No | 215533 | |
著者(漢字) | 瀬戸口,京吾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セトグチ,ケイゴ | |
標題(和) | 全身的な免疫反応に影響を与えないIL-10遺伝子導入抗原特異的T細胞による実験的抗原誘発性関節炎の治療研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215533 | |
報告番号 | 乙15533 | |
学位授与日 | 2003.01.22 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15533号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 関節リウマチ(RA)は炎症性細胞の浸潤と関節破壊を伴う関節滑膜細胞の持続的な増殖によって特徴付けられる全身性の慢性炎症性破壊性疾患である。有効な生物学的薬剤が報告され続けてはいるが、病変が全身にわたるため、全身の関節への薬剤の効果的輸送が大きな問題となっている。自己抗原特異的T細胞にはT細胞レセプターの抗原認識に基づいて病変局所に浸潤し、炎症を誘導し、組織破壊に至らせる。抗原特異的なT細胞が病変局所に遊走する性質を利用すれば、治療効果のある分子を遺伝子導入することにより、関節病変を効率よく改善する新たな細胞治療法となることが期待される。このような系は実験的自己免疫性脳脊髄炎においては報告されており、ミエリン塩基性タンパクを認識するT細胞クローンが疾患の治療に使われる可能性がうかがわれる。またNODマウスの系でも、ラ氏島特異的Th1細胞にIL-10を遺伝子導入して薬剤選択後に移入したところ糖尿病の悪化が抑制されたという報告もある。 IL-10は単球・マクロファージ機能を低下させ、Th1細胞により産生される炎症性サイトカインの抑制を介して広く免疫抑制効果を発揮する。RAにおいては抗原提示機能を有すると考えられる関節滑膜由来のマクロファージでのHLA-DRやCD86の発現をIL-10が抑制することが示されており、関節炎においてIL-10が有効な免疫調節作用を有することが期待される。IL-10はコラーゲン誘発性関節炎を初めとする各種実験的関節炎の治療でその有用性が報告されてきた。これまでの報告はIL-10が全身の免疫系を抑制して、関節抗原に対する反応も抑制して関節炎の改善を示していると考えられるものが多かった。そこでこのIL-10を抗原特異的T細胞に導入し、全身の免疫系への影響を最小限にとどめかつ関節炎に対する抑制効果を誘導することについて検討した。抗原特異的T細胞が関与する関節炎の中に、抗原誘発性関節炎 (antigen induced arthritis;AIA)がある。これは関節の自己抗原の代替として既に免疫した抗原を関節局所に移入することで関節炎が誘導される系で、以前よりRAのモデルとして利用されてきた。この実験系を利用してマウスIL-10 (mIL-10)遺伝子を導入した抗原特異的T細胞をAIAに移入して治療効果を検討した。 方法 実験にはOvalbumin (OVA) によるAIAを用いた。BALB/c マウスをOVAで免疫し、2週間後にboosterをかけた。その2週間後にレトロウイルスを用いてmIL-10遺伝子を導入したDO11.10(OVA反応性T細胞発現トランスジェニックマウス)CD4+T細胞を移入した。移入後、左足関節内に20μlのPBSに希釈したOVA 100μgを注入した。対側の右足関節内には比較対照としてPBSのみ20μl注入した。関節の測定には0.01 mm単位のデジタル式キャリバーを用いた。真の関節肥厚は左足関節の増加分から右足関節の増加分を引いて求めた。 結果 レトロウイルスを使用してmIL-10遺伝子をDO11.10CD4+T細胞に導入した。pMFGmIL-10感染後48時間での細胞106個当たりの上清中のmIL-10をELISAで測定した。Mockを感染させたDO11.10CD4+T細胞の上清ではmIL-10は検出されなかったが、pMFGmIL-10を感染させた方では5.2 ± 0.5 ng/mlと上昇しており導入に成功したことが判明した。 OVAによるAIAはday1で最大値を示し以後漸減するという経過をたどる。mockを感染させたDO11.10CD4+T細胞を移入した場合、比較としてPBSのみを注入した通常のAIAよりも悪化を示した。OVAに反応するT細胞の頻度が移入によって増加したため、関節炎が更に悪化したことが想定される。これに比べて、mIL-10が導入されているDO11.10CD4+T細胞を移入した場合においてはPBSのみを注入した比較対照群よりも著しい改善を示した。導入してあるmIL-10により抗原特異的T細胞が移入されて悪化する以上に効率よく抑制効果を示していることが想定される。この関節炎抑制効果は移入細胞数を5x105,1x106、3x106個と変化させてみたところ、移入した細胞数と比例した。 感染効率を確認すると約5%弱であることが判明した。90%以上の非感染性細胞が移入されているにもかかわらず関節炎が抑制されているので、感染効率が向上すれば移入細胞数を減少させることが可能と考えられた。そこでGFP markerを利用して感染細胞のみをフローサイトメーターにて選択した後にマウスに移入した。対照群と比較して1x105,5x104,1x104個の移入でも移入細胞数に依存して抑制効果を示した。 移入細胞の抗原特異性の必要性を検討するために、mIL-10を導入したBALB/c マウスのCD4+T細胞を移入してAIAを誘発してみた。抑制効果を示したmIL-10導入DO11.10 CD4+T細胞と同数の細胞を移入してみたが、BALB/c マウスのCD4+T細胞では抑制効果は得られなかった。 移入した細胞が全身的な免疫反応に影響を与えていないか検討するために、比較対照群、mIL-10導入細胞移入群、Mock導入細胞移入群の3群のマウスでOVAに対するT細胞反応性と抗体産生能について調べた。OVAに対するT細胞反応性はチミジンの取り込みで測定し、stimulation indexで比較したが3群間に有意差は認められなかった。OVAに対する抗体価は関節炎誘発後30日での血清で比較したが、こちらも3群間に有意差は認められなかった。 移入した細胞が関節局所に存在するか検討するためにRT-PCR/SSCPを行った。DO11.10T細胞のβ鎖であるVβ8.2のCDR3領域において比較した。IL-10を導入したDO11.10CD4+T細胞を移入し関節炎を惹起させたマウスからの各肢よりRT-PCRを行ったところ、他の3肢では認められなかったが、関節炎を惹起させた肢にのみDO11.10T細胞に一致するバンドが認められた。同様に移入細胞の関節局所への存在を検討するために、関節局所から採取した細胞を用いてフローサイトメトリーによる解析を行った。DO11.10T細胞のクロノタイプ抗体であるKJ1-26とGFPで解析をした。GFP選択後の細胞を移入し、関節炎を惹起させたマウスからの脾臓ではKJ1-26及び GFP陽性細胞は0.2%未満であった。これに比して、抗原を移入した関節局所からの細胞ではKJ1-26及び GFP陽性細胞は5%弱と有意にその存在率の上昇が認められた。 最後に異なる抗原で誘発した関節炎を改善させることができるか検討した。methylated BSA(mBSA)によるAIAの治療を試みた。mBSA免疫マウスにIL-10導入DO11.10CD4+T細胞を移入した後、AIA誘発の際にmBSAと同時にOVAを関節内注射した。Mock移入群に比し、IL-10導入DO11.10CD4+T細胞を移入したマウスでは関節炎の抑制効果が認められた。つまり、関節炎の原因抗原でなくても、関節に存在する抗原に反応するT細胞に抑制性の薬剤等を導入し移入することにより関節局所に移行してbystanderな抑制効果を発揮させる可能性が確認されたのである。 まとめ mIL-10遺伝子を導入したOVA反応性DO11.10CD4+T細胞の移入によりAIAの改善が認められ、疾患活動性の改善度は移入した細胞数に比例した。 OVA反応性を有さないBALB/c CD4+T細胞へmIL-10遺伝子を導入後移入してもこの改善は認められなかった。またmBSAによるAIAを誘発する際に、OVAをmBSAと同時に関節内注射して誘発した群にmIL-10導入DO11.10CD4+T細胞が移入してあると関節炎の改善が認められた。以上からAIAの疾患活動性の改善には、DO11.10CD4+T細胞に表出される抗原特異的T細胞レセプターが必要であると考えられた。また、OVAに対するT細胞反応性及び抗体産生に関しては、移入群と非移入群とにおいては有意な差は認められなかった。つまりこの抗原特異的T細胞を用いた治療では、全身的な免疫応答の有意な変化を誘導せずに改善が観察されたので、抗原特異的T細胞は病変局所において効果を発揮したと考えられる。SSCPや関節局所から採取した細胞のフローサイトメトリーからも抗原特異的T細胞が局所に存在したことを示した。 これまでの報告と同様に、IL-10の関節炎に対する有効性を示すことができたが、抗原特異的T細胞を病変局所まで伝達させる運搬体として利用することにより、IL-10の全身への影響をある程度抑制することもできた。調節的T細胞(Tr1) はIL-10を産生し、自己免疫性疾患で病原性があるといわれていることの多いTh1応答と、炎症に関与する単球マクロファージの機能を制御する。よって、本研究において作成したIL-10遺伝子導入T細胞は、人工的に作成されたTr1と考えることも可能である。この人工的Tr1の抗原特異性は、抗原特異的免疫反応を調節するためのみではなくて、Tr1が関節炎局所に遊走してbystander suppressionを発揮するためにも必須のものである。本研究において、抗原特異的T細胞を用いて抗原特異的免疫制御と部位特異的免疫制御の2つが検証できたという意義は、今後の疾患制御法を考慮する上で大きいと考えられる。 | |
審査要旨 | 本研究は全身性の関節炎を効率よく、かつ副作用を最小限にとどめながら治療するために、病変局所に遊走する性質を持った抗原特異的T細胞に抗炎症作用を有する物質の遺伝子を導入した後に全身投与をして治療効果を有するかという点と、全身性の免疫反応に影響を与えないかという点に関しての検討を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. 関節炎のモデルとして、Ovalbumin(OVA)による抗原誘発性関節炎(antigen induced arthritis: AIA)を用いた。レトロウイルスを用いてmIL-10遺伝子をOVA反応性抗原特異的T細胞トランスジェニックマウスDO11.10マウスのCD4+T細胞に導入した。導入細胞がmIL-10を産生することを確認し、AIAを誘発するマウスに全身投与したところ、関節炎の改善効果が認められた。 2. 関節炎の改善効果は遺伝子導入細胞の移入数に依存していた。感染効率が約5%弱であったため、GFP markerを用いて感染成立細胞のみを選択したところ、移入細胞数を1x104個でも関節炎の抑制効果を示した。 3. 移入細胞の抗原特異性の必要性を検討するために、野生型の非トランスジェニックマウスのCD4+T細胞にmIL-10遺伝子を導入して移入したが抑制効果は得られなかった。この系においては関節炎の抑制に抗原特異性が必要であることが示された。 4. 移入細胞による全身性免疫反応への影響を検討するため、OVAに対するT細胞反応性と抗体産生を移入群と非移入群で比較したが有意差は認められなかったため、移入細胞は全身性免疫反応へ影響しない事が示された。 5. 移入細胞が関節局所に集積したか検討するためにRT-PCR/SSCP法を用いた。DO11.10T細胞のβ鎖であるVβ8.2のCDR領域において比較した。mIL-10導入DO11.10CD4+T細胞を移入し関節炎を惹起させたマウスからの各肢よりRT-PCR/SSCPを行ったところ、関節炎を惹起させた肢にのみDO11.10 CD4+T細胞に一致するバンドが認められた。関節局所から細胞を抽出してフローサイトメトリーで解析したところ、DO11.10T細胞のクロノタイプ抗体であるKJ1-26陽性細胞が検出された。以上から、移入細胞は関節局所に集積したことが示された。 6. 異なる抗原で誘発した関節炎を改善させることができるか検討した。methylated BSA(mBSA)によるAIAの治療を試みた。mBSA免疫マウスにmIL-10導入DO11.10CD4+T細胞を移入後、AIAの誘発の際にmBSAと同時にOVAを関節内注射したところ、関節炎の抑制効果が認められた。関節炎の原因抗原でなくても、関節内に存在する抗原に反応するT細胞に抑制性の薬剤等を導入し移入することで関節局所に移行してbystanderな抑制効果を発揮させる可能性が示された。 以上、本論文は抗原特異的T細胞に抑制性のサイトカインであるIL-10を遺伝子導入してから細胞数を限定して全身投与することにより、ほぼ病変局所のみでの免疫反応抑制効果で関節炎を治療することが可能であることを明らかにした。また関節炎の原因抗原でなくとも関節内に存在する抗原に反応する抗原特異的T細胞を利用することでも関節炎を抑制できることを示した点で、今後の関節炎治療研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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