学位論文要旨



No 215331
著者(漢字) 長利,洋
著者(英字)
著者(カナ) オサリ,ヒロシ
標題(和) 水田の均平状態の評価法に関する研究 : 高品質水田整備のために
標題(洋)
報告番号 215331
報告番号 乙15331
学位授与日 2002.04.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第15331号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,洋平
 東京大学 教授 岡本,嗣男
 東京大学 教授 田中,忠次
 東京大学 教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 塩沢,昌
内容要旨 要旨を表示する

1.緒論

 我が国は、昔から瑞穂の国といわれてきた米の国であるが、最近は、畜産や野菜等との成長とは逆に、米の生産力は低下し続けている。しかし、米は依然として我が国農業の基幹作目であり、かつ国民の主食としての地位を確保している。そのため、水田圃場整備の必要性は依然として高いものがある。

 効率的な米生産を目指して水田の区画拡大等が図られているが、圃場整備には作物生産環境条件を最適化、均質化することが常に求められている。これを実現するための基本要件の一つが田面の均平である。

 圃場整備の仕上がり時において、受益農家が関心を寄せるのは水田の仕上がり状況である。特に、均平精度に関しては関心が高い項目の一つである。従来、圃場整備における均平管理には、水平面を基準とする高低差が用いられてきた。同時に、逆勾配を避ける管理も行われているため、意識しないうちに、田面には傾斜がついている。

 したがって、本論文では水平面を基準にして高低差により評価する従来の評価法の妥当性を検証する。その上で、水田の均平状態を的確に評価する評価法として、水平面を基準として高低差により評価する従来の評価法に代わる、田面の傾斜を考慮する新しい評価法を提案し、この評価法の妥当性および有効性を検討する。

2.整備後水田の均平状態

 水平面を基準として高低差により管理・整備された圃場整備後水田について、高低差、標準偏差と均平作業の負担を指標に均平状態を検討した。解析対象とした水田は県営圃場整備地区の30a区画3,196枚であり、様々な土壌条件や地形勾配を有している。また、解析に用いたデータは均平管理データで、測点数は12〜15点/30aである。一方、大区画水田(60a)の解析枚数は327枚である。

 30a区画水田における均平精度は高低差で7cm、標準偏差で約18mmである。田面の傾斜についてみると、水田は水平から傾斜がついている状態まで様々であるが、平均傾斜度は0.58‰(1/1,718)である。傾斜方向は逆勾配こそないものの、様々な方向に分布している。また、大区画水田における均平状態は、30a区画水田とほぼ同程度であり、高低差は7cm、標準偏差は約16mmである。田面の傾斜についても、平均傾斜度は0.45‰(1/2,214)であり、傾斜方向は逆勾配こそないものの、様々な方向に分布している。大区画水田といえども傾斜がついていることを前提に、均平状態を評価することが必要なことが分かった。

 整備後の均平が十分でない時には、農家が均平作業を実施している。このため、均平作業の負担として運土仕事量m3・m(=切盛り土量m3×運搬距離m)を提案し、これを指標に均平作業の負担をみると、同じ高低差でありながら運土仕事量には大きな違いがあることが分かった。また、同じ整備地区内でも運土仕事量はばらつきが大きいことが分かった。特に、大区画水田では、単位面積当たりの運土仕事量でみると、区画が大きくなると均平作業の負担は、30a区画以上に大きくなっていることが示された。

 以上から、従来の評価法は水田の均平状態を評価する指標としては不十分で、従来の評価法により管理された水田は、均質な状態になっていないことが示された。

3.新しい評価法の提案

 田面に傾斜がある水田状態を、水平面を基準とする従来の評価法で評価することはできない。したがって、水田の均平状態を的確に評価するために、田面についている傾斜平面を最小二乗法によりもとめ、これを基準面にして「田面傾斜」と「田面凹凸」の二成分で評価する新しい評価法を提案する。

