学位論文要旨



No 215518
著者(漢字) 森屋,恭爾
著者(英字)
著者(カナ) モリヤ,キョウジ
標題(和) C型肝炎ウイルスコア蛋白質発現トランスジェニックマウスにおける肝細胞癌の発症
標題(洋) Development of hepatocellular carcinoma in mouse model transgenic for hepatitis C virus core protein.
報告番号 215518
報告番号 乙15518
学位授与日 2002.12.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15518号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野本,明男
 東京大学 教授 小俣,政男
 東京大学 教授 岩倉,洋一郎
 東京大学 教授 油谷,浩幸
 東京大学 助教授 國土,典宏
内容要旨 要旨を表示する

1.研究の背景と目的

 C型肝炎ウイルス(HCV)の感染により引き起こされる肝炎は高率に慢性化し、持続感染で肝硬変、肝細胞癌へと進展する。HCVによる肝細胞癌の発癌機序を解明し予防、治療に役立てることは臨床において重要な問題である。今回外来遺伝子である肝炎ウイルスの個々の蛋白質の生体への作用を検討する目的でHCV遺伝子発現トランスジェニックマウスを作成検討した。

2.研究方法

 HBVエンハンサー、HBxプロモーターの下流に遺伝子型1bの遺伝子配列cDNAを組み込んだHCVコア遺伝子発現トランスジェニックマウスを3系統作成し無作為抽出した2系統についてその表現型を検討した。

3.結果

 このHCVコア遺伝子発現トランスジェニックマウスでは、肝臓がヒト慢性C型肝炎の組織学的特徴のひとつとして知られている脂肪化(steatosis)をきたしたのち、16ヶ月齢で雄の約30%雌の10%に肝腫瘍の発生を確認した。電子顕微鏡所見からミトコンドリア外膜の不鮮明化に代表される膜構造の変化と免疫電子顕微鏡所見でのコア蛋白質の核内の存在が確認された。このトランスジェニックマウスでは血中ALTの上昇、肝炎の組織所見は認めず、このマウスモデルにおけるC型肝炎の肝発癌ではウイルス側の因子の関与、脂質代謝とHCV肝発癌の関連を示唆した。

 第2にHPLCを用いて肝脂肪化の定量解析を行いトランスジェニックマウス肝臓での中性脂質の増加と構成脂肪酸においてオレイン酸、バクセン酸などのC18:1脂肪酸構成比の増加を認めた。この構成脂肪酸の変化は限られた数であるがC型肝炎患者の肝臓組織解析でも確認され、HCVがヒトにおいても直接脂質代謝に変化をもたらしている可能性を示した。

 第3に肝臓内の過酸化脂質を定量解析した結果、トランスジェニッタマウスではラジカルの発生増加とカタラーゼ活性増加、還元型グルタチオン減少などの肝臓抗過酸化作用の拮抗が認められ、加齢とともに過酸化脂質が増加していることを示した。この過酸化脂質の量的変化はアルコール投与によって増加し、ROSの発生においてHCVとアルコールが共同的に働いていることをマウスモデルで示した。

考察

 HCVコア遺伝子発現トランスジェニックマウスを作成し検討を行った。HCVコア蛋白がマウスモデルにおいて肝細胞の脂肪化をもたらすこと、またラジカルの発生を増加させ発癌に関与していることをマウスモデルにおいて示唆した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はC型肝炎ウイルスの発癌に重要な役割を演じていると考えられるコア蛋白質の役割を明らかにするため、コア蛋白質発現トランスジェニックマウスの系を作成し、コア蛋白による表現型の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

 1.HBV enhancer,HBx promoter 下流に遺伝子型1bHCVコア遺伝子cDNA組み込んだPlasmidを作成し、C57BL6/Nマウスに組み込みトランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウス肝臓はヒト慢性C型肝炎の組織学的特徴のひとつとして知られている脂肪化(steatosis)をきたし、その後肝発癌を認めた。

 2).電子顕微鏡所見からミトコンドリア外膜の不鮮明化に代表される膜構造の変化と免疫電子顕微鏡所見でのコア蛋白質の細胞質、核内、ミトコンドリアでの存在が確認された。このトランスジェニックマウスでは血中ALTの上昇、肝炎の組織所見は認めておらず、C型肝炎の肝発癌ではウイルス側の因子も関連していることをマウスの系で示した。

 3)肝臓内の脂質をHPLCで解析し、量の増加のみでなく、構成脂肪酸組成がC型肝炎コア遺伝子発現マウスとヒトC型肝炎患者ではともにオレイン酸、バクセン酸の1価不飽和脂肪酸が増加し質的変化も見られることを示した。

 3)トランスジェニックマウスの肝臓過酸化脂質、グルタチオン量、カタラーゼ活性を測定することからコア遺伝子発現により活性酸素の発生増加が認められることと抗活性酸素機構の亢進を示した。

 4)アルコール負荷によりコア遺伝子発現トランスジェニックマウスにおける肝臓での過酸化脂質量の増加を認め、炎症とウイルス蛋白による病態進行の相乗作用を示唆した。

 以上、本論文はコア遺伝子発現トランスジェニックマウスの系において、肝臓の脂肪化と肝臓での発癌を認め、このマウス系では活性酸素の増加を明らかにした。本研究ではC型肝炎ウイルスの肝発癌メカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50132