適用することでハードウェア量の増大を防ぎ、順序逆転とスループットの制約を無くすことが可能であることを示し、特性解析とシミュレーション評価により、ユニキャストと比較してスイッチ段数を若干するだけでマルチキャストスイッチを実現できることを明らかにしている。

 第4章は「LSI化のためのリンク配線アルゴリズムとLSI動作特性」と題し、再ルーティング型セルフルーティングスイッチをLSI化するとき、基本ユニットを繰返し利用するために必要となる配線アルゴリズムを提示し、基本ユニットのLSI化により任意規模のスイッチを実現できることを証明したのち、LSIを試作し、マルチキャスト、競合回避制御ならびにタイムスタンプ制御を含む全ての機能の動作を確認し、更に8×8スイッチにおいて40Gbit/sのスループットを実現することで、テラビットスイッチを実現する見通しを示している。

 第5章は「フリースペースフォトニックスイッチへの展開」と題し、再ルーティング型セルフルーティングスイッチの今後の拡張方策を論じ、光スイッチ素子として2×2スイッチを想定したとき、スイッチアーキテクチャの変形と制御アルゴリズムの変更により本論文の議論が有効に活用できることを論じ、液晶偏光制御素子と方解石複屈折板による構成例を提示することで実現性を示している。

 第6章は「結論」である。

 以上、本論文は超高速ネットワークサービスを実現するための中核的装置である超高速ルータ等に適用するスイッチ構成を論じ、従来の問題を解決するために超高速再ルーティング型セルフルーティングスイッチを提案し、高スループット、低損失、順序逆転の回避、マルチキャストへの拡張など技術課題の解決方策を解析と具体的実現を通して明らかにすることで、現在のインターネットサービスの超高速化のみならずフォトニックネットワークの実現にも適用できる汎用性を示したものであって、通信工学の発展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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