学位論文要旨



No 215430
著者(漢字) 田邉,成
著者(英字)
著者(カナ) タナベ,シゲル
標題(和) 送電用鉄塔基礎の多様な要求形態に対応した鉄塔・基礎接合部の耐力設計法に関する研究
標題(洋)
報告番号 215430
報告番号 乙15430
学位授与日 2002.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15430号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 助教授 安,雪暉
 東京大学 講師 松本,高志
内容要旨 要旨を表示する

 送電線を建設・維持する上で、都市化の進展状況、敷地面積や工事用地の制約や、既設送電線の有無等の多様な条件に対し、合理的な鉄塔・基礎の設計を進めることが要求されている。それらの条件に最適な基礎の形状を選択可能にするためには、様々な要求に応えられる基礎形態を開発することが重要である。筆者はそのために、鉄塔と表-1にしめす幾つかの基本的な支持条件の基礎との接合部の設計法について検討した。その結果、図-1に示す多様な基礎の要求形態に対応した鉄塔・基礎接合部の耐力設計法を提案し、建設の現場にこれを適用している。

 既往の研究では4本杭に支持され、十字の載荷面が正方形のいかり材を埋め込んだ床板における脚材定着設計法が前田、吉井らにより研究されていた。筆者はこれに、1本杭〜3本杭支持床板と直接基礎において、載荷面の形状が円形、三角形、四角形のいかり材を用いた接合部の耐力設計法を加えた。これらの支持形態の多様な定着部の検討にあたっては、実験や数値解析を利用した。

 これらによって得た知見は以下の通りである。

 実験の結果、1本杭支持床板の脚材に引抜力が作用した場合の代表的な破壊形式は、割裂よる上端正鉄筋の降伏による破壊と、引抜きせん断破壊であると考えられる。そして、せん断スパン比が大きな場合には曲げ破壊の可能性が高くなることも確認した。引抜きせん断の設計においては、4本杭とほぼ同じ耐力設計式を提案した。ただし、載荷周長については取付板の先端を結ぶ多角形と面積が等価となる円の周長とし、様々な形状のいかり材においても同様の耐力計算式が使用できるようにした。さらに、杭の定着のための鉄筋は引抜きせん断破壊のためのせん断補強筋を兼ねることが可能であることが判明した。この杭の定着鉄筋の定着部を確実なものにするため、端部をT字型にすることが有効なことが判った。

 実験の結果、2本杭支持床板の脚材に引抜力が作用した場合の代表的な破壊形式は、床板短軸方向の割裂による破壊、長軸方向の曲げによる破壊、引抜きせん断破壊であることが判明した。短軸方向の割裂破壊および引抜きせん断破壊は1本杭と同様の設計法が適用可能なことを示した。また、引抜きせん断耐力の設計の際には鉄筋比を短軸方向と長軸方向の平均の値を用いる必要があり、極端に鉄筋比が異なると推定精度が悪くなることを示した。

 実験の結果、3本杭支持床板の脚材に引抜力が作用した場合の代表的な破壊形式は、降伏線に沿った曲げ応力破壊と、引抜きせん断破壊であると考えられる。また、同心円状に配筋した場合でせん断スパン比が小さい場合には、降伏線を考慮した曲げに割裂応力が作用して破壊する可能性のあることを示し、設計ではこれを考慮することを提案した。引抜きせん断の設計法は、1,2本杭と同様のもので良いと考えられるが、同心円状配筋の場合においては耐力が大きめになることを示した。

 実験の結果、4本杭支持床板の脚材に押抜き力が作用した場合の押抜きせん断耐力は、引抜きせん断耐力よりも1.3倍以上大きめになる傾向であることを示した。その理由としてはせん断スパン比が小さい領域ではその影響であり、せん断スパン比の大きな領域では床板の曲げと脚材の膨張により脚材上部が拘束され、せん断破壊面が広がることが考えられる。

 COM3を用いた解析によれば、直接基礎の脚材に押抜き力が作用した場合の押抜きせん断耐力は、底面地盤の剛性に左右され、剛性が大きくなるほど増大することが判明した。また、非常に軟弱な支持地盤における押抜きせん断耐力は、せん断スパン比が比較的大きい(a/d=5)4本杭の押抜きせん断耐力と同等となることが判った。

