学位論文要旨



No 215378
著者(漢字) 伊藤,高廣
著者(英字)
著者(カナ) イトウ,タカヒロ
標題(和) フッ素化ポリイミドを用いた集積化光マイクロセンサの設計・製作に関する研究
標題(洋)
報告番号 215378
報告番号 乙15378
学位授与日 2002.06.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15378号
研究科 工学系研究科
専攻 機械情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 下山,勲
 東京大学 助教授 村上,存
 放送大学 教授 中島,尚正
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は、光センサを通信や医療など幅広い分野へ応用発展させるために、フッ素化ポリイミドを用いて基板上へ集積化し、超小型化を実現する手法について論じたものである。本論文では、フッ素化ポリイミドが様々な形状に加工でき、かつ素子形成のプロセスと共存できる数少ない光学材料の一つであることに着目し、その加工性、熱特性、光学特性を生かすことにより、モノリシックな形成によって超小型光センサを基板上に集積化する手法を提案した。上記の解決方法により、従来に比べ大きさを数十分の一とすることができ、僅かなスペースに実装できるにもかかわらず、従来と同等以上の性能を持つ計測センサが実現する。本論文は、以下に述べる5章より成る。

 第1章は序論であり、情報技術の進展により計測器の一層の小型化が求められている本研究の背景を述べ、本論文の目的を、フッ素化ポリイミドを用いた光センサ集積化に定めている。従来光センサは、情報技術の進展により一層の小型化が求められているにもかかわらず、部品の三次元組み立てが障壁となり、小型化が十分なされていなかった。また、光センサの集積化が実現できれば、狭い場所、小型装置への実装が可能となるとともに、ノイズの低減、性能の向上も期待できる。光センサの集積化を実現するためには、光ビームを有効に利用する光導波路を用いる必要があるが、従来の光導波路材料では、レーザダイオードと、フォトダイードとを基板上に共存させたモノリシックな集積化が困難である、という問題点を明らかにし、フッ素化ポリイミドを用いた集積化によってこれを解決できることを示した。

 第2章では、フッ素化ポリイミドの材料特性、加工技術、光センサ集積化のプロセス手順について述べている。本論文で提案するフッ素化ポリイミドを用いた集積化センサの作成のためには、従来のパターニングではマスク材料の除去が課題であることを明らかにし、SPP(Silicone-based Positive Photoresist)がこの課題に取り組むうえで有力な手段であることを示した。フッ素化ポリイミド光導波路は、クラッドとコアとの屈折率差を0.001オーダと非常に小さく制御して、コアを厚くできる利点がある。この光学的材料特性に着目して光導波路を設計するとともに、フッ素化ポリイミドが厚膜形成可能なうえに、エッチング作用を促進させるフッ素を含有するため、酸素プラズマエッチングで速く加工できる加工上の特性に着目して、SPPを用いた光導波路加工手法を確立した。また、本加工手法の応用として、フッ素化ポリイミドの加工断面に丸みを付け、その表面への金属パターニング及びめっきにより、光センサの外部との接続用のリード及び微小電極を作成できることを示し、光センサのさらなる小型化への可能性を広げた。

 第3章では、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路材料特性および三次元立体加工によって、集積化レーザドップラ速度センサが実現できることを示した。従来レーザドップラ速度センサは非接触で高精度に速度計測が可能であるものの、光部品の組み立てが難しく、装置は大きくて高価であった。第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路形成用の特長と三次元立体加工により、レーザダイオード、フォトダイオードと共にモノリシックに集積化し、レーザドップラ速度センサを組み立てなしに製作でき、かつ1mm角内に超小型化した。実験により、速度と出力周波数の線形な関係、4.1μm/s以上の速度検出が可能なことを確認した。さらに、光導波路出口端面に位相シフタを設け、ドップラービートだけでは困難であった速度方向検出も可能となることを示した。また、光導波路及び各素子の配置構成の変更により、超小型血流計へと適用領域を拡大できる可能性を示した。

 第4章では、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路材料特性および三次元立体加工によって、集積化光拡散型変位計が作成できることを示した。集積化光拡散型変位計は、広がる光を物体に照射し、反射光の強さを測定することにより変位を測定する。単純な原理にもかかわらず、光軸調整が容易で高分解能である。従来は光ファイバを用いていた光拡散型変位計の構成を、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路としての利用及び三次元立体加工により、レーザダイオード、フォトダイオードと共にモノリシックに集積化した。光拡散型変位センサを1mm角の基板上にフッ素化ポリイミドを用いて集積化し、簡易で高分解能な変位計測デバイスを実現した。変位-反射光量の関係を測定し、変位分解能9nmを確認した。照射角度によっては、戻り光による複合共振を生じ、複合共振による光の強弱を利用した変位計測も可能となる。

