学位論文要旨



No 215591
著者(漢字) ユスフ・スラチマン・ジャヤディハルジャ
著者(英字) Yusuf Surachman Djajadihardja
著者(カナ) ユスフ スラチマン ジャヤディハルジャ
標題(和) 東部インドネシア、セレベス海の構造発達 : スラウェシ海溝沿いの沈み込み過程とセレベス海盆の地震波層序
標題(洋) TECTONIC EVOLUTION OF THE CELEBES SEA, EASTERN INDONESIA : SUBDUCTION PROCESSES ALONG THE SULAWESI TRENCH AND SEISMIC STRATIGRAPHY OF THE CELEBES BASIN
報告番号 215591
報告番号 乙15591
学位授与日 2003.03.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第15591号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木村,学
 東京大学 教授 松本,良
 東京大学 教授 徳山,英一
 東京大学 助教授 芦,寿一郎
 海洋科学技術センター 地球深部探査センター センター長 平,朝彦
内容要旨 要旨を表示する

 本論では,既存の深海掘削及び陸上地質の研究結果を加味し,地震波層序法を用いてセレベス海の全堆積史を復元した.また,地震波反射プロファイルの詳細な解釈により,インドネシア,スラウェシ島北部腕状半島沿いの付加体発達過程も明らかになった.

 セレベス海盆の地震波層序の検討には6本の地震波プロファイルを用いた.各プロファイルには5膚の主要な堆積性地震波反射層を認識することができる.第1層は中〜大振幅で挟間隔であり,側方連続が非常に良いことで特徴づけられる.この層はODP124節で区分された堆積層ユニットI, IIA及びIIBに相当する.第2層は振幅の大きい反射が顕著で所々に単独の反射層を挟んでおり,堆積層ユニットIICに相当する,その下位の第3層は最上部に強反射があり,所々に中〜小振幅で準平行な1対の層を伴っていて,堆積層ユニットIIIAに相当する.第4層は強い反射面一つを含む4〜5つの反射面からなり,前〜中期中新世の堆積層ユニットIIIBの陸源性タービダイト層と解釈される.海洋性地殻基盤上の第5層は振幅が小さくコヒーレントな幾つかの反射面からなっており,堆積層ユニットIIICとIVに相当する.これらの対比によりセレベス海の堆積層ユニットIIICとIVおよび堆積層ユニットIIIB(中部タービダイト)の層厚分布が明瞭になった.堆積ユニットIVとIIICは火山性物質を含む灰褐色から赤褐色の粘土岩であることから示されるように,中期始新世から前期中新世の開けた海洋で堆積したものである.中期中新世におけるセレベス-スル・ブロック北縁部と拡大した南シナ海中央縁辺部との衝突は,タラカン海盆から東方のセレベス海盆への乱泥流を発生させる要因となり、堆積層ユニットIIIBを堆積させた.堆積層ユニットIIIAは後期中新世まで堆積し続け,給源の環境はユニットIIIBと同じであったと思われる.後期中新世から更新世のセレベス海盆には火山灰を挟む火山起源の粘土質シルトからシルト質粘土が堆積した.

 北部スラウェシ付加帯沿いの地震波プロファイルは,前縁衝上断層陸側の様々な構造領域の様子を極めて明瞭に示している.北部スラウェシ海溝の付加体域の構造領域は次の4つの帯域,(1)海溝地域,(2)A帯,(3)B帯,および(4)C帯に分けられる.A帯は活動的な覆瓦状衝上断層帯であり,デコルマが明瞭である.B帯はアウトオブシーケンス衝上断層と小斜面海盆が卓越する.C帯は暑い堆積層によって覆われる前弧海盆上の構造的高まりである.デコルマによって分離されている沈み込み付加した一連の堆積物はA帯において明瞭である.中期中新世にはソロング断層に沿って東部スラウェシとバンガイ-スラ小大陸の衝突が起き,スラウェシ島北部腕状半島の大きな回転が生じた.スラウェシ北部腕状半島の回転と北方移動が北スラウェシ海溝沿いでの南方への沈み込みと付加ウェッジの発達をと思われる.北スラウェシ海溝における付加体形成の開始はWestbrook(1994)の付加体形成モデルによれば5百万年前頃である.北スラウェシ付加体と日本の南海付加体を比較すると内部構造が類似しており,同様の力学的過程と構造発達が示唆される.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、インドネシア、セレベス海の全堆積史をはじめて復元したものである。さらに、地震波反射断面の詳細な解釈を行い、インドネシア、スラヴェシ島北部海溝に沿う付加体の発達過程もはじめて明らかにした。これらの結果は当該地域の理解を飛躍的に前進させ、かつインドネシアのみならず地球上の活発な変動帯の理解するに貢献するものである。

 第1章は、セレベス海のこれまでの地質学的、地球物理的研究を総括的にレビューしたものである。論文提出者が主題とした堆積史を理解するための背景となる火成活動や海洋底拡大や陸塊の衝突テクトニクスに焦点が当てられ、包括的であり、水準の高いものである。

 第2章は反射法地震探査によって得られた断面を、これまで国際深海掘削計画によって得られている堆積物の岩相と時代と結び付け、セレベス海堆積物のより広域的な層序を確立したものである。反射面の特徴によって5層に分け、かつその水平的変化をもとめ、それぞれの層の空間的変化を求めた。この手法そのものはすでに確立されたものではあるが、その水平的変化を、先の地質学的、地球物理的に復元したテクトニクスと結びつけ説明した点の貢献は大変大きいといえる。本章は、平朝彦氏らとの共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 第3章はスラヴェシ島北部海溝に沿う付加体の反射法地震探査断面を解釈したものである。付加体域を4つの帯に区分し、その水平方向の変化を描き出したこと、沈み込みプレート境界であるデコルマの変化を描き出したことは高く評価される。また、それらから、沈み込み帯における付加、沈み込み、などの物質移動のバランスの見積もりを考察した点も重要な新しい点である。本章も、平朝彦氏らとの共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 以上3章から構成される本論文はそのいずれの章も高い質と、重要な新しい知見をもたらすものであり、博士(理学)の学位を授与するに十分な結果であると判断した。

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