学位論文要旨



No 215436
著者(漢字) 宮田,明則
著者(英字)
著者(カナ) ミヤタ,アキノリ
標題(和) 高密度電力系統における不確定条件下での設備計画手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 215436
報告番号 乙15436
学位授与日 2002.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15436号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 山地,憲治
 東京大学 教授 日高,邦彦
内容要旨 要旨を表示する

 最大需要に見合う発電設備を必要とし、さらに、全ての需要場所との間に送変配電設備からなる輸送路を構成するため、電気事業におけるコストのうち設備費の占める割合は極めて高く、電力系統における設備計画は重要な経営意思決定対象事項のひとつである.

 しかも、国土が狭隘で、関東地区に代表されるように人口が多く各種設備も高密度のわが国では、設備設置に必要な用地取得や立地合意取得が困難で、計画を策定しても建設に着手し、完成するまでに長期間を要し、その間に経済情勢が変化するなど、不確定な条件下での意思決定とならざるを得ない。

 これまで、この分野における研究成果が報告されることは極めて少なかったが、著者は、電気事業における経験から、電力設備計画策定問題を、電気的諸特性、経済的諸特性に加えて、将来の不確定性に配慮した検討を要する問題と捉え、計画と実績の対比を行いつつ、設備計画手法向上に向けての研究を行ってきた。

 本論文は、このような視点から、高密度電力系統における不確定条件下での設備計画手法に関する研究成果を取りまとめたものである。

 「第1章序論」では、上記の趣旨を述べ、以下を論じている。

 計画と実績の対比から浮上した点は、対象とした東京電力系統が、

(1)人口密度、エネルギー密度、利用できる土地建物等の空間などから見て世界有数の高密度地域にあることに起因するものと、

(2)高密度の影響で、設備設置空間の確保に長期間を要することから、計画対象期間も長期化し、従って、需要想定等将来予測データの不確定性が拡大することに起因するものの二点である。

 本論文では、まず、この二点の電力設備計画との関わりを論じ、次に、モデルや事例につき、計画手法向上面から検討を加えるとともに、これらの手法の改善が特殊なものを除き東京電力以外の系統にも十分適用可能であるとした。

 「第2章将来予測の持つ不確定性とその電力設備計画への影響」では、次章以降の準備として、まず、想定需要を実績と比較し、想定の誤差率と予測期間との関係を分析・把握した。また、設備計画に直接関係する最大電力想定では、直線増加に循環分を重畳した方法がよく適合することを示したが、計画時点では、シナリオ方式等と併用しつつ計画の弾力性を調べる重要性を述べた。

 つぎに、技術進歩の影響について考察した。特に、第5章の前段として、複合サイクル発電の経年火力更新の素材としての特徴について論じた。

 さらに、不確定要素を含む計画の取扱いについて概観し、条件変化に対する最適解の変化を感度分析などの形で予測計算し、現実の進行に対応して逐次軌道修正する方法が実用的である事を論じた。

 「第3章発電設備の量的計画の最適化」では、電源計画のうち、将来の電源設備総量の計画について、従来方式を根本的に改善する手法として、

(1)目標信頼度を契約による需要抑制対策の発生頻度で表し、これと実効設備率との関係が把握できるようにした。

(2)上記の過程で、最大需要の確率分布が実績分析からワイブル分布に近いことを見出しこれを利用することとした。

(3)さらに、需要想定の誤差率が予測期間によって変化する特性を織り込んだ。

 などの新しい方式を考案して計画検討に使用していることを述べた。

 これにより、たとえば電力の自由化対応として設備量を抑制する場合の信頼度への影響が評価できるようになった。

 「第4章発電設備の種類別構成計画の最適化」では、(その1)として、2010年を目標年度とする、最適配分比率の長期構想としての検討事例を示した。構想とこれまでの結果を比較し、輸入燃料価格の実績はほぼ想定中の最低レベルであり、この場合の電源開発の方向が天然ガス火力に傾斜するべきであるという結論と、実際の結果とはよく一致していたことを示した。しかし、目標年度の想定需要は、実績では11年早く到達した結果、開発推進対象の原子力発電の建設が、立地制約上、当初計画以上に増加はできず目標比率を下回った。この対応としては、通常、需要規模を仮定して始める長期構想(ビジョン)検討においても想定需要が大きく変動した時の分析が必要であるとの教訓を得た。

 (その2)では、電源構成検討の中でも扱いが複雑な揚水発電の最適開発比率を、著者らが開発した手法によって求める方法を述べ、検討例を示した。さらに、不確定要素への対応である感度分析として原子力比率、負荷のピーク形状など6つの変化ケースについて評価を行い、この手法で最適開発比率の検討が十分な説明力とともに行えることを示した。

