No | 215473 | |
著者(漢字) | 園田,誠 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ソノダ,マコト | |
標題(和) | 経食道心エコーを用いた大動脈二尖弁および僧帽弁逸脱の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215473 | |
報告番号 | 乙15473 | |
学位授与日 | 2002.10.23 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15473号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | <目的>経食道心エコーでは高周波数探触子が使用され、高画質、高解像度の画像描出がなされ、経胸壁アプローチでは不可能な極めて詳細な弁疾患の検討も可能である。大動脈二尖弁と僧帽弁逸脱は最も高頻度に認められる先天性心疾患であり、重症例では外科的手術が必要となる。本研究では、他疾患を合併しない大動脈二尖弁および僧帽弁逸脱を経食道心エコーを用いることにより詳細に検討し、いかなる形態学的特徴を有する大動脈二尖弁や僧帽弁逸脱が予後不良であるかを検討した。 <対象>大動脈二尖弁の検討では、他疾患を合併しない大動脈二尖弁例54例(48.2±16.3歳)、前記大動脈二尖弁例のうち、中等症以上大動脈弁逆流(Aortic regurgitation:AR)のみを合併した二尖AR例19例と性別、年齢と重症度をマッチした三尖AR例18例、前記大動脈二尖弁例のうち、大動脈弁狭窄(Aortic stenosis:AS)のみを合併した二尖AS例17例と性別、年齢と重症度をマッチした三尖AS例12例および前記大動脈二尖弁例のうち、ASも中等症以上のARも合併しない機能正常二尖弁例13例と性別、年齢をマッチした機能正常三尖弁例14例を対象とした。僧帽弁逸脱の検討では、僧帽弁逸脱例37例と性別、年齢をマッチした正常例30例を対象とした。 <方法>大動脈二尖弁の検討では、経胸壁心エコーよりASおよびARの重症度評価を行った。左室-大動脈最大圧較差30mmHg以上をASと診断した。また、左室長軸断面において、拡張末期における外科的大動脈弁輪径を計測し、体表面積で補正し検討した。経食道心エコーでは、大動脈二尖弁を二弁尖の配置により前後型と左右型に分類した。また、大動脈二尖弁のEccentricityとして、大動脈弁短軸断面拡張期における二弁尖の面積をトレースにより計測し、その面積大小比をArea Eccentricity Indexと定義した。僧帽弁逸脱の検討では、経胸壁心エコーにより、僧帽弁逆流(Mitral regurgitation:MR)重症度評価を評価を行った。経食道心エコーでは、0度において、僧帽弁尖の厚み、僧帽弁輪径および僧帽弁尖の長さを計測し、体表面積で補正して検討した。収縮期における逸脱している僧帽弁尖と、その弁尖の先端と弁輪付着部位を結ぶ直線とで囲まれる部分の面積を計測し、体表面積で補正して僧帽弁逸脱重症度と定義した。収縮中期値帽弁輪径と、前尖と後尖の両弁尖の長さの和との比率を算出し、僧帽弁輪拡張度指標(PATIO)と定義した。 <結果>大動脈二尖弁の検討では、大動脈二尖弁54例中50例でARを認めた。また54例中22例がASと診断された。重回帰分析では、AR重症度と外科的弁輪径およびArea Eccentricity Indexは各々r=0.38およびr=0.33の有意な相関を、AS重症度と外科的弁輪径およびArea Eccentricity Indexは各々r=-0.41およびr=0.38の有意な相関を認めた。前後型と診断された大動脈二尖弁例は36例(男30例、女6例)、左右型と診断された大動脈二尖弁例は18例(男8例、女10例)であった。二群間に性差が認められ、前後型には男性が多く、左右型には女性が多く認められ、年齢に有意差は認められなかった。前後型の外科的弁輪径は左右型に比べ有意に大であった(15.1±2.5対13.3±2.2mm/BSA)。AR重症度は前後型が左右型に比べ有意に大であり、逆にAS重症度は左右型が前後型に比べ有意に大であった(59.9±52.5対34.7±29.4mmHg)。年令と重症度をマッチした二尖大動脈弁と三尖大動脈弁における外科的弁輪径の比較では、三尖AR群に比べ二尖AR群が有意に大(16.1±2.8対14.1±1.4mm/BSA)、三尖AS群に比べ二尖AS群が有意に大(13.2±1.2対11.8±1.8mm/BSA)、機能正常三尖弁に比べ機能正常二尖弁が有意に大であった(14.0±2.4対11.9±1.2mm/BSA)。 僧帽弁逸脱の検討では、僧帽弁逸脱全例において弁尖収縮期厚みと逸脱重症度とは前尖(r=0.70)、後尖(r=0.65)ともに有意な正相関を認めた。僧帽弁逸脱例と正常例の検討では、前尖厚み(拡張期:1.92±0.64対1.44±0.29mm/BSA、収縮期:1.39±0.54対0.99±0.21mm/BSA)、後尖厚み(拡張期:1.90±0.60対1.39±0.29mm/BSA、収縮期:1.25±0.40対0.97±0.24mm/BSA)、弁尖長さ(前尖:16.6±4.3対13.2±2.2mm/BSA、後尖:10.8±2.9対7.6±2.2mm/BSA)、僧帽弁輪径(拡張末期:24.5±5.4対18.4±2.8mm/BSA、収縮中期:21.6±5.3対16.3±2.5mm/BSA)は、逸脱群が正常例に比べ有意に大であった。一方、僧帽弁輪拡張性指標RATIOは二群間で有意差を認めなかった。腱索断裂を合併しない僧帽弁逸脱例の検討では、MR重症度は弁尖収縮期厚みと有意な正相関を認めたが、RATIOとは相関を認めなかった。正常例、腱索断裂を合併しない僧帽弁逸脱例および腱索断裂を合併する僧帽弁逸脱例の検討では、後尖厚み(拡張期:1.39±0.29対1.61±0.53対2.17±0.58mm/BSA、収縮期:0.97±0.24対1.04±O.35対1.41±0.39mm/BSA、後尖長さ:7.81±2.17対9.23±2.17対11.8±3.1mm/BSA)は正常例および腱索断裂を合併しない僧帽弁逸脱例に比べ、腱索断裂を合併する僧帽弁逸脱例が有意に大であった。 <考按>大動脈二尖弁が男性に多く認められたこと、前後型が多く認められたこと、成人の大動脈二尖弁例の90%以上にARが合併していたことは、他の検討結果と一致している。外科的弁輪径が小でかつArea Eccentricity Indexが大の大動脈二尖弁では、大動脈弁口面積がより小であり、駆出血流と弁尖との間の摩擦により生じる機械刺激の強度もより大であると考えられ、反応性の線維性変化や石灰化も進展しやすいので、より重篤なASを合併すると推察される。一方、Area Eccentricity Indexは、二弁尖の大きい方の弁尖の弁逸脱重症度に強く関係しており、外科的弁輪径は大動脈弁輪拡大による弁尖接合不全の重症度そのものを反映すると考えられ、大動脈二尖弁に合併したAR重症度が外科的弁輪径およびArea Eccentricity Indexの両方と相関関係を認めたことにより、大動脈二尖弁におけるARの発生機序として、大動脈弁逸脱と大動脈弁輪拡大の両方が関与していると推察される。前後型大動脈二尖弁がARになり、左右型がASになるのは、生来大動脈弁輪径が小さいと報告されている女性が左右型に多く認められたことによると考えられる。大動脈二尖弁の外科的弁輪径が重症度と年齢をマッチした三尖大動脈弁の外科的弁輪径より大であったことは、大動脈二尖弁に認められる弁輪拡大が、合併した弁膜症による二次的な弁輪拡大であるというよりもむしろ生来の大動脈壁の脆弱性に基づいた弁輪拡大であることを示唆すると考えられる。大動脈二尖弁では外科的弁輪径が14.0mm/BSAで正常な大動脈弁口面積が確保されると考えられ、それ以下では狭窄を生じやすくなり、また、14.0mm/BSA以上になると正常な大動脈弁口面積は確保され、大動脈弁狭窄は生じることは少なくなるが、逆に弁尖接合不全の要素が出現してくると考えられる。 僧帽弁逸脱では弁尖の肥厚、弁尖の延長および弁輪拡大のすべてが認められたことは、逸脱僧帽弁は'proportionally'に大であることを示しているが、強度においては正常例に劣る僧帽弁であると考えられる。また、僧帽弁逸脱で弁尖の厚みと長さが正相関を認めたことから、厚みの増大した、より粘液腫様変性の進んだ脆弱な弁尖は、弁尖面積も大となり、収縮期にうける左室駆出圧力の総和はより大になり、大きく左房側に逸脱し、重篤な弁逸脱を生じると推察される。僧帽弁逸脱では弁輪拡大による弁尖接合不全の要素は弁尖の延長により相殺され、弁輪拡大の僧帽弁逸脱におけるMRの発生機序への関与は少なく、僧帽弁逸脱による弁尖接合不全に最も強く影響を受けると考えられる。乳頭筋の虚血による僧帽弁逆流を生じていた僧帽弁尖の病理学的検討では、fibrosal encroachmentが認められないので、MRにより、二次的に僧帽弁尖に粘液腫様変性が生じるのではないのではないかと報告されていることから、逸脱僧帽弁尖の肥厚は、一次的なものであることが推察される。