No | 215307 | |
著者(漢字) | 長谷川,律雄 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハセガワ,リツオ | |
標題(和) | ホロノミック拘束を導入した姿勢記述法の一般化と姿勢基準装置への応用 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215307 | |
報告番号 | 乙15307 | |
学位授与日 | 2002.03.14 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15307号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.序論 航空機やロケットの姿勢はジャイロを用いて計測される。ジャイロは慣性空間に対する機体の角度や角速度を計測する。航空機やロケットの姿勢を表すために種々の表現が用いられている。 本研究では、特定の機軸方向を2つのパラメータで表しその周りの回転角と合わせて、3つのパラメータで機体姿勢を表す。この場合、その機軸周りの回転角はコーニング効果によりその機軸周りの角速度の積分にはならない。そこで機軸方向に対応して動くホロノミックな座標系を導入して、その座標系を基準として回転角を決める一般的な方法を提案し、それを用いて高速回転する機体の姿勢を計測する方法を確立した。 ロケット等の姿勢の計測は力学における回転の表現のパラメータを求めることと同じである。回転の表現として種々の方法があるが、回転軸とその周りの回転角を用いると3つのパラメータで回転を表すことができる。この論文の回転軸はEuler軸ではなく、ロケットの機体等の回転系に固定された特定の軸である。 回転軸が円錐運動をした場合、回転軸の周りの角速度が零でも回転軸の方向が元の方向に戻ったときその物体は回転軸周りに回転した方向を向く。この現象はコーニング効果と呼ばれGoodmanらが研究している。 しかし、回転軸の方向が変化して元の方向に戻らない時の回転角に関してはあまり研究されていない。本論文では回転軸の方向を任意の2つのパラメータで表したときの回転角を定義する方法を示した。この回転角を用いることにより、機体の姿勢(回転)を回転軸の方向と回転角の3つのパラメータで表すことができる。 姿勢基準装置の構成方法として、ステーブルプラットホーム方式とストラップダウン方式が従来使われてきた。しかし、高速回転する飛翔体にストラップダウン方式を用いて姿勢を計測する場合入力レンジの広い角速度センサーを必要とする他に、ミスアライメントや計算誤差等により精度が悪くなる問題がある。この場合ステーブルプラットホーム方式を用いることも考えられるが、構造が複雑で寸法・重量が大きくなる。従って、角速度の大きい機軸方向に自由度をもつ一軸プラットホーム型姿勢基準装置が優れている。 一軸プラットホームを用いるとき、プラットホームの回転軸周りの角速度を零に制御すると回転軸が円錐運動したとき、上述のようにコーニング効果により回転する。 そこで、回転軸の方向を計算が簡単になるような2個のパラメータで表し回転角を零にする角速度を求める。この角速度で一軸プラットホームを制御すると一軸プラットホームはホロノミックな拘束を受ける。この場合、機体の回転角はプラットホームと機体の相対角になる。 この方式より高速回転する機体姿勢の計測に適した一軸プラットホーム型姿勢基準装置を実現できる。実際にこの方式に基づいてロケット用姿勢基準装置を開発しMロケット等に搭載され実用的な装置であることを確認した。 2.回転軸と回転角による回転表現 ロケットの機体等の回転系に固定された回転座標系を(e1,e2,e3)とし、回転軸の方向をe1とする。e1の方向が変化したとき、回転座標系の原点を固定して考えるとe1の先端は半径1の球面上を動く。従って回転軸の方向と単位球面上の点は1対1に対応する。回転座標系の原点を回転軸方向に対応した単位球面上の点に置くとe1軸は球面に垂直でe2軸、e3軸は接平面上にのる。回転軸の方向が変化すると、その座標系は単位球面上を動く。 一方、回転系と関係なく単位球面上の単連結領域Dの点は2つのパラメータ(u1,u2)で表すことができる。単連結領域Dの各点にe10軸は球面に垂直でe20軸、e30軸は接平面上にある座標系(e10,e20,e30)を一つずつ対応させ、その点が動くとき点の関数として2階連続可能となるようにする。