学位論文要旨



No 215247
著者(漢字) 今荘,智恵子
著者(英字)
著者(カナ) イマジョウ,チエコ
標題(和) 前立腺におけるエンドセリン−1と選択的エンドセリンA受容体拮抗薬の特性の検討
標題(洋)
報告番号 215247
報告番号 乙15247
学位授与日 2002.01.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15247号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 助教授 菊地,かな子
 東京大学 助教授 後藤,淳郎
 東京大学 助教授 本間,之夫
 東京大学 講師 平田,恭信
内容要旨 要旨を表示する

目的:前立腺におけるエンドセリンに関連した収縮機能を研究することにより、エンドセリンA受容体拮抗薬の前立腺肥大症治療薬としての可能性を検討すること。

研究方法:実験I.至適条件設定実験

 実験1.[125I]エンドセリン-1(ET-1)を用いた結合実験において、ヒトおよびイヌ前立腺に対する至適実験時間を検討した。

 実験2.ヒト前立腺切片を用いた等張性収縮実験を行い、ET-1による試験管内での収縮反応を観察し、本実験でのET-1の至適投与量を検討した。

 実験3.イヌ前立腺部尿道内圧の測定下にET-1を投与し、本実験での至適投予方法と投与量を検討した。

実験II.本実験

 実験1.ヒトおよびイヌ前立腺において[125I]ET-1を用いた飽和結合実験と2種のエンドセリンA(ETA)受容体拮抗薬(PD155080、BQ123)を用いた競合実験を行い、エンドセリン受容体の分布およびET-1、ETA受容体拮抗薬のエンドセリン受容体に対する親和性、選択性につき検討した。

 実験2.ヒト前立腺切片を用いてET-1による等張性収縮実験を行い、ETA受容体拮抗薬の収縮阻害効果を検討した。

 実験3.イヌ前立腺部尿道内圧の測定下にET-1を静脈内投与し、尿道内圧の変化を観察した。次にETA受容体拮抗薬およびα−ブロッカーを投与し、収縮阻害効果を検討した。

結果:実験I

 実験1.ヒト前立腺に対しては予備反応時間10分間、反応時間120分間、洗浄1分間、イヌ前立腺に対しては予備反応時間20分間、反応時間120分間、洗浄5分間が至適反応時間であった。

 実験2.ET-1は10-10Mよりなだらかで20分間以上持続する収縮を起こし、収縮は10-6Mで最大となった。

 実験3.動物実験におけるET-1投与法は薬剤を生理食塩水10mlに溶解し、手動で静脈内投与する方法、投与量は50ng/kg、250ng/kg、500ng/kgが至適であった。

実験II.本実験

 実験1.[125I]ET-1を用いた結合実験で、[125I]ET-1の特異的結合

 結論:前立腺にはET受容体、特にETA受容体が豊富に分布しており、ET-1の投与は生体内でも試験管内でも有意な収縮を起こした。また、これらの収縮はETA受容体拮抗薬にて阻害された。生体内での収縮はα−ブロッカーでは阻害されなかった。これらの実験結果よりETA受容体拮抗薬はα−ブロッカーが無効または効果が不十分な前立腺肥大症による排尿障害に対する治療薬として有用である可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は前立腺肥大症による排尿障害に関係すると考えられる、前立腺おけるエンドセリンに関連した収縮機能を研究することにより、エンドセリンA受容体拮抗薬の前立腺肥大症治療薬としての可能性を検討したものであり、下記の結果を得ている。

1.ヒトおよびイヌ前立腺において[125I]ET-1を用いた飽和結合実験と2種のエンドセリンA(ETA)受容体拮抗薬(PD155080、BQ123)を用いた競合実験を行い、エンドセリン受容体の分布およびET-1、ETA受容体拮抗薬のエンドセリン受容体に対する親和性、選択性につき検討した。その結果、[125I]ET-1を用いた結合実験で、[125I]ET-1の特異的結合は飽和曲線を描き、Kd(解離定数)、Bmax(最大結合部位数)はヒト前立腺で0.55±0.12nM、47.14±10.26fmol/mg wet weight、イヌ前立腺で1.36±0.27nM、22.36±7.74fmol/mg wet weightであった。2種のエンドセリン受容体のサブタイプ(ETA受容体、ETB受容体)の密度比はヒトおよびイヌ前立腺とも3:2であった。ETA受容体に対する親和性はBQ123に比しPD155080で有意に大であったが、ETA受容体とETB受容体に対する選択性には差がなかった。

2.ヒト前立腺切片を用いてET-1による等張性収縮実験を行い、ETA受容体拮抗薬の収縮阻害効果を検討した。その結果、ET-1はヒト前立腺に対して有意な収縮を起こした。最大収縮Emax 0.17±0.03g/mm2、最大の50%の反応を起こすET-1の濃度EC50 0.49±0.11nMであった。PD155080、BQ123はET-1のdose-response curveを右方へ変位させたが、ETB受容体作動薬であるサラホトキシン(S6C)による収縮には影響を及ぼさなかった。

3.イヌ前立腺部尿道内圧の測定下にET-1を静脈内投与し、尿道内圧の変化を観察した。次にETA受容体拮抗薬およびα−ブロッカーを前投与し、ET-1による尿道内圧の変化に対する効果を検討した。

その結果、イヌ前立腺部尿道内圧測定で、ET-1はなだらかで持続の長い前立腺部尿道内圧の上昇を引き起こした。収縮高は用量依存性であり、250ng/kg投与、500ng/kg投与にてphenylephrine10μg/kgによる収縮の各9.8±1.5%、16.1±4.9%であった。持続時間は各384.0±136.2秒、300.8±113.6秒であり、phenylephrineの約2倍程度の持続であった。ETA受容体拮抗薬PD155080はET-1による尿道の収縮反応を用量依存性に阻害し、1.0mg投与にて完全に阻害した。α−ブロッカーはET-1による尿道の収縮に影響を与えなかった。

 以上、本論文はETA受容体拮抗薬はα−ブロッカーが無効または効果が不十分な前立腺肥大症による排尿障害に対する治療薬として有用である可能性があることを明らかにした。本研究は前立腺肥大症に対する薬物療法の発展に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク