学位論文要旨



No 215326
著者(漢字) 玉井,光一
著者(英字)
著者(カナ) タマイ,コウイチ
標題(和) 高精細液晶ディスプレイにおける実装技術と実装システムの開発
標題(洋)
報告番号 215326
報告番号 乙15326
学位授与日 2002.04.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15326号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 助教授 伊藤,寿浩
 東京大学 助教授 川勝,英樹
 東京大学 教授 西尾,茂文
 東京大学 教授 藤田,博之
内容要旨 要旨を表示する

 液晶ディスプレイ,プラズマディスプレイ,有機ELを始めとして,フラットパネルディスプレイの伸長が目覚しい.この中で液晶ディスプレイが,生産量および適用事例も多く,最も普及している.液晶ディスプレイは,薄型・省電力の特長を生かして,ノート型パソコンや携帯電話に用いられてきた.最近ではビデオカメラ,アミューズメント機器など,さまざまな用途に展開されている.これらの用途拡大は,液晶ディスプレイが高精細化,低価格化さらに大型化が可能になってきた背景がある.液晶ディスプレイをさらに普及するには,ブラウン管の代替を可能とするため,より一層の高精細化と低価格化を実現する必要がある.

 これらの背景から開発の目的は,液晶ディスプレイの高精細化と低価格化を具現化することである.その中で(1)高精細化の課題に対して,液晶駆動ICの接続部材に導電体の微細化が可能な金属被膜付き弾性粒子を均一分布した異方性導電膜を提案し,高密度実装の可能性を実証する.さらに(2)低価格化の課題に対して,異方性導電膜を接続部材とした液晶駆動ICの一括実装方式とその装置化を提案し,その可能性を実証する.この要素技術開発をはじめ,他の工程の自動化技術を開発することにより全自動実装システムを構築し,生産性を実証する.

(1)異方性導電膜の開発

 液晶ディスプレイを高精細化するためには,液晶基板の画素ピッチと液晶駆動ICの接続ピッチを微細化し,それらを高精度に実装する必要がある.液晶駆動ICを液晶基板に実装する部材として,ラバーコネクタ,導電性ペースト,ヒートシールコネクタ,はんだ融着,異方性導電膜がある.これらの中から異方性導電膜を選択し,実装技術の高密度化の開発研究を行った.異方性導電膜は,厚さ15〜25μmの接着剤層中に粒径5〜10μmの導電性粒子を均一な分布で混入させたものである.液晶駆動IC〜異方性導電膜〜液晶基板を加熱・加圧することにより,上下間に導電性粒子を介して電気的接続を得る.一方,水平方向は接着剤層によって絶縁性が保たれる,異方性導電膜を選択した理由は,導電体の微細化が可能なため高密度実装に適しているからである.

 考案の新規性は導電体に従来の弾性のないカーボンファイバや金属の粒子から,金属被膜を施したラバーやエラストマなど弾性を有する部材を提案したことである.導電体が弾性を有することで電極間の接触面積が増加し低抵抗になることと,温度変化に対して接触点が追随できるため接続信頼性を高めることができる.

 この異方性導電膜の開発で液晶ディスプレイの高精細化が加速した.

(2)液晶駆動IC全自動実装システムの開発

 液晶ディスプレイ実装工程は,異方性導電膜の貼付け工程,液晶駆動ICの位置決め工程,液晶駆動ICの熱圧着工程の3工程からなる.以下の2件を代表とする装置要素技術の開発で,液晶ディスプレイ実装工程の全自動化を実現した.

 1件目は,複数枚のフィルム状液晶駆動ICを一度に実装するボンディングツールの開発である.温度が均一(553K±5K)で,高平面皮(3μm以下)を有する長尺(520mm)のボンディングツールを開発することである.異方性導電膜を介して,液晶駆動ICと液晶基板を接続する際,異方性導電膜の中の導電性粒子が均一に変形するように平面で平行に熱圧着することである.このためには,温度が均一で平面度を有するボンディングツールが必要となる.従来のボンディングツールは,温度の均一性および平面度からその長さは,50mmが限界で液晶駆動ICは一枚ずつ実装していた.ボンディングツールの長尺化を可能とするために,高温下でも平面度を得られる機構を開発した.また,温度の均一性については,有限体積法を始め解析技術によってボンディングツールの形状を決定した.これらにより,実装工程の生産性は,約5.5倍向上した.

