No | 215345 | |
著者(漢字) | 川戸,晴子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワト,ハルコ | |
標題(和) | 新規抗真菌活性物質 Rhodopeptin 誘導体の構造活性相関と非ペプチド化に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215345 | |
報告番号 | 乙15345 | |
学位授与日 | 2002.05.08 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 第15345号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、深在性真菌症、特に免疫力の低下した易感染者における日和見感染型の重篤な症例が増加している。我国の深在性真菌症では、カンジダ症およびアスペルギルス症の2種で全症例の約70%以上を占め、クリプトコッカス症がそれに続く。抗真菌薬の開発は抗菌薬に比べ著しく立ち遅れており、その最大の原因は真菌がヒトと同じ真核生物に属し、選択性に優れた薬剤の標的が限られていることにある。更に、深在性真菌症では細菌感染症のように短期間での治癒はほとんど望めないため、長期投与が可能な安全性も必要となる。現在、国内で上市されている深在性真菌症治療薬はアムホテリシンB(AMPH)およびフルコナゾール(FLCZ)等5薬剤のみであり、これらは副作用および有効性の面から医療満足度は低く、新規な抗真菌薬の開発が望まれている。 Rhodopeptin類(Figure 1)は、メルシャン(株)が、単離構造決定した新規抗真菌活性物質であり、Candida albicans およびCryptococcus neoformansを含む病原性真菌に対し殺菌的に作用し良好な活性を示した。我々は、この化合物をリードとして、広い抗真菌スペクトルと優れた安全性を示す注射剤の獲得を目標に、構造活性相関研究を展開し、各アミノ酸の最適化を検討した。 Scheme 1に合成法の概略を示した。アルデヒド3をWittig反応およびMichael付加後、脱ベンジル化してb-アミノ酸4に誘導し、Boc-Valと縮合した後、分別再結晶により光学的に純粋な化合物5を得た。Boc基を除去しジペプチドBoc-Gyl-Lys(Z)と縮合後、得られたテトラペプチド6の両末端の保護基を除去し、環化させ、脱保護して、化合物7を得た。その他の誘導体もこの方法に準じて合成した。 化合物7の各アミノ酸を変換した誘導体の抗真菌活性、細胞毒性および急性毒性を評価し、構造活性相関および構造毒性相関に関する以下の知見を得た(Figure 2)。 1)b-アミノ酸部では、b-位に炭素数9-11の長鎖アルキル基が存在することが活性発現に必須である。 2)Val部を嵩高い中性アミノ酸に変換すると、活性の向上およびスペクトルの拡大が認められた。水溶性のアミノ酸に変換すると活性は低下した。 3)Lys部では、塩基性アミノ酸が活性発現に必須である。 4)Gly部は、塩基性アミノ酸に変換すると活性が維持あるいは向上する一方、細胞毒性も増悪した。その他のアミノ酸への変換では活性は減弱した。 活性発現最小単位として長鎖アルキル鎖、嵩高い中性アルキル基およびアミノアルキル基の3つの側鎖を抽出するとともに、スペクトルの拡大および活性の増強を実現させ、Candida属およびAspergillus fumigatusに対しAMPHに匹敵する活性を示す化合物8を獲得した(Table 1)。 しかしながら、各アミノ酸の変換では、注射剤を調整するのに必要な物性(溶解性)の確保には至らず、その原因は環状ペプチド構造に起因すると考えられた。一方、骨格自体は活性発現に関与していないと考え、「活性発現に必須な3つの側鎖を最適空間に配置可能な化合物であれば、同等の抗真菌活性を発現しうるのではないか」との作業仮説をたて、非ペプチド化(non-peptide peptidomimetics)の検討に着手した。 まず化合物7の構造解析を実施し、NMR study、それに基づいた理論計算およびCADDのconformation searchにより得られたconformation(Figure 3)を元に非ペプチド化を検討することにした。最安定conformationから重要でないGly部分を除き、残りの骨格部分に適当なscaffoldを適用し、3つの活性発現に不可欠な側鎖を適当と思われる位置に導入した。骨格としては、それ自身は生理活性を持たない、新規でdrug-likeな構造を選択し、最後にデザインした化合物の3次元最安定構造とFigure 3に示したconformationとの類似性を確認し、必要であれば修正を行い、合成する化合物を決定した。 Table 2に合成したpeptidomimeticsの抗真菌活性と溶解性を示した。いずれの化合物もそのscaffoldにかかわらず、強弱はあるものの活性を示し、作業仮説の妥当性、即ち「活性発現に必須な3つの側鎖を最適空間に配置可能な化合物であれば、抗真菌活性を発現しうる」ことが示された。特に、quinolone誘導体12ではCandida albicans、Cryptococcus neoformansおよびAspergillus fumigatusの全菌種に対してAMPHに匹敵する活性が認められた。また、いずれの誘導体においても水溶性の大幅な改善が認められた。 医療満足度の低い深在性真菌症治療薬の分野で、このような低分子化合物が広い抗真菌スペクトルを示しAMPHに匹敵する高い活性を発現するのは稀有な例である。また、非ペプチド化により注射剤として調整可能な溶解性を確保することにも成功した。現在、さらに良好なプロファイルを有する化合物の獲得をめざすとともに、高次のin vivo評価等を検討中である。我々は、本研究により得られた知見・成果が、今後の優れた深在性真菌症治療薬の創製に貢献できると期待するものである。 