No | 215410 | |
著者(漢字) | 渡邉,裕之 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ワタナベ,ヒロユキ | |
標題(和) | 閉経後女性の骨密度の推移に対する指数型非線形混合効果モデルを用いたモデルの当てはめとそのバリデーション | |
標題(洋) | Model-fitting and its validation of bone mineral density in postmenopausal women using an exponential-type nonlinear mixed-effect model | |
報告番号 | 215410 | |
報告番号 | 乙15410 | |
学位授与日 | 2002.09.04 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 第15410号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【研究目的】骨粗鬆症の予防としては、高いピーク骨量を得ること、女性においては閉経後急速な骨量の減少が認められるため、閉経後女性の低骨量者や急速な骨量減少者を早期にスクリーニングし、これらにおける骨量減少を予防することが重要である(Consensus Development Coference,1997)。本研究は、健常女性を対象とし、腰椎、大腿骨頸部及び橈骨の3部位の骨密度における自然閉経後からの変化について、母集団の平均的推移及び個体間ばらつきを推定し、この推定値を用いて各個人に対する予測式を作成することを目的とした。さらに、この予測式のバリデーションを行った。 【1.骨密度推定モデルと骨密度予測式の作成研究】 【方法】1989年12月〜1999年8月に岡山県で、カルシウム摂取以外の薬物治療を実施していない健常女性で閉経後2回以上骨密度測定を行った89名を対象とした。骨密度の測定部位は、腰椎、大腿骨頸部及び橈骨の3部位で、測定方法はHologic社のQDR1000またはQDR2000、及びアロカ社のDCS-600またはDCS-600EXを用い、DXA法で行った。 【統計解析】次の6つのモデルを設定し解析を行った。 model 1:(BMD)ij=α+αi+(β+bi)exp(γ・(YSM)ij=)・δ((AAM)i-AAM)+eij (1)model 2:(BMD)ij=α+αi+(β+bi)exp(γ・(YSM)ij=)+eij (2)model 3:(BMD)ij=α+αi+βexp(γ・(YSM)ij=)+eij (3)model 4:(BMD)ij=α+(β+bi)exp(γ・(YSM)ij=)+eij (4)(i;被験者;j;時点;α,β,γ,δ;母集団の平均のパラメータ;αi,bi;被験者の変量効果のパラメータ;eij:誤差;(YSM)ij=;閉経後年数;(AAM)i;閉経時年齢;AAM;閉経時年齢の平均;(BMD)ij=;骨密度) 〓に従い誤差と独立、eijはN(0,σ2e)に従うと仮定した。(1)、(2)においてαiとbiの相関を考慮したモデルをモデル1_1とモデル2_1、αiとbiの相関を考慮しないモデルをモデル1_2とモデル2_2とした。 固定効果を順次固定し反復計算するアルゴリズムとLindstrom and Bates' approximate second-order method(Lindstrom and Bates,1990)を組み合わせて、制限付き対数尤度が最大となるようパラメータの推定を行った。その際・各々計算のステップにおいてDual Quasi-Newton法を用いた。変量効果の推定はempirical best linearunbiased predictor、固定効果の95%信頼区間はprofile likehihoodを用いて計算した。モデル間の選択基準として、Akaike's Information Criterion(AIC)を用いた。 各個人の骨密度は、モデル1_1で推定した母集団の平均と変量効果を事前分布、対象とする個人の情報を尤度とする事後分布に従うと定義した。