学位論文要旨



No 215249
著者(漢字) 三井,秀人
著者(英字)
著者(カナ) ミツイ,ヒデト
標題(和) 中国のコールベッドメタン開発
標題(洋)
報告番号 215249
報告番号 乙15249
学位授与日 2002.01.24
学位種別 論文博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 第15249号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷内,達
 東京大学 教授 荒井,良雄
 東京大学 助教授 松原,宏
 東京大学 助教授 永田,淳嗣
 北京大学 副教授 李,国平
内容要旨 要旨を表示する

 エネルギー問題の所在は、需給・コストに加え環境問題への対応が重要な要素である。天然ガスは石油・石炭に比ベエネルギー問題への対応面で優位性を持つエネルギー資源であり、各国のエネルギーミックスの中での比重は益々重要なものとなろう。本論文では中国のエネルギー政策における天然ガスの役割強化の視点に立ち、未利用天然ガスとしてのコールベッドメタンの活用方法に関し論ずるものである。

 中国のエネルギー消費量の伸びは、1993年から1998年には14.3%であった。同国のエネルギー消費量は経済成長と密接な関係が有り、かつエネルギーの供給源を確保し安定的に供給する事は中国の国家目標の一つの課題である。

 中国のエネルギー供給源の75%は世界第1位という豊富な埋蔵量を誇る石炭により賄われている。石油は20%の比率を占めるが、可採埋蔵量の増加努力にも拘らず増産は困難な状況であり、現状維持がせいぜいと考えられる。石炭は資源量としては問題は無いものの、輸送力にボトルネックが有る事と、環境負荷量が大きいので各地で公害問題が顕在化しており、むしろ利用比率を下げねばならない。主要エネルギー源のこの様な状況下、天然ガス利用量の拡大は望ましい方向である。中国では天然ガスの探鉱開発に注力し資源確保の努力はしているものの、天然ガスの比重はエネルギー供給源の2%の水準に留まっている。

 コールベッドメタン(CBM)は石炭層中に賦存するメタンガスであるが、既存型の天然ガスと同様の性状を持つ。中国でのコールベッドメタンの賦存量は1000TCF以上と推計されており、賦存地は石炭の賦存箇所と同一箇所である。採炭に伴ない発生するコールベッドメタンはこれ迄炭鉱周辺にて僅かの数量が利用されているが、大部分は炭鉱の安全管理の観点から抽出され大気中に排気されている。このコールベッドメタンをエネルギー源として有効活用を図ることを目的として、中国煤炭工業部及び中国地質砿産部は国内のコールベッドメタン資源の賦存量調査を実施した。1990年代前半が賦存量調査という第1段階とすれば、1990年代後半はコールベッドメタンの商業的利用に関する企業化調査の実施と、先行的プロジェクトの着手という第2段階にある。但しコールベッドメタン事業化のスピードが鈍っているのは、生産に関する技術的課題が有るのと、事業環境が未成熟の点が有るからである。

 本論文ではコールベッドメタンの商業的利用の先進国である米国の事例と比較検討する手法により、中国でのコールベッドメタン利用の問題点を、技術的側面と事業環境の側面とから分析し、今後の課題を整理し方向性を提示するものである。又中国でのコールベッドメタンの賦存地及び消費地の地理的条件を考慮した上で、コールベッドメタン開発利用のモデルプロジェクトを提言している。

 技術的課題としては、CBM生産性の重要な規定要因である石炭層中のガス浸透率が中国では米国と比較して低いケースが多い。その諸原因としてはCBMが賦存する石炭層の生成年代が多様であり、石炭品位もCBM生産に適した瀝青炭の比率は14%程度であること、更に硬度の軟らかい石炭層も浸透率を下げる要因となっている。又地質作用を受け複雑な構造が多いこと、石炭層中の水の保有量が少ないことも浸透率が小さい要因である。生産性の観点から中国の石炭層及びコールベッドメタンの賦存状態に適合した開発方式を確立することが当面の課題である。

