学位論文要旨



No 215263
著者(漢字) 花房,昭彦
著者(英字)
著者(カナ) ハナフサ,アキヒコ
標題(和) 耳介形態異常治療支援システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 215263
報告番号 乙15263
学位授与日 2002.02.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15263号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 土肥,健純
 東京大学 教授 中村,仁彦
 東京大学 教授 矢作,直樹
 東京大学 教授 佐久間,一郎
 東京大学 講師 波多,伸彦
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は新生児の耳介形態異常の治療を支援するシステムの開発を目的としている.本研究の成果は耳介形状を数値情報で表して耳介形態異常の有無や程度を評価できるようにし,治療後の耳介目標形状および矯正具形状を生成できるようにしたこと,および治療に適切な形状の矯正具を設計,製作できる支援システムを開発したことである.

 本論文の第1章は序論であり,研究の背景と各章の概要と研究成果を概説している.

 第2章では上記本論文の目的を述べている.

 第3章では耳介の構造,形態異常の種類,これまでの治療方法に関して概説し,本論文が組織量は正常であるが形態に異常があるものを対象としていることを記述している.

 第4章では新生児耳介画像データの収集を行うために開発した耳介画像データベースシステムと,収集した550例の新生児耳介形状の解析結果が示されている.耳介外形形状および耳輪の内縁形状をスプライン関数を用いて表現し,正常例と耳介形態異常例を比較した結果,制御点の位置が異なることを明らかにしている.さらにこの解析結果の制御点分布情報によるマハラノビスの汎距離を利用して各群に属する確率を求め,その構成比による正常率,異常率を耳介形状の異常の程度の指標とする方法を考案している.

 第5章では治療後の目標となる耳介形状から矯正具形状の自動生成,矯正具製作用データへの自動変換が行えるシステムの説明を行っている.また耳介の三次元モデル構築のため,複数方向から計測した三次元データを面も色もあった状態で合成する手法を考案し,耳介に彩色することにより耳介の三次元データを短時間に高精度で合成可能であることを示している.

 第6章では矯正具装着時の変形量,耳介にかかる力の事前評価を行うために,徐々に矯正具を挿入する増分法と,各増分ステップで接触状態を更新する多点拘束処理を利用した有限要素法プログラムを開発している.さらに耳介にかかる力が指定値を越えない矯正具形状に自動修正する機能を組み込んでいる.また評価計算に必要な基本的な材料特性を,豚耳介軟骨および矯正具の材料として使用した形状記憶合金の材料試験により求めている.

 第7章では耳介形態異常治療用矯正具としては初めてTi-Ni形状記憶合金の線材を用いて矯正具の試作を行った結果を示している.

 第8章では厚さ0.5mmのシリコンチューブによるセンサ,厚さ0.2mmの歪みゲージ1枚によるシングルゲージセンサ,厚さ0.3mmの歪みゲージ2枚によるダブルゲージセンサを試作して矯正具に装着し,校正実験および耳介挿入実験を行った結果をシミュレーション結果と共に記述している.これらのセンサで接触力の計測が可能なこと,シミュレーションによって接触力のかかる箇所の推定,比較が可能なことを示している.

 第9章では本システムにより製作した矯正具を埋没耳,スタール耳,折れ耳等の患者へ適用した例について説明している.埋没耳,折れ耳の症例で耳輪を引き起こす場合,スタール耳の過剰な対輪や前に折れた耳垂を押さえる場合,計5例について症状を改善することが可能であった.また症状改善の程度を開発した数値指標で比較し,耳介の外形形状による制御点情報だけでなく,耳輪の内縁形状による制御点情報も共に使用した異常率の方が症状の程度を正確に表わしていた.

 第10章では今後の課題を第11章では以上の研究の成果をまとめた結論を,第12章では謝辞を示している.

審査要旨 要旨を表示する

 論文題目「耳介形態異常治療支援システムに関する研究」の学位請求論文は,新生児の耳介形態異常の治療を支援するシステムの開発を目的としたものである.本研究の成果は,耳介形状を数値情報で表して耳介形態異常の有無や程度を評価できるようにし,治療後の耳介目標形状および矯正具形状を生成できるようにしたこと,および治療に適切な形状の矯正具を設計,製作できる支援システムを開発したことである.

 本論文の第1章は序論であり,研究の背景と各章の概要と研究成果を概説している.

 第2章では上記本論文の目的を述べている.

 第3章では耳介の構造,形態異常の種類,これまでの治療方法に関して概説し,本論文が組織量は正常であるが形態に異常があるものを対象としていることを記述している.

 第4章では新生児耳介画像データの収集を行うために開発した耳介画像データベースシステムと,収集した550例の新生児耳介形状の解析結果が示されている.耳介外形形状および耳輪の内縁形状をスプライン関数を用いて表現し,正常例と耳介形態異常例を比較した結果,制御点の位置が異なることを明らかにしている.さらにこの解析結果の制御点分布情報によるマハラノビスの汎距離を利用して各群に属する確率を求め,その構成比による正常率,異常率を耳介形状の異常の程度の指標とする方法を考案している.

 第5章では治療後の目標となる耳介形状から矯正具形状の自動生成,矯正具製作用データへの自動変換が行えるシステムの説明を行っている.また耳介の三次元モデル構築のため,複数方向から計測した三次元データを面も色もあった状態で合成する手法を考案し,耳介に彩色することにより耳介の三次元データを短時間に高精度で合成可能であることを示している.

 第6章では矯正具装着時の変形量,耳介にかかる力の事前評価を行うために,徐々に矯正具を挿入する増分法と,各増分ステップで接触状態を更新する多点拘束処理を利用した有限要素法プログラムを開発している.さらに耳介にかかる力が指定値を越えない矯正具形状に自動修正する機能を組み込んでいる.また評価計算に必要な基本的な材料特性を,豚耳介軟骨および矯正具の材料として使用した形状記憶合金の材料試験により求めている.

 第7章では耳介形態異常治療用矯正具としては初めてTi-Ni形状記憶合金の線材を用いて矯正具の試作を行った結果を示している.

 第8章では厚さ0.5mmのシリコンチューブによるセンサ,厚さ0.2mmの歪みゲージ1枚によるシングルゲージセンサ,厚さ0.3mmの歪みゲージ2枚によるダブルゲージセンサを試作して矯正具に装着し,校正実験および耳介挿入実験を行った結果をシミュレーション結果と共に記述している.これらのセンサで接触力の計測が可能なこと,シミュレーションによって接触力のかかる箇所の推定,比較が可能なことを示している.

 第9章では本システムにより製作した矯正具を埋没耳,スタール耳,折れ耳等の患者へ適用した例について説明している.埋没耳,折れ耳の症例で耳輪を引き起こす場合,スタール耳の過剰な対輪や前に折れた耳垂を押さえる場合,計5例について症状を改善することが可能であった.また症状改善の程度を開発した数値指標で比較し,耳介の外形形状による制御点情報だけでなく,耳輪の内縁形状による制御点情報も共に使用した異常率の方が症状の程度を正確に表わしていた.

 第10章では今後の課題を第11章では以上の研究の成果をまとめた結論を,第12章では謝辞を示している.

 以上のように,本論文は新生児の耳介形態異常に関して初めて定量的に解析し,かつその解析結果に基づく治療支援システムを開発した論文として極めて高い評価を与えることができる.これにより,従来医師の経験に頼っていた治療から,科学的治療の道を開き,多くの新生児にその恩恵をもたらすものといえる.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる.

 以上

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