学位論文要旨



No 215355
著者(漢字) 須田,博人
著者(英字)
著者(カナ) スダ,ヒロヒト
標題(和) デジタル移動通信などのバースト誤り伝送路における誤り制御法の研究
標題(洋)
報告番号 215355
報告番号 乙15355
学位授与日 2002.05.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15355号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 青山,友紀
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
 東京大学 助教授 森川,博之
内容要旨 要旨を表示する

 携帯電話サービスをはじめとする移動無線は、ユーザの急速な増加と共に益々その重要性が高まっている。しかし移動無線は、安定な通信を実現する上で大きな困難を伴う伝送路でもある。本論文は、バースト的に符号誤りが生じる伝送路、特に移動無線伝送路における効率的な誤り制御法を研究した結果をまとめたものである。

 移動無線伝送路では、フェージングと呼ばれる電波の受信レベルの大きな変動が発生するため、バースト誤りが頻繁に発生する。伝送品質向上のため誤り訂正符号化(FEC)技術は必須である。しかし移動無線伝送路においては、符号誤りの発生がバースト的であり、かつ無線通信の宿命から高い周波数利用効率の実現が要求されるため、FECの効果的な適用法を確立することは難しい課題と言える。本研究における特に重要な成果は、(1)第2世代移動通信(Personal Digital Cellular: PDC)方式における標準音声CODEC用FEC、および(2)第3世代移動通信(International Mobile Telecommunications 2000: IMT-200)におけるターボ符号用インタリーバを新規提案し、標準技術として採用されていることである。本論文ではこれら2件の研究内容を述べるとともに、その基礎となったバースト誤り伝送路用誤り制御技術についても述べる。

 第2世代移動通信の音声CODEC用誤り制御法:携帯電話システムは、初代のアナログ方式から第2世代のPDC方式に進歩することで、ユーザ数を飛躍的に伸ばした(2001年末現在で約5500万ユーザ)。アナログからデジタルに進歩するために、少ない冗長ビット数で高い誤り耐力を持つ音声CODECが必須課題であった。この課題は非常に重要でありかつ技術的に困難であったため、PDCの標準音声CODECを決めるための競争評価が標準化機関(電波産業会)で行われた。その結果、著者らの提案する音声CODEC(PSI-CELP)が標準音声CODECに採用された。PSI-CELPでは、少ない冗長ビットで大きな誤り耐力を実現するため、不均一誤り訂正符号化技術、ベクトル量子化とFECの組合せ、さらにFECと音声波形の補正技術の組合せなどの新技術を提案し、これを利用している。本本文では、これらPSI-CELPにおける新規誤り制御技術について詳細に述べる。

 第3世代移動通信用ターボ符号:移動通信サービスは第2世代から第3世代へと進化しようとしている。第3世代移動通信における誤り制御技術としてターボ符号が注目されたが、ターボ符号の移動通信への適用法および効果について十分に明確にされてはいなかった。本研究では、ターボ符号を第3世代移動通信に効果的に適用するため、伝送路およびターボ符号内部インタリーバ技術を提案するとともに、その適用効果を明確にする。なお、本研究で提案した伝送路およびターボ符号内部インタリーバ技術は、第3世代移動通信の標準化方式に、競争評価の結果採用された。

 図1に本論文の目的と研究課題および成果をまとめる。大きな成果として2項目、第2世代移動通信における標準音声CODEC用誤り制御法と第3世代移動通信用のターボ符号化がある。これらを達成するための個別技術の研究課題として、デジタル移動無線での必須技術である伝送路インタリーバ、移動無線のようなバースト誤り伝送路を対象とした適応的復号法、さらに高能率音声符号化方式と組合せる誤り制御技術について不均一量子化法および符号誤りの影響を押さえる補間法などについて新規御術を提案した。図1に示すように、これら研究課題の成果の組合せによって、高品質で効率の高いシステム(第2世代および第3世代移動通信)の実現に寄与した。

図1.本研究の目的と研究課題および成果

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「デジタル移動通信などのバースト誤り伝送路における誤り制御法の研究」と題し,バースト的に符号誤りが生じる移動無線伝送路における効率的な誤り制御法として,第2世代移動通信(Personal Digital Cellular: PDC)方式における音声CODEC用誤り制御法,および第3世代移動通信(International Mobile Telecommunications 2000: IMT-2000)におけるターボ符号用インタリーバを提案し,移動無線環境での適用効果を明らかにしたものである.これらの提案技術は第2世代および第3世代移動通信の標準方式にも必須技術として採用され,世界で最も周波数利用率の高い移動通信用音声CODECの実現,およびフレキシビリティが高いターボ符号の実現を可能とした.論文の構成は「序論」を含めて7章からなる.

