No | 215237 | |
著者(漢字) | 原田,敦史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハラダ,アツシ | |
標題(和) | 荷電を有するブロック共重合体からなる新規超分子集合体の構造設計とその機能性材料としての有用性 | |
標題(洋) | Structural Design of Novel Supramolecular Assembly from Charged Block Copolymers and Its Utilities as Functional Materials | |
報告番号 | 215237 | |
報告番号 | 乙15237 | |
学位授与日 | 2002.01.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15237号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 材料学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、高分子鎖が溶液中で会合することによって形成される超分子集合体がさまざまな分野において注目を集めている。中でも、AB型ブロック共重合体が選択溶媒(一方の連鎖にとって良溶媒、もう一方の連鎖にとって貧溶媒である溶媒)中において会合することによって形成される高分子ミセルは、自発的に数十nm程度の均一粒子となるなど物理化学的に興味深い基礎物性を示すのみならず、安定なcore-shell構造を有するという特徴を生かして、薬物送達システム(DDS)や表面処理材料などの機能性材料への展開が積極的に進められている。 これまで知られている水を媒体とする高分子ミセルにおいては、親水性連鎖と疎水性連鎖からなるブロック共重合体が用いられ、疎水性連鎖間の疎水性相互作用がミセル形成の直接の駆動力であった。本研究では、このような高分子ミセル形成の原理が、必ずしも疎水性相互作用を駆動力とする場合に限られたものではなく、他の分子間相互作用を介した場合にも成立するものであると考え、水溶液中での静電相互作用を利用した高分子ミセル形成について検討を行い、反対荷電を有するブロック共重合体間の自発的な会合によりコア−シェル構造を有する高分子ミセル(ポリイオンコンプレックス(PIC)ミセル)が形成されることを見出した。さらに、このPICミセル形成は、反対荷電を有するブロック共重合体間に限定されたものでなく、一方が荷電を有するホモポリマーである場合や酵素を用いた場合にも形成されることを証明し、その酵素活性を評価することより、機能性材料としての有用性について検討を行った。 以下に本論文の各章の概要を示す。 第1章 諸論として、本論文の背景となるブロック共重合体が形成する超分子集合体の超分子化学における位置付け及び機能性材料への研究例を述べ、本論文の目的と構成について述べている。 第2章 荷電を有するブロック共重合体の特性解析として、poly(ethylene glycol)とポリアミノ酸であるpoly(L-lysine)のブロック共重合体[PEG-P(Lys)]を合成し、P(Lys)連鎖のコンフォメーション変化について検討を行った。重合度が低いためにα-helix構造を形成することが困難なP(Lys)がPEGとブロック共重合体化することによって、安定なα-helix構造を形成することが可能となることが確認された。また、helix構造を有している状態では、2分子会合したミセル様超分子集合体が形成されることが確認された。さらに、加熱によりhelix構造からβ-sheet構造への転移も可能となることが確認された。 第3章 反対荷電を有するブロック共重合体間・ブロック共重合体/ホモポリマー間でのPICミセルの調製及び特性解析を行った。アニオン性ブロック共重合体として、PEG-poly(aspartic acid)ブロック共重合体[PEG-P(Asp)]とカチオン性ポリマーとしてPEG-P(Lys)とP(Lys)ホモポリマーが用いられた。PEG-P(Asp)とPEG-P(Lys)あるいはP(Lys)を電荷を中和するよう混合することによって、極めて粒径分布の狭いPICミセルが形成されることが確認された。