No | 215589 | |
著者(漢字) | 對馬,洋子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツシマ,ヨウコ | |
標題(和) | 全球平均気温の年変動における放射フィードバック及び雲の影響の評価 | |
標題(洋) | Cloud and total influences of the radiative feedback process on the annual variation of global mean surface temperature | |
報告番号 | 215589 | |
報告番号 | 乙15589 | |
学位授与日 | 2003.03.10 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 第15589号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地表面温度は全球平均で1月から7月で3.3度も増加する。この自然の気候変動を利用して、全球平均地表面温度の年変動に伴う放射フィードバックを、人工衛星より得られた大気上端での放射収支データ(Earth Radiation Budget Experiment: ERBE)を用い、見積もった。 フィードバックが無い状態では、気温が上昇すると、Stefan-Boltzmann則に基づいて射出される地球放射量が増加する。しかし現実の地球大気系には放射フィードバックが存在し、年変動においては、この放射フィードバックが地球放射・太陽放射の両方に、気温の変化を強める方向に働いていることが分かった。本解析によると、全フィードバックはStefan-Boltzmann則に基づく地球放射の射出を70%程度の弱めており、地球放射の射出は30%程度の効率でしか働いていない。 同様の解析を雲水量を予報している3つのモデルに対しても行なったところ、全フィードバックとしては、モデルは観測とほぼ同程度の大きさで再現していることが確認された。しかしながら、地球放射・太陽放射の各放射に対するフィードバックの大きさは、モデル間で非常にばらついていることも分かった。 この全放射フィードバックのうち、雲の放射フィードバックについてより詳しく観測データの解析を行なったところ、全放射フィードバックに、雲によるフィードバックはほとんど寄与していないことが分かった。全球平均で見た場合の雲の光学特性の変化としても、雲の反射率、有効放射高度は地表面気温の年変動とは有意な関係は得られなかった。雲のフィードバックについても3つのモデルの出力に対して同様の解析を行なったところ、各モデルの雲のフィードバックはばらついており、このばらつきが各モデルの全フィードバックのばらつきに大きく寄与していることが示唆された。しかしながら、モデルにおいては、各放射に対しては、雲のフィードバックは太陽放射に対しては負、地球放射に対しては正に働いていることが分かった。この共通性にの理由についてより詳しく調べたところ、全てのモデルにおいて、観測とは対称的に、雲の反射率・有効放射高度ともに、全球平均地表面気温の増加に伴い著しく高くなっており、このことが太陽放射・地球放射のフィードバックの効き方に寄与していることが示唆された。 モデルの気候感度を検証してゆく上で、フィードバックの再現性を向上されることは非常に重要な課題である。その際には、全フィードバックの再現のみならず、太陽放射・地球放射の各放射に対する雲など個別のフィードバックについて比較、解析することが非常に重要である。 | |
審査要旨 | 地球気候の数値モデルによる温暖化予測実験が盛んであるが、温度上昇の予測結果はモデルによって大きなばらつきがあり、そのもっとも大きな原因の一つが雲とその放射効果に対する知識の不足であることが指摘されている。気候システムには、さまざまなフィードバックが働いており、これらを定量的に評価することが、地球温暖化に限らず気候変動一般の研究にとって大きな課題である。気温が上がると水蒸気が増え、その温室効果によって気温がますます上昇する水蒸気フィードバック、昇温して氷がとけると日射吸収が増え昇温を加速するアイス-アルベドフィードバックなどが良く知られている。雲のフィードバックについてはその符号も定かではないのが現状である。観測データにもとづくフィードバック評価が切望されているが、データの不足が深刻である。現状で数少ないよりどころの一つは、衛星による全球の放射収支観測であるが、データ期間が短く、気候の年々変動に伴う雲・放射のフィードバック算定は困難である。 本論文では、気候システムの季節サイクルに伴う全球平均地表気温の変動に伴う雲・放射のフィードバックを観測データで算定するユニークなアプローチを行っている。南北両半球の陸地面積の違いにより、全球気温は北半球と同位相の年周変動を示す。季節変動には雲の場所が移動する等の効果があるため、フィードバックの算定結果をすぐに地球温暖化等の問題に応用できるわけではないが、観測による結果を気候モデルと比較することによって雲、放射の計算スキームに関するわれわれの科学知識の問題点を見出す手がかりを得ることができる。 第1章で以上の背景が述べられた後、第2章では全球平均地表気温の年周変動に対する雲のフィードバック効果の算定が衛星観測データを用いて行われた。大気上端での放射収支における雲の効果は、雲放射強制と呼ばれる、衛星観測から晴天のピクセルのみで算定した晴天放射と通常の放射量の差で評価することができ、これを用いて全球地表気温に対する雲のフィードバックが算定できる。観測データの解析結果は、3℃以上ある地表気温の大きな年周振幅に対して、驚くべきことに、長波(赤外放射)、短波(太陽放射)とも雲のフィードバックがほぼゼロ、すなわち中立であることを示していた。 国際比較に提出され、雲水を予報する方式を採用している3つの気候モデルのデータを用いて同様の評価をしたところ、長波、短波を合わせたフィードバックはほぼ妥当であるが、両波長帯を別々にみるとモデル間のばらつきは非常に大きく、モデル内での雲の表現に不確定が大きいことが確認された。モデルでは、観測と異なり、温度上昇とともに雲の太陽光反射および有効雲頂が高くなる傾向が見られた。前者は負の、後者は正のフィードバックであるが、互いに打ち消し、全波長ではほぼ中立を保っている。 第3章では、第2章と同様の手法で雲以外の効果も含めた全フィードバックが評価された。観測データでは、ステファン-ボルツマン則から期待される負のフィードバックの70%をキャンセルする正のフィードバックが気候システム内に存在することが量的に明らかになった。前章と同様な比較により、気候モデルでは雲以外のフィードバック効果はほぼ妥当に再現していることが確認された。問題はやはり雲にある。 そこで第4章では、モデルのどの地域、高さの雲に問題があるかを見出すため、申請者が用いることのできる日本のモデルを取り上げ、詳しい解析が行われた。雲の高さ別の寄与を算定するため、モデルデータを用いた組織的な放射計算も行っている。この中で、月平均モデル出力による計算を補正する新しい手法が提案され用いられている。解析の結果、観測データとの違いをもたらすものは、短波では水雲と氷雲の共存を許す気温範囲での水雲の過度の蓄積であることが明らかになった。実際にモデルにこの蓄積を減少させる変更を行ってこのことを確認している。また、長波では対流圏界面付近の雲の過多傾向が観測に対する誤差につながっていることを指摘した。 気候システムにおける雲のフィードバック効果算定は重要な課題である。本論文では、全球平均気温の年周変化に着目する新しい視点で観測的にこれをおこない、観測データにおいて長波、短波とも雲のフィードバックが中立であることを見出した。また、気候モデルとの比較によってモデルの雲計算の課題を浮き彫りにした。重要な貢献といえる。 なお、本論文第2章は、真鍋淑郎氏との、また、第3章は、真鍋淑郎、阿部彩子氏との共著であるが、論文提出者が主体となって計算及び解析をおこなったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって,博士(理学)の学位を授与できると認める. | |
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