 田面凹凸が全くない平滑面を傾けたときの状態を評価すると、従来の評価法では田面傾斜と田面凹凸の両方を評価した値(水平面に対する標準偏差)が計算される。従来の評価法で、現行水田の田面傾斜と標準偏差の関係をみると、正比例の関係が表れるが、これは田面傾斜の影響である。これに対して、新しい評価法では田面凹凸だけを評価している(傾斜平面に対する標準偏差)ので0mmとなる。

 また、水田の均平状態を評価する指標として、状態指数(=傾斜平面に対する標準偏差/水平面に対する標準偏差)を提案する。状態指数が1.0に近ければ凹凸優勢型(田面は水平に近いが、田面凹凸が大きい)、0.0に近ければ傾斜優勢型(水田表面は滑らかであるが、田面傾斜が卓越する状態)である。

 整備後30a区画水田の整備状況を状態指数でみると0.15から0.95まで、すなわち傾斜優勢型から凹凸優勢型まで広く分布している。同様に、大区画水田の状態指数も0.15から0.95まで広く分布している。高低差による管理では、圃場型を管理することができないことを示している。

4.整備目標と管理の考え方

 受益農家が求める水田の均平状態を検討した結果、水平型と傾斜型を提案した。水平型は熱田に多く、田面は水平で水田表面の凹凸が小さい状態である。一方、傾斜型は地表水排除を優先するために、田面に積極的に傾斜をつけるものである。

 圃場整備後の均平状態から農家が求める状態にするためには、別途、土移動を目的とする均平作業が必要である。この均平作業の負担を指標にして、均平作業の負担が少なく、かつ地区内の負担が公平にするための管理方法を検討した。

 その結果、地区内における均平作業の負担を公平にするためには、地区内の整備後水田の状態指数を揃える必要があること、また、負担を少なくするためには、目標とする水田の均平状態に応じて整備する必要があることを示した。すなわち、水平型の時は凹凸優勢型、傾斜型の時は傾斜優勢型である。

 また、大区画水田においては、整備時の目標と仕上がり状態がずれていると負担は著しく増大することが分かった。このため、大区画水田整備においては、整備時に管理すべき圃場状態の範囲が狭くなるので、管理の重要性が増すことが分かった。

5.田面傾斜の測定精度と測定条件

 整備された水田の均平状態を把握することが必要である。田面傾斜および田面凹凸を評価する新しい評価法では、測点の高さ情報だけでなく、測点の位置情報が必要となる。位置精度が悪くなれば、評価基準となる傾斜平面の測定精度が悪くなり情報量が低下する。

 このため、均平管理における測定条件(測点の数および配置方法)と田面傾斜との関係を検討する。解析時に発生する誤差は、水準測量時に箱尺を置いた位置が、予め定められた位置とは異なる地点に置いたにもかかわらず、解析では定められた地点に置いたとして解析することによりもたらされる。

 測定条件との関係を検討した結果、測定誤差を小さくするためには、測点数を多くし、箱尺を立てる位置のずれを小さくし、短辺方向に3点以上配置することが必要であることが分かった。30a区画(100×30m)では4×3点、5×3点程度で精度良い結果が期待できることが分かった。

6.水田の均平管理様式

 測点配置例を参考にして、新しい評価法を圃場整備の現場で適用するための均平管理用紙を提案する。これを用いることにより、高低差だけでなく、田面の傾斜度および傾斜方向等の均平状態を施工現場で簡易に評価することができる。

 7.結言

 水平面を基準として高低差で評価する従来の評価法は、簡易に測定することができるが、水田の均平状態を的確に評価できる指標ではなかった。

 これに対して、田面の傾斜を基準面として水田の均平状態を「田面傾斜」と「田面凹凸」の二成分で評価する、新しい評価法を提案した。新しい評価法は、均平状態(状態指数)、均平作業に伴う作業の負担(運土仕事量)など、水田の状態を評価できる有効な指標である。また、施工現場で容易に測定できるので管理指標としても適当であることを確認した。これにより、新しい評価法により、均質で、高品質な水田を整備することが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 効率的な米生産を目指して水田の区画拡大等が図られているが、水田には作物生産環境条件を最適化、均質化することが常に求められている。これを実現するための基本要件の一つが田面の均平である。