また、PICミセルの流体力学半径や内核半径などの物理化学的特性が光散乱測定により検討され、PICミセル形成においては、内核と外殻の界面における外殻を構成する連鎖(PEG連鎖)の密度がブロック共重合体連鎖の荷電連鎖鎖長によって支配されていることが確認された。さらに、異なるP(Asp)連鎖重合度のPEG-P(Asp)の混合溶液にPEG-P(Lys)を添加すると、相補的な荷電連鎖重合度のPEG-P(Asp)と選択的にPICミセル形成するという明確な鎖長認識現象が起こることが発見された。この認識現象は、荷電連鎖重合度が非相補的な組み合わせにおいては、電荷を中和する最小単位での会合にとどまり、PICミセルのような多分子集合体に成長できないために生じたものであることが示唆された。さらに、この認識現象は、重合度の差が20程度の場合にも生じることが示唆され、極めて選択性の高いものであることが示唆された。 第4章 酵素を内包したPICミセルの調製とその特性解析が行われた。モデル酵素としてその構造及び酵素反応機構が明らかなカチオン性酵素である卵白リゾチームを選択し、アニオン性ブロック共重合体であるPEG-P(Asp)と種々混合比で混合することによってその形成の化学量論性が評価され、化学量論的な混合比がPEG-P(Asp)のAsp残基の数とリゾチームのLys, Arg残基の数が等しい比であることが確認された。また、化学量論的混合比よりPEG-P(Asp)が過剰な混合比においても単分散な粒子を形成された。このような混合比においては、PEG-P(Asp)比率の増大に伴い、外殻層のPEG密度が増大することによりPEG連鎖がよりのびたコンフォメーションをとる結果として流体力学半径の増大が生じることが示された。また、リゾチーム内包PICミセルのイオン強度変化に対する安定性が評価され、150mM NaClにおいて完全にPICミセルが解離していることが確認された。また、イオン強度変化に対してPICミセル形成の可逆性が確認された。基質としてミセルに比べて大きなサイズを有するMicrococcus luteus cellを基質として用いた場合に、この可逆的ミセル形成に同期した酵素活性のON-OFF制御が可能であることが示された。さらに、PICミセル内核における酵素活性が評価された。PICミセルに内包することによって最大2の比活性が示された。酵素反応の速度論(ミカエリス定数及び最大反応速度)を評価した結果、ミセルへの基質の濃縮効果によるものであることが示唆された。さらに、ミセル相への基質の分配係数が外殻層厚さと良い相関を示し、外殻層が基質のリザーバーの役割を担っている可能性があることが示唆された。 第5章 総括として本論文全体の内容をまとめるとともに、PICミセルの機能性材料としての可能性について示した。 | |
審査要旨 | ブロック共重合体が自発的に会合することによって形成される高分子ミセルは、明確なコア−シェル構造を有し、サイズ的にも数十nmというメゾスコピック領域に位置するなどのユニークな特徴を示すことから、薬物送達システム(DDS)や表面処理材料などの機能性材料への展開が積極的に進められている。 本論文は、ブロック共重合体からの会合体形成の原理を拡張することによって、水溶液中での静電相互作用に基づいた高分子ミセルの形成とその材料学的特性について検討を行っている。すなわち、反対荷電を有するブロック共重合体間の自発的な会合によりコア−シェル構造を有する高分子ミセル(ポリイオンコンプレックス(PIC)ミセル)が形成されることを見出し、かつ、このPICミセル形成が、反対荷電を有するブロック共重合体間の組み合わせに限定されるものではなく、一方が荷電を有するホモポリマーである場合や酵素を用いた場合にも生起することを証明している。さらに、ミセル内包酵素の活性測定を通じてPICミセルの機能性材料としての有用性についても詳細な検討を行っている。 第1章は、緒論であり、ブロック共重合体から形成される超分子集合体の材料学における位置付けを示すとともに、その機能性材料への展開例の紹介を通じて本論文の目的と構成について述べている。 第2章においては、poly(ethylene glycol)とポリアミノ酸であるpoly(L-lysine)のブロック共重合体[PEG-P(Lys)]を合成し、P(Lys)鎖のコンフォメーション変化について検討を行うことにより、ポリアミノ酸鎖の二次構造(α-helixやβ-sheet構造)形成への異種高分子鎖の影響を評価している。