学位論文要旨



No 215598
著者(漢字) 内村,太郎
著者(英字) Uchimura,Taro
著者(カナ) ウチムラ,タロウ
標題(和) プレローディド・プレストレスト補強土工法の原理と応用
標題(洋)
報告番号 215598
報告番号 乙15598
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15598号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 オレンセ,ロランド P
内容要旨 要旨を表示する

 本研究では、補強盛土の剛性を飛躍的に高め、より大きな荷重を受ける構造物(橋台、橋脚、重要構造物の基礎など)を、補強土構造物で建設できるようにする工法として、ブレローディド・プレストレスト(PL・PS)補強土工法を発案した。その基本原理を実験的、理論的に検討するとともに、実物大模型の構築、および実施工への適用を通して、その実用性と効果を検証した。

 PL・PS補強土工法は、補強盛土に鉛直方向のプレロードとプレストレスを加えることで、鉛直荷重に対する剛性を飛躍的に高め、長期間の荷重によるクリープ変形、および供用荷重の繰り返し載荷による残留変形を、きわめて効果的に抑制する。従来の鉄筋コンクリート(RC)構造に比べ、杭基礎を省略できたり現場発生土を利用できる場合にはかなり低コストになる。また土は基本的に延性的なので、基礎地盤の変形にも致命的な破壊をせず柔軟に追従できるという利点もある。

 図1にPL・PS補強土工法の概念図を示す。補強盛土に数本のタイロッド(PC鋼棒など)を鉛直に挿入して張力を加え、両端で連結した反力板(RCブロックなど)を介して盛土を圧縮する。盛土はジオテキスタイルで補強されているので、大きなプレロードに耐える強度がある。次にジャッキを緩めてプレロードを半分程度除荷する。最後にナットでタイロッド上端を上部反力板に固定し、ジャッキを外す。タイロッドには引張、盛土には圧縮のプレストレスが残る。

 本研究により、補強盛土の鉛直荷重に対する剛性が向上するメカニズムとして、次の4つが明らかになった。

(1)(締固め効果と引張り補強効果)

 補強されていることにより、盛土を効率的に締固めることができる。また、大きなプレロードをかけても盛土が破壊しない。

(2)(プレロードの効果)

 プレロードの載荷・除荷によって、土は弾性化し大きな剛性を示す。

(3)(プレストレスの効果)

 土の圧縮プレストレスにより土の弾性ヤング率が増加する。実際に本研究で用いた盛土材(粒度調整砕石)の三軸圧縮試験では、軸応力σaと軸方向の弾性ヤング率Eeqの関係として、次式が得られた。〓ただし〓程度(式1)

(4)(補強材のプレストレス効果)

 盛土の塑性的な性質のため、プレロードの載荷・除荷に伴い、土に水平の伸びひずみが残り、補強材にも引張りひずみ(プレストレス)が残る。補強材が縮もうとする力が摩擦力を介して土を水平に拘束し変形を抑制する。一般に、補強土が変形して補強材に張力が入らなければ、補強材の効果は発揮されないため、補強材に引張りプレストレスが作用していることは有効である。

(5)(タイロッドの剛性)

 タイロッドは張力がかかり、補強土の圧縮力(プレストレス)と釣り合っている。供用時に圧縮荷重を受けると、補強土の圧縮に伴ってタイロッドも縮むが、タイロッドはあらかじめ張力がかかっているから弾性変形する。すなわち、圧縮荷重に対しては2つの弾性バネ(補強土とタイロッド)が並列になって抵抗し、構造物全体の剛性は、補強土とタイロッドの剛性の和となる。(同様に、供用時に引っ張り荷重を受けても、補強土の圧縮応力が0になるまでは補強土は弾性バネとして働き、全体の剛性は補強土とタイロッドの剛性の和になる。)

 PL・PS補強土工法の実用性と効果を実証するために、7年間にわたって、粒度調整砕石とジオグリッドを用いた実物大模型5体と、実施工の補強土橋脚1体を構築し、建設から供用までの長期計測、および載荷実験を行った。

 実物大模型実験においては、建設時にプレロードを十分に加えて盛土を圧縮変形させてから除荷することで、盛土の時間依存的な変形特性を改善し、供用中にプレストレス荷重を長期間維持できることを確認した。同時に、高いプレストレスを加えることにより盛土の剛性を高められること、逆にプレストレス荷重を完全に除荷してしまうと盛土が膨潤・軟化し、その後の圧縮変形が大きくなることを確認した。また、設計、施工上の注意点として、擁壁のような平面ひずみ条件の2次元問題でなく、長手方向も含めた3次元の変形を考慮して設計しなければならないこと、それぞれの場合に対してプレロード荷重・プレストレス荷重・タイロッドの剛性を適切に選ぶ必要があること、タイロッドを設置する方法に工夫が必要であることが明らかになった。

