学位論文要旨



No 215359
著者(漢字) 池,順姫
著者(英字)
著者(カナ) チ,ジュンキ
標題(和) CALCINEURINによるP53/CASPASE-3経路を介した神経細胞および非神経細胞におけるアポトシス。
標題(洋) CALCINEURIN INDUCES APOPTOSIS IN NEURONAL AND NONNEURONAL CELLS THROUGH P53/CASPASE-3 PATHWAY.
報告番号 215359
報告番号 乙15359
学位授与日 2002.05.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15359号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 助教授 中福,雅人
 東京大学 助教授 平井,久丸
 東京大学 教授 深山,正久
 東京大学 助教授 郭,伸
内容要旨 要旨を表示する

 CalcineurinはCa2+/calmodulin依存性のscrine/threonine phosphataseである。Calcineurinの高発現や細胞質中のfree Ca2+の増加により、感受性のある細胞ではアポトーシスが誘導される。しかし、calcineurinがどのような機序でアポトーシスを誘導するのか、あるいは、calcineurinによるアポトーシスカスケードにどのような分子が存在するのかほとんどわかっていない。Calcineurinは脳の中でも虚血、てんかん、あるいは、変性疾患に際して脆弱な領域に高発現していることが知られている。このことは、calcineurinが何らかのかたちで神経細胞死に関与している可能性を示唆している。本研究の目的は、神経細胞において、calcineurinの活性がapoptosisを誘導するか、また、もしそうならば、それはどのような機序でapoptosisを誘導するのかを明らかにすることを目的とした。Calcineurinのcatalytic subunit Aをadenovius vectorに組み込んで、神経細胞あるいは非神経細胞に導入し発現させた。Calcineurinの恒常的な発現により初代培養神経細胞あるいは神経細胞に分化したPC12細胞でアポトーシスが誘導された。また、これらのアポトーシスはミトコンドリアからのcytochrome cの放出およびcaspase-3の活性化を伴うアポトーシスであることが明らかになった。このアポトーシスはcaspase-3の阻害剤であるDEVD-CHOあるいはBcl-2,CrmAの高発現により抑制された。さらに、calcineurinによるアポトーシス誘導の機序を詳細に調べるために、U87グリオーマ細胞あるいはmouse embryonic fibroblast(MEF)においてcalcineurinを強制発現させると野生型p53タンパク質の蓄積が認められ、引き続いてアポトーシスが誘導された。U87細胞にdominant negative p53 mutant cDNAを導入するとこのアポトーシスが抑制された。さらに、p53ノックアウトマウスから作製したMEFではcalcineurinの強制発現によるアポトーシスは著明に抑制された。また、Ser-15のリン酸化型p53に特異的に反応するモノクローナル抗体を用いてWestern blotを行なうと、calcineurinの強制発現により蓄積してきているのはSer-15のリン酸化型p53であることが明らかとなった。Ser-15のリン酸化によりp53はubiquitin E3 ligaseであるMDM-2と結合できずに分解されずに安定化すると考えられている。以上より、calcineurinはp53のSer-15のリン酸化によるp53の安定化を介して、その下流のcytochrome cの放出、caspase-3の活性化を介してアポトーシスを誘導しているものと考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、Ca2+/calmodulin依存性serine/threonine phosphataseであるcalcineurinが神経細胞においてapoptosisを誘導するか否か、また、もしapoptosisを誘導するならばそれはどのような機序によるのかを明らかにするため、calcineurinのcatalytic subunit Aをadenovirus vectorに組み込んで、神経細胞あるいは非神経細胞に導入し発現させ、calcineurinの恒常的な発現による細胞の変化を解析したものであり、下記の結果を得ている。

 Calcineurinの恒常的な発現により初代培養神経細胞あるいは神経細胞に分化したPC12細胞でアポトーシスが誘導された。また、これらのアポトーシスはミトコンドリアからのcytochrome cの放出およびcaspase-3の活性化を伴うアポトーシスであることが明らかになった。このアポトーシスはcaspasc-3の阻害剤であるDEVD-CHOあるいはBcl-2,CrmAの高発現により抑制された。さらに、calcineurinによるアポトーシス誘導の機序を詳細に調べるために、U87グリオーマ細胞あるいはmouse embryonic fibroblast(MEF)においてcalcineurinを強制発現させると野生型p53タンパク質の蓄積が認められ、引き続いてアポトーシスが誘導された。U87細胞にdominant negative p53 mutant cDNAを導入するとこのアポトーシスが抑制された。さらに、p53ノックアウトマウスから作製したMEFではcalcineurinの強制発現によるアポトーシスは著明に抑制された。また、Ser-15のリン酸化型p53に特異的に反応するモノクローナル抗体を用いてWestern blotを行なうと、calcineurinの強制発現により蓄積してきているのはSer-15のリン酸化型p53であることが明らかとなった。Ser-15のリン酸化によりp53はubiquitin E3 ligaseであるMDM-2と結合できずに分解されずに安定化すると考えられている。

 以上、本論文はcalcineurinの恒常的な発現による細胞の変化の解析から、calcineurinはp53のSer-15のリン酸化によるp53の安定化を介して、その下流のcytochrome cの放出、caspase-3の活性化を介してアポトーシスを誘導している事を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、calcineurinによる神経細胞死、そしてそのメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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