学位論文要旨



No 215469
著者(漢字) 山田,亮
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,リョウ
標題(和) 日本人におけるインターロイキン3プロモーター領域SNPと慢性関節リウマチの関連について、および2遺伝子座が疾患感受性に及ぼす組合せ効果を最尤法によって推定する試み
標題(洋) Association between an SNP in the promoter of the human interleukin-3 gene and rheumatoid arthritis in Japanese patients, and maximum-likelihood estimation of combinatorial effect of two genetic loci on susceptiblity to the disease
報告番号 215469
報告番号 乙15469
学位授与日 2002.10.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15469号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳永,勝士
 東京大学 助教授 土屋,尚之
 東京大学 助教授 織田,弘美
 東京大学 助教授 高取,吉雄
 東京大学 助教授 北村,聖
内容要旨 要旨を表示する

 機能既知の免疫系分子であるインターロイキン-3が慢性関節リウマチの病態生理に関与している可能性を示唆する報告は、これまでにもなされてきたが、それを否定する報告もあり、結論は出ていなかった。そのような状況において、インターロイキン-3遺伝子のプロモーター領域の1塩基多型(SNPと慢性関節リウマチとの間の相関を、ケース・コントロール相関解析の手法で検定した。その結果、ケース検体全体とコントロール検体全体との比較において、X2値として14.28(P値=0.0002)を得た。また、疾患感受性遺伝子型のオッズ比として2.24(95%信頼区間、1.44-3.49)が得られた。さらに、疫学的に特徴的な亜集団である、非高齢発症の女性ケースについて、相関を検定すると、X2値は21.75(P値=0.000004)に、遺伝子型オッズ比は7.27(95%信頼区間、2.80-18.89)にまで上昇した。このSNPのプロモーター機能に及ぼす影響をルシフェラーゼアッセイにて解析したが、SNPのアレルによる差を見出さなかった。このインターロイキン-3遺伝子が存在する領域は、その他の免疫系の遺伝子が比較的密に分布しており、今回我々が同定した相関は、インターロイキン-3そのものが慢性関節リウマチの病理と直接の因果関係を持つためではなく、周辺の別の遺伝子との相関による間接的な関連であった可能性は否定できなかった。

 慢性関節リウマチを含む、多くの遺伝性疾患の原因遺伝子は、複数あることが予想され、個々の遺伝子がもたらす疾患感受性の上昇の程度は高くないとみなされている。そのような遺伝子を同定するために、遺伝統計学的に様々な手法が検討され、それらを駆使してゲノムワイドに探索するという方法がとられている。その手法の1つに、複数の遺伝予の組合せがもたらす影響を総合的に評価し、その情報を用いて関連遺伝子の同定を容易にするという方法がある。そのような方法の一つとして、次のようなものを考案した。互いに連鎖平衡にある2遺伝子座が組み合わさって疾患感受性に及ぼす影響を、組合せ遺伝子型別総体危険度をパラメトリックにモデル化し、観測データとモデルとの適合性を最尤推定法によって推定し、2遺伝子間の関係を予測する。この方法を用いることで、疾患感受性に及ぼすリスクの小さいために、単独の遺伝子としては、ケース・コントロール相関解析では同定が困難であることが予想されるような遺伝子の同定を容易にする可能桂が、インターロイキン-3を含む9遺伝子のSNPの遺伝子型データを基にした試算により示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、複合遺伝性疾患の一つである慢性関節リウマチ(RA)とインターロイキン-3遺伝子のプロモータ領域の1塩基多型(SNP)との間に関連を検出し、そのSNPの機能上の役割について解析を加えた。また、SNPを用いたゲノムワイドな複合遺伝性疾患関連遺伝子解析を実施する上で必要と考えられる、2遺伝子座の組合せ効果について、最尤法による推定法を構築しそのRA関連遺伝子検出への応用について、考察している。

 1.インターロイキン-3遺伝子のプロモータ領域(転写開始点より16塩基対5'側)のSNPにつき、ACR revised criteria(1987)を満足する日本人RA患者254人と881人のコントロールとの間で、関連検定を行った。SNPのジェノタイピングは、PCR-ASOアッセイにより行われた。アレル頻度によるx2検定において、0.0002のp値が、またオッズ比として2.24(95%信頼区間1.44-3.49)が得られた。

 2.RAの疫学的に特徴的な亜集団である、非高齢発症の女性群においては、この関連がさらに強く認められ、x2検定におけるp値として、0.000004が、またオッズ比をとして7.27(95%信頼区間2.80-18.89)が得られた。

 3.同SNPはインターロイキン-3遺伝子のプロモータ領域に位置するものであることから、その転写調節に及ぼす影響について、ルシフェラーゼアッセイを実施した。同アッセイにおいては、Jurkat細胞を使用し、Dual SeaPansyルシフェラーゼシステムを用いてプロモータ活性を測定した。SNPを含むプロモータ領域を、長短併せ2分節について、PMA+Ionomycin刺激によるプロモータ活性の変化を比較したが、ジェノタイプ間で有意な差は認めなかった。

 4.「インターロイキン-3遺伝子及び、その隣接遺伝子であるGM-CSF遺伝子について、SNPの検出を試み、インターロイキン-3のコーディング領域のSNPおよび、GM-CSF遺伝子のコーディング領域のSNPが検出された。これら2SNPにつき、同様にケースコントロール関連検定を行ったが、インターロイキン-3のプロモータSNPよりも強い関連は検出されなかった。これら、3SNPの間の連鎖不平衡状態についても解析を行い、この3SNPの存在する範囲には有意な連鎖不平衡が存在していることが確認された。

 5.本研究の検体収集地域である関東圏と関西圏との間の集団的遺伝的階層化の有無について、マルコフ連鎖モンテカルロ法による推定プログラムを作成し、次のことを確認した。両圏間には、階層化が例え存在するとしても、複合遺伝性疾患関連遺伝子をSNPを用いてケースコントロール関連解析によって検出しようとする試みを否定するほどに大きいことはないと予測された。

 6.ゲノム上に物理的に独立して存在する2遺伝子座が相互に影響を及ぼしあいながら、疾患感受性を規定している状態を想定し、それぞれの遺伝子座に存在するSNP2個が形成する複合ジェノタイプに、相対危険度を設定することによりモデル化した。2SNPの観測データから、最尤推定法により2遺伝子座間の関係を推定するプログラムを作成した。そのプログラムを、小規模ながら、複数のSNPについて行った、RAケースコントロール関連解析データヘ適用し、その実用性について検討し、さらに、大規模ケースコントロール解析における有用性について、シミュレートした。

 以上、本論文は、候補遺伝子手法によってインターロイキン-3を取り上げ、SNPを用いたケースコントロール関連解析より、同遺伝子もしくはその近傍にRA関連遺伝子が存在することを明らかにするとともに、SNPを用いてゲノムワイドにRA関連遺伝子探索を行うにあたっての解析手段として、2遺伝子座の相互作用を推定しそれを関連遺伝子検出に応用するための遺伝統計学的方法論を提示した。これらは、RA関連遺伝子の検出に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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