学位論文要旨



No 215315
著者(漢字) 前之園,信也
著者(英字)
著者(カナ) マエノソノ,シンヤ
標題(和) 半導体ナノ粒子の自己配列と光機能
標題(洋)
報告番号 215315
報告番号 乙15315
学位授与日 2002.03.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15315号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 尾嶋,正治
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 山下,晃一
 東京大学 教授 中尾,真一
内容要旨 要旨を表示する

 半導体ナノ粒子は量子閉じ込め効果の発現によりバルクとは異なる物性を示すため、新しいオプトエレクトロニクス材料として近年注目を集めている。従来このような半導体ナノ構造の作製には気相法が主流であったが、生産性およびコストの面で有利なコロイド化学的合成法がここ数年で研究が活性化してきている。これまで合成法および単一ナノ粒子の光物性に関して精力的に研究が行われてきていたが、実際に半導体ナノ粒子を用いて光機能素子を作製する際にはナノ粒子薄膜を作製する必要が生じる。また素子としての性能向上のためにナノ粒子が密に充填された薄膜を作製する必要があるが、さらに粒子配列構造を制御することによって粒子群としての協同現象を発現させ、単一ナノ粒子とは異なる新規な機能を付加させることができる可能性がある。本論文は、新たなナノ粒子配列膜作製法の開発及び粒子配列構造と機能の関係を明らかにすることを目指す。

 ナノテクノロジーにおいては、機能を持った数A〜数nmのスケールの構成要素を数nm〜数十nmスケールの高次構造に組み立てる技術が必要となる。数A〜数nmのスケールの機能要素及び100nm以上のナノ構造作製技術に関しては構造制御可能となってきているが、その中間領域の構造制御技術は未だ完成されていない。ナノ粒子を機能要素と見做し、その高次構造を作製する、望ましくは規則配列させるという立場から、粒径分布が標準偏差で10%以下である必要がある。本論文では、その条件を満たす機能要素として、高量子効率と狭い粒径分布が達成可能なホットソープ法によるII-VI族化合物半導体のCdSeナノ粒子の合成に関して述べた。

 次に、ナノ粒子配列膜を効率よく作製するためにはナノ粒子の自己組織化を利用することが有効である。具体的にはナノ粒子サスペンションを固体基板上に塗布乾燥し、薄い液膜にトラップされた粒子に働くキャピラリー引力による自己配列を利用するということを考える。そこで、配列過程における粒子間相互作用力と粒子−基板間相互作用力がどのように配列構造に対して影響を及ぼしているかということを理解するために、モデル粒子を用いて移流集積法による2次元粒子配列過程の解析を行った。また、半導体ナノ粒子を構成要素としてナノ高次構造を作製する際に、パターニング技術もまた極めて重要な技術となる。パターニングは従来フォトレジストを用いるなどの手法が主流であったが、近年コスト的に有利かつ精細なパターニングが可能で自由度の高い方法として、インクジェット技術を応用したパターニング技術が様々な分野で注目され始めている。そこで、本論文においては、インクジェット法によるパターニングされた半導体ナノ粒子配列膜作製法の基礎検討として、液滴蒸発法による半導体ナノ粒子配列膜の形成過程について検討した。

 半導体ナノ粒子は量子閉じ込め効果によってエネルギー準位の離散化が起こるため、原子・分子とバルク結晶の中間の性質を示すことから人工原子とも呼ばれる。ナノ粒子を密に充填することによって粒子間相互作用による様々な協同現象が生じ単一ナノ粒子とは異なる機能を発現することが期待される。しかしながら従来単一の孤立した半導体ナノ粒子に関する研究が主であり、ナノ粒子配列膜における粒子群としての光機能を調べる必要がある。本論文ではCdSeナノ粒子の粒子配列膜において新たに見出した光メモリ効果について述べ、そのメカニズムについて考察をした。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「半導体ナノ粒子の自己配列と光機能」と題し、全6章から成っている。近年注目を集めているナノテクノロジーは、マテリアルサイエンスやバイオテクノロジーの分野においても重要な技術となってきている。ナノテクノロジーはトップダウン型とボトムアップ型の2種類に大きく分類できる。半導体ナノ粒子はボトムアップ型ナノテクノロジーの中で主要な位置を占めており、量子閉じ込め効果の発現によりバルクとは異なる物性を示すため、新しいオプトエレクトロニクス材料として近年注目を集めている。従来このような半導体ナノ構造の作製には気相法が主流であったが、生産性およびコストの面で有利なコロイド化学的合成法がここ数年で研究が活性化してきている。これまで合成法および単一ナノ粒子の光物性に関して精力的に研究が行われてきていたが、実際に半導体ナノ粒子を用いて光機能素子を作製する際にはナノ粒子薄膜を作製する必要が生じる。また素子としての性能向上のためにナノ粒子が密に充填された薄膜を作製する必要があるが、さらに粒子配列構造を制御することによって粒子群としての協同現象を発現させ、単一ナノ粒子とは異なる新規な機能を付加させることができる可能性がある。本論文は、新たなナノ粒子配列膜作製法の開発及び粒子配列構造と機能の関係を明らかにすることを目指すものである。

