学位論文要旨



No 215553
著者(漢字) 石川,裕次
著者(英字)
著者(カナ) イシカワ,ユウジ
標題(和) 高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の復元カ特性
標題(洋)
報告番号 215553
報告番号 乙15553
学位授与日 2003.02.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15553号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小谷,俊介
 東京大学 教授 菅原,進一
 東京大学 教授 壁谷澤,寿海
 東京大学 助教授 塩原,等
 東京大学 助教授 野口,貴文
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は鉄筋コンクリート柱部材に,圧縮強度がf'c160[N/mm2](f'c:コンクリート圧縮強度)までの高強度コンクリートおよび降伏強度が700[N/mm2]クラスの高強度鉄筋を柱主筋に用いた柱部材を対象とし,その復元力特性を適正な精度を持って評価しうる評価式の提案に関する研究である。本研究で提案する復元力特性の各特性値に関する評価式は,既往の実験データを含む115体の実験データを用いて検証を行いて適正な精度を有することを確認している。以下に各章において論じている研究要旨を示す。

 本論文は12章から構成されている。

 1章は,まず,研究背景と研究目的を示している。研究の背景は,現在の高層RC造建物の現状との関連について実績データに基づき本研究の位置付けについて示し,これまでの研究では主に実験的研究に依存していることから,本研究の必要性を示している。

 本研究の目的は,高強度材料を用いた柱部材における復元力特性のモデル化を行い,復元力特性の各特性点について適正な精度を有する評価を行うことである。そこで,復元カ特性のモデル化を行うためには,従来の手法によって研究目的とする適正な評価を行うことが困難であることから,復元力特性のモデル化を4つの特性点と4折線によって行うことを研究方針としている。4つの特性点は弾性限点(曲げひび割れ,圧縮ひび割れ発生点),実効耐力点(最大耐力の0.85倍の耐力点),最大耐力点(最大耐力に到達する点),限界変形点(最大耐力の0.80倍の耐力を維持する変形点)を定義している。これは,高強度材料を用いた柱部材に高軸力と水平荷重が同時に作用する場合,曲げ降伏点を明確に定義できない特性を有しているため,従来は曲げ終局強度として定義されていた耐力評価を,新たに実効耐力点と最大耐力点を定義し,適正な復元力特性のモデル化を図っているためである。そこで,本研究では,4つの特性点を定めるために必要な研究項目を整理し,本研究で検討した検討内容と高強度材料を用いた鉄筋コンクリート部材の代表的な研究である建設省総合プロジェクト:鉄筋コンクリート造建物の超軽量・超高層化技術の開発(1988年〜1993年,以下,NewRC)との比較により本研究の特徴を示している。ここで,既往の研究では主に従来の手法を拡張する研究に留まっているのに対し,本研究では定義の見直しを含めて新たな評価式の提案を行うことを示している。

 2章は,著者が行った3つの高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の実験結果と著者らが行ってきた高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の実験結果の概要を示している。特に,高強度コンクリートFc100(Fc:設計基準強度)および柱主筋に高強度鉄筋USD685を用いた柱部材を実施設計するために行った実験では,高強度材料を用いた柱部材において最も重要な点である限界部材角の検討に焦点をあて,実験を実施している。そして,高強度材料を用いたプレキャスト鉄筋コンクリート柱の実験および引張軸力時の鉄筋コンクリート柱部材の復元力特性を解明するために実施した実験概要を示している。また,著者らの実験の特徴として,高強度材料を用いた柱部材の復元力特性を定める4つの特性点について比較検討が行える実験データを有していることに加え,一定軸力ばかりではなく,引張軸力も考慮した変動軸力の柱部材実験を実施していることが挙げられる。

 3章は,まず,復元力特性のモデル化に関する方針の具体的な内容と高強度材料に関する材料特性について示している。特に,従来の研究とは異なり,改めて本研究で定義した復元力特性の特性点の定義について示している。

 また,本研究で扱う高強度材料の材料特性に関する検討結果について示している。

 4章は,復元力特性の第1特性点である弾性限点を定める特性値として,弾性限耐力および割線弾性剛性の評価式について示している。これまでは,柱部材の弾性限耐力は引張縁の曲げひび割れ強度によって評価がなされている。しかし,高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材に高軸力が作用する場合には,引張縁の曲げひび割れの発生以前に曲げ圧縮縁におけるコンクリート圧壊や縦ひび割れ発生し,剛性が徐々に低下し始める。そこで,本研究では弾性限耐力として,圧縮縁における圧縮ひび割れ強度を考慮する必要があることを示している。割線弾性剛性は,弾性剛性の計算値と実験値(ひび割れ発生点の割線剛性)との関係を整理し,圧縮軸力時と引張軸力時の割線弾性剛性を,弾性剛性(計算値)に圧縮割線係数0.73および引張割線係数0.56を考慮することによって適正な精度を有した推定が可能であることを示している。