この座標系をここでは付随座標系とよぶ。このような1組の座標系を予め単位球面上に設定しておき、これを用いて回転角を次のように定義する。 [回転角の定義]ある時刻t=t0の時、物体に固定した座標系をF0としてその回転軸e1方向に対応する球面上の点をAとする。A点の付随座標系のe20軸とF0のe2軸のなす角をφ0とする。ある時刻t=t1の時、物体に固定した座標系をF1としてその回転軸方向に対応する球面上の点をBとする。B点の付随座標系のe20軸とF1のe2軸のなす角をφとする(第1図参照)。φ−φ0を物体の回転角と定義する。φ≠φ0の時、その物体は回転すると言う。 付随座標系(e10,e20,e30)の各軸周りの角速度をωi0,(i=1,2,3)とすると次のように表せる。 単位球面上を回転軸e1=e10が動いたとき角速度ωi0,(i=1,2,3)を係数とする微分方程式を積分して付随座標系(e10,e20,e30)および(u1,u2)が求められる。座標系(e10,e20,e30)が単連結領域D内で積分路に関係しないで(u1,u2)の関数として定まるための必要十分条件は微分幾何学の定理により、次の関係式を満足することである。 回転座標系(e1,e2,e3)のe1軸周りの角速度ω1とすると、回転角は で求められる。回転軸e1=e10が閉ループを描くときは 但し、Aは閉ループの囲む面積となる。これはGoodmanらのコーニングの式と本質的に一致する。 3.一軸プラットホーム型姿勢基準装置 回転軸と回転角の回転表現を使用して一軸プラットホーム型姿勢基準装置を構成することができる。プラットホームに固定した座標系を(e1,e2,e3)とし回転軸の方向をe1とする。この装置はプラットホーム上に3個の1自由度ジャイロG1、G2、G3を載せ第2図に示すように機体座標系のe1B軸とプラットホーム座標系のe1軸とが一致するように搭載される。ある付随座標系(e10,e20,e30)を選び、プラットホームの姿勢を表す3個のパラメータを(u1,u2,φ)とする。G1は入力軸がプラットホームの回転軸と一致し、プラットホームの回転を制御する。G2、G3の入力軸はプラットホームの回転軸と直角で角速度ω2,ω3を測定する。これらの出力からパラメータu1,u2とプラットホームをまわすべき角速度ω10が求められる。この角速度で回転すると、プラットホーム座標系は付随座標系と一致するように動く。機体のe1B軸周りの回転角は機体とプラットホームの相対角φBと同じである。この角をプラットホームの回転軸に取り付けたシンクロトランスミッタCXで測定すると、u1,u2とφBにより機体の姿勢が決定できる。 5.結論 本論文では、特定の機軸の方向とその機軸周りの回転角と合わせて3つのパラメータにより姿勢を表現し、それを利用して高速回転する機体の姿勢を計測する方法を示した。 この方法を用いて実際に一軸プラットホーム型姿勢基準装置を開発した。この装置はMロケットに搭載されて人工衛星の打ち上げに使用され一軸プラットホーム型姿勢基準装置が実用化された。また、S-520型観測ロケット等に搭載され所期の目的を達成し、高速にスピンする機体に対して優れた方式であることが証明された。 これらの装置の開発試験や飛翔実験を通して理論の正しさが確認された。 この方式は特にロール軸周りの角速度が大きい機体に適しているので今後も利用されると考えられる。また、さらに高速スピンする飛翔体にも利用できる。 本論文で述べた回転系に固定された回転軸の方向と回転角による回転の概念やシングルポール座標系による回転表現は、姿勢基準装置だけでなく広く回転体の解析に利用できる。 第1図 回転軸の方向が変化する時の回転 第2図 機体およびプラットホーム座標系 | |