 更に事業環境整備の観点からすると、法制度面からのコールベッドメタン所有権の明確化、許認可に関する行政的運用の確立が課題である。米国との最大の相違点は天然ガスのマーケットが未成熟であること。即ち生産されたガスの輸送インフラが整備途上であるし、都市における都市ガス利用体系も未成熟である。更に天然ガスの価格体系がコストを回収できぬ低水準に設定管理されているので、投資のインセンティブが損なわれることである。この様な事業環境を整備する事と、米国でも立上げ時期に採用した税制上のインセンティブ政策を確立し、コールベッドメタンへの投資を誘導することを提言する。

 この様な事業環境が整備され、コールベッドメタンの開発利用が促進される事を願うと共に、未利用エネルギーに留まっているコールベッドメタンが、今後の中国のエネルギーミックスの中で重要な役割を荷うことを期待するものである。

審査要旨 要旨を表示する

 コールベッドメタンは,石炭層に賦存するメタンガスで,他の化石燃料に比べて環境負荷が小さいことを含めて一般の天然ガスと同様の性状を持っており,天然ガスの一種である。しかしながらコールベッドメタンの開発・利用の事例は世界的に見ても少なく,いわば未利用のエネルギー資源であり,したがってこれに関する研究も少ない。また,本論文の主要な研究対象地域である中国は,コールベッドメタンの潜在的な開発可能性が大きい地域であり,中国におけるコールベッドメタンの開発・利用は,今後の世界的なエネルギー資源の開発・利用及び地球環境問題への対処という国際的な政策課題の観点からも,重要な意義を持っている。このような状況に鑑み,本論文は,論文提出者の長年にわたる豊富な調査研究の実績に基づいて,中国におけるコールベッドメタンの開発・利用の技術的・経済的・制度的な問題点を分析するとともに,今後の開発可能性について展望したものである。

 本論文は5章から成る。まず第1章では,世界のエネルギー問題に関する現在及び将来における基本的な問題意識に基づいて,今後有望なエネルギー資源として期待される天然ガスとしてのコールベッドメタンの開発・利用の重要性を明らかにするとともに,特に中国におけるコールベッドメタンの開発・利用を主たる事例として論ずることの意義を提示した。

 第2章では,中国におけるエネルギー資源の開発・利用及び需要・供給の基本的な構造並びに問題点について,エネルギー資源全般にわたって総合的に分析することによって,石炭・石油資源の限界を示すとともに,中国における今後のエネルギー資源の開発・利用において天然ガス資源,特にコールベッドメタンが重要であることを明らかにした。

 第3章では,コールベッドメタンの開発・利用に関わる自然科学的・技術的特徴を,一般の天然ガスとの共通点及び相違点に着目して整理し,コールベッドメタンの開発・利用の先駆的な事例であるアメリカ合衆国での事例分析に基づいて,技術的諸条件及び経済的・制度的諸条件の両面から,コールベッドメタンの事業化に関する一般的な成立要件を明らかにした。

 第4章では,中国におけるコールベッドメタンの開発・利用の現状を分析し,将来的な可能性を検討した。すなわち中国におけるコールベッドメタンの賦存状況における技術的特徴を,前章で明らかにされたアメリカ合衆国の事例との比較に基づいて明らかにした。そして中国におけるコールベッドメタンの開発・利用をめぐる経済的・制度的諸条件について,インフラストラクチャーや価格体系を中心とする制約等に起因する問題点を明らかにするとともに,コールベッドメタンによる電力供給体制における改善策をはじめとして,現在の中国の社会経済的状況を前提としたモデルプロジェクトを独自に提示した。

 そして第5章では,上記の研究成果に基づいて,中国におけるコールベッドメタンの開発・利用の必要性及び今後の展望をまとめるとともに,当面解決されるべき現実的な政策課題を提示した。

 以上のように,本論文は,今後の世界的なエネルギー資源の開発・利用及び地球環境問題への対処の両面から極めて重要でありながら,これまでは具体的な開発・利用の実例及びそれに関する調査研究の実績が乏しかったコールベッドメタンの開発・利用について,実証的な調査・分析の成果を駆使して貴重な学術的知見を提供するとともに,現実的な政策課題を明らかにした応用的研究の成果として,高く評価することができる。

 したがって,本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する。

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