 5章は,復元カ特性の第2,3特性点である実効耐力点および最大耐力点を定める耐力の特性値として,最大耐力および実効耐力の評価式について示している。本研究では等価ストレスブロックを用いた曲げ解析を用い,高強度材料を用いた場合の等価ストレスブロック係数の修正と軸力と横補強筋量によるコンクリート強度の影響を評価して提案式を構築している。本提案式は既往の等価ストレスブロックを用いた曲げ解析に比べ,曲げ降伏先行型の実験データ115体の検証結果から,最大耐力の実験値/計算値の平均値が1.07であり,変動係数が6.7%の精度を有すること確認した結果を示している。

 6章は,主に復元力特性の第2特性点である実効耐力点を定める変形の特性値として圧縮軸力時の実効耐力点剛性の評価式について示している。

 本研究では,実効耐力点における剛性に寄与する領域をコンクリートが圧縮領域となる領域であると仮定し,実験結果を考慮して材軸方向の有効断面2次モーメント分布と有効ヤング係数分布を誘導した実効耐力点剛性のマクロモデルを構築している。そのマクロモデルから,たわみ曲線の微分方程式を導き,実効耐力点における曲げ剛性低下率を算出している。また,実効耐力点におけるせん断剛性についても,圧縮領域のコンクリートによるせん断剛性とし評価している。この算定結果から実効耐力点剛性の評価を行っている。本提案式については,曲げ降伏先行型の115体の実験結果から実験値を±30%の範囲内で推定できる確率が85%以上あることを確認している。

 7章は,復元力特性の第3特性点である最大耐力点を定める変形の特性値である最大耐力時変形角の評価式について示している。実効耐力点以後は平面保持仮定が必ずしも成立しないことから,本研究では最大耐力時変形角を実験結果から直接,影響因子を抽出した実験式を導いている。その結果,本提案式は115体の実験結果から実験値を±30%の範囲内で推定できる確率が90%以上あることを確認している。なお,最大耐力時変形角の実験値/計算値は,平均値1.00,変動係数18.7%である。

 8章は,復元力特性の第4特性点である限界変形点を定める変形の特性値である限界部材角の評価式について示している。本研究では高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材を対象として,著者らの実験データにより主要な影響因子を特定し,最終的に115体の実験データに適用した上で,適正な精度を確保した限界部材角の推定式を提案している。その結果,本提案式は115体の実験結果から実験値を±30%の範囲内で推定できる確率が90%以上あることを確認している。なお,限界部材角の実験値/計算値は,平均値1.00,変動係数17.2%である。

 9章は,高強度材料を用いた柱部材を対象として提案する復元力特性モデルの検証結果のまとめとして,本研究で提案した評価式を用いて弾性限点,実効耐力点,最大耐力点,限界変形点の4点と4折線による復元力特性の特性値の推定精度を整理している。そして,著者らが行った実験結果と提案する復元力特性モデルとの比較を示している。

 10章は,高強度材料を用いた柱部材の履歴特性に関する検討結果を示している。まず,著者らの実験結果から,履歴特性に関する特性値として,繰返し荷重耐力低下率,除荷時剛性および再載荷剛性の検討を行い,高強度材料を用いた柱部材の圧縮軸力時および引張軸力時の履歴特性モデルの構築を行った。提案した履歴モデルは,著者らの実験結果を用いた検証を行い,実験結果を適切に表現出来ることを確認した。

 11章は,高強度材料のバラツキに関するデータを実績値によってまとめ,この高強度材料のバラツキに高強度材料を用いた柱部材の復元力特性へ及ぼす影響について検討を行った。高強度コンクリートのバラツキは現在施工中の高層RC造建物の実績値をまとめ,高強度鉄筋のバラツキは2001年の製造メーカ出荷実績に基づいてまとめた。その結果を用いてコンクリート強度,軸力比,軸力の載荷方法を変数とする曲げ降伏先行型の柱部材10ケースについて,10000回にモンテカルロシュミレーションを行い,復元力特性への影響を検討している。

 12章は,高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の復元力特性について検討した結果から得られた結論を示している。

 付録は,I〜IIを示す。

 付録Iには,1章で扱った2001までの高層RC造建物の構造設計データを示している。

 付録IIには,柱部材実験の有効性を示すために,1995年兵庫県南部地震によって,大きな被害を生じたRC造建物の1階ピロティ柱を,立体骨組み地震動解析結果から設定した外力条件によって,被害状況を再現した結果を示している。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の復元カ特性」と題し、高層建築物の建設に必要な高強度コンクリートおよび高強度鉄筋を用いた鉄筋コンクリート(RC)造の柱部材を取り上げ、地震時に受ける荷重と変形の関係(復元力特性)を精度よく予測する方法を提案する研究であり、全12章からなる。

 第1章「序論」では、現在の高層RC造建築物において高強度材料が用いられている現状を述べ、これらの高強度材料を用いた高層RC建築物の地震時の安全性を評価するために、柱部材の復元力特性を精度よく評価する方法を提案するという本研究の目的を述べている。

 第2章「実験的研究」では、高強度材料を用いたRC造柱部材の復元力特性を明らかにするために行った一連の実験について詳細に報告し、高強度材料を用いたRC造柱部材の復元力特性の特徴を明らかにしている。

 第3章「復元力特性のモデル化」では、弾性限点、実効耐力点、最大耐力点、限界変形点の4点を結ぶ直線で定義される復元力特性のモデル化の方針を示し、ここで対象とする高強度材料の材料特性について述べている。

 第4章「弾性限耐力および割線弾性剛性」では、復元力特性の弾性限点を定めるのに必要な弾性限耐力および割線弾性剛性の評価方法について検討し、高強度材料を使用した柱部材では、弾性限耐力として引張側のひび割れ強度に加えて、圧縮縁における圧縮ひび割れ強度も考慮する必要があることを明らかにしている。実験におけるひび割れ発生点の割線剛性値を推定するために、弾性剛性の理論値を低減する評価方法を提案している。

 第5章「実効耐力および最大耐力」では、実験による復元力特性をよく表現するために、弾性限耐力点の後の剛性低下が著しい点として実効耐力点および最大耐力点を定義する必要があること示し、実効耐力を等価ストレスブロックを用いた曲げ解析により算定した後、実効耐力から最大耐力を評価する方法を提案し、実験結果に対して妥当性を検証している。

 第6章「実効耐力点剛性および引張軸カ時の降伏点剛性」では、復元力特性の実効耐力点を定める変形の特性値として、圧縮軸力時の実効耐力点剛性および引張軸力時の曲げ降伏点剛性を評価する方法を提案している。特に、材軸方向の有効断面2次モーメント分布と有効ヤング係数分布から誘導した実効耐力点剛性のマクロモデルから、実効耐力点における曲げ剛性低下率を算出する方法を提案し、実験結果に対して提案する方法が妥当であることを検証している。

 第7章「最大耐力時変形」では、復元力特性の最大耐力点を定める変形の評価方法について検討している。実効耐力点以後は平面保持仮定が必ずしも成立しないことから、実験結果を詳細に検討し、各種の影響因子を抽出して、最大耐力時変形角の実験式を導いている。

 第8章「限界部材角」では、復元力特性で最大耐力の80パーセントに耐力が低下する限界変形点を定める評価方法について検討している。解析的に限界変形を評価することが難しいことから、実験の復元力データから主要な影響因子を抽出し、実験式により限界部材角を推定する式を提案している。

 第9章「復元力特性」では、高強度材料を用いた柱部材を対象として、本論文で提案する復元力特性モデルによる弾性限点、実効耐力点、最大耐力点、限界変形点の推定精度を、実験データに対して検証している。

 第10章「履歴特性」では、高強度材料を用いた柱部材が繰り返し荷重を受ける時の荷重-変形関係(履歴特性)に関する検討を行っている。実験における履歴特性を検討した結果、繰返し荷重による耐力低下率、除荷時剛性および再載荷剛性によって履歴性状が表せることを示し、圧縮軸力時および引張軸力時の履歴特性モデルを構築し、その妥当性を実験結果に対して検証している。

 第11章「材料特性ばらつきが復元力特性へ及ぼす影響」は、高強度コンクリートおよび高強度鉄筋のばらつきが高強度材料を用いた柱部材の復元力特性へ及ぼす影響について検討している。高層RC造建物の施工実績に基づく高強度コンクリートのばらつきと、製造メーカ出荷実績に基づく高強度鉄筋のばらつきを評価し、コンクリート強度、軸力比、軸力の載荷方法を変数とする曲げ降伏先行型の柱部材について、モンテカルロシュミレーションを行い、復元力特性への影響を検討している。

 第12章「結論」は,高強度材料を用いた鉄筋コンクリート柱部材の復元力特性について検討して得られた結論を述べている。

 本論文は、高層鉄筋コンクリート造建築物に使用される高強度コンクリートおよび高強度主筋を用いた柱部材の復元力特性を適正な精度で評価する方法を提案したものであり、構造工学、特に鉄筋コンクリート構造学の発展に大きく貢献するものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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