学位論文要旨



No 215375
著者(漢字) 関島,謙蔵
著者(英字)
著者(カナ) セキジマ,ケンゾウ
標題(和) 格子状連続繊維補強材のコンクリート構造物への適用に関する基礎研究
標題(洋)
報告番号 215375
報告番号 乙15375
学位授与日 2002.06.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15375号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 岸,利治
 東京大学 講師 松本,高志
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は、格子状連続繊維補強材をコンクリート構造物の補強材として適用することを目的として実施したものであり、格子状連続繊維補強材自体の材料特性およびこれを使用したコンクリート部材の諸性状について検討した。

 第3章では、格子状連続繊維補強材の力学的性状について検討した。最初に、径の異なる7種類の連続炭素繊維補強材の引張試験を行った。荷重とひずみの関係は、径が大きくなるほど若干下に凸の形状を呈する傾向があった。また、終局ひずみと引張強度は径が大きくなるにつれて低下しており、明らかな寸法効果が認められた。ヤング係数は径よってばらつきがあるが、100kN前後であった。次に、交差部を一つ設けた連続炭素繊維補強材をコンクリートブロックに埋め込んで引抜き試験を行って、交差部強度を検討した。交差部の破壊形式は、A:横筋の二面せん断破壊、B:交差部の軸筋の破断、C:主に軸筋の破断、一部に軸筋のすり抜けあり、の3種類に分類された。交差部強度は引張強度の3〜5割程度の値であり、C25以上の太径については寸法効果が現れていた。細径の場合は炭素繊維束の積層回数が少なくなるので、交差部強度は増加しなかった。荷重と自由端変位の関係は傾きが急変する点があり、その時の変位は連続繊維補強材の径が大きくなるにつれて増加した。続いて、曲げ成形した連続ガラス繊維・炭素繊維補強材をコンクリートブロック内に埋め込んで引抜き試験を行い、曲げ成形部の引張耐力について検討した。引張力が作用すると、曲げ成形部の内側には曲げ内半径が小さいほど大きな引張ひずみが生じ、反対に外側には圧縮ひずみが生じた。そのため、曲げ成形部の内側の繊維から順次破断し、曲げ内半径が小さくなるほど引張耐力は低下した。また、交差する軸方向筋が異形鉄筋の場合より連続繊維補強材の方が引張耐力が低下した。交差部の形状については、「角折れ」する場合よりも交差部に円弧を設けた方が引張耐力は増加した。

 第4章では、格子状連続繊維補強材使用したコンクリートはりの曲げ性状について検討した。最初に、平面格子状連続ガラス繊維補強材およびエポキシ樹脂塗装鉄筋を主筋に使用したコンクリートはりの曲げ試験を行って、両者の曲げ性状を比較した。連続繊維補強材は主筋と直交する配力筋との交差部でコンクリートとの付着を確保しているので、ひずみの算定においては従来の曲げモーメントを受ける鉄筋コンクリート部材の弾性理論が適用できる。曲げひび割れ発生荷重はエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した供試体よりも低く、交差部が曲げひび割れを誘発したと考えられる。曲げひび割れはすべて交差部に沿って生じ、曲げひび割れ間隔は格子間隔にほぼ等しく、ひび割れ幅は格子間の主筋の伸び量にほぼ等しかった。たわみは、曲げひび割れ発生後はコンクリートの引張応力を無視した弾性計算値に近くなった。降伏荷重以下の荷重におけるたわみは、エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用した供試体の約5倍の大きさであった。このことは、弾性範囲内においては約5倍のエネルギー吸収能力を有すると言える。次に、主筋と共にスターラップを一体成形した立体格子状連続ガラス繊維・炭素繊維補強材を使用したコンクリートはりの静的曲げ試験および曲げ疲労試験を行って、材料特性がはりの疲労性状に及ぼす影響について検討した。スターラップの間に生じたひび割れの幅は、スターラップ間の主筋の伸び量にほぼ等しく、スターラップに沿って生じたひび割れの幅はスターラップ間隔の2倍の長さの主筋の伸び量にほぼ等しくなった。これらのことを考慮して、ひび割れ幅は格子間隔の整数倍の長さの主筋の伸び量に等しいという算定式を提案した。繰り返し回数が増加しても、等曲げモーメント区間のひび割れの幅はほとんど変化しなかったが、せん断スパンのひび割れの幅は次第に増加した。上限荷重時のたわみは、繰り返し回数の増加と共に次第に増加した。連続繊維補強材が破断する場合は、主筋とスターラップの交差部で破断が生じ、疲労強度は、等しい引張耐力を持つ等価な異形鉄筋の疲労強度より同等以上の結果を示した。