 2件目は,実装工程の全自動実装システムを実現するための光学系および画像処理技術を始めとする要素技術の開発である.高密度化した液晶駆動ICおよび液晶基板を高精度(±5μm)位置決めするには,液晶駆動ICおよび液晶基板の夫々の接続端子を位置認識する必要があった.液晶ディスプレイの接続端子は,ITO(Indium Tin Oxide)で,できており別名で透明電極とも呼称されている.この目視しにくい電極を光学系の工夫と画像処理技術で,位置決め可能とした.

 このように液晶ディスプレイ実装工程は,市場の要請から高精細化・低価格化を決める重要工程として,徐々に改良,進展をみせているが,まだ多くの課題が残されている.本開発は,さらなる液晶ディスプレイの高精細化・低価格化を実現するために,課題を明らかにし,これを解決するための新たな要素部品の提案と,提案の具体化,提案の妥当性について明らかにしている.

 本論文は,異方性導電膜の材料開発からその接続のプロセス開発,さらに装置開発まで,液晶ディスプレイ実装工程の全域にわたって言及している.

 本論文は,第1章の緒論と第7章の総括を含めて全7章から構成している.

 第1章の「諸論」は,液晶ディスプレイ全体の製造工程と今回の開発対象である液晶ディスプレイ実装工程の動向について述べている.さらに今後,フラットパネルディスプレイの中で,液晶ディスプレイが重要な位置を占めるための要件として,市場の要求と技術開発の方向性を整理した.それを整理する中で,本開発の目的と意義,論文の構成について述べている.

 第2章の「液晶ディスプレイ実装工程における本研究の位置付けと課題の概要」は,実装工程順にその内容と技術動向を言及し,その中で本研究の位置付けを述べる.さらに開発に関連のある重要部材として液晶駆動ICの内容とその変遷について述べている.また,課題が液晶ディスプレイの高精細化と低価格化の2件であることを示し,その解決の方向について述べている.

 第3章の「異方性導電膜の開発」は,液晶ディスプレイの高精細化に合せ,高密度化した液晶駆動ICと液晶基板を接合する部材としての異方性導電膜について述べている.さらに従来の異方性導電膜の限界を明らかにし,新たに開発した高精細化に対応可能な異方性導電膜について述べている.

 第4章の「異方性導電膜による高密度実装技術の開発」は,液晶ディスプレイの高精細化に伴って,液晶駆動ICと液晶基板の接続端子のピッチが230μmから50μmへと狭ピッチ化し,高密度実装の開発が必要となったため,特に実装工程の加熱・加圧によるフィルム状液晶駆動ICの伸びのメカニズムを解明した.このことと,液晶駆動IC,異方性導電膜,液晶基板の熱膨脹率の差からくる実装のずれ量を明確にし,熱膨脹率が一番大きい液晶駆動ICの接続ピッチをあらかじめ短くしておき,熱圧着後,液晶基板の接続ピッチと同一になる方法を考案した.

 第5章の「ボンディングツールの開発」は,生産性の向上を図るため,複数枚ある液晶駆動ICを一度に実装するボンディングツールを提案した.課題は,ボンディングツールの長尺化とその温度の均一化と平面度の高精度化である.このために,設計段階でボンディングツールの温度の均一性を同定する手法を提案した.従来の有限要素法だけでは解析できない隣接部品の熱伝導や空気の放射伝熱を有限体積法の熱・流れ解析で解析できるようにし,解析精度を向上させた.さらにボンディングツール先端が553Kの高温化でも平面度が出せる機構を開発した.この2件で,温度が均一で高精度な平面度を有する長尺ボンディングツールを実現した.

 第6章の「全自動実装システムおよび装置要素技術の開発」は,生産性の向上を図るために開発した自動化技術について述べている.自動化のために開発した要素技術として,液晶基板の電極を検出する光学系と画像処理技術,液晶駆動ICの実装精度を向上させる振動絶縁技術,高剛性化技術および実装システムの小型軽量化技術の4件について述べている.これらの4件を代表とする装置要素技術の開発で,液晶ディスプレイ実装工程の全自動化を具現化した.

 第7章の「総括」は,本開発で得られた成果と明確になった技術内容を述べている.最後に液晶ディスプレイの次世代の実装技術と実装システムの指針を明らかにした.

 本開発の意義は,液晶ディスプレイの市場を拡大し,高度情報社会に寄与することと,次世代の実装技術および実装装置の指針を明らかにすることである.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は高精細液晶ディスプレイにおける実装技術と実装システムの開発と題し,7章からなる.

 第1章の「諸論」では,液晶ディスプレイ全体の製造工程と今回の開発対象である液晶ディスプレイ実装工程の動向について述べている.さらに今後,フラットパネルディスプレイの中で,液晶ディスプレイが重要な位置を占めるための要件として,市場の要求と技術開発の方向性を整理している.それらを整理する中で,本開発の目的と意義について述べている.

