学位論文要旨



No 215432
著者(漢字) 舎川,徹
著者(英字)
著者(カナ) トネガワ,トオル
標題(和) 貧配合・高リフトコンクリートダムの締め固めの品質管理に関する研究
標題(洋)
報告番号 215432
報告番号 乙15432
学位授与日 2002.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15432号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

 コンクリートダムは我が国においては昭和の初期から立地地点の地形、地質の条件や経済性等から各所で建設されている。電力においても水力発電の需要に合わせ着実に建設を進め近年はダムの規模も100mを越え大型化してきている。

 水力発電所の建設においては、ダムの建設費は全体工事費の20〜30%程度を占め、その建設費のコストダウンを図ることは社会的使命である。

 近年、重力式コンクリートダムはコストダウンの観点から、振動ローラーによって単位結合材量の少ない貧配合のコンクリートを締め固めるRCD(Roller Compacted Dam)コンフリート工法が採用されているが、コストダクン、工程短縮を従来より一層図られるようにするためRCD用コンクリートの締め固め品質管理の研究を行った。

 まず、コンクリートの配合、設計面では単位結合材量に着目した。これまでの我が国のコンクリートダムにおける最も少ない単位結合材量は120kg/m3であるが、これを110kg/m3まで減らせられないか検討を行った。

 また、施工面では急速施工の観点から一回のコンクリート打設のリフト高さに着目した。これまでの我が国の一回のコンクリート打設のリフト高さは75cmが最も高かったが、これを1mにできないか検討することとした。因みに本研究の対象ダムである葛野川ダム(山梨県、高さ105m)のコンクリートの打設工程では、75cmリフトと1mリフトを比べると28ヶ月から24ヶ月と4ヶ月の工程短縮が図られることになり、またコンクリート表面処理費用の低減等から大きなコストダウンも図られる。

 コンクリートの単位結合材量が減るということは、強度の減少に加えてコンクリートが締め固めにくくなるという問題が生じる。また、単位水量の少しの変動でもコンシステンシー(VC値)に大きな影響を及ぼすという問題が把握され、コンクリートの所要の締め固め品質の確保が重要な課題となるが、締め固めの管理について新しい方法を研究・開発できれば、さらに又コンシステンシーの管理についてもバッチャープラントで全数管理が可能となれば、110kg/m3の貧配合コンクリートの適用が可能になるのではないかと考えた。

 施工面で一回のコンクリート打設のリフト高さを高くするということはコンクリートの下層部が締め固めにくくなることが懸念されたことから、コンクリートの全層にわたり締め固め度を把握し、所要の締め固め品質を確保、管理するということが重要となる。振動ローラーの転圧で、はたして上層部から下層部まで振動エネルギーが十分伝わり所要の締め固めができるのかどうかを検討、評価する必要があると考えた。

 さらには振動エネルギーが伝わりにくいと考えられる下層部の締め固めについてはダンピングしたコンクリートのブルドーザーによる巻きだし、敷き均しに着目し、ブルドーザーの敷き均し転圧を利用できるのではないだろうかと考えた。

 RCD用コンクリートはダンピングしたコンクリートをブルドーザーで巻きだして平らに敷き均した後、その名のとおり振動ローラーでコンクリートを締め固める工法であり、これまでブルドーザーでコンクリートを締め固めるということについては着目されていなかった。ここで、ブルドーザーの敷き均しをコンクリートの締め固めに利用できないかという観点から、ブルドーザーのキャタピラのコンクリートヘの貫入量を計測する等、定量的評価、検討を行った。

 なお、ブルドーザーによるコンクリートの締め固めを定量的に検討するということは初めての着眼、試みである。

 振動ローラーによる振動転圧の効果については現場での施工試験を実施して、振動エネルギーの下層部への伝達の様子等、締め固めのメカニズムについて検討を行った。更に、ブルドーザーの敷き均し時の転圧効果について検討、評価を行うため、現場での施工試験、等を行った。

 現場施工試験の分析結果から下層部(表層から50cm以深)は振動ローラーの加速度が十分伝達されず、振動ローラーの締め固め転圧はあまり効果がなく、ブルドーザーの敷き均し転圧が有効であることがわかり、下層部のコンクリートについてはブルドーザーの敷き均し転圧が重要であること、逆に上層部(表層から50cm以内)ではブルドーザーの敷き均し転圧の効果は小さく、振動ローラーにより締め固まり、密度が増加することが把握できた。

 ブルドーザーの敷き均し転圧の効果が上層部では小さいのに対して下層部では大きくなることが、ブルドーザー転圧時の密度変化測定、電流計計測結果からも判明したが、この理由については上記のキャタピラの貫入量計測結果の分析の他に、解析的な面からも検討を加えた結果、下層部はブルドーザー敷き均し転圧時に既設の硬いコンクリートの影響で骨材が固定化されて自由に動けず締め固まるのに対して、上層部は直下の層がまだ固まっていないことから骨材が固定化されず、動けるため締め固まりにくくなっていると考察される。

 次にコンクリートの締め固めの管理については、コンクリートを施工したのち密度測定を行う等、コンクリートが硬化した後にコア抜きをして後追いで所要の品質の確認をしているのが現状であるが、従来にない貧配合の締め固めにくいコンクリートの締め固め管理を後追いではなく、なんとかリアルタイムにかつビジュアルに効率的に管理できる方法はないかを研究、開発した。リアルタイムにダムコンクリートの品質を定量的に管理するという品質管理の手法へのチャレンジも初めての試みである。