計算を分かりやすくするために、モデル1_1を次式を用いて変換した。 yk=ξ0+ξ1xk+ek (5) (k=1,・・・,m:予測を行いたい個人のデータ;ek:誤差;(YSM)k:閉経後年数;AMM:閉経時年齢;AMM:閉経時年齢の平均;(BMD)k:骨密度;yk=(BMD)k,xk=exp(γ・(YSM)k),ξ0=α十α十δ(AAM-AAM),ξ1=β+b,ek〜N(0,σ2e))そして、事前分布は、次の2変量正規分布に従うと定義した。また、個々のデータを次のように定義した。 事後分布はベイズの定理から事前分布と尤度の積として計算され、事後分布の対数尤度を最大になるように方程式を解くと次式になる。 予測したい時点の変換されたデータをX〜P=(1X〜P)とすると、骨密度の予測値は次の値となる。 【結果】観察開始時の年齢は58.5±6.5歳(平均±標準偏差)、身長は154.2±5.1cm、体重は54.2±7.1Kg、閉経年齢は50.7±3.1歳、閉経後手齢は7.8±6.9年、腰椎骨密度は0.863±0.1269/cm2、大腿骨頚部骨密度は0.683±0.1009/�p2、橈骨骨密度は0.540±0.0859/cm2であった。AICを基準とし、モデルの統一を考え、全ての部位でモデル1_1を採用した。γ^の推定結果より、腰椎の骨密度は他の部位に比べ、急速に骨密度の減少が起きることが分かった。そして、骨密度の予測としては、55歳の女性を例として示した。 【2.骨密度予測式のバリデーション研究】 【方法】1989年1月〜2000年12月に長野県で、カルシウム摂取以外の薬物治療を実施していない健常女性で閉経後に4回以上骨密度測定を行った176名を対象とした。骨密度の測定部位は腰椎で、測定方法はLunar社のDPX-LまたはDPX-IQを用い、DXA法にて行った。これらのデータを用い、骨密度推定モデルと骨密度予測式の作成研究で選択したモデル1_1のバリデーションを行った。 【統計解析】個人毎に最終時点の測定値をバリデーション用データとし、残りのデータを用いて各個人の予測式を求めて、最終時点の予測を行った。(1)指数型非線形混合効果モデルを用いた予測式(モデルv1)の比較対照として、(2)固定効果モデルのみを用いた指数型回帰(モデルv2)、(3)個人データのみの情報を用いた1次回帰(モデルv3)、(4)個人データのみの情報を用いた2次回帰(モデルv4)を考えた。ここで、(1)、(2)においては、DPXの測定値からQDRの測定値への換算として、YAMの100を基準として変換する方法をモデルv1_a、モデルv2_a,1次回帰の換算式を用いる方法をモデルv1_b、モデルv2_bとした。予測精度の評価としては、予測平均平方和を用いた。 【結果】観察開始時の年齢は65.9±9.4歳、閉経年齢は49.3±4.3歳、閉経後年齢は16.6±9.8年、腰椎骨密度は0.863±0.1269/cm2であった。モデルv1に関する予測値と観測値との散布図では、全体として良く当てはまっていた。また、DPXの測定値からQDRの測定値への換算方法に関わらず、今回の指数型非線形混合効果モデル(モデルV1)を用いた予測式は、他のモデルと比較して予測平均平方和が最も小さいことから、最も良い予測モデルであると判断された。 【考察】関経後は指数的に骨密度が減少する(Gallagher et al.,1987;Ravn et al.,1994;Okano et al.,1998)ため、指数型のモデルを設定した。また、閉経後女性の骨密度の推移を評価するには年齢よりも閉経後年数が望ましい(Ravn et al.,1994)ため、閉経後年数を説明変数として採用した。閉経前は、年齢と骨密度に直線関係が認められる(Riggs et al.,1982;Buchananetal.,1988;Fujiwala wt al;1998)ので、δ(AMM-AMM)の項を用いた。パラメータの計算としては、Lindstrom and Bates' approximate second-order methodを用いたが、推定するパラメータ数に比ベデータ数が少なく、高度にアンバランスなので、パラメータの推定は出来なかった。