 「第5章設備更新問題経年火力更新長期展望」では、2000年前後から、高度成長期に建設された大量の経年火力が一応の寿命とされる年数に近づくため、その更新問題を論じた。新技術の複合サイクル型火力発電に置換える更新と、劣化した部分を取り替えて寿命延長を図る方法との経済的な比較を行なう手法を考案し数値モデルに適用した例を示した。特に、これら経年火力の立地点が需要中心に近い地理的な優位性と、単機出力が小さく更新による増分出力が大きい利点、その際、NOx等大気汚染物資の排出も技術進歩等で減少可能なことから、環境を改善しつつ局地火力の大幅増大を図ることができることを示した。

 また、将来の不確定性対応として、金利水準、諸建設費など6項目についての条件の変化に対する感度分析の例も示した。

 「第6章基幹系統計画」では、(その1)として、東京電力の基幹系統発展の推移から、系統規模増大による事故電流増大防止と同期安定度確保が課題であること、その対応として、新しい上位電圧の導入とそれによる旧上位電圧系統の分断という対策の妥当性をモデル系統により示した。

 さらに、高度成長期を含む飛躍的な電力需要増に対応し、電源は地点の豊富な東側に偏り、送電距離は200kmに達し、安定化のため500kV系統は多重メッシュを形成し、しかも高密度地区でのルート数低減のため、大電力送電線となるとともに、連系線としての外輪線の役割も担っている状況を述べた。

 (その2)では、「電圧安定性確保方策」として、(その1)で述べた特質から、東京電力系統が、極めて無効電力消費の多い系統であり、1987年7月には電圧崩壊による広範囲停電を惹起したこと、その後徹底的な電圧安定性向上方策を検討・実施したことと、その効果について論じた。

 運用面では、局地火力の分散接続と、東西潮流緩和のための西側からの融通受電の増加、発電機電圧上昇による上位電圧系統の高め電圧運用について、設備面では、調相設備に、従来の受動型のものに加え、応答速度の速い静止型無効電力補償装置SVCや能動型の同期調相機の導入、これらと静止型機器や変圧器の負荷時電圧調整器との動作の総合化を図る電圧無効電力制御装置VQCなどの制御装置の整備について論じた。

 最後に、将来の需要想定の不確定性や設備事故の可能性を考慮し、調相設備計画のリスクの程度を把握する具体的な手法として棄却確率の実用的な推定手法を提案した。

 「第7章過密地区供給基幹系統計画」では、1970年台初めに行なった1985年を目標とする都内275kV導入長期構想を実施状況と比較しつつ論じた。

 目標年度の需要規模は14GWとしたが、結局、目標需要に達したのは当初予想の11年後であった。この構想は、需要の伸びの鈍化に応じて逐次繰り延べられ、また、途中年次での全体的な投資削減の影響を受け、連系強化については大幅な軽減が行なわれたが、構想の基本部分である275kV都心導入のルートと変電所数については、ほぼ構想通りに進展した。

 実用面でも、構想を地図上に表示して公開し、高密度地区内での地中線ルートや変電所用地の確保に貢献した。

 構想検討の手法は、供給システムのトポロジーの発案で多分に計画担当者の個人的能力に負うところが大きいが、特定地域に対する検討手法としては今後ともこのような方法が有力な手段であるとした。

 ここでは、都内導入系統に関連する設備事故の実績とその時点での対応についての分析も行った。その結果から有効な設備対策について論じている。

 「第8章電源計画と系統計画との総合」では、電源計画と系統計画との特徴を比較し、総合的視点からの検討が必要な事項として、

(1)電源分布と相互の地理的関係に関連する事項、

(2)電源・系統設備の種類に関わる事項、

(3)機器の仕様に関する事項

 を挙げた。

 これらの検討事例として、まず、東京都内と周辺部を加えた地域に対する地中線送電の地元電源と、架空線送電の遠方電源との最適分担比率を検討する問題に、等増分コスト法を適用する手法を考案し、モデルによる検討例を示した。

 揚水機とベース電源の相互配置に関するモデル検討の例で、対極型分布と合流型分布の比較を行い開発順序決定での考慮事項とした。

 その他、システム管理単純化のため、巨大系統を分割して一点で連系する構想の評価や、発電所の起動停止用電源の供給法、送電系統の過酷事故時に原子力発電所復旧時間短縮のためタービンバイパスを活用する例を論じた。

 最後に、最近進展中の電力市場自由化と設備計画との関係について、設備計画機能の必要性を推論した。結論として、電力が国民生活の必需品、産業の重要素材、また、情報化時代の電源および媒体でもあるという特質から、供給安定が極めて重要であること、供給安定度低下後の再復帰には、この論文の主題に関係する高密度のわが国では極めて困難かつ長期間を要することを述べ、電力需給に責任をもつ主体による計画策定とそれに基づく安定水準の維持の仕組みが不可欠であることを論じた。

 第9章は以上の各章の結論をまとめた。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「高密度電力系統における不確定条件下での設備計画手法に関する研究」と題し、9章よりなる。

 第1章は「序論」で、将来の不確定性を考慮した電力系統における設備計画の重要性について述べ、特にわが国において見られる、人口、エネルギーの高密度化とその高密度地域における需要想定等将来予測データの不確定性の拡大とが電力設備計画にどのように関わっているかを論じている。次に、モデルや事例につき、電力設備計画手法面から検討を加え、これらの手法の改善が十分一般性をもつことを述べている。