酸塩基滴定及び円偏光二色性測定により、安定なhelix構造を形成することが困難な鎖長のP(Lys)鎖がPEG鎖とのブロック共重合体化により、helix構造形成が可能となることを見出している。helix構造を形成している状態においては、PEG-P(Lys)二分子からなるミセル様超分子集合体を形成していることを二次元1H-NMR測定、静的光散乱測定により明らかにしている。さらに、熱負荷によってミセル状態でhelix構造からβ-sheet構造への転移が生起することも見出し、その際には会合数の増加が伴うことも確認している。以上の結果から、ポリアミノ酸鎖の二次構造がブロック共重合体鎖の会合において重要な因子であると結論づけている。 第3章においては、反対荷電を有するブロック共重合体間あるいはブロック共重合体とホモポリマー間でのPICミセルの調製及び特性解析を行っている。アニオン性ブロック共重合体として、PEG-poly(aspartic acid)ブロック共重合体[PEG-P(Asp)]、カチオン性ポリマーとしてPEG-P(Lys)ならびにP(Lys)が用いられた。PEG-P(Asp)とPEG-P(Lys)あるいはP(Lys)を、その電荷を中和するように混合することによって、ポリスチレンラテックスや天然の超分子集合体であるウイルスに匹敵する極めて粒径分布の狭いPICミセルが形成されることを光散乱測定、原子間力顕微鏡観察により確認している。また、PICミセルの流体力学半径や内核半径などの物理化学的特性を光散乱測定により評価することにより、PICミセル形成においては、内核と外殻の界面における外殻構成鎖(PEG鎖)の密度とブロック共重合体鎖の荷電鎖鎖長が重要な因子であることを確認している。さらに、荷電鎖鎖長の重要性を反映する結果として、柔軟な高分子鎖からの超分子集合体(PICミセル)形成において明確な鎖長認識現象が起こることを発見し、高分子鎖からなる超分子集合体の構造設計においては、構成鎖の長さ及びブロック共重合体間の界面を考慮することが重要であると結論づけている。 第4章においては、酵素を内包したPICミセルの調製とその特性解析を行っている。カチオン性酵素である卵白リゾチームとアニオン性ブロック共重合体であるPEG-P(Asp)を種々混合比で混合した溶液について光散乱測定を行い、形成の化学量論性を明らかとしている。化学量論的混合比以上の比率でPEG-P(Asp)が添加された場合には、単分散な粒子形成が認められ、PEG-P(Asp)比率の増大に伴い、外殻層のPEG鎖密度が増大することによりPEG鎖がよりのびたコンフォメーションをとる結果として、流体力学半径の増大が生じることを確認している。また、リゾチーム内包PICミセルにおいては、イオン強度変化に対応してPICミセル形成が可逆的に起こることを光散乱測定により確認し、可逆的ミセル形成に同期した酵素活性のON-OFF制御が可能であることを明らかとしている。さらに、PICミセル内核を酵素反応場として利用することについても検討を行い、PICミセルに内包することによって酵素反応が促進されることを確認している。その理由を明らかとするために、酵素反応の速度論(ミカエリス定数及び最大反応速度)を評価し、ミセル外殻が基質のリザーバーとして機能することによる濃縮効果によるものであることを明らかとしている。以上の結果から、酵素内包PICミセルは、酵素活性を示す場所・時間の制御が必要とされる治療や効果的に酵素が機能(活性)発現することが重要となる診断を目的とした材料として高い有用性を有していると結論づけている。 第5章は、総括である。 以上要するに、本論文においては、新たな超分子集合体の設計指針を示し、特に、PICミセルの生体機能材料としての有用性を示している。このような知見は今後、バイオメディカル分野をはじめとする種々の分野における機能性材料設計に大きく貢献するものであり、材料工学的見地からも高い有用性が期待される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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