 第1章は「序論」で,本研究の背景を明らかにした上で,研究の目的と課題について言及し,研究成果について概要を述べている.

 第2章は「移動無線伝送路へのインタリービング技術の適用」と題し,誤り訂正符号にインタリービング技術を組合せることで高い改善効果が得られることを,移動無線で用いられる代表的な変復調方式を3つ取り上げて,シミュレーションにより明らかにしている.具体的な変復調方式とそこで用いた誤り訂正符号は,(1)NCFSKとBCH符号,(2)QPSKと軟判定畳込み符号,(3)DS-CDMAとターボ符号である.(2)は第2世代の携帯電話で,(3)は第3世代の携帯電話で,実際に用いられている方式である.さらに,新規の伝送路インタリーバ(MIL: Multi-stage Interleaver)を提案し,ターボ符号との組合せ改善効果をシミュレーションにより示している。

 第3章では「バースト誤り伝送路における適応的復号法」と題し,伝送路の状態に適応して誤り訂正符号の復号法を積極的に制御する方法を提案し,復号誤り率の改善,処理量の低減などが適応的復号により可能となることを示している.具体的には,(1)BCH符号とCRC符号の連接符号(PDCの信号伝送標準方式)の復号法としてランダム誤り訂正とバースト誤り訂正とを併用し,伝送路の状態に応じてそれぞれの処理量の比重を変化させる復号法,(2)ターボ符号とCRC符号を連接符号化し,ターボ符号の復号処理の繰返し回数を伝送路の状態に応じて削減する復号法,(3)2重RS符号の復号において,伝送路の状態に応じてイレージャの生成量を制御して誤り率を軽減する復号法を提案し,改善効果を確認している,

 第4章では「高効率音声伝送用誤り制御技術」と題し,情報源符号化(音声符号化)と伝送路符号化(畳込み符号)の効率的な組合せ法を提案し,さらに誤り検出符号および補間法まで組合せたBS-FEC(Bit-Selective Forward Error Correction)技術を提案している.また,伝送路の誤りを考慮したベクトル量子化法の提案,および伝送路誤りが重畳した受信信号を,カルマンフィルタを用いて補間し再生する補正法の提案を行っている.

 第5章は「第2世代移動通信(PDC)用の標準音声CODEC」と題し,PSI-CELP(Pitch Synchronous Innovation Code Excited Linear Predictive coding)の概要と特性を述べている.本技術は,標準化における技術コンテストの結果,PDC(第2世代移動通信方式)の標準方式に採用されており,トップレベルの技術であることが実証されている.それと同時に,6000万台に近い携帯電話で本技術が用いられていることは,社会への貢献度の点で特筆に価する.

 第6章は「第3世代移動通信(IMT-2000)用の標準FEC」と題し,ターボ符号の第3世代移動通信への適用法および,ターボ符号用の新内部インタリーバの提案を行っている.提案したインタリーバは,世界標準技術を決める競争評価の中で最優秀と認められ,標準技術(IMT CDMA Direct Spread)に採用された.今後,全世界に広がると期待されるIMT-2000に本研究成果は直接的に貢献することになる.

 第7章は「結言」で,本研究の総括を行うと共に,将来展望および今後の研究課題ついて述べている.

 以上これを要するに,本論文は,デジタル移動通信などのバースト誤り伝送路に対する誤り訂正符号の効果的な適用法を多様な角度から提案・評価したものであり,その成果は第2世代および第3世代移動通信の誤り制御符号化標準方式に必須技術として採用されるなど,デジタル移動通信方式の研究分野に貢献するところが少なくない.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク