学位論文要旨



No 215444
著者(漢字) 竹島,正毅
著者(英字)
著者(カナ) タケシマ,マサキ
標題(和) 沸騰水型原子力発電所に関わる放射性廃棄物処理設備の開発と実用化
標題(洋)
報告番号 215444
報告番号 乙15444
学位授与日 2002.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15444号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,篤之
 東京大学 教授 勝村,庸介
 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 助教授 長崎,晋也
内容要旨 要旨を表示する

 放射性廃棄物処理設備は、原子力発電所で発生する放射性廃棄物を適切に処理処分することにより、施設外へ放出される放射性物質を規制値以下に維持する機能を有し、原子力発電所より生じるリスク(公衆及び従事者の放射線被曝)を低減するためのものである。

 原子力発電所の設置環境が米国と大きく異なる我国においては、原子力発電所が国民から受容されるために、従事者並びに公衆の放射線被曝を「合理的に達成可能な限り低く」するというALARA(as low as reasonably achievable)思想の実践が大切であり、放射性廃棄物処理設備は重要な位置を占めている。

 筆者は(株)日立製作所における放射性廃棄物処理設備に関する技術者として、原子力発電設備黎明期からその技術開発及び実機の計画設計・建設業務に従事したが、ALARA思想の具現化を基本に放射性廃棄物処理設備のたゆまぬ技術開発と設備革新を先駆的に推進してきた。本論文はその研究成果を纏めたものである。

 当初我国に導入されたGE社の沸騰水型原子炉(BWR)の放射性廃棄物処理設備は、廃棄物の性状に応じて区分収集し、各々に最適な処理を施すという合理的な設計思想に基づくものではあるが、処理した後の廃棄物は施設外へ希釈放出あるいは搬出して処分することを基本として構築されていた。このような基本思想は、狭い国土、放射能への過敏な反応、固体廃棄物の最終処分方策の未確立等、日本の特殊事情に合致するものではなく、日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機に始まる商用BWRの運転開始とともに、GE社から技術導入された放射性廃棄物処理設備は、下記二点に集約される課題が顕在化した。

(1)気体及び液体廃棄物の放射能濃度を規制値よりも充分低くして系外へ放出するというALARAの観点からはその処理性能は不十分である。

(2)固体廃棄物の最終処分方策が未確立で先行き不透明な状況下にあったため、固体廃棄物の発生量を極力低減すると共に、大幅に減容した形態で発電所内に安全貯蔵できるものでなくてはならない。

 本研究の目的は、上記のような諸課題を有するGE社標準の米国式放射性廃棄物処理設備を日本の国情に合致した日本型改良放射性廃棄物処理設備に変身させ、一般公衆から十分受容されるBWR実現に寄与することである。

 具体的には、GE社標準放射性廃棄物処理設備の敦賀1号機他国内での運転実績の分析評価に基づき、日本型放射性廃棄物処理設備としてのあるべき姿を明確にして、主要課題である気体及び液体廃棄物の放射能濃度をALARAの観点から、規制値よりも充分低くして系外へ放出するために有効なシステム及び、固体廃棄物の最終処分方策が未確立で先行き不透明な状況下にあって、固体廃棄物を大幅に減容した形態で発電所内に安全貯蔵でき、将来の最終処分基準に柔軟に対応し得るシステムを実現することにある。

 気体廃棄物の主要発生源であるタービン復水器抽気排ガスについては、当初導入のGE社システムでは、酸水素再結合処理にて減容後、圧縮機にてタンク内に加圧貯留(1日程度)して放射能減衰し、排気筒から放出するシステムとなっており、環境放出放射能は国の放出規制値を下回ってはいたが、ALARA思想の観点からは十分なものではなかった。筆者らは敦賀1号機運開当時(1970年)唯一、西独KRB発電所において採用されていた活性炭による希ガスホールドアップ技術に着目し、基礎研究を含め独自で技術開発をスタートした。1968年から1971年にかけて実施した開発成果は1971年12月運開の敦賀1号機向け希ガスホールドアップ装置に結実し、排気筒からの放射能放出率を従前の約十分の一に低減するという大きな効果を上げた。キセノンに対して約30日のホールドアップ性能を有する希ガスホールドアップ装置が、その後、運転中あるいは建設中のものを含む全てのBWRに標準設備として採用され、放出放射能の大幅低減に貢献している。

 一方、液体廃棄物については、機器ドレン(高純度、高放射能)、床ドレン(低純度、低放射能)、化学廃液(低純度、高放射能)、洗濯廃液(低純度、極低放射能)に区分され収集・処理・処分されていたが、放出放射能低減の観点からは、施設外放出処分対象となっていた床ドレン及び洗濯廃液の内、比較的放射能が高い床ドレンが重要であり、ろ過処理後施設外へ放出する運用を止め、化学ドレンと同様に蒸発濃縮処理後、脱塩処理して極力施設内で再使用する方向に運用面の改良が図られた。しかし、この運用面での変更により、蒸発濃縮装置への負荷が質・量両面で大幅に悪化増大し、耐久性・保守性に優れた新しい改良型蒸発濃縮装置の出現が焦眉の急となった。

 従来の蒸発濃縮装置は耐食性のSUS304系あるいはSUS316系の材料を使用していたが、単胴型あるいは自然循環複胴型で且つ大気圧運転(約100℃での蒸発)であったため、運用方式の未確立も手伝い、その耐久性・保守性は十分でなかった。筆者らは一般化学プラント等で蓄積されている豊富な知見および既設蒸発濃縮装置での経験を分析・評価しながら、構造、材料、加工法、運転条件、運用方法等、多方面から総合的に検討し、信頼性の高い強制循環真空蒸発型濃縮装置を初めて開発・実用化した。実機適用初号機である敦賀1号機向け改良型蒸発濃縮装置は、1977年6月に運用開始後、非常に良好な運転が継続されており、運転保守に関する従事者の負荷を大きく軽減すると共に、放射性廃棄物処理設備全体の運用改善に大きく貢献している。

 固体廃棄物に関しては、最終処分方策が未確立で先行き不透明な状況下にあった我国では、施設外への搬出を前提としたGE型システムは発電所内貯蔵保管量を徒らに増加させ、未固化廃棄物(廃樹脂、フィルタースラッジ、使用済み炉内構造物、雑固体等)やドラム詰固化体の保管スペース確保が大きな課題として噴出した。したがって、固体廃棄物の大幅減容と発電所内安全貯蔵のための放射性廃棄物処理貯蔵設備の増強が不可欠となった。筆者らはこのような状況に対応して、多くの新技術開発とその実用化に取り組んだ。

 島根原子力発電所1号機にて初めて復水浄化系脱塩器の前置フィルターとして適用した脱塩式フィルターは、BWRにおける発生固体廃棄物量に大きな割合を占める復水浄化系脱塩器の再生廃液を蒸発濃縮した濃縮廃液を大幅に低減すると共に、固体廃棄物トータル発生量の低減をも実現する効果を発揮した。

 また、固体廃棄物の大きな減容が確保でき且つ将来決定されるであろう最終処分方策に柔軟に対応し得る中間減容処理装置を開発・実用化し、初号機を福島第一原子力発電所に納入した。本装置は、約20wt%のNa2SO4が主成分である濃縮廃液を乾燥粉体化、造粒、貯蔵保管、取り出し・ドラム缶内充填、固化剤注入固化と処分地搬出に備えるもので、従来のセメント固化法に比べ、約1/8の減容効果が達成された。

 更に、高レベル固体廃棄物である使用済炉内構造物(チャンネルボックス、制御棒等)を長期間安全に貯蔵保管するためのプール式サイトバンカ設備を敦賀1号機向けでシステム確立し、その後のBWRの標準設備としての位置を確保した。

 筆者らは放射性廃棄物処理設備をプラントトータル的な視点で捉え、総合的な改良活動を実施してきた。特に先導的な役割を果たした革新技術は上述した希ガスホールドアップ装置、復水浄化への脱塩式フィルター適用、改良型蒸発濃縮装置、サイトバンカ設備、および中間減容処理装置であるが、その他の改良技術についても実機への適用を網羅的に行ない、その集積として日本型改良放射性廃棄物処理設備の確立に努めた。

 図に示すように、原子力発電事業のパイオニア的性格を有する日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機他において最初に採用・実証され、その後他発電所へ移転されて行った革新技術は、改良型放射性廃棄物処理設備の主要構成要素として位置付けられ、並行して実施されてきたコストダウンのための各種合理化および国の改良標準化に取り込まれ、我国標準の放射性廃棄物処理設備として定着した。

 国内BWRにおける気体系および液体系の放出放射能、固体廃棄物発生量の大幅な低減実績が示すように、日本型改良放射性廃棄物処理設備を作り上げてきた成果として、放出放射能の大幅低減、固体廃棄物の安定な貯蔵保管等、GE社型放射性廃棄物処理設備の抱えていた課題を克服し、ALARAの精神に則った我国に十分受け入れられる設備にほぼ到達したと言える。

・放射線被曝低減⇒ALARAの実現

・固体廃棄物の減容、安定貯蔵⇒発電所内貯蔵スペース問題解決

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、日本の商用沸騰水型原子力発電所を、一般公衆に受け入れやすい発電設備を目指して、放射線被曝リスクの低減を目指して技術開発を行った結果の報告である。その内容は、日本に導入された米国GE社型放射性廃棄物処理設備が抱えていた重要問題に対し抜本的な解を与えるものであり、その後の沸騰水型原子力発電所の推進に十分資するものである。

 第1章は研究の背景と目的が述べられている。ここでは、多くの問題を抱えるGE社標準の米国式放射性廃棄物処理設備をそのまま日本に導入することはできず、日本の国情に合致した日本型改良放射性廃棄物処理設備へと変えて一般公衆から十分許容される沸騰水型原子力発電所を実現することの重要性が述べられている。具体的には、(1)GE社標準放射性廃棄物処理設備の敦賀1号機ほか国内での運転実績の分析評価に基づき、日木型放射性廃棄物処理設備としてのあるべき姿を明確にし、主要課題である(2)気体および液体廃棄物の放射能濃度をALARA(As Low As Reasonably Acceptable)の観点から、規制値より十分低くして系外に放出するために有効なシステムの確立、(3)固体廃棄物の最終処分方法が未確立で先行き不透明な状況下にあって、固体廃棄物を大幅に減容した形態で発電所内に安全貯蔵でき、将来の最終処分基準に柔軟に対応し得るシステムを実現することの重要性が述べられている。

 第2章では、当初導入されたGE型放射性廃棄物処理設備の概要と日本に受容する面での問題点を明確にしており、本来あるべき姿を示している。

 第3章では、放射性廃棄物処理設備における放出放射能低減能力を抜本的に改善する活性炭を用いた希ガスホールドアップ装置の研究開発内容とその成果が報告されている。

 第4章では、放射性液体廃棄物処理設備における施設外への放出放射能量を飛躍的に低減するための手段として採用された床ドレン全量蒸発濃縮処理を容易にする新型の強制循環真空蒸発濃縮装置に関する研究開発とその成果について述べられている。

 第5章では、最終処分方策の確立が遅れた日本において特に重要となっていた固体廃棄物の発生量低減に関し、(1)濃縮廃液の主要発生源である復水浄化系脱塩器再生廃液の発生低減を実現した脱塩式フィルターと脱塩器のシリーズ構成システムの研究開発と、(2)固体廃棄物の高減容固化処理と中間貯蔵に関する問題を解決した濃縮廃液中間減容処理装置の研究開発についてその内容・成果が述べられている。また、(3)高レベル固体廃棄物である使用済炉内構造物(チャンネルボックス、制御棒など)の貯蔵保管用に開発したサイトバンカ設備についても開発概要を述べる。

 第6章では、第3章から第5章において述べられた主要な改良技術を含む日本型改良放射性廃棄物処理設備の最新全体像が示されているとともに、研究成果の効果・意義についても総括されている。

 以上のように、本研究では、日本の厳しい各種設計基準をクリアすべく、放射性廃棄物処理設備の核となる希ガスホールドアップ装置、廃液の蒸発濃縮装置、脱塩式フィルターと脱塩器の組み合わせによる復水浄化システムおよび濃縮廃液中間減容処理装置について、技術的に高度で画期的なシステムの開発をおこない、標準システムとして日本の原子力施設に定着させてきており、原子力技術の高度化に寄与するところが少なくない。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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