審査要旨 | 工学修士 長谷川律雄 提出の論文は「ホロノミック拘束を導入した姿勢記述法の一般化と姿勢基準装置への応用」と題し、本文6章と、補遺6項よりなる。 航空機やロケット等の姿勢は一般にジャイロを用いて計測される。ジャイロは慣性空間に対する機体の角度や角速度を計測するもので、航空機やロケット等の姿勢を表すために種々の回転表現が考案され用いられてきた。従来の回転の記述方法にあっては、特に機体対称軸まわりに高速で回転運動を行う観測ロケット(Sounding Rocket)等においては、その機体軸に直交する軸まわりの角速度が小さいにもかかわらず、すべての軸まわりの角速度を機構的ないしは搭載の計算機論理上で座標変換と積分を行うことが要求され、高速で精度の高い姿勢表現を得ることに大きな困難を伴ってきた。そのような観測ロケット等の姿勢記述にあっては、機体軸の選択によって著しくその軸まわりの角速度が異なるという特徴を活かし、回転角は機体対称軸まわりだけの角度で表現し、その機体対称軸方向を必ずしも角度とは限らない何らかの2量で表現する方法が考えられうる。本研究では、このような特定の機軸方向を2つのパラメータで表し、その軸周りの回転角と合わせて、3つのパラメータで機体姿勢を表現する方法を、一般化して考察したものである。 この場合、その機軸周りの回転角は、その軸周りの角速度の積分とはならず、コーニング効果とよばれる現象を呈する。これは幾何学上の非ホロノミックな性質に起因するものである。この効果は、その軸の方向が元の方向に戻ったときに、すなわちその軸が単位球面上に描く軌跡が閉じたときに、その回転軸の周りの角速度がたとえ零に保たれていても、物体がその軸周りに回転してしまう現象として知られている。しかし、その軌跡が閉じない場合については、回転角そのものの定義があいまいであったために、この効果を定量的に記述あるいは計算する方法は確立されていなかった。 本論文は、微分幾何学上でホロノミックな拘束を導入した付随座標系による独自の回転角の定義を行い、その新たな計算法を確立したもので、任意の瞬間においても、すなわち回転軸の軌跡が閉じない場合にも、従来のコーニング効果の解釈と整合しつつ拡張された回転角を計算する新たな手法を与えることに成功している。 観測ロケット等における姿勢基準装置の構成方法としては、上述の理由により、角速度の大きい機体対称軸方向に自由度をもつ一軸プラットフォーム型の姿勢基準装置が優れている。しかし、一軸プラットフォームを用いる場合には、プラットフォームの回転軸周りの回転角は、その回転角速度を零に制御しても、上述のようにコーニング効果を生ずることとなる。本論文において数学的に構築されたホロノミック拘束の導入方法は、ここでプラットフォームの回転角を零に保つ新たな角速度を付加することとして実現されている。実際にこの方式に基づいて観測ロケット用の姿勢基準装置が開発、利用されているほか、衛星打ち上げロケットにも応用されるなど、実用的な装置であることが確認されている。 本論文が扱っている主題は、微分幾何学上でホロノミックな拘束を導入した付随座標系を用いて回転角を定義することにより、その回転角の新たな計算法を確立することである。これによりコーニング効果を排除した、機体軸方向と回転角による一般化された新たな姿勢表現を得、これを実用化したことにその成果がある。一般化によりオイラー角に限定されない任意の2パラメータによる機体軸方向の記述が可能となり、特異点の回避の点でも工学的な長所が見いだせる。 第1章は序論で、本研究の背景を概観し、従来の回転表現方法とその問題点のべ、本研究の目的をまとめている。 第2章は、回転表現の記述方法にあてられており、コーニング効果についての数学的な記述が行われている。 第3章は、本論文の根幹であり、独自の回転角の定義が微分幾何学上の性質から行われている。ホロノミックな拘束を、従来の研究結果と整合性を保ちつつ拡張した理論に基づいて与えることにより、コーニング効果の影響を排除した付随座標系を導入して、一意に回転角を計算できる新たな手法が述べられている。 第4章は、本論文の直接の工業的な実用例として一軸プラットフォーム型の姿勢基準装置の構成方法について述べ、具体的な実現方法を議論している。 第5章は、前章で構成した装置の試験と実際の飛翔結果について報告し、所期の目的が達成され、実用化に成功したことが報告されている。 第6章は、結論であり、本研究の成果を要約している。 以上要するに、本論文は、ホロノミックな拘束を導入して、特定の機軸の方向とその機軸周りの回転角の3つのパラメータにより一意に姿勢を表現する方法を一般化して確立し、それを利用して高速回転する観測ロケット等の姿勢を計測する装置を実現させ、ひろく回転表現の拡張性を具体的に提供したものであり、航空宇宙工学上寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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