 第5章は結論であり、本論文の成果をまとめるとともに、将来展望を示している。

 以上述べたように、本論文ではフッ素化ポリイミドが光センサを集積化する上で、最も適した光導波路材料であることを主張した。集積化レーザドップラ速度センサ、集積化光拡散型変位センサを作成、評価することにより、上記主張を実証した。本研究の独自性は、フッ素化ポリイミドの熱特性、加工性に着目して光源、受光素子を含めたセンサ集積化手法を確立したこと、上記手法を用いてレーザドップラ速度センサ、光拡散型変位センサをモノリシックに集積化したこと、フッ素化ポリイミドを犠牲層として用い、集積化光センサ接続用電極の作成手法を確立したことである。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、光センサを通信や医療など幅広い分野へ応用発展させるために、フッ素化ポリイミドを用いて基板上へ集積化し、超小型化を実現する手法について論じたものである。本論文では、フッ素化ポリイミドが様々な形状に加工でき、かつ素子形成のプロセスと共存できる数少ない光学材料の一つであることに着目し、その加工性、熱特性、光学特性を生かすことにより、モノリシックな形成によって超小型光センサを基板上に集積化する手法を提案している。上記の解決方法により、従来に比べ大きさを数十分の一とすることができ、僅かなスペースに実装できるにもかかわらず、従来と同等以上の性能を持つ計測センサが実現する。本論文は、以下に述べる5章より成る。

 第1章は序論であり、情報技術の進展により計測器の一層の小型化が求められている本研究の背景を述べ、本論文の目的を、フッ素化ポリイミドを用いた光センサ集積化に定めている。従来光センサは、情報技術の進展により一層の小型化が求められているにもかかわらず、部品の三次元組み立てが障壁となり、小型化が十分なされていなかった。また、光センサの集積化が実現できれば、狭い場所、小型装置への実装が可能となるとともに、ノイズの低減、性能の向上も期待できる。光センサの集積化を実現するためには、光ビームを有効に利用する光導波路を用いる必要があるが、従来の光導波路材料では、レーザダイオードと、フォトダイードとを基板上に共存させたモノリシックな集積化が困難である、という開題点を明らかにし、フッ素化ポリイミドを用いた集積化によってこれを解決できることを示した。

 第2章では、フッ素化ポリイミドの材料特性、加工技術、光センサ集積化のプロセス手順について述べている。本論文で提案するフッ素化ポリイミドを用いた集積化センサの作成のためには、従来のパターニングではマスク材料の除去が課題であることを明らかにし、SPP(Silicone-based Positive Photoresist)がこの課題に取り組むうえで有力な手段であることを示した。フッ素化ポリイミド光導波路は、クラッドとコアとの屈折率差を0.001オーダと非常に小さく制御して、コアを厚くできる利点がある。この光学的材料特性に着目して光導波路を設計するとともに、フッ素化ポリイミドは、厚膜形成可能なうえにエッチング作用を促進させるフッ素を含有するため、酸素プラズマエッチングで速く加工できる加工上の特性に着目して、SPPを用いた光導波路加工手法を確立した。また、本加工手法の応用として、フッ素化ポリイミドの加工断面に丸みを付け、その表面への金属パターニング及びめっきにより、光センサの外部との接続用のリード及び微小電極を作成できることを示し、光センサのさらなる小型化への可能性を広げた。

 第3章では、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路材料特性および三次元立体加工によって、集積化レーザドップラ速度センサが実現できることを示している。従来レーザドップラ速度センサは非接触で高精度に速度計測が可能であるものの、光部品の組み立てが難しく、装置は大きくて高価であった。第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路形成用の特長と三次元立体加工により、レーザドップラ速度センサをレーザダイオード、フォトダイオードと共にモノリシックに集積化し、組み立てなしに製作、かつ1mm角内に超小型化した。実験により、速度と出力周波数の線形な関係、4.1μm/s以上の速度検出が可能なことを確認した。さらに、光導波路出口端面に位相シフタを設け、ドップラービートだけでは困難であった速度方向検出も可能となることを示した。また、光導波路及び各素子の配置構成の変更により、超小型血流計へと適用領域を拡大できる可能性を示した。

 第4章では、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路材料特性および三次元立体加工によって、集積化光拡散型変位計が作成できることを示している。集積化光拡散型変位計は、広がる光を物体に照射し、反射光の強さを測定することにより変位を測定する。単純な原理にもかかわらず、光軸調整が容易で高分解能である。従来は光ファイバを用いていた光拡散型変位計の構成を、第2章で述べたフッ素化ポリイミドの光導波路としての利用及び三次元立体加工により、レーザダイオード、フォトダイオードと共にモノリシックに集積化した。光拡散型変位センサを1nm角の基板上にフッ素化ポリイミドを用いて集積化し、簡易で高分解能な変位計測デバイスを実現した。変位-反射光量の関係を測定し、変位分解能9nmを確認した。照射角度によっては、戻り光による複合共振を生じ、複合共振による光の強弱を利用した変位計測も可能となる。

 第5章は結論であり、本論文の成果をまとめるとともに、将来展望を示している。

 本論文では、フッ素化ポリイミドが光センサを集積化する上で最も適した光導波路材料であることを述べ、集積化レーザドップラ速度センサ、集積化光拡散型変位センサを作成、評価することにより、上記主張を実証している。本研究の独自性は、フッ素化ポリイミドの熱特性、加工性に着目して光源、受光素子を含めたセンサ集積化手法を確立したこと、上記手法を用いてレーザドップラ速度センサ、光拡散型変位センサをモノリシックに集積化したこと、フッ素化ポリイミドを犠牲層として用い、集積化光センサ接続用電極の作成手法を確立したことである。

 以上述べたように、本論文で示した光センサ集積化手法は、工学的に光センサ設計やプロセス技術の発展に大きく貢献するばかりでなく、実際に工業的に光センサの製造分野に応用できると考える。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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