 開発の目的が,液晶ディスプレイの高精細化と低価格化を実現することであり,その施策について述べている.高精細化の課題に対して,液晶駆動ICの接続部材に導電体の微細化が可能な金属被膜付き樹脂粒子を均一分布した異方性導電膜を考案し,高密度実装の可能性の実証を提案している.低価格化の課題に対しては,異方性導電膜を接続部材とした複数の液晶駆動ICを一個ずつ実装するのではなく,一度に一括で実装する方式を考案し,その可能性と生産性の実証を提案している.

 第2章の「液晶ディスプレイ実装工程における本研究の位置付けと課題の概要」では,実装工程順にその技術内容と技術動向を整理し,その中で本研究の位置付けを述べている.開発に関連のある主要部材として液晶駆動ICの内容を示し,その変遷から高密度化対応の接読部材として異方性導電膜の必要性を述べている.また,開発課題である液晶ディスプレイの高精細化と低価格化の2件について,課題解決の具体策を提案している.

 第3章の「異方性導電膜の開発」では,液晶ディスプレイの高精細化に伴い,高密度化した液晶駆動ICと液晶基板を電気的に接続する異方性導電膜について述べている.異方性導電膜の原理を明確にすると同時に,従来の異方性導電膜の限界を明らかにし,新たに開発した高精細化に対応可能な異方性導電膜について述べている.実用化に関して導電体として,従来,用いられていたカーボンファイバおよび金属粒子の限界を明らかにすると共に,変形量を大きくできる金属被膜付き樹脂粒子により,接続ピッチおよび信頼性の限界が大幅に改善されることを示している.

 液晶駆動ICの実装信頼性に異方性導電膜の接着部材が重要な関わりがあることを示し,従来の熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂に変更した経緯と熱硬化性樹脂の優位性を述べている.

 第4章の「異方性導電膜による高密度実装技術の開発」では,液晶ディスプレイの高精細化に伴って,液晶駆動ICの実装精度を向上させる必要があることを示し,その具体的な施策について述べている.実装精度を劣化させる要因を整理する中で,各部品の線膨張係数の違いが実装精度に影響していることを明確にしている.特に実装時の加熱・加圧により,液晶駆動ICのポリイミドフィルムの伸びが実装精度に大きく影響していることを証明し,その伸びのメカニズムを解明している.これらの内容から,液晶駆動IC,異方性導電膜,液晶基板の線膨張係数の差からくる実装のずれ量を明確にし,線膨張係数が最も大きい液晶駆動ICの接続ピッチをあらかじめ短くしておき,熱圧着後,液晶基板の接続ピッチと同一になる方法を提案している.

 第5章の「ボンディングツールの開発」では,生産性の向上を図るため,複数枚ある液晶駆動ICを一度に実装するボンディングツールの開発を提案している.課題は,ボンディングツールの長尺化で,その実現のためにはボンディングツール先端の温度の均一化と平面度の高精度化が必要であることを述べている.この解決方法として,設計段階でボンディングツールの温度の均一性を同定する手法を提案している.従来の有限要素法だけでは解析できない隣接部品の熱伝導や空気の放射伝熱を有限体積法の熱・流れ解析で解析できるようにし,解析精度を向上させている.さらにボンディングツール先端が553Kの高温化でも平面度が出せる機構を開発しており,この2件で温度が均一(553K±5K)で高精度な平面度(3μm以内)を有する長尺ボンディングツールを実現している.

 第6章の「全自動実装システムおよび装置要素技術の開発」では,生産性の向上を図るために開発した自動化技術について述べている.自動化のために開発した要素技術として,液晶基板の電極を検出する光学系と画像処理技術,液晶駆動ICの実装精度を向上させる振動絶縁技術,高剛性化技術および実装システムの小型軽量化技術の4件について述べている.これらの4件を代表とする装置要素技術の開発で,液晶ディスプレイ実装工程の全自動化を実現している.

 第7章の「総括」では,本開発で得られた成果と明確になった技術内容について述べている.最後に液晶ディスプレイの次世代の実装技術と実装システムの指針について,その内容を明らかにしている.

 以上,本論文は,異方性導電膜という実装部材の導入による,液晶ディスプレイの高精細化の実現と,液晶駆動ICを液晶基板に全自動で実装する装置技術を完成させたことによる,液晶ディスプレイの低価格化の実現について,その技術開発の全貌を示したものである.これらは液晶産業界を発展させると同時に高度情報社会の進展にも寄与している.さらに技術成果としてあきらかになった知見は,工学,工業の両面において価値の高いものである.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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