腱索断裂がより厚くより長い弁尖に生じたことから、腱索断裂は、粘液腫様変性のより進んだ特発性僧帽弁逸脱の重症例に生じると考えられる。 <結語>大動脈二尖弁では、前後型はARになる傾向があり、左右型はASになる傾向がある。外科的弁輪径が大でEccentricity Indexが大の二尖弁はより重症なARになり、外科的弁輪径が小でEccentricity Indexが大の例はより重症なASになると考えられる。また、逸脱が認められる僧帽弁は'proportionally'に大であり、弁尖がより厚くより長い例がhigh risk群であると考えられる。経食道心エコーは心臓弁膜症を詳細に検討する上で、非常に有用な非観血的検査法である。 | |
審査要旨 | 本研究は高画質、高解像度の画像描出が可能である経食道心エコーを用い、他疾患を合併しない大動脈二尖弁および僧帽弁逸脱を詳細に検討し、いかなる形態学的特徴を有する大動脈二尖弁や僧帽弁逸脱が予後不良であるかを解析したものであり、下記の結果を得ている。 1.大動脈二尖弁54例では、男性38例、女性16例と男性が多く、前後型36例、左右型18例と前後型が多かった。Raphe(-)は25例、raphe(+)は29例であった。また、54例中50例(92.6%)が大動脈弁逆流と診断され、54例中22例(40.7%)が大動脈弁狭窄と診断された。 2.前後型大動脈二尖弁は男性に多く大動脈弁逆流を生じる傾向を認め、左右型大動脈二尖弁は女性に多く大動脈弁狭窄を生じる傾向を認めた。大動脈二尖弁における弁膜症の発生機序において、rapheを有する群と有さない郡との比較では、合併する弁膜症の重症度に有意差は認められなかった。 3.大動脈二尖弁のEccentricity Indexとして、経食道心エコー大動脈弁短軸断面における二弁尖の面積大小比をArea Eccentricity Indexと定義して検討した結果、大動脈二尖弁における弁膜症重症度の規定因子として、外科的弁輪径とArea Eccentricity Indexが重要であり、大動脈弁逆流重症度と外科的弁輪径およびArea Eccentricity Indexは各々r=0.38およびr=0.33の有意な相関を、大動脈弁狭窄重症度と外科的弁輪径およびArea Eccentricity Indexは各々r=-0.41およびr=0.38の有意な相関を認めた。即ち、外科的弁輪径が大でかつArea Eccentricity Indexが大の大動脈二尖弁では、より重症な大動脈弁逆流が生じやすく、外科的弁輪径が小でかつArea Eccentricity Indexが大の大動脈二尖弁では、より重症な大動脈弁狭窄が生じやすいと考えられ、外科的弁輪径が極端に大か極端に小な症例、Eccentricity Indexが大の症例は、将来弁置換の必要とされる重篤な大動脈弁膜症を合併する可能性が高く、より慎重なfollow upが必要であると考えられた。 4.僧帽弁逸脱例では正常例に比べ、弁尖厚み、弁尖長さおよび僧帽弁輪径は有意に大であり、逸脱僧帽弁は'proportionally'に大であると考えられた。 5.僧帽弁逸脱では、弁尖収縮期厚みと逸脱重症度とは有意な正相関を認めた。また、腱索断裂を合併しない僧帽弁逸脱例の検討では、僧帽弁逆流重症度は弁尖収縮期厚みと有意な正相関を認め、さらに、腱索断裂はより厚くより長い弁尖に生じる傾向を認めた。僧帽弁逸脱では僧帽弁輪拡大を認めるが、僧帽弁逆流の発生機序への関与は少ないと考えられた。僧帽弁逸脱における僧帽弁逆流は、僧帽弁逸脱による弁尖接合不全に最も強く影響を受け、僧帽弁に生じた粘液腫様変性の絶対量におおきく依存していると考えられ、弁尖がより厚くより長い例が僧帽弁逸脱におけるhigh risk群であると考えられた。 以上、本論文は最も高頻度に認められる先天性心疾患である大動脈二尖弁と僧帽弁逸脱において、経食道心エコーを用いることにより経胸壁アプローチでは不可能な極めて詳細な検討を行ったものであり、これまでなされたことのない大動脈二尖弁における大動脈弁逆流や大動脈弁狭窄の発生機序、弁膜症重症度の規定因子およびhigh risk群の規定因因子の検討、あるいは僧帽弁逸脱における僧帽弁逆流の発生機序およびhigh risk群の規定因子の検討がなされており、本疾患の診療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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