表-1各支持形態の特徴

図-1多様な基礎形態への応用

(a)1本杭支持床板とその応用

(b)2本杭支持床板とその応用

(c)3本杭支持床板とその応用

(d)4本杭支持床板とその応用

審査要旨 要旨を表示する

 送電用鉄塔は電圧階級が1000kV級のものから66kV級のものまで様々な大きさのものがある。我が国の電力エネルギー配送基盤システムは新設から維持管理および建替に比重が移りつつあり、地形、その他の条件も様々で、敷地面積、工事面積、工事期間、地質、地形、振動・騒音、費用などにおいて、多様で厳しい要求がなされる。本研究はそのような様々な要求を満たすべく、基礎形式の多様化を図るため、特に重要な鉄塔と基礎の接合部の耐力設計法を開発し、これを送電整備事業の実務に適用したものである。具体的には1本杭支持床板、2本杭支持床板、3本杭支持床板、4本杭基礎および直接支持床板のいかり材定着方式を用いた床板への定着耐力に視点を当て、その設計法を提案し、これによってマット基礎や、任意の杭本数の基礎、既設の基礎に手を加えないで新しい基礎を構築する基礎の設計を可能とした。

 第1章は序論であり、研究の背景と目的について概括した。その中で、様々な送電用鉄塔の建設工事における様々な要求に応えるためには、基礎形式の多様化を図ることが必要であり、そのためには鉄塔と基礎の接合部である脚材定着設計法を検討することが重要であることを述べた。

 第2章では、送電用鉄塔基礎の新しい基礎形式としての1本杭支持床板にいかり材で脚材を定着する方式において、引抜き力が作用した際の破壊耐力について検討した。この定着方式には、割裂応力による上端主鉄筋の降伏を伴う破壊と、コーン状のせん断破壊との2つの主要な破壊モードがあることを示した。そして、上端主鉄筋の降伏を伴う破壊には、割裂応力による破壊と曲げ破壊があること、コーン状の引抜きせん断破壊は4本杭の場合とほぼ同様であることを示し、これらの破壊形式について耐力算定式を提案した。

 第3章では、送電用鉄塔基礎への新しい基礎形式としての2,3本杭支持床板にいかり材方式で脚材を定着する方式において、引抜き力が作用した際の破壊耐力について検討した。この定着方式には、上端の短軸、長軸方向の鉄筋の降伏による破壊と、コーン状のせん断破壊があることを示した。そして、上端鉄筋の内、短軸方向の鉄筋は割裂応力により降伏し、長軸方向の鉄筋は曲げ応力に割裂応力も影響して降伏すると考えられること、コーン状の引抜きせん断破壊は4本杭の場合とほぼ同様であることを示し、これらの破壊形式について耐力算定式を提案した。

 第4章では、送電用鉄塔基礎の4本杭支持床板および直接支持床板においていかり材方式で脚材を定着する際の押抜きせん断耐力算定式について検討した。まず、4本杭支持床板について、押抜きせん断破壊試験を実施し、引抜き時と設計式はほぼ同じであるが、耐力は1.3倍程度大きいとする押抜きせん断耐力算定式を提案した.引抜き時よりも押抜き時の耐力が増大する理由については、実験結果からせん断スパン比や、脚材が膨張と床板の曲げによる摩擦力等が影響することを示した。次に、典型的な一つの実験について静的3次元弾塑性FEM解析コードCOM3を用いた数値シミュレーション解析を行い、押抜きせん断耐力を精度良く検討できることを示すと共に、引抜き時と押抜き時の耐力の原因が脚材と周囲のコンクリートの付着にあると考えられることを示した。そして、直接基礎の押抜きせん断耐力について、地盤の変形係数を変化させた数値解析を実施し、地盤剛性の変化によってせん断耐力が大きく変化し、地盤が非常に弱い場合においても、杭基礎並の耐力を有することを示した。

 第5章では、2〜4章で検討した成果を具体的に実際の現場へ適用するにあたり、どのようなことを考慮する必要があるかについて記述し、特に鉄塔の特性を考慮し、鉄塔と基礎の一体的な挙動を考慮した設計方が重要であることを述べ、具体的な事例について記した.1本杭支持床板の具体的な適用事例としては、4脚を一体としたマット基礎において、杭と脚材の位置を一致させた事例や、地盤が比較的良い場合に1本杭基礎とした事例、および軟弱地盤においても、基礎の変位による鉄塔への影響を考慮することによって1本杭基礎とした事例を示した。2本杭支持床板の具体的な適用事例として、既設の鉄塔を通電したままで、既設の基礎を跨ぐように建替えのための新しい基礎を構築した事例を示した。3本杭支持床板および直接基礎床板の具体的な適用事例として、3本のアンカーからなるロックアンカー基礎の事例を示した。

 第6章では本研究で新たに開発した1,2,3本杭支持床板の基礎等の耐力設計式について要点を述べ、具体的な設計法を付録に示した。

 架空送電線の鉄塔基礎の多様な基礎の要求形態に対応して、様々な鉄塔・基礎の接合部の耐力設計法を確立し、従来からの要求性能を満足すると同時に工事費の削減と工事期間の短縮、これに伴う近隣への騒音・振動等の環境負荷軽減を図ったことは、重要インフラである電力流通設備のための技術として社会的に貢献するものである.よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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