 従来、水田の均平状態を評価する方法は水平面を基準にした高低差で行われてきた。本研究では、従来の評価法により整備されている水田の現状を検証し、その上で、水田の均平状態を的確に評価する評価法として、田面の傾斜を考慮する新しい評価法を提案し、この評価法の妥当性および有効性を検討している。

 本論文は7章で構成されている。第1章では、研究の背景と既往の研究、並びに本研究での目的と論文の構成について述べている。

 第2章では、従来の評価法により整備されている3,000枚余の圃場整備後の水田を対象に、高低差、標準偏差、農家による均平作業の負担および田面傾斜を指標に均平状態の現状を検討している。均平作業の負担を定量的に評価する指標として、運土仕事量(=切盛り土量×運搬距離)を提案している。これらの指標から水田の整備状況をみると、高低差については管理基準値(7cm)以内に管理されているが、農家による均平作業の負担をみると、同じ高低差でありながら運土仕事量には大きな違いがあり、同じ整備地区内といえども運土仕事量にはばらつきが大きいことを明らかにしている。また、30a区画水田では平均0.56‰の田面傾斜がついており、水平面を基準とする従来の評価法では、水田の均平状態を的確に評価・管理できないことを明らかにしている。

 第3章では、田面傾斜を含めて均平状態を評価するために、評価基準としての傾斜平面を最小二乗法により求め、「田面傾斜」と「田面凹凸」の二成分で評価する新しい評価法を提案している。この新しい評価法に基づき均平状態を評価する指標として、状態指数(=傾斜平面に対する標準偏差/水平面に対する標準偏差)を提案している。状態指数は1.0に近ければ凹凸優勢型(田面は水平に近いが、田面凹凸が大きい状態)、0.0に近ければ傾斜優勢型(水田表面は滑らかであるが、田面傾斜が大きい状態)を表す指標である。整備後水田の状態指数は0.15から0.95まで広く分布していることを明らかにしている。

 第4章では、目標とすべき整備水田として水平型と傾斜型を提案している。水平型は熟田に多く、田面は水平で田面凹凸が小さい状態である。一方、傾斜型は地表水排除を優先するために、田面に積極的に傾斜をつける状態である。これら目標とする水田に整備するための施工管理方法として、農家による均平作業の負担を少なくかつ公平にすることを指標に、状態指数と運土仕事量を用いて解析している。その結果、均平作業の負担を少なくかつ公平にするためには、目標とする水田の均平状態に応じて、整備水田の均平状態を評価・管理する必要がある。すなわち、目標が水平型の場合には凹凸優勢型、傾斜型では傾斜優勢型に施工管理することを明らかにしている。

 第5章および第6章では、整備された水田の均平状態を的確に評価するために必要な施工管理条件を検討している。新しい評価法では測点の高さ情報だけでなく、位置情報が必要である。測定条件(長短辺方向の測点数、位置精度)に応じて評価基準となる傾斜平面の測定精度が変化するため、田面傾斜の測定精度を高めるための測点の配置条件を検討している。その結果、測定誤差を小さくするためには、位置のずれを小さくし、短辺方向に3点以上測点を配置することが必要である。具体的には、30a区画(100×30m)では12点(4×3点)ないしは15点(5×3点)程度で精度良い結果が期待できることを明らかにしている。この測点配置例を参考にして、新しい評価法を施工現場で適用し、田面の傾斜度および傾斜方向を評価できる均平管理用紙を提案している。

 第7章では、本研究で取り上げた方法論を考察し、本研究の結論をまとめている。

 以上を要するに、本研究は、多数事例の整備後水田を解析した結果に基づき、田面傾斜を含めて水田の均平状態を的確に評価する新しい評価法を提案し、その有効性・妥当性を確認している。本研究の結果は、高品質な水田整備を実施する際の新しい知見を得るものであり、学術上・応用上の価値が高いものと評価できる。よって審査委員一同は、本論文は博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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