 第1章は緒論であり、本研究の背景と目的を述べている。半導体ナノ粒子と量子閉じ込め効果、ナノ粒子配列膜における協同現象、及びナノ粒子自己配列方法について論じ、機能に対する粒子配列構造の重要性および本研究の課題を明確にしている。

 第2章では、半導体ナノ粒子の合成方法について述べている。量子閉じ込め効果のように物性が粒径に強く依存する場合、また規則配列させる必要性がある場合には標準偏差10%以下の極めて狭い粒径分布が必要とされる。ナノ粒子の場合には分級は困難なため、一次粒子の粒径分布が狭い必要がある。高量子効率と狭い粒径分布が達成可能なホットソープ法によるII-VI族化合物半導体であるCdSeナノ粒子の合成に関して述べた。

 第3章では、モデル粒子を用いて、移流集積法における粒子配列過程を、1)サスペンション液膜の乾燥による薄膜化過程、2)核発生過程、3)核成長過程の3つの主要な過程に分離し、実験およびモデリングからそれぞれの過程を解析することによって、粒子配列構造に対する主要な因子および制御方法を明らかにした。

 第4章では、ナノ粒子配列をインクジェット法の応用によって任意の基板上にパターニングして製膜することを前提とし、液滴蒸発法において液滴外周部にナノ粒子のリング状堆積層が形成される過程の解析を行った。半導体ナノ粒子を構成要素としてナノ高次構造を作製する際に、パターニング技術もまた極めて重要な技術となる。パターニングは従来フォトレジストを用いるなどの手法が主流であったが、近年コスト的に有利かつ精細なパターニングが可能で自由度の高い方法として、インクジェット技術を応用したパターニング技術が様々な分野で注目され始めている。本章においてはインクジェット法によるパターニングされた半導体ナノ粒子配列膜作製法の基礎検討として、液滴蒸発法による半導体ナノ粒子配列膜の形成過程を検討し、その結果としてリング形成メカニズムを明らかにし、最終的に得られるリング形状の制御方法を明らかにした。

 第5章では、半導体ナノ粒子自己配列膜における光機能として、新たに光メモリ効果を見出した。また現象論的モデルにより光メモリ効果のメカニズムを明らかにした。即ち、光メモリ効果のメカニズムは、励起光照射によるナノ粒子の光イオン化に伴うマトリクス中のトラップサイトヘのキャリア(電子)のトラップが場を変化させることに起因する一種の協同現象として説明できることを示した。更に光メモリ効果はナノ粒子配列膜における配列構造、特に粒子充填密度によって大きく影響を受けることを実験およびモデリングの両面から示した。

 第6章は総括であり、第3章〜第5章において考察した各論、即ち「粒子配列プロセス」、「粒子配列構造」、「粒子配列膜における光機能」のそれぞれのステージが有機的に繋がっており、「粒子群としての協同現象」として結実していることを示し、本論文の総括としている。

 以上要するに、本研究は、論文提出者が自ら実施した半導体ナノ粒子の合成から機能化までの一通りの実験および解析を通じて得た、半導体ナノ粒子配列膜作製方法に対する指針と、半導体ナノ粒子配列における協同現象としての光メモリ効果について配列構造との関係を明らかにしたものであり、工学的に価値の高いものであり、化学システム工学に貢献するところ大である。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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