Figure 1. Natural Rhodopeptins Scheme 1. Synthesis of Rhodopeptin derivative 7 Figure 2. Structure-activity relationship of Rhodopeptins β-位の、炭素数9-11の長鎖アルキル基が活性発現に必須 アミノアルキル基が活性発現に必須 嵩高い中性アルキル基が活性発現に必須 (活性の向上およびスペクトルの拡大) Table 1. Antifungal activity, cytotoxicity and acute toxicity of Rhodopeptin derivatives a) Minimum inhibitory concentration. Medium: synthetic amino acid medium fungal (SAAMF). b) 50% Growth inhibition concentration. c) Maximum tolerated dose. mice,i.v. d) Mouse lymphatic leukemia cell. e) Not tested. Figure 3. The most stable conformation of compound 7 Table 2. Antifungal activity and solubility of non-peptide peptidomimetics a) Minimum inhibitory concentration. Medium: synthetic amino acid medium fungal (SAAMF).Tested concentrations of compounds: 2,10,50μg/mL | |
審査要旨 | 近年、深在性真菌症、特に免疫力の低下した易感染者における日和見感染型の重篤な症例が増加している。我国の深在性真菌症では、カンジダ症およびアスペルギルス症の2種で全症例の約70%以上を占め、クリプトコッカス症がそれに続く。抗真菌薬の開発は抗菌薬に比べ著しく立ち遅れており、その最大の原因は真菌がヒトと同じ真核生物に属し、選択性に優れた薬剤の標的が限られていることにある。更に、深在性真菌症では細菌感染症のように短期間での治癒はほとんど望めないため、長期投与が可能な安全性も必要となる。現在、国内で上市されている深在性真菌症治療薬はアムホテリシンB(AMPH)およびフルコナゾール(FLCZ)等5薬剤あるが、これらは副作用および有効性の面から医療満足度は低く、新規な抗真菌薬の開発が望まれている。川戸はこの様な背景に基づいて新しい骨格を有する新規抗真菌薬の開発を行った。 1.新規抗真菌活性物質Rhodopeptin誘導体の構造活性相関研究 Rhodopeptin類(Figure 1)はCandida albicansおよびCryptococcus neoformansを含む病原性真菌に対し殺菌的に作用する新規抗真菌活性物質である。川戸はこの化合物をリード化合物として、広い抗真菌スペクトルと優れた安全性を示す注射剤の獲得を目標に、構造活性相関研究を展開し、各アミノ酸の最適化を検討した。 検討の結果、各誘導体の抗真菌活性、細胞毒性および急性毒性を評価し、構造活性相関および構造毒性相関に関する以下の知見を得た。 1)b-アミノ酸部では、b-位に炭素数9-11の長鎖アルキル基が存在することが活性発現に必須である。 2)Val部を嵩高い中性アミノ酸に変換すると、活性の向上およびスペクトルの拡大が認められた。水溶性のアミノ酸に変換すると活性は低下した。 3)Lys部では、塩基性アミノ酸が活性発現に必須である。 4)Gly部は、塩基性アミノ酸に変換すると活性が維持あるいは向上する一方、細胞毒性も増悪した。その他のアミノ酸への変換では活性は減弱した。 しかしながら、各アミノ酸の変換では、注射剤を調整するのに必要な物性(溶解性)の確保には至らず、その原因は環状ペプチド構造に起因すると考えられた。一方、骨格自体は活性発現に関与していないと考え、「活性発現に必須な3つの側鎖を最適空間に配置可能な化合物であれば、同等の抗真菌活性を発現しうるのではないか」との作業仮説をたて、非ペプチド化(non-peptide peptidomimetics)の検討に着手した。 2.新規抗真菌活性物質Rhodopeptin誘導体の非ペプチド化の検討 基本となる化合物の構造解析を実施し、NMR study、それに基づいた理論計算およびCADDのconformation searchにより得られたconformationを基に非ペプチド化を検討した。最安定conformationから重要でないGly部分を除き、残りの骨格部分に適当なscaffoldを適用し、3つの活性発現に不可欠な側鎖を適当と思われる位置に導入した。骨格としては、それ自身は生理活性を持たない、新規でdrug-likeな構造を選択し、最後にデザインした化合物の3次元最安定構造と理論計算に基づくconformationとの類似性を確認し、適宜修正を行い、合成する化合物を決定した。 合成したpeptidomimeticsの抗真菌活性と溶解性を検討した結果、いずれの化合物もそのscaffoldにかかわらず、強弱はあるものの活性を示し、作業仮説の妥当性、即ち「活性発現に必須な3つの側鎖を最適空間に配置可能な化合物であれば、抗真菌活性を発現しうる」ことが示された。特に、quinolone誘導体12ではCandida albicans、Cryptococcus neoformansおよびAspergillus fumigatusの全菌種に対してAMPHに匹敵する活性が認められた。また、いずれの誘導体においても水溶性の大幅な改善が認められた。 医療満足度の低い深在性真菌症治療薬の分野で、このような低分子化合物が広い抗真菌スペクトルを示しAMPHに匹敵する高い活性を発現するのは稀有な例である。また、非ペプチド化により注射剤として調整可能な溶解性を確保することにも成功した。本研究により得られた知見・成果が、今後の優れた深在性真菌症治療薬の創製に貢献できると期待するものである。 以上、川戸は新規の骨格を有する新たな真菌症治療薬開発に大きな知見を与えた。これらの成果は博士(薬学)の学位論文として十分に価値があるものとして認められる。 Figure 1. Natural Rhodopeptins 1: n=3、 R=(CH 2)6CH(CH 3)CH2CH 3 (Rhodopeptin C1) 2: n=4、 R=(CH 2)8CH(CH 3)2 (Rhodopeptin B5) Table 1. Antifungal activity and solubility of non-peptide peptidomimetics | |
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