No | 215513 | |
著者(漢字) | 稲生,靖 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イノウ,ヤスシ | |
標題(和) | 異形性乏突起膠腫の遺伝子解析に基づく細分類 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215513 | |
報告番号 | 乙15513 | |
学位授与日 | 2002.12.18 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15513号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 目的:悪性脳腫瘍の組織分類の一つである神経膠腫(glioma)は、さらに星細胞腫(astrocytoma),乏突起膠腫(oligodendroglioma),上衣腫(ependymoma)および混合神経膠腫(mixed glioma)に区分され、oligodendrogliomaはlow grade oligodendrogliomaと異形性乏突起膠腫(anaplastic oligodendroglioma)に区分される。一般にはmalignant gliomaは化学療法にも放射線治療にもほとんど反応せず、外科的摘出のみが治療の中心的役割を担ってきた。その中でanaplastic oligodendrogliomaは例外的で、PCV procarbazine,CCNU,vincristineの3剤)化学療法に非常によく反応するものがあり、PCVの普及とともに予後に大幅な改善が見られている。したがって、malignant gliomaの中からanaplastic oligodendrogliomaを適切に鑑別診断し、化学療法を視野に入れた有効な治療方針を立てた上で治療を行うことは重要である。しかし現時点ではoligodendrogliomaに特異的な免疫組織学的マーカーが存在しないため、その診断は形態に基づいた組織学的診断によってなされており、診断する病理医により見解蛾異なる可能性がある。一方oligodendrogliomaおいては高頻度に第1染色体短腕(1p)および第19染色体長腕(19q)の異接合性の消失(loss of heterozygosity:LOH)が見られ、それはoligodendrogliomaに特異的でありastrocytomaの遺伝子異常とは特徴を異にする。そこで、これらの染色体異常およびその他astrocytomaにむしろ特徴的な遺伝子異常と、anaplastic oligodendrogliomaの化学療法反応性および予後との関連を検討し、それらがanaplastic oligodendrogliomaの臨床において有用なマーカーとなるか否かを検討した。 方法:WHOの組織学的診断基準に基づいてanaplastic oligodendrogliomaと診断され、初発時における治療の中心として化学療法を施行されている50例の患者において、遺伝子異常(1p LOH,19q LOH,10q LOH,TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子増幅、CDKN2A/p16遺伝子欠失、およびPTEN/MMAC1遺伝子変異)の解析を行った。それらと、化学療法への反応の程度、化学療法による腫瘍制御期間、および初発時からの生存期間などの臨床データとの相関を検討した。 結果:これらの腫瘍は、治療反応性の点および予後の点において異なる4群に遺伝子異常に基づいて細分類できた。1p LOHおよび19q LOHをともに有し、それ以外の遺伝子異常を伴わない腫瘍(第1群)の患者は・放射線治療の併用の有無にかかわらず際だって良好に化学療法に反応し、しかもその治療効果は持続し、予後は他の群に比し良好であった。1p LOHを伴うその他の腫瘍(第2群)(19q LOHを伴わない1p LOH、あるいは1p LOHおよび19q LOHを伴うがさらにそれ以外の遺伝子異常を伴う)もまた化学療法に反応はするが、その効果は持続せず予後も第1群ほど良好ではない。1p LOHを伴わない腫瘍もさらに2つの群に細分類される。1p LOHを伴わず、TP53遺伝子が変異型である腫瘍(第3群)は化学療法に反応することもあるが早期に再発する;1P LOHを伴わず、TP53遺伝子が正常である腫瘍(第4群)は、化学療法に反応することはまれな悪性度の高い腫瘍であり、臨床的にも分子遺伝子学的にも神経膠芽腫(glioblastoma)に近いものである。 結論:これらの結果は、anaplastic oligodendrogliomaの遺伝子異常の解析は、その腫瘍の臨床的性格を反映するよいマーカーであり、それに基づく細分類は初発診断時において治療方針の計画に際して有用である可能性を示すものである。 | |
審査要旨 | 本研究は、悪性神経膠腫の中では例外的にPCV化学療法に反応を示すことが多い異形性乏突起膠腫において、分子遺伝子解析を用いて化学療法反応性の程度の異なる腫瘍を区分することを試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.WHOの組織学的診断基準に基づいて異形性乏突起膠腫と診断され、化学療法を柱として治療が行われた50例について、分子遺伝子解析を行った。解析した項目は、第1染色体短腕(1p)および第19染色体長腕(19q)の異接合性の消失(loss of heterozygosity:LOH)、10q LOH、TP53遺伝子変異、EGFR遺伝子増幅、CDKN2A/p16欠失、およびPTEN/MMAC1遺伝子の変異である。その結果、1p LOHと19q LOHは正に相関し、一方10q LOH、EGFR遺伝子増幅、CDKN2A/p16欠失、およびPTEN/MMAC1遺伝子変異も互いに正に相関していた。 2.遺伝子解析の結果を、化学療法への反応の程度、化学療法による腫瘍制御期間、および生存期間などの臨床データと対応させたところ、異形性乏突起膠腫は治療反応性および予後において性質を異にする4群に細分類された。第1群:1p LOHおよび19q LOHのみ。これらの腫瘍は化学療法に良好に反応し、予後も比較的良好である。第2群:第1群以外の1p LOH、つまり19q LOHを伴わない1p LOHまたは19q LOH以外にさらに遺伝子異常を伴う。これらは化学療法に反応はするが効果は持続せず、予後も第1群ほど良好ではない。第3群:TP53遺伝子が変異型であるもの。これらは化学療法に反応することもあるが早期に再発する。第4群:1p LOHを伴わず、TP53遺伝子が野生型であるもの。これらはEGFR遺伝子増幅、CDKN2A/p16欠失、およびPTEN/MMAC1遺伝子の変異を有することが多く、臨床的にも分子遺伝子的にも神経膠芽腫に近いものであり、予後も不良である。 3.異形性乏突起膠腫の分子遺伝子解析結果は、腫瘍の臨床的性格を反映するよいマーカーであり、それに基づく細分類は初発診断時における治療方針の計画に際して有用である可能性がある。病理組織標本での形態上は区別が困難な腫瘍においても、上記の分子遺伝子解析に基づく分類は腫瘍の化学療法反応性および予後の予測において有用であった。 以上、本論文は異形性乏突起膠腫において、分子遺伝子解析に基づく細分類が、化学療法への反応性および予後を反映するもので、臨床治療計画に有用な情報を提供するものであることを明らかにした。本研究は、これまで未知に等しかった、異形性乏突起膠腫の分子遺伝子異常と化学療法反応性との関連の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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