 平面的に連続なリアルタイムの沈下量計測、密度推定が可能となる管理システムを構築し実ダムに適用し次の結論を得た。

a.振動ローラー沈下量とその位置で測定したRI密度計による密度比との相関は、よい相関がある。

b.リアルタイム締め固め管理システムの適用結果から,振動ローラー転圧2回では、コンクリートの密度比が98%以下の部分が多いのに対して、転圧12回になると、すべての点でコンクリートの密度比が98%以上を示しており、振動ローラーの転圧回数の増加に伴い沈下量が増加していることが把握できる。

c.実際のダムコンクリート施工においてリアルタイム管理システムによって測定した密度比と施工後にコア採集して測定したコア評価点について調査すると、管理システムで98%以上と推定された地点のコア評価点はいずれも4.5以上となっており、リアルタイム管理システムはダムコンクリートの締め固め管理に有効であると言える。

 次に、コンシステンシー管理についても従来では抜き取りのチェックとならざるをえないため、打設現場まで運搬したコンクリートを、所要品質がないと現場で判断される場合は現場廃棄して施工しているのが現状であり、なんとか全数管理をバッチャープラントでリアルタイムにできないか検討した。その結果、ニューラルネットワークに基づく新しいVC値の予測システムを用いることにより、普通コンクリートと比較して品質管理が難しいRCD用コンクリートに関してリアルタイムに練り混ぜ終了後の品質特性を表すVC値を精度よく推定し得ることを明らかにすることができた。

 さらに又、実ダム施工に先立つ現場での施工試験は多額の費用や時間がかかることから、室内試験で所要の締め固め品質の目安がつけられることができれば大きなコストダウンが図られることになると考え、室内試験での検討も行った。その結果、振動ローラの転圧による締め固めについては、土質試験における繰り返し三軸試験の適用が図られることを示せた。

 更にブルドーザーによる敷き均し転圧については、敷き均し時のブルドーザーのキャタピラとコンクリートの目視観察から、ブルドーザーのキャタピラが粗骨材を下方へ押し込むことによって密度を高めていると推定されたことから突き固め試験の適用が図られないかと考え、室内試験と現場施工試験との比較検討を行い、室内試験で目安をつけられることを示すことができた。

 以上より、本研究は、従来にない貧配合で高リフトのRCD用コンクリートダムの締め固めに関して、室内試験、現場施工試験、実ダム施工を通じて締め固めのメカニズム、振動ローラー転圧効果、ブルドーザー敷き均し転圧効果等の把握、考察を行うとともに、これまでの後追いの品質管理ではない施工中のリアルタイムな品質管理の方法を示すことが出来た。

 以上

審査要旨 要旨を表示する

 コンクリートダムは我が国において昭和の初期から立地地点の地形、地質の条件や経済性等の観点から各所で建設されており、近年、ダムの規模も大型化してきている。また、建設業界ではコスト縮減が重要視されるとともに、これまで以上に費用対効果による検討が重要となる。現在の水力発電所の建設においては、ダムの建設費が全体工事費の20〜30%程度を占めており、建設費のコストダウンを図りつつ適切な品質管理を行うことが極めて重要であり、社会への影響度も高い。本研究はこの様な現状を鑑み、コスト縮減を実現する従来にない貧配合で高リフトのRCD用コンクリートダムの開発を目的とし、様々な条件(配合条件、施工条件等)に関して技術課題の抽出とその課題の克服を検討するとともに、適切な品質管理手法の提案を行ったものである。

 第1章は序論であり、本研究の目的及び本論文の構成について記述している。

 第2章は重力式コンクリートダムの設計・施工についてこれまでに試みられてきた技術開発・工夫の実績と変遷について整理することにより、この論文の研究の位置づけを明らかにしている。

 第3章は貧配合・高リフトのRCD用コンクリートダムの品質に関する技術的問題点、課題について設計面、施工面から整理するとともに、その解決策に関して体系的にとりまとめている。さらに、課題解決に向けて何をどう考えまたどう取り組んでいったか、本研究のプロセスについて記述している。

 第4章では、3章で記述した課題について貧配合・高リフトのRCD用コンクリートダムの締め固めの品質管理について検討したプロセスと結果を記述している。これについては振動ローラの現場施工試験結果等による締固めメカニズム及び締固め効果の検討に加え、下層部についてはブルドーザーの敷きならし転圧の活用に着目してブルドーザーによる敷きならし時の転圧効果について現場施工試験、実ダムの施工等によって定量的な把握および検討を行っている。また、現場施工試験には多大な費用と時間を要するため、現場施工試験の省略化の実現に向けて、振動ローラの転圧効果ならびにブルドーザーによる敷きならし時の転圧効果について室内試験により代替する方法に関して検討している。この結果、繰り返し振動三軸試験で振動ローラによる振動転圧効果の目安がつけらえること、また、ブルドーザーの敷きならし時の転圧効果は突き固め試験で目安がつけらえることを明らかにしている。

 第5章では、これまでにない貧配合・高リフトのRCD用コンクリートに関して、特に品質管理に主眼をおき、品質管理についての新しい手法の検討を行っている。これまで、RCD用コンクリートの管理は施工した後の後追いの管理のやり方となっている現状に対して、リアルタイムでの締固めの管理手法を提案し、この適用性の検証を行っている。さらに、貧配合・高リフトのコンクリートのコンシステンシーの管理についても、抜き取りのチェックである現状の管理システムに対して、ニューラルネットワークを用いてバッチャープラントでコンクリートの品質の良否が判定できる手法を開発し、この適用性に関して検証を行っている。

 第6章は結論であり、本研究の成果をとりまとめている。

 以上を要約すると、貧配合・高リフトのRCD用コンクリートの開発において重要な課題である品質管理の問題に対して、リアルタイムに実行可能な締固め管理手法の提案およびバッチャープラントでコンクリートの全数品質管理が可能となるシステムの提案を行っており、コンフリートエ学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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