従って、提案するアルゴリズムと組み合わせ、パラメータの推定を行った。 現在と過去の個人情報のみを用いて骨密度予測を行う場合、そのモデル選択や測定精度により、推定が大きく異なる場合がある。また、固定効果モデルのみを用いた指数型回帰で予測を行う場合、対象となる個人の情報が全く使用されていないため精度が非常に悪い。今回の予測モデルは、母集団の平均や変量効果の情報と対象となる被験者の個人情報を組み合わせることにより、バランスのとれた精度の高い予測が可能となる。そして、バリデーション研究において、予測モデルの有用性が示された。 骨密度における標準偏差の1つ分の減少は、骨折のリスクを1.5〜2.5倍増加させる(Cummhgs et al.,1993)。そして、閉経後は骨量の急速な減少が見られるので、個人毎の骨密度の予測式を求めることは、薬物治療の開始時期を判断することや次回の骨密度の測定時期を判断するのに有用な情報考えられる。 【まとめ】89人の閉経後女性を対象に、3つの部位(腰椎、大腿部頚部、橈骨)の骨密度の推移を閉経後年数と閉経年齢を説明変数とする指数型非線形混合効果モデルを用いて推定した。その結果、腰椎、大腿部頚部及び橈骨の推定されたモデルは、それぞれ以下の式となった。 このモデルの推定式を事前分布とし、ベイズ流のアプローチを用い、各個人に対する予測式を作成した。そして、バリデーション研究において、これらの式の予測精度が良いことが示された。 | |
審査要旨 | 骨粗鬆症の予防としては、高いピーク骨量を得ること、女性においては閉経後急速な骨量の減少が認められるため、閉経後女性の低骨量者や急速な骨量減少者を早期にスクリーニングし、これらにおける骨量減少を予防することが重要である。 本研究は、健常女性を対象とし、腰椎、大腿骨頸部及び橈骨の3部位の骨密度における自然閉経後からの変化について、母集団の平均的推移及び個体間ばらつきを推定し、この推定値を用いて各個人に対する予測式を作成することを目的とした。この予測式は、急速な骨量減少者を早期にスクリーニングに有用であると考えられ、以下の結果を得た。 1.カルシウム摂取以外の薬物治療を実施していない健常女性を対象に、腰椎、大腿骨頸部及び橈骨の3部位の骨密度における自然閉経後からの変化について、母集団の平均的推移及び個体間ばらつきを推定した。その際、指数型非線形混合効果モデルを用いて、母集団の平均的推移及び個体間ばらつきを推定し、3部位間の比較を行った。 2.ベイズアプローチを用いて、今回推定した指数型非線形混合効果モデルを事前分布、予測を行いたい個人の現在及び過去の骨密度の情報を尤度とした事後分布を導いた。そして、この事後分布に基づく骨密度の予測式を作成した。 3.ベイズアプローチによる骨密度の予測式のバリデーションを行い、予測精度の良さが示された。その際、固定効果モデルのみを用いた指数型回帰の予測や、個人データのみの情報を用いた1次回帰や2次回帰の予測に比べても、精度良く予測できることを示した。 審査員は本論文に対し以下の点で高い評価を与えた。 1.閉経後女性の骨密度の推移に関し、初めて個体間変動を考慮した非線形混合効果モデルを用いて推定した点。その際、アンバランスなデータに対応したアルゴリズムを考慮して、パラメータの推定した点。 2.集団の情報と予測したい個人の情報をバランス良く併合した骨密度の予測式を作成した点。少数のデータでも予測可能であり、さらに、方程式を解くことにより予測ができるので、医療現場でも簡便に骨密度の予測を行うことができる点。 3.他の医療機関のデータを用いてバリデーションの研究を行い、今回のベイズを用いた予測式が、精度良く骨密度を予測できることを確認した点。 以上、健常女性を対象とし、自然閉経後からの骨密度推移のモデル式を作成し、それを用いて各個人に対する予測式を作成した。この予測式は、急速な骨量減少者を早期スクリーニングするのに有用と考えられた。本研究は閉経後女性の骨密度予測に重要な貢献を果たすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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