 実施工のPL・PS補強土橋脚の長期挙動と列車走行時の挙動を計測した結果、PL・PS補強盛土は、実用上十分な剛性を持ち、また長期にわたって変形が小さく剛性が維持されることが分かった。特に、同じ橋桁荷重と活荷重を支えるプレロードとプレストレスを加えていない補強土橋台の挙動との比較から、PL・PS補強土工法が、

・長期間の一定の荷重によるクリープ変形を抑制すること

・列車荷重載荷時の一時的な変形を抑制し、かつ弾性化すること

・長期間の非常に多数回の繰り返し載荷による残留変形を抑制すること

 という3つの効果が、きわめて有効に発揮されたことを確認した。

 PL・PS構造物の長期的な性能は、盛土材や補強材のクリープ・リラクゼーション・繰返し載荷による変形特性が決定的な要因になると考えられる。それらの挙動を予測するモデルの開発は、PL・PS構造物の設計法を確立するために大きく役立つ。まず、粒度調整砕石の盛土材を用いた室内三軸圧縮試験を行い、盛土材に対するプレロードの載荷・除荷、プレストレスの維持、および長時間のクリープ載荷や繰り返し載荷に対する挙動について、基礎的な変形特性を調べた。

 その結果、実物大模型および実施工の補強土橋脚で得られた知見を再確認することができた。すなわち、建設時にプレロードを十分に加えて盛土を圧縮変形させてから除荷することで、盛土の時間依存的な変形特性を改善し、供用中にプレストレス荷重を長期間維持することができること、さらに多数回の繰返し荷重に対する変形特性も改善されることを確認した。同時に、高いプレストレスにより盛土の剛性を高めることができること、逆にプレストレス荷重を完全に除荷してしまうと盛土が膨潤・軟化し、その後の圧縮変形が大きくなることを確認した。

 また、少なくとも単調な載荷過程においては、三要素型のレオロジーモデルの一種であるNew Isotachモデルが適用できることが分かった。

 次に、New Isotachモデルを用いて、PL・PS橋脚へのプレロード時の荷重・変形特性の解析を試みた。一般に、複雑なモデルほど、個々のパラメータを決定することが困難になるが、本研究では、プレロード時の各荷重レベルでのクリープ載荷時の時間依存変形の実測値から、時間依存性と非時間依存性の非可逆変形に関するパラメータを決定する方法を提案し試みた。その結果、全体として盛土の圧縮量がやや過大に予測された。すなわち、各荷重段階でのクリープ量はほぼ実測と一致しているが、次の荷重段階に進むときの圧縮量がやや過大に見積もられる結果となった。これは、盛土挙動の実測値の時間間隔が、実際の載荷時に荷重が変化する時間より長時間(2分に1回)であり、荷重を増加させる途中のデータが測定されていなかったために生じた誤差である可能性が高い。

 このモデルのPL・PS補強土構造物の変形解析に対する適用性に関しては、

・1次元モデルであり、水平ひずみ、特に補強材の時間効果を含む変形特性を考慮していない。

・盛土材が、真にNew Isotach則に従うのか、確認が十分でない。

・PL・PS工法では、プレロード後に除荷する事に重要な意味があり、除荷とその後の時間効果を扱えるモデルが必要である。

・プレロードに比べて微少ではあるが非常に多数回繰り返される交通荷重の影響を、別途モデル化しなければならない。

 などの課題が残っていることが明らかになった。

 PL・PS補強土工法は、粒状体である地盤材料が高いプレロード・プレストレス荷重を加えることにより、高い剛性と強度を発揮するという、土質力学の基本原理に根ざしたものであり、様々な応用が期待できる。以上述べたとおり、本研究では、PL・PS補強土工法の基本原理とその応用性を明らかにすることができ、今後の応用の基礎となる知見が得られた。

図1 PL・PS補強盛土の概念図

審査要旨 要旨を表示する

 擁壁、橋台等の盛土を支える形式の構造物は、従来は殆ど鉄筋コンクリート構造物で建設されてきた。この場合、盛土で集中荷重を受ける構造形式とはしていない。橋脚のような独立構造物は、従来例外無しに鉄筋コンクリートや鉄骨等の構造物であり、盛土で建設されることはなかった。これは、盛土が自立せず、また盛土上に集中荷重が加わると過大な即時変形が生じ、また長期的には許容できない大きさの残留変形が生じる可能性が高いからである。一方、建設材料としての土は本来大量に存在する。特に、トンネル工事や地山掘削が伴う場合、鉄道・道路等の関連工事で掘削土を用いないで鉄筋コンクリート構造物等を建設すると、掘削土を遠方まで搬出したり谷間等に埋め立てることになる。このような工法は、経済性と環境問題から特に近年はできるだけ避けることが必要になってきた。この様な背景から、出来るだけ盛土を建設して盛土が集中荷重を支持できるような土木構造物を建設する工法の開発が必要とされてきた。本論文は、盛土をジオテキスタイル等の補強材の層を一定の鉛直間隔で水平に配置することで補強して、その上で盛土に鉛直方向にプレロードとプレストレスを与えることにより盛土の鉛直方向の剛性を飛躍的に向上させ、更に長期に亘る残留変形を抜本的に減少させて工法を発案し、その原理を解明した上で実用化させた過程をまとめたものである。