 第2章は「将来予測の持つ不確定性とその電力設備計画への影響」と題し、次章以降の準備として、まず、想定需要を実績と比較し、想定の誤差率と予測期間との関係を分析・把握し、最大電力想定では、直線増加に循環分を重畳した方法がよく適合することを示している。次に、技術進歩の影響について考察し、特に、第5章の準備として、経年火力更新において代替技術となるコンパインドサイクル発電の特徴について述べている。さらに、不確定要素を含む計画の取扱いについて概観し、条件変化に対する最適解の変化を感度分析などの形で予測計算し、現実の進行に対応して逐次軌道修正する方法が実用的であることを論じている。

 第3章は「発電設備の量的計画の最適化」と題し、将来の電源設備総量の計画について、目標信頼度を契約による需要抑制対策の発生頻度で表し、需要想定の誤差率が予測期間によって変化する特性を織り込むなどした新しい手法を提案して、現在、電源計画の検討に使用され有効に機能していることを述べている。これにより、電力自由化対応として設備量を抑制する場合の信頼度への影響も評価できることが期待される。

 第4章は「発電設備の種類別構成計画の最適化」と題し、(その1)では、需要、燃料費、為替レートなどのパラメータの変動を考慮した2010年を目標年度とする電源構成最適配分比率の長期構想の検討事例を示している。この構想と実際の結果とはよく一致していたが、需要規模を仮定して行われる長期構想検討においても想定需要が大きく変動した時の分析が必要であるとの知見を得ている。(その2)では、電源構成検討の中でも扱いが複雑な揚水発電の最適開発比率を求める手法を開発し検討例を示している。さらに、不確定要素への対応である感度分析により評価を行い、この手法で最適開発比率の検討が十分な説得力をもって行えることを示している。

 第5章は「設備更新問題経年火力更新長期展望」と題し、近年、高度成長期に建設された大量の経年火力が一応の寿命とされる年数に近づいており、この設備を最適に更新する問題を論じている。新技術の複合サイクル型火力発電に置換える更新と、劣化した部分を取り替えて寿命延長を図る方法との経済的な比較を行なう手法を提案し、数値計算例によって環境を改善しつつ局地火力の大幅増大を図ることができることを示している。また、将来の不確定性対応として、金利水準、諸建設費などの条件の変化に対する感度分析の例も示している。

 第6章は「基幹系統計画」と題し、(その1)では、系統規模増大による事故電流増大防止と同期安定度確保のためには、新しい上位電圧の導入とそれによる旧上位電圧系統の分断という対策が必要であることを述べ、この妥当性をモデル系統により示している.(その2)では、電圧安定性について、1987年7月、東京電力において電圧崩壊による広範囲停電が発生したこと、その後徹底的な電圧安定性向上方策を検討・実施したこと及びその効果について論じている。最後に、電圧安定性確保方策としての調相設備計画のリスクの程度を把握する具体的な手法として、将来の需要想定の不確定性や設備事故の可能性を考慮した総合確率(棄却確率)の実用的な推定手法を提案している。

 第7章は「過密地区供給基幹系統計画」と題し、1970年代初めに行なった1985年を目標とする東京都心への275kV導入長期構想を、現在までの実施状況と比較しつつ論じている。この構想は、様々な不確定要因により影響を受け、連系強化については大幅な縮小が行なわれたが、構想の基本部分である275kV都心導入のルートと変電所数については、ほぼ構想通りに進展したことを述べている。この構想検討手法は、供給システムのトポロジーの発案において多分に計画担当者の個人的能力に負うところが大きいが、特定の地域に対する検討手法としては今後ともこのような方法が有力な手段であるとしている。

 第8章は「電源計画と系統計画との総合」と題し、電源計画と系統計画との特徴を比較し、総合的視点からの検討が必要であるとし、検討事例として、東京都内と周辺部を加えた地域への供給に対する地中線送電による地元電源と、架空線送電による遠方電源との最適分担比率を求める問題に等増分コスト法を適用する手法などを提案し、モデル系統による検討結果を示している。最後に、最近進展中の電力自由化と電力設備計画との関係について、電力需給に責任をもつ主体による計画策定とそれに基づく系統安定度の水準を維持する仕組みが不可欠であることを論じている。

 第9章は「結論」で各章の結論をまとめている。

 以上を要するに、本論文は、高密度電力系統において、需要想定、技術進歩などの将来予測のもつ不確定性を分析し、その不確定性を考慮して電源構成などの発電設備計画、経年設備の更新計画、上位電圧基幹系統と電力需要密度の高い地域への負荷供給基幹系統の計画を最適に行う手法を提案し、合わせてこれら電源計画と系統計画の統合の必要性を論じ、モデル系統でのシミュレーションや実際の系統での実施例をもとに有効性を明らかにしたもので、電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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