 第5章では、格子状連続繊維補強材を緊張材として使用したプレストレストコンクリートはりの曲げ性状について検討した。最初に、連続ガラス繊維補強材を緊張材として使用し、コンクリートブロックとメカニカルジャッキを利用した新しい緊張方法によるプレテンション方式のPCはりを製作し、曲げ試験を行った。コンクリートにプレストレスを導入する場合、交差部が定着の役割を果たし、緊張材としての伝達長は部材端から2本目の配力筋までの距離となり、極めて短かった。連続繊維補強材は交差部でコンクリートとの付着を確保しているので、これを緊張材に使用したPC部材は、従来のPC部材の曲げ理論が適用できることが確認された。ひび割れ幅は、格子間隔の2倍の長さの連続繊維補強材のディコンプレッション状態からの伸び量にほぼ等しかった。プレストレスを導入すると、曲げひび割れ発生後の曲げ剛性の急激な低下が防止され、変形性状が改善された。次に、連続ガラス繊維補強材を緊張材として使用した実物大のプレテンション方式のPC床版歩道橋を試作し、13年間実用に供している例を紹介した。

 第6章では、格子状連続繊維補強材と鋼材の継手について検討した。最初に、連続炭素繊維補強材を主筋に使用し、異形鉄筋との重ね継手を有する大型コンクリートはりの曲げ試験を行った。重ね継手を有する供試体は継手部での破壊は起こらず、継手部の外側の連続繊維補強材の破断または異形鉄筋の降伏によって破壊に至った。継手部における引張力の分担割合は、連続繊維補強材よりも異形鉄筋の方がはるかに大きいため、連続繊維補強材のひずみ分布は下に凸となり、異形鉄筋のひずみ分布は上に凸の形状を呈した。曲げ引張破壊荷重は、自重の影響を考慮すれば精度よく、または安全側に推定することが可能である。継手部に横方向の拘束筋が十分に配置してある場合は、連続繊維補強材と異形鉄筋の重ね合わせ長さが異形鉄筋の呼び名の数字(mm)の30倍以上であれば継手部での破壊が生じなかったので、重ね合わせ長さとして十分であると言える。ただし、継手内部には交差部が3個必要である。次に、鋼板を加工した機械式継手を新たに考案し、連続炭素繊維補強材との継手を設けた供試体の引張試験を行って、継手の性能について検討した。軸筋が鋼管から抜け出した2体を除くすべての供試体は、継手と鋼管の間に露出した軸筋の破断によって破壊に至った。継手性能はほとんど90%を超えていたので、内部に交差部を3個含んだ機械式継手は連続繊維補強材のほぼ全強を伝達することが可能である。

 第7章では、格子状連続繊維補強材の長期性状について検討した。最初に、棒状の連続ガラス繊維補強材を対象として、4連垂直載荷方式のクリープ試験機を用いてクリープ試験を行った。クリープ破壊線図の近似直線を用いて推定した100万時間クリープ破壊荷重比および強度は、それぞれ53.1%および423N/mm2となった。載荷後のクリープひずみの増加は極めて小さいが、その後クリープひずみがわずかずつ増加する供試体が多く、また破断前に突然増加する供試体もあった。次に、連続ガラス繊維補強材を緊張材としたプレテンション方式のPCはりを多数製作し、屋外に長期間放置した後に、連続繊維補強材を取り出して、引張試験および走査型電子顕微鏡による断面の観察を行って、実際のコンクリート中における諸物性の変化について検討した。連続繊維補強材の外観については、ビニルエステル樹脂が初期の状態よりも若干赤く変色していた。最大引張荷重の保持率は、初期緊張力が0の供試体は約80%であり、その他の供試体は平均で90%を超えていた。引張剛性の保持率は、初期緊張力が0の供試体が若干低いけれども、他の供試体では平均値がほぼ100%であり、引張剛性に対するコンクリートのアルカリの影響は極めて少なかった。また、ガラス繊維の断面はきれいな円形であり、アルカリによって浸食されていないことが認められた。