 第1章では、上記のブレローディド・プレストレスト補強盛土工法が必要となった背景、工法の概要と原理、技術的課題、これまでの本技術の応用例、今後応用できる分野の考察と提案についてまとめている。特に、土の剛性を飛躍的に向上させて持続荷重によるクリープ載荷と繰返し載荷による残留変形を抜本的に減少させる目的から見て、本工法は土の変形強度特性の原理に沿っていることを説明している。

 第2章では,東京大学生産技術研究所千葉実験所に建設した実物大のブレローディド・プレストレストジオテキスタイル補強盛土の概要について述べている。試験盛土の建設法、土圧・変位・ジオテキスタイルのひずみ・プレロードとプレストレス用タイロッドの張力等の計測法、単調載荷・繰返し載荷・クリープ載荷・プレロードプレストレス載荷方法、500日以上の長期応力緩和試験によるプレストレスの持続性に関する長期観測の方法と計測結果をまとめている。プレロードとプレストレスは、盛土を鉛直に貫くタイロッドに張力を与えることによって実現している。その結果、盛土はジオテキスタイルで補強されているため無補強の場合での破壊荷重を逢かに越える鉛直荷重をプレロードとして盛土に加えることができること、長期にプレロードを加えてクリープ変形を十分に加えておけば、プレストレス応力状態でタイロッド張力を長期に維持できることを実証した。

 第2章で説明した実物大模型実験の結果に基づいて、JR九州篠栗線における馬出橋梁の橋脚が本工法によって建設された。第3章では、論文提出者が直接関与した上記橋脚の設計、建設、プレロードとプレストレスの施工、盛土変形・土圧・タイロッド張力・ジオテキスタイルひずみ等の計測、盛土の平板載荷試験、建設後1,800日に亘る実挙動の連続記録、橋梁供用終了後に行った原位置大型鉛直・水平載荷試験の方法と結果をとりまとめている。この工事では、プレロードとプレストレスの差を設計活荷重よりもある程度大きくし、プレストレスをプレロードの約1/2にしている。馬出橋梁では、プレロードとプレストレスを加えていないジオテキスタイル補強土の橋台も建設している。プレロードとプレストレスを加えたジオテキスタイル盛土からなる橋脚のプレロードとプレストレスの施工中・長期供用時・供用終了後の載荷実験における挙動と橋台の挙動を比較することにより、後者の挙動が前者の挙動よりも飛躍的に優れていたことを示し、補強盛土の剛性を飛躍的に増加させ残留変形を抜本的に減少させる工法としてブレローディド・プレストレスト工法が有効性であることを実証している。特に、橋脚の盛土高さ約2.5mに対して列車荷重に対する即時変形は0.02mm程度と極めて小さく、建設後約5年後の残留沈下が僅かに1mm程度であった。

 上記本工事でのプレロードとプレストレスの設定法の妥当性を検証し、プレロードとプレストレスの影響についての一般的法則性を明らかにするために室内小型模型実験を行っている。第4章では、模型の製作・計測法・載荷法と一連の載荷試験の結果を纏めている。この室内模型実験の結果、馬出橋梁の橋脚でのプレロードとプレストレスの設定法は極めて妥当であること、仮にプレストレスをゼロにすると盛土は膨潤しかつ剛性は低下するため、プレロード載荷の効果は著しく失われて繰返し載荷による残留変形は増加することを示している。また、補強材の間隔を必要以上に小さくしても、その効果は小さいことを示している。

 また、盛土材料としての礫のクリープ変形・応力緩和等の粘性特性とそれに対するプレロードや繰返し載荷履歴の影響を大型三軸試験によって系統的に調べた結果をまとめている。特に、プレロード後の除荷応力状態では盛土材のクリープ変形と繰返し載荷による残留変形が著しく減少することを示し、このことからブレローディド・プレストレスト工法は原理的に妥当であると説明している。

 第5章では、馬出橋梁のブレローディド・プレストレストジオテキスタイル補強土橋脚でのプレロード載荷過程で観察されたクリープ変形特性を非線形三要素レオロジーモデルで解析している。また、そのモデルの粘性に関するパラメータを三軸試験によって測定している。その結果、上記モデルで実構造物の粘性変形挙動を説明できることを示している。

 第6章では、以上の成果を要約するとともに、今後の課題について述べている。

 以上、要するに、本研究はブレローディド・プレストレスト工法によってジオテキスタイル等で補強された盛土の剛性は著しく向上し残留変形特性は抜本的に改善されることを、大型試験盛土実験・材料実験・小型室内模型実験によって原理から解明した上で実用化し、実際の鉄道橋梁の橋脚の建設に応用して、本工法の有効性を実証したものである。本研究によって、土構造物の新しい分野が展開できることが示され、地盤工学に今後の発展に貢献している。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/37414