 第8章では、光ファイバーを配置した格子状連続繊維補強材の破壊予知センサー機能について検討した。最初に、光ファイバーを中心に配置して成形した棒状の連続炭素繊維補強材の単調引張試験および繰り返し引張試験を行って、荷重やひずみと共に可視光線を光源として光ファイバーを通過する光量を測定した。ひずみがある値を超えると、光ファイバーを通過する光量が急激に減衰した。その後、除荷しても光量はわずかにしか増加せず、著しい減衰はそのまま残った。さらに荷重を増加すると、光量は少しずつ減衰した。前者の現象は光ファイバーの破断によると考えられ、後者の現象は光ファイバーの破断面の距離の増加であると考えられる。次に、光ファイバーを中心に配置して成形した連続炭素繊維補強材を引張側の主筋に使用したコンクリートはりの曲げ試験を行った。ひずみがある値を超えると光量が急激に減衰する現象が認められ、その後、除荷しても光量の著しい減衰はそのまま残った。さらに荷重を増加したところ、前サイクルの上限荷重以内では光量の減衰は小さく、上限荷重を超えると光量の減衰は大きくなった。再現性を確保できるように成形方法を改良すれば、光ファイバーを通過する光量を測定することによって、連続繊維補強材が破断という致命的な損傷を受ける前に検知することが可能になると思われる。光ファイバーを配置した連続繊維補強材は、過去に受けた最大荷重を記憶する能力を有すると言える。

審査要旨 要旨を表示する

 コンクリート中の鋼材腐食によるコンクリート構造物の劣化は,鉄筋コンクリート構造物にとり重大な問題である.これまでにも,保護層であるかぶりコンクリ片トを大きくするなどの対策が施されてきているが,不経済であり,構造物の重量が増加するという欠点もある.これに対し,鋼材よりも強度が高く,軽量で,錆びることのない,ガラス繊維,炭素繊維やアラミド繊維をコンクリートの補強材として使用することにより,高耐久で軽量なコンクリート構造物を建造するための検討がなされてきている.本研究は,格子状連続繊維補強材をコンクリート構造物へ適用するために,補強材自体の力学的性状の把握などの基礎的なレベルから実構造物への適用を考えたレベルまでを対象として行ったものである.

 第1章は,連続繊維補強材が開発された背景に関して国内外の動向を概説し,研究の目的を述べている.さらに,既往の研究に関して整理し,本研究の位置付けを明らかとしている.

 第2章は,格子状連続繊維補強材に使用する繊維と樹脂,成形方法と付着・定着の原理,引張特性,その利用形態と適用例など,連続繊維補強材の特徴について概説している.

 第3章は,格子状連続繊維補強材の引張性状には寸法効果が存在するが,交差部強度に関しては繊維束の積層回数の影響を受けることを明らかにしており,さらに,曲げ成形部の引張耐力は曲げ内半径が小さくなるほど低下することを明らかとしている.

 第4章は,格子状連続繊維補強材を使用したコンクリートはりの静的曲げ性状および曲げ疲労性状に関して検討している.ひずみ,たわみ,破壊荷重などに関しては,従来の鉄筋コンクリート部材の曲げ理論が適用できることを確認し,ひび割れ幅の計算方法を提案している.さらに,格子状連続ガラス繊維・炭素繊維補強材の疲労強度が等価な鉄筋と同等以上であることも明らかとしている.

 第5章は,格子状連続ガラス繊維補強材を緊張材に使用したプレテンション方式のプレストレストコンクリートはりも従来の曲げ理論が適用できることを確認するとともに,緊張材の伝達長が極めて短いことも明らかとしている.さらに,格子状連続ガラス繊維補強材を緊張材としたPC床版歩道橋を試作し,実用に供している例を紹介している.

 第6章は,格子状連続炭素繊維補強材と異形鉄筋との重ね継手を有するコンクリートはりの曲げ性状を検討し,重ね継手の重合わせ長さについて提案している.また,格子状連続繊維補強材と鋼板の機械式継手の性能について引張試験によって検討し,継手内部に交差部を3個含めば全強を伝達できることを明らかとしている.

 第7章は,棒状の連続ガラス繊維補強材のクリープ性状について検討し,クリープ破壊強度を求め,クリープひずみが増加する様子を明らかにした.また,実際のコンクリート中に格子状連続ガラス繊維補強材に引張力を与えて長期間埋設した後,それを取り出して諸物性について検討した結果,コンクリートのアルカリの影響は極めて少ないことを明らかとしている.

 第8章は,光ファイバーを配置した連続炭素繊維補強材の引張性状および格子状連続炭素繊維補強材を使用したコンクリートはりの曲げ性状と,可視光線を光源として光ファイバーを通過する光量との関係について検討している.光ファイバーが破断すると光量が著しく減衰し,除荷しても減衰は残留することを明らかとしている.この結果,光ファイバーを配置した連続炭素繊維補強材が破壊予知センサー機能を有することを確認している.

 第9章は,本論文の総括であり,本論文の成果をとりまとめたものである.

 以上を要約すると,本研究は格子状連続繊維補強材をコンクリート構造物に適用することを目的とし,格子状連続繊維補強材自体の材料特性およびこれを使用したコンクリート部材の諸性状を定量的に評価したものであり,コンフリート